とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第二十一話






 事前に確認を取ってみたが、うちの子達を除いてガキンチョ共が今日も遊びに行っているようだ。

桃子が大黒柱である高町家を盛り上げる作戦だったのだが、思いがけずナカジマ家との家族交流の一面も担っていたようだ。

考えてみればクイントが管理外世界へ左遷されてしまい、ゲンヤのおっさんはミッドチルダへの単身赴任状態。ナカジマ家は何も知らぬ異世界へ飛ばされて、孤立状態。


別に意識はしていなかったのだが、思いがけず家族交流の良い結果を生んでいたようだ。


「いらっしゃい、リョウスケ!」

「……何故、こいつが出迎えるんだ」

「おにーちゃんが今日遊びに来ると言っておきましたので」


「平日に男を出迎えるなんて駄目な女だな」

「平日に遊び回る彼氏さんがいるので」


 高町家の門構えより出迎えてくれた英国の美女、フィアッセ・クリステラ。ご満悦の彼女に嫌味を言ってやると、にこやかに彼女顔された。俺の周辺の女共、強かすぎる。

失恋後に優しくしてしまった影響ですっかり懐いてきているので、早いところ依存度を下げなければならない。

婚約者や愛人がいると言っても、こいつは俺が女にさほど関心がない事を分かっているからな。高町家の同居生活が長かった事で、お互いのプライベートまで熟知してしまっている。


なのはには手を繋がれ、フィアッセには腕を組まれる。両手に花の状態だが、喜ぶのは軟弱な男のみ――剣士である俺は剣が持てないと、女共を邪険に振り払う。


「スバルちゃん達、朝から遊びに来ているよ。皆、いい子達だね」

「自分で頼んでおいてなんだが、身元不明な連中をよく受け入れてくれたな」

「怪しさはリョウスケがピカイチだから平気だよ」

「純日本人の俺が一番なのかよ!?」


 反発しておいてなんだが、木の枝を振り回す絶賛浮浪者だった我が身を考えると辛くなる。よく何ヶ月も同居させてくれたな、この家の連中。

女の比率が大きいこの家で年頃の怪しい男を住まわせるのだ、どれほどお人好しでもやはり不安があったに違いない。

後悔というほど深くはないが、当時を考えると悪い事をしてしまった。


今では妹達や子供達までいる身、せめて家族付き合いは大切にしようと思う。















「もう一本、お願いいたします」

「それはいいけど、君――信じられないけど、本当に良介の娘さんのようだね」

「お疑いであれば、何度でもこの剣で証明いたしましょう」

「うん、その言い方とか特にね」


 現地派遣滞在者であるディードと、高町道場の剣娘である高町美由希。高町家の中庭で二人の剣士が、睨み合っていた。二人の間に世界観や世代の差はない。

高町において野試合は禁止事項ではないが、推奨例ではない。恐らく果たし合いの形で、剣を通じて斬り合っているのだろう。

話し合いを挑んだのがどちらなのか、遺伝子を考慮すればすぐに察せられる。美由希も過去の事件を通じて、宮本の家には遠慮が無くなっている。


やや呆れた思いで、この果たし合いを容認する道場主へと歩み寄った。


「子供相手に大人気ないぞ、お前の妹」

「道場破りをした経緯を持つお前の娘らしいじゃないか」


 ――黒歴史を知っている相手だと、やはり分が悪い。俺個人に後悔こそ無いが、反省くらいはしている。

実力の無さもあって、当時のことを思うと無謀かつ非礼極まりなかった。今にして思うと、道場の受付をしていた門下生の姉さんでさえ、あの時の俺より強かったに違いない。

高町家の長男が見つめる目は厳しくも、優しい。過去の事件を通じて、高町の兄妹は結ばれている。義理であっても、兄と妹の垣根を超えた絆は強い。


俺が考える最強の剣士に、並び立った。


「まさか剣の世話にまでなっているとは思わなかった。貴重な経験に感謝するよ」

「年の離れた妹ではなく、本当の娘だと聞いている。経緯は気になるが、理由は問わないことにした」


 人としての経緯より、剣士としての理由を重んじるこいつは、やはり生粋であった。度量が深く、剣士としての理に通じている。

ディードと美由希の切り合いは、経験の差によりディードが押されている。けれど追い詰められていないのは、あの子の天賦の才によるものであろう。

我が子の瞳が鋭いのは恐らく、俺と高町家の関係を知るためだ。高町美由希との因縁を知るとは思えないが、剣士として感じる何かがあるのに違いない。


白桃の如き肌に血が滲んでいるが、泥に汚れた我が子の勇姿は輝いていた。


「あの子の剣は間違いなく、お前に通じているよ」

「俺に似て頑固なやつだ、曲がらぬように叩き直してやってくれ」


 父親として我が子の成長を嬉しく、傷を負う宿命には悲しんでいる。だが心配はしていない、あの子は俺と違って孤独に生きていない。

傷薬を用意するオットーと、明るい声援を送るヴィヴィオ。実の子供達は仲睦まじく、健やかに成長している。

剣士としての交流が行われていることに、ただひたすら感謝していた。実に、嬉しい副産物であった。


俺も親として、ただ見守ることにしよう。


「あのヴィヴィオという少女もお前の子らしいが……一度、遺伝子治療をした方がいい」

「冗談なのか、本気なのか、判断に苦しむ言い方はよせ」


 ――剣士であろうと、人間的な疑問は当然持っている。















「はい、一分」


「ぐぬぬ……もう一回しょうぶしやがれ!」

「どえらい動きする子やけど、お兄ちゃんと同じで無駄な動きが多いね」

「うるせえ、おまえはぜったい一分でぶっとばしてやる!」

「あー、なのちゃんからきいたんか。あれはあいつから挑んできたんであって――」


 一方、こっちは殴り合いだった。ナカジマ家の少女ノーヴェと、高町家の居候仲間であるレン。物干し竿を片手に立ち塞がる中華娘へ、機械娘が殴りかかっている。

中庭の果たし合いは技術による斬り合いに対して、縁側での試合は腕力による殴り合いだった。力で挑む少女に対して、力を利用して制していた。

試合はほぼ一方的な状況だった。殴ろうとして、殴られている。本来気の弱いノーヴェがあそこまでムキになっている理由は、本人が自分で怒鳴っている。


一分間の決闘、かつては兄である俺が挑んでいた勝負であった。


「あいつ、退院したんだな」

「手術が本当奇跡的と言えるほど上手くいって、あいつみるみる回復していったんです。
リハビリも鬼のように頑張って、ヘヘ……ボスの良介さんに説得されたのが、よほどきいたんでしょうね」

「状況に応じて、言いたいことをいってやっただけだけどな」


 ジュエルシード事件で、俺の脅迫材料としてプレシアはレンを誘拐。法術を強制する材料として、心臓病に苦しむ少女を攫ったのである。

成功率の高くない手術に怯えていたレンを、命の危機に乗じて俺は説得した。あの子は元来の強さから説得に応じ、困難な心臓手術を無事に乗り越えたのだ。

世界会議や聖地での戦乱などの間に、レンは無事に病院を退院して自宅療養中。来年には健康な体を取り戻した年頃の少女として、人生を謳歌できるだろう。


レンにとっても、今年は人生の転機であった。


「あいつ、来年から良介さんの仕事を手伝うと言ってるんですよ。俺が仕事で頑張ってるのが、なんだか気に食わないみたいで」

「はやてから聞いたぞ。足が不自由だった頃から、色々手伝ってくれているんだな」

「にしし、体力には自信ありますからね。何でもござれっすよ」


 俺の代わりにはやてが務めてくれている何でも屋家業を、俺の助手だったこの城島晶が手伝ってくれているのだ。

天狗一族に攫われた経緯すら持っている空手少女に、今更隠し立てすることもない。全ての事情を打ち明けると、進んで協力を申し出てくれた。

ジュエルシード事件を通じて異世界事情を知るレンも感化されたのか、来年から手伝うといってくれているようだ。


聖地では白旗の面々がいるが、この海鳴でも強力な組織が出来上がりつつあった。


「そういや、レンの噂なにか聞いてます?」

「噂……?」

「あいつ、入院中から男と手紙のやり取りしているんすよ。退院した今でも続いていたんですけど――その男が今、この町に滞在しているみたいで」

「あっ、言われてみればそうだったな!」


 最近やり取りを頼まれていなかった、レンとクロノの文通。考えてみれば左遷されたので、クロノは今めでたくこの街に住んでいる事になる。

あいつ、どうやらちゃっかりレンに挨拶に来たようだ。レンがこうして元気いっぱいなのは俺のおかげというより、クロノが力添えしているためだ。

意外と長く続いている、二人の関係。ジュエルシード事件の被害者と執務官の関係が、異世界間の交流という形で進展しているようだ。


クロノの奴、堅物の分際でなかなかやるじゃないか。


「手紙だけではなく、最近お弁当とかも鼻歌とか気持ち悪く歌いながら作っているんですよ。
料理対決を挑んでも、鼻で笑われる始末で、本当にムカつく奴になってます。今度、シメちゃってくださいよ」

「お前らの喧嘩も、随分な進展を遂げているようだな」


 レンは社会に生きている晶を羨ましがり、晶は恋に生きているレンを妬んでいる。

かつては子供の喧嘩だった二人が、ステージをあげて睨み合っているのだ。これもまた、健全な成長によるものだと言えるだろう。

家族であり友人である二人は今、自分の人生をそれぞれ別に歩もうとしている。されどすれ違いではなく、隣同士で歩んでいるのだ。


少女達がそれぞれ、大人になろうとしている。


「お前も負けずに、恋をすればいいじゃないか。誰かいい人いないのか」

「何言ってるんすか。俺は来年も、ボスと一緒に仕事っすよ。恋愛とかにかまけている暇はないです」

「全く、興味もなさそうだな」

「それを言うなら、ボスも同じじゃないっすか。フィアッセさんみたいな美人に迫られているのに、見向きもしないで剣一筋。クールな男ですよ」

「なるほど、お前はうちに向いているな」
「でしょでしょ、来年もよろしくっす。俺も部下が出来ましたし、励むっすよ」

「部下……?」


「スバルちゃん、ボスに挨拶!」

「リョウ兄、よろしくっす!」


「コラァァァァ、うちの妹を粗野に育てるな!? お嬢様計画を推進中なんだぞ」

「いやいや、全然むいてないから」


 ――あっ、またノーヴェが投げ飛ばされている。もう一人の妹も、元気にかつての強敵に挑んでいた。

俺が自分の人生に邁進している間にも、家族達はそれぞれ自分の人生を歩んでいる。時間は平等であり、それぞれのドラマが有って本当に面白い。



では、ナカジマ家と高町家の交流をもう少し見ていこう――















<続く>








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