とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第二十一話




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海鳴大学付属病院、俺が以前世話になったところだ。

臨海公園から少し西へと向かったところに建つ大規模な病院で、治療分野が多岐に渡っている。

患者のケアには気を使って、病院内の敷地には自然が綺麗に植えられている。

ここに入院出来た俺は幸運なのかどうなのかは分からないが、結果的に早目に退院出来た。

旅から旅へと渡り歩いてきた俺は一箇所に思い出を残さないが、此処は少し別だ。

病院に特別な愛着なんぞ持ちたくも無いが、入院中は結構色々あったからな。

特に―――この病院の医者とは。


「……病院の待ち時間って何でこんな長いんだ」


 今朝方、俺はこの病院へ来た。

別にどこか怪我をした訳でもなく、病気になんか今までかかった事も無い。

肩の怪我も痛みはもう殆ど無い。

来る必要なんてこれッぽっちも無いが、今日はちょっとここの医者に用があった。

―――んだけど、もう帰ろうかな……

院内の時計を見ると、一時間は軽く過ぎているのが分かる。

受付けで担当医の先生の名を告げて、さっきからひたすら待たされ続けている。

健康な俺だからいいが、病気や怪我している奴にこの時間は酷なんじゃないのか?

とにかく退屈で退屈で仕方ない。

置いてある雑誌はつまんない文学誌ばっかりだし、テレビはひたすらニュースが流れている。

こんなのばっかで退屈しのぎになるって思ってるのか、ここは。

一度でいいから患者の希望を聞いてもらいたいもんだ。

……などともう二度と来る事はない病院に不平を漏らすほど、今の俺は暇だった。

いっそ、寝るか?

お、いいアイデアかもしれない。

他人の目など知ったことではない。

待合室のソファーにでも豪快に寝転がって、惰眠を貪ろう。

俺は立ち上がって身体を伸ばし、その場を後にする。


『宮本良介さん、宮本良介さん。第三診察室へどうぞ』


 ―――幼さの残るソプラノの声が、俺の足を止める。

あいつ、実は俺の行動をチェックしているんじゃないだろうな……

狙ったようなタイミングでの呼び出しに、俺は疑念を覚える。

とにかく、ぼけっとしていても仕方ない。

俺はコールに従って、第三診察室へと足を運んだ。
















「どうしたんですか、どこを怪我されたんですか?
だからあれほど言ったでしょう。まだ完治していないから無理はしないで下さいって! 」

「あ、あのなお前……」

「早く傷を見せて下さい! すぐに治療しますから」

「いや、だから……」

「良介さんがお金を持っていないのは分かっています。私が何とか―――」

「聞けよ、お前は! 」

「きゃっ!? りょ、良介さん、やめてください!? 」


 入室するなり、青ざめた顔で駆け寄ってきた小さなお医者さん。

相変わらずの心配性に、俺は笑顔で髪の毛を引っ張ってやった。

……あっさり切れそうなくらい柔らかい髪だな、こいつって……

手触りの良い銀髪に思いっきり引っ張ってみたい衝動に駆られるが、泣きそうなので勘弁してやろう。


「俺がお前を尋ねる理由ってそれしかないのかよ、まったく」

「で、でもここは病院ですよ、良介さん」

「……」


 素晴らしい正論に、文句のつけようが無い。

俺は黙って診察室の椅子に座る。

フィリスの居る診察室はいたって平凡で、無機質な感じのするやや広めの部屋だった。

ファイルが並ぶ診察机に白いシーツのベット。

看護婦さんは他に居ない。

フィリスはくちゃくちゃになった髪の毛を、黒い手袋をはめた手で整える。


「でも、本当にどうしたんですか。
まさか私に会いに来たわけでもないんでしょう」


 くすっと笑って、フィリスも対面に座った。

こうして向かい合って座ると、俺より小柄なのが分かる。

少し幼さのある顔立ちだが、こいつは本当に笑顔がよく似合っていた。

患者はおろか、同僚の医者や看護婦に人望が厚いのも頷ける。

……俺は特に意識はしていないが。


「何言ってんだ、お前に会いに来たんだよ」

「え……? 」


 ぽかんとした顔をするフィリス。

驚くだろうとは思っていたが、こんな表情をするとは思わなかった。


「他に病院になんか用はねえぞ、俺。
お前に会いたいから、わざわざ此処まで来たんだ」

「あ……ちょ、ちょっと待ってください!? と、突然そんな……
わ、私あの……りょ、良介さんが私に……」


 うーん、なかなか愉快だ。

繊細な白い肌を上気させて、フィリスは普段の落ち着いた態度を一変させる。

目を逸らしたり、書類を握り締めて、慌てて引き伸ばしたりと、面白すぎる反応を見せてくれた。

こいつとは一ヶ月足らずの付き合いだが、俺の性格は分かっている。

友人付き合いをしない俺がわざわざ尋ねに来るなんて、こいつも全く思ってなかっただろう。

迷惑そうな顔をされないだけ良しとしよう。


「あの……本当ですか? 」

「何が? 」

「私に……会いに来てくれたって……」


 フィリスはカルテで顔を半分だけ隠し、上目遣いで俺を見る。

―――うぐっ。

ほんのり頬を赤くしてじっと見つめる仕草に、心臓の鼓動が跳ね上がってしまった。

いかんいかん、こんな小娘に何考えてんだ俺は……

なかなか油断のならない医者である。

並みの男ならこいつにこうやって見つめられるだけで、心を奪われるだろう。

彼氏は居ないのか、こいつ―――って、だからやめろ。

クールに答えよう、クールに。


「ま、まあちょっと相談事があってな……
話せそうな奴、お前しかいないし」


 こらこら、待つんだ俺。

思いっきり動揺している上に、お前しか居ないという発言はまずいだろう。

このまま走り去りたい気分だったが、そんな行動に出れば次どう会えばいいのか分からない。

ウブなガキか、俺は。

フィリスは目を丸くして―――


「……私でお力になれるなら喜んで」



……リスティがいなくて良かった。



とびっきりの笑顔で答えてくれたフィリスに、心の底からそう思えた。


























































<第二十二話へ続く>

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