とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第四十七話




 アーテム・デス・アイセス、氷結の効果を放つ広域凍結魔法。デアボリック・エミッション、空間作用型の広域殲滅魔法。

ブラッディダガー、ロックオン型の自動誘導型高速射撃魔法。 シュヴァルツェ・ヴィルクング、打撃力強化と効果破壊の能力を持つ魔力を加えて行う格闘攻撃。


レジアスとの交渉後、突如入った緊急通信――古代ベルカを代表する大魔法、詳細に至るまでの説明を受けて、診断が下された。


『貴方が装備しているクラールヴィントより、貴方の身体の状態は把握しています。闇の書の管制人格が放った魔法に関する詳細は今説明した通りです。
フィリス先生に代わって、私が診断致します。戦闘継続は不可能、今すぐに帰還して下さい』

「何もかも放置して、逃げ帰れと言うのか」

『貴方の判断に今更異論を唱える気はありません。私達は反対しましたが、それでも貴方の決断に従って、はやてちゃんに今日起きた事の全てを話しました。
その結果はやてちゃんは何も言わずに今一人、部屋で悩んでいます。なぜだか、分かりますか』

「……」


『貴方が、剣士だからです――この人でなし』


 俺の事を誰よりも信じている、だからリインフォースは斬り殺される。リインフォースの事を誰よりも愛している、だから俺が殺される。

信頼と親愛が成り立っているのであれば、どちらも信じて裏切られる。八神はやてという少女はあまりにも強く、気高かった。どちらも信じるあまり、どちらにも裏切られる。

俺が剣士である限り、あいつは斬られるしかない。あいつが魔導師である限り、俺は殺されるしかない。どちらの勝利も信じていても、勝敗は必ず分け隔てる。


両者が成り立つことは、ありえない。だから、はやては祈っている――どちらも勝ってほしいとは言えないから、せめて。


『凍傷が治らないのは殲滅魔法で細胞が砕かれているから、打撲が治らないのは凍結魔法で細胞が麻痺しているからです。
骨折が治らないのは格闘攻撃で効果破壊能力が継続しているから、流血が止まらないのは自動誘導型の射撃で血管が千切られているからです。
手が、動かないでしょう。足が、立たないでしょう――身体が、動かないでしょう。

闇の書の管制人格リインフォースは、貴方を殺したんですよ』

「……ぐっ……」

『大切なものを守るのか、大切なものを殺すのか――どちらを選ぶのも貴方の自由ですが、明日迎えに行きます。
抵抗するのならば、ご自由にどうぞ。仲間を頼ってくださってもかまいませんよ。

"闇の書の守護騎士"が一人、湖の騎士シャマルを敵に回すだけです。私がいつまでも甘い顔をしていると、思わないでくださいね』

「シャマル……」


『結論は見えているので、今の内に言っておきますね。私――貴方の事、少し好きになっていました』


 ――俺は必ず抵抗するだろう、だから戦わなければならない。シャマルは涙を滲ませて微笑みかけて、通信を切った。これで、一つの関係は終わった。

闇の書の守護騎士、彼女は確かにそう言っていた。リインフォースが敵に回った経緯を彼女のデバイスであるクラールヴィントを通じて知り、覚悟を決めたのだろう。

数多の古代魔法で傷付いた今の俺では、勝ち目がない。それでも戦うのを止めなければ俺が死に、リインフォースは家族殺しの大罪を背負う。


優しい日々は、終わる――だからシャマルは、全てを止めようとしている。鬼になってでも。


「……すまないな、シャマル」


 だからといって、俺も退けない。レジアス中将との交渉を終えたばかりだ、今更何もかも忘れて優しい日々には戻れない。はやての元には、帰れない。

あいつの言う通り、今の俺はベットから起き上がれない。手も足も動かせず、口を開いて小賢しく立ち回るしか出来ない。あらゆる蘇生処置が行われているが、足りない。

仲間に全てを押し付けてでも、今の俺は休息を取って回復に専念するしかなかった。少なくとも今は、無駄に動くべきではない。明日、絶望が待っているとしても。


それに――仲間達は、今もあがいている。















「父上、凍傷に苦しめられているとお聞きしました。寒い夜には、愛娘の人肌で温まりましょう」

「どうやら本調子に戻ったようだな。殊勝な態度も一晩もたないとは、可愛げがないぞ」

「愛する男性とベットの中で過ごす夜は、子鼠のように震える生娘ですよ」

「ジャーマンスープレックスをかましてやりたいが、身体が動かんのが悔しい」

「父上はお疲れのご様子なので、残念ではありますが仕事に戻るといたしましょう」

「面倒な事務仕事を押し付けてすまないな」

「いえ、父上も大切な取引を終えられたとお聞きしています。娘として、私も負けてられません。
レジアス中将との交渉について詳細は把握しておりますので、今からカレドヴルフ・テクニクス社へ参るつもりです」

「社長代行までやるつもりですか……?」

「そのお仕事もございますが、航空魔導師用総合支援端末のテスターを行う予定です」

「――CWXシリーズの第一人者に立候補するつもりか」


「個人用の汎用航空武装、フォートレス。本日は徹夜で、この汎用航空武装を一つの完成形とするつもりです」


「役に立てなかったことを、今も悔いているのか」

「私は父上の子ですよ、敗北したまま黙って眠れる女だと思いますか」

「はは……それもそうか。前々から思っていたが、お前は俺の内面を濃く受け継いでいるようだな」

「私は父上にさえ愛されていれば、他人からどれほど可愛げがないと思われようと気にしません。
砲戦用「粒子砲ユニット」、中距離戦用「プラズマ砲ユニット」、近接戦用「ブレードユニット」――改良が必要とされるこの三種を今晩、私が完成させてみせます」

「刀が折れたままでは戦えない、そういうことだな」

「今宵、私のプライドを取り戻す戦いです。行ってまいります、父上」


「完成させるまで帰ってくるなよ」

「当然ですとも」














「リョウスケ、許可をくれ」

「突然何を言い出すんだ、アギト」

「以前より博士より提案があった"ドラグーン"化――今晩、アタシを改造する許可をくれ」

「引き受けるつもりか、前例のないユニゾンデバイスの改造だぞ!?」

「お前が傷付いた体に鞭打って、管理局のお偉いさん相手に交渉して合法化してくれた。この機運に乗らなきゃ、次の機会はもう永遠に回ってこねえよ」

「古代ベルカの融合騎は特にデリケートな設計となっていて、お前がどうなるか保証できない」

「あの女相手に、アタシは何も出来なかった!? あいつだってデバイスなのに、同じ道具のアタシが戦うことさえ出来ずにお前を敗北させたんだぞ!」

「剣を気取っているくせに自己犠牲を唱えるのか、アギト」

「自己犠牲じゃねえ、剣を磨くべくアタシは自分を研ぎに行くんだ。体も心も削られるのは覚悟している」

「……チューニングされるのはさんざん嫌がっていただろう」

「そうだ。てめえ可愛さに何もせず、強敵を前にしたお前に埃かぶった剣を渡しちまった。切れ味さえ良ければ、あいつを斬ることだって出来た」

「……」

「アタシは、お前の剣だ。同じ道具に二度負けるのは、我慢ならねえ。だからアタシを"ヴァンガード・ドラグーン"にしてくれ、リョウスケ!」

「――今日はもういいから、お前はシュテルと行ってこい」

「ありがとよ、博士の尻を蹴飛ばして絶対最高の仕上がりにして帰ってくるならな!」


「チューニングしたらもう、お前は自由になれないぞ」

「お前の敵を斬ることが、アタシの生きる目的だ」















「じゃあ、聖王のゆりかごは起動しないのか」

『起動には本来「鍵の聖王」が必要なんだけど、パパの話を聞く限りだと聖典と蒼天の書にある聖王の情報を解析すれば動かせるようにはなると思う。
でもね、真の性能を発揮するにはさっき言った聖王の存在と、衛星軌道上へ達して、二つの月から魔力を受ける必要があるの』

「言い換えると条件さえあれば、ゆりかごは起動するんじゃないのか」

『その条件が揃わないよ。情報解析にする再現は擬似的な実現化だから、艦載兵装しか使用できない。
本当は精密狙撃や魔力爆撃など強力な対地・対艦攻撃、次元跳躍攻撃とかも行えるんだけど、聖王がいないのなら無理かな』


「どうやら俺がいない間もちゃんと勉強していたようだな、ヴィヴィオ。言葉まで達者になりやがって」

『えへへ、無限書庫に出向しているユーノさんに学んで、パパの役に立つようにいっぱい勉強したんだよ』


「幼稚園児にしか見えないのに、既に大人顔負けの学力だな、お前」

『パパの子供だもん、えっへん』

「艦載兵装とか言ってたが、具体的な兵力は分かるか」

『えーとね、対空レーザー砲門のフルセットに、側面42門と片面21門、上部14門と、計56の砲門が一斉射撃できるね』

「くそっ、ユーリ対策なだけに随分な火力を用意しているじゃねえか」

『改造している可能性も大だね。ただ旧暦462年の大規模次元震の引き金となったかつての火力ではなくて、あくまで自己改造による増強でしかないけれど』

「よし、お父さんからの宿題だ。現時点におけるゆりかごの弱点を洗い出せ」


『色んな文献洗い出してみたところ、砲門は前部に集中しているから、多分後部及び下部が死角となっているよ』


「……お父さんより賢い娘とは、絶縁」

『ホメられると思って、いっぱい勉強したのに!?』















「お父様、夜食をご用意致しました。沢山食べて元気になってくださいね」

「ありがとう、ディード。オットーはもう休んだのか」

「レヴィさんに請われて、訓練しています」

「訓練……?」

「見破られたのなら新必殺技を作るんだ、とお父様の娘を騙って意気込んでいます」

「その言い回し、いい加減勘弁してやれ」

「ふふふ、冗談です。お父様の娘に相応しいかどうかはともかく、レヴィさんがお父様のために努力されているのは認めています」

「心境の変化でもあったのか」

「本日、お父様の剣を見る機会に恵まれました」

「そうか……だったら、俺の本当の実力を理解しただろう。博士やドゥーエ達が言っていた理想像とは異なっていたはずだ」

「はい、至らぬ小娘の貧相なイメージとはまるで違いました。全ての敵を一刀両断する剛剣などと天下無双を思い描く愚かさ、羞恥に震えております。
レヴィさん達を偽物と断じていながら、私の剣こそ紛い物であったのだと思い知らされたのです」

「……えっ、もしかしてお前、今反省しているの?」

「言わないで下さい、お父様。とても恥ずかしくて、お父様の顔が見れません」

「いやいやいや、セッテから話は聞いているぞ。飛空能力がずば抜けているお前とトーレが今日のエースだったんだろう」

「構造物を叩き斬った程度で思い上がる小娘が、今の私です。お父様、不出来な娘を叱って下さい」

「涙ぐんでる!? おーよしよし、俺の剣を見て何をそんなに反省しているんだ」

「敵を圧する剛の剣のみならず、敵を制する静の剣を見せられました。古代ベルカの広域凍結魔法の驚異に晒されながらも意を殺し、残心無き敵の背後をつく静かなる剣。
驕り高ぶっていた私には到底届かぬ、明鏡止水の極みでございました」

(コッソリ隠れて、油断した所を刺しただけなんだが……)

「お父様譲りの黒髪に、二刀を有する固有能力。私こそがお父様の娘であると思っておりましたが、とんだ驕りでした」

「そんなに自分を責めるな、ディード。反省するのは大切だが、後悔してばかりではダメだ。悩むよりもまず、剣を振れ」

「! なるほど、我が内にある迷いこそ私が断つべきものだと仰られるのですね。
ありがとうございます、お父様。こうしてはおられません、真の敵は我が内にあり」

「お、おお……いってらっしゃい」

「明日にはお父様の娘に相応しい剣士となって帰ってきます!」


「……勝手に反省して、勝手に強くなってしまった――そろそろ追い抜かれそうで、怖い」















「お父さん、今晩はわたしが一緒にいますから安心して休んでくださいね」

「いや、そこまで気を使わなくても大丈夫だ。お前は自分の事だけを考えていろ、ユーリ」

「……わたしとあの子の事、聞かないんですか?」

「お前も、そいつも、嘘を言ってなさそうだというのは分かる」

「本当に、何も覚えていないんです。一生懸命思い出そうとしたのですが、記憶にはありません」

「考えてはいるが、悩んでいなさそうだな――他人を、殺しているかも知れない」

「あの子にもいいましたけれど、万が一あの子の大切な人を殺したのだとしても、理由があるはずです。
わたしは今までずっと不安定な存在でしたけど……お父さんの娘だと分かった今は、自信を持って言えますよ」

「何故、その点を疑わないんだ。そいつも言っていただろう、法術でお前の記憶を俺の都合のいいように変えているかも知れないぞ」

「ありえません」

「だから、どうしてだ」

「ナハトヴァールの存在です。あの子は、本当に過去のない子なんです。赤子のように清らかな心が、お父さんの潔白を証明してくれています。
あの子をあれほど無垢な子に出来たのはお父さんだけです。だから、わたしも自分に自信を持てました」

「お前の心は変わらないということか」

「はい。あの子が何を言おうと、わたしはお父さんの娘として戦うまでです」

「お前を殺すべく、聖王のゆりかごまで用意してきている。何か対策はあるのか」

「必要ありません。わたしはお父さんの子、ユーリ・エーベルヴァイン――制御可能となった自分の力を信じて、全力で立ち向かいます」

「……シュテルは新武器、レヴィは新必殺、ディアーチェは政治、ユーリは自分の力。俺の子供なのに、お前ら全員バラバラだな」

「それもお父さんより頂いた、わたし達の個性です。皆、負けたりしませんよ」


「俺の子供だと言うだけで、無敵なんだな」

「とーぜんです」















「夜分遅くに申し訳ありません、お客様」

「ちょうどよかった、支配人。以前から頼んでいた人員補充の件なんだけど」

「はい、その件で相談にあがりました。戦力不足とのことでしたので、白旗の受付より広く人員を補充していたのですが――」

「おお、どれくらい集められた?」

「一人です」

「派手に宣言したはずなのに、たった一人!?」

「あらゆる情報機関にリクルート子会社からの募集、人脈まで駆使して募集をかけたのですが――そのことごとくを全て、お一人の方に潰されました。
どういう情報分析能力を持っているのか、計り知れません。

街中に配ったビラまですべて回収されて一人、受付に来られたんです」

「人員募集を妨害……どんな奴だ」


「"アミティエ"さんと名乗る、赤い髪の綺麗な女性です。お客様への面談を求められており、こう仰っておられます――

『集めようとした人数分、私一人でこなしてみせます。どんな事でもしますから、私を白旗の一員に加わらせて下さい』」















<続く>








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