とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第二十話






 元猟兵のノアと元傭兵のオルティアの出向がめでたく決定したので、渋々仕事の調整をしてもらう事にした。町のゴミ掃除とかでいいといったのだが、アリサに怒られて断念。

聖地で大きな力を持つ両組織との協定が結ばれた事自体は大きな一歩ではあるので、その点も含めて業務スケジュールの調整をアリサに頼んでおいた。

彼女達にも日々予定がある、昨日の今日という訳にはいかない。俺としては未来永劫先でもかまわないのだが、近日彼女達と仕事をする羽目になりそうだ。やれやれである。


その他幾つか必要な業務をこなして、ノア達との共同任務が決まるまでの間、海鳴へととんぼ返り。ニ世界間の並行業務なんぞやっているのは、次元世界でも俺くらいだと思う。


「シュテルとレヴィの出向が決まったので、彼女達はしばらく留守にする」

「残念です。シュテルちゃんには、勉強を教えてもらっていたのですが」


 シュテルとレヴィは海鳴にも仕事を一つ任されていた。高町家への出向、出向という名目のボランティア活動。一家の大黒柱である高町桃子を、母として復帰させる子供業務。

時空管理局及び聖王教会への出向が決まった以上、申し訳ないが高町家への出向は控えなければならない。組織の代表である俺が出向いて、仕事の中断をお詫びに伺った。

出迎えてくれた妹分である高町なのはは笑って了承してくれたが、本人なりに残念そうだった。意外と仲良くしていてくれたらしい。


モデルをなのはとして誕生したシュテルは、高町なのはに対してお姉さんぶって面倒みていたようだ。成り行き的には、絶対妹だと思うのだが。


「勉強と言えば、学校生活はどうなんだ。随分サボッていたんだろう」

「それを言われるとすごく頭が痛いのですが……塾と並行して、何とか追いつけるようになりました。
おかげでここしばらく魔導師の修行もせず、ずっと勉強し続けております。ユーノ君やクロノ君に怒られそうですが」

「あいつらは、そこまでお前に魔導師であることを強制しないだろうよ。学業第一は当たり前だ、気にするな」


 ジュエルシード事件より続く一連の悲劇に精神が弱っていたなのはは一時期、学校にも行かずに心神喪失状態だった。心も弱り、随分落ち込んでいたらしい。

俺が聖地で戦争していた三ヶ月の間何とか立ち直ったものの、授業に言っていなかったので学業も後退。塾にも通い直して必死で勉強し続けた三ヶ月だったようだ。

なのはの懸命ぶりを聞いて、思わず笑ってしまう。健全だった、実に健全だった。戦争なんぞしていた俺が異端であり、勉強に頑張っていたなのはは誰が見ても健全に生きている。


健全に生きていたからこそ、健全に立ち直れたのだ。今月で今年一年が終わるが、ようやく元通りの生活となった。


「今月で冬休みなんだろう。成績表はいかがですか、なのはさん」

「おにーちゃんの妹ということでお察し頂けると」

「赤点小僧だと言いたいのか、小娘!?」


 天才のアリサと比較するのは間違っているが、高町なのはの頭脳は極めて平凡だった。努力すれば学力が上がり、怠ければ成績が落ちる。目立った点はなにもない。

そうして考えてみると、俺の知り合い連中は平均値を超える頭脳の持ち主が多い。ただローゼやレヴィのように、頭は良いけどアホの子がいるだけだ。

彼女達と比較すると、なのははどの点においても平均値だった。魔導師の資質は高いそうだが、本人にやる気が無いので全く開花していない。


言われてみると、あまり聞いていなかった気がする。


「お前に聞くのは早いかもしれないが、将来はどうするつもりなんだ」

「将来、ですか……?」


「月村忍が来年の春に卒業で、那美もミッドチルダでの三ヶ月で将来設計を立てているんだ。
フェイトも今うちの会社でバイトしていて、はやても俺の家業を継いで人脈を広げている。

ミッドチルダという異世界の価値観を知って、皆自分の将来を考えているんだ。だから、お前のことも気になった」


 ――俺は、剣を失った。剣士が剣を失えば、めでたく廃業だ。だが俺は剣士として最後まで生きることを選び、ユーリ達を超えるべく戦い続ける道を歩み始めた。

自分の未来を具体的に考え出したのは海鳴へと流れ着いてからであり、ジュエルシード事件を発端とした異世界人達との出会いであった。

まさか自分の仲間や家族ができるとは夢にも思っていなかったが、ガキまで出来た以上考えざるを得なくなっている。どうしたものか。


人を見る目のあるなのはは、すぐに俺の心境を読み取った。さすがは、剣士の妹である。


「おにーちゃんはどうするつもりなんですか。お姉ちゃんに剣を返したと聞いています」

「……少なくとも、新しい剣の目処も立っていない状態だな」

「なのはとしては嬉しいのですが、複雑でもあるんです。おにーちゃんはクロノ君達のいる世界のほうが、生きやすいのかもしれないと」


 あまり考えなかったけど……言われてみれば、そうかもしれない。二足の草鞋を履くのは、日本人としても受け入れがたいものは確かにある。

そもそもニ世界を行き来する苦労は、現時点でしみじみと感じている。海鳴でも多くの問題は残されているが、問題が解決した後はどうするのか。

この世界に俺の居場所はないと、黄昏れるつもりはない。居場所なんて自分で作るものであり、与えられるものではないからだ。


思い馳せていて、ふと気付いた。


「もしかしてお前、俺を基準に将来を考えているのか」

「にゃはは、大きな影響は受けていると思います。フェイトちゃんの事もあるし、これから先も出来れば色々関わっていきたいですので。
でも同時に、こうも思っているのです」

「というと……?」


「この街でおかーさん達と一緒に生きていけば、おにーちゃんも帰ってきてくれると」


 ……、……正直に言おう、恐れ入った。


あろうことか、こいつはこの町で俺の居場所になると言っている。いずれ必ず帰ってくる家を用意するのだと、言ってくれたのだ。

自分が俺の居場所になるとまでは言わないのが、なんともこいつらしい謙遜である。なのはらしいと思う反面、心が洗われた気がした。


自分でも珍しいことだが、本当に素直な気持ちで頭を撫ででやった。


「そうか……だったら、この街へ帰ってこないと駄目だな」

「はい、絶対に帰ってきてくださいね!」


 俺だけではない、きっと忍や那美だって救われる。誰かが待っていてくれるのであれば、どんな世界にも堂々と飛び出して勝負できるだろう。

俺や忍達は、人間らしい生き方ができるタイプではない。世の中からはみ出して、常識を破って暴れるとんでもない無法者だ。

そんな人でなし達であろうと、帰る場所は必ず必要なのだ。シュテル達の為に俺は自分がそうなるべきではないかと思い悩んでいたのだが――


そんな事をする必要はないのだと、俺の妹分が代わりに引き受けてくれた。


「だとすると、やはりあの店が必要だな」

「はい、おかーさんの喫茶店――翠屋は、絶対今年中に再開させるんです!」

「何だ、聞かずとも将来を決めているじゃないか」

「にゃはは、自分で言って自分で気付いちゃいました」


 なのはが自分達の家を作ってくれるというのであれば、俺は思う存分自分の仕事を果たすとしよう。高町桃子と話し、必ず立ち直らせてみせる。

ギンガ達が日々なのはの家へ遊びに行って、高町家を盛り上げてくれている。今日も彼女達は遊びに行っているようだ。

子供達も頑張ってくれているのであれば――大人である自分達も話し合うとしよう。



なのはを連れて、俺は高町家へと向かった。















<続く>








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