とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第十四話






「お主の事について、少々調べさせてもらった」

「取引相手の事を調査するのは当然でしょうね」

「取引を行うかもしれない相手、だ。興味深い経歴を持っているようだな」


 先手を打ったつもりだったが、余裕綽々で切り替えされてしまった。取引相手と敢えて断定したのにわざわざ修正するあたり、取引における言葉の重みをよく知っている。

取引相手と、取引する可能性がある相手では、全く意味合いが異なる。前者は関係であり、後者は無関係だ。望んでいる者と、望まれている者との立場は、圧倒的に異なる。

時空管理局への取引を望んでいるのは我々であり、取引を求められているのは管理局側だ。立場をこうやって弁えられると付け入る隙がないので、ただひたすら頭を悩まされる。


剣士だって、脇を固められると迂闊に切り込めない。


「『天の国』より降臨した"聖王"、なかなか尾ひれがついた言い当て妙ではないか。出身が身元を補強する稀有な例だな」

「称賛されていると解釈いたしましょう」

「事実、称賛はしている。幸運も実力の内などとは言わんよ。それら全てを含めて、お主自身の評価へと?がっている」


 嫌味でも言われているのか一瞬勘繰ったが、希望的観測に過ぎないので辟易させられた。決して敵を侮らない強敵ほど、始末に困る存在はない。

正当かどうかは別にして、総合的に正しく分析されている。"聖王"と口にしたのは立場への評価であり、経歴を完璧に把握している自信でもあった。

最高評議会が牛耳る地上本部に、俺の情報が把握されている事自体は想定済みだった。法術以外の点はクロノ達が本局へ報告し、本局から地上本部へ連携されていても不思議ではない。


ジュエルシード事件に続く一連の出来事に干渉した以上、全てを隠蔽するのは不可能である。むしろ法術を隠す為に、他の情報は包み隠さず報告されているだろう。


「カレドヴルフ・テクニクス社、お主が統括するCW社の目玉商品データを見せて貰った時も驚きこそあれど納得もした。独創的に見えるのは、ミッドチルダにいる我らだからであろうよ」

「外部よりあらゆる要素を取り込むのは世界こそ違えど、どの企業でも同じでしょう。いつ何時でも新しい情報と発想、そして人生が求められている」

「その通りだ。貪欲に望み、そして望まれて奪われる。同じ組織であれど人が集えば、価値観が異なる」


 ――地上本部の慢性的な人材不足と、本局への多彩な人材の出向。事前に調査した弱点をついてみると、果敢に応戦される。これほどの人物が、最高評議会という黒幕に取り込まれている事が歯痒い。

応戦されれば苦戦を強いられると分かっていて、敢えて刺激してみせた。そもそも極めて不利であり、無謀な交渉を行っている勝負なのだ。攻め込まなければ、殺される。

相手の土俵に立てばますます苦労するのは目に見えているが、こちらも素手ではない。忍達が懸命に開発してくれた、素晴らしい武器がこの手にはある。


セレナさんやアリサも尽力してくれたのだ、俺は決して無力ではない。虎の威であろうと、借ってみせる。


「ご存知の通り、私の本業は剣士です。たとえこの身に魔力が宿らずとも、剣は握れる。凡庸であれど、武器さえあれば戦える」

「頼もしい限りだ、我々の悩みを解消してくれるというのかね」

「その為に、遠い地よりはるばる皆様をお招きいたしました。お見せいたしましょう――我がカレドヴルフ・テクニクス社が提案する、AEC武装の共同開発。
次元世界の平和を守り、新たなる脅威に対抗できる秘密兵器をご用意いたしました」


 時空管理局の視察団をお招きしたのは、カレドヴルフ・テクニクスの本社。最高評議会やマリアージュ等の妨害も考慮して、万全な警備が行えるこの本社で実験を行う。

先日の監視網破壊作戦は、この視察への布石も兼ねていた。あれほど徹底的に外敵要素を排除すれば、そう安々と妨害行為は継続できない。リーゼロッテも、このタイミングで馬鹿な事は出来ない。

本社には大規模な実験施設が用意されており、施設内ではアンチ・マギリング・フィールド空間が展開出来る。むかつくが、博士が鼻歌交じりで設定してくれたのだ。


そして実験施設には、本日の主役であるフェイト・テスタロッサが待機していた。


「紹介いたしましょう。当社が自信を持って推薦する魔導師フェイト・テスタロッサと――
我が社が開発した初のAEC武装試作機、"バルディッシュ・ホーネット"です」


 個人装備サイズでの実用的な高速魔力変換運用技術、ジェイル・スカリエッティと月村忍の複合技術が生み出した試験機バルディッシュ・ホーネット。

フェイト・テスタロッサ、彼女は自分の愛機を躊躇なく差し出した。バルディッシュは魔法が使用できなくなったフェイトを深く憂いて、躊躇う事無く自分の改造を承諾したのである。

信じ難い献身であった。剣士であるからこそ、その覚悟の深さには恐れ入る。自分の剣を改造してしまえば、たとえ強くなったとしても、自分のスタイルを捨てる事を意味する。


型を重視する剣術にとって、致命的な崩壊である。苦行とも言える提案を自分の主を救うべく、バルディッシュは進んで申し出てくれた。


「AMF兵器の登場により、魔導師の絶対的優位はなくなりました。
質量兵器が禁じられているといえど、これから先は魔導師が変遷していくのは避けられないでしょう」


 敢えて言い切るとレジアス中将本人よりも、同行した視察団の優秀な方々は動揺する。売り込みであっても、断定的な言い方をした事が信じ難いのだろう。

大言壮語は総じて、相手から侮られる。ハッタリはあくまで最終兵器とするべきであり、意味もなく大声で吠えるのは野良犬だけだ。社長という立場では許されない。

それでも俺は、フェイトとバルディッシュの覚悟に報いたかった。魔法が使用できなくなったフェイトを、バルディッシュ本人が改造して戦えるようにする。


これこそがレジアス中将と俺が今心から望んでいる、新時代の戦い方だと信じているからだ。


「そうした魔力無効化への対策を前提としたCW社の武装端末、この武装にはこれまでのコンセプトとは一線を画する独自の魔力変換技術を用いております。
術者の魔力を機体内部に蓄積、武装端末内部で変換する事で魔力無効状況下でも活動することを可能とする」

「新たなる驚異に備えて、課題は既に対応しているという事か。及第点ではあるが、革新的とまでは呼べないな」


「現在、我が社ではバッテリー駆動による運用まで成功しております」


 ――絶対的であった魔力による運用ではないと聞かされて、初めてレジアス中将の表情に動きが生じた。心に一石を投じて、波紋を広げることが出来たのである。

バッテリー駆動による運用、成功にまで導けたのは忍の技術に他ならない。月村邸の倉庫で半ば壊れて横たわっていた自動人形、ノエルの完全なる修理を行った彼女の技術があってこそだ。

開発に成功したらデートしろと挑まれてオッケーしたら、本当に作りやがった天才的なバカ女である。出来ないと高を括っていたので、泣く泣くデートの約束をしてやった。


この件が上手く言ったら成功祝いも兼ねて、何故かミッドチルダでデートする予定である。あいつの無駄な行動力には、呆れつつも感心させられる。


「しかし、バッテリー駆動では消耗が激しいのではないかね」

「中将殿のご指摘はごもっともで、給電コンバーターを実装する予定です」

「なるほど、我々地上本部への共同開発を望んでいるのは――」


「エネルギーロスが多く、長時間運用に向かない。この欠点を克服するべく、皆様の協力をお願いしたい」


 欠点と言ったが、欠陥ではない。開発において一番厄介な実用には成功しており、次に厄介な運用をお互いに行おうという提案である。武装端末の運用面において、管理局の実績に勝るものはない。

そして運用に成功すれば、開発の実績も含めて管理局が利益を甘受出来る。そのための共同開発であり、建前でもあった。こちらが欲しいのは時空管理局という、次元世界最大の市場である。

開発の実績も共有するので、運用面をサポートして欲しい。お互いに旨味の大きいこの提案、されど相手は地上本部を支配する武装派の中将。餌で釣り上げられる魚ではない。


生粋の魔導師であれば一笑に付す提案、魔導を否定する武装など言語道断である。はたして、中将は――


「傾聴に値する提案ではある。だがこの兵器、魔力変換資質保有者か精緻な魔力コントロール技術を有する者でないと、現状は出力が安定するまい」

「――その通りです。ですので」

「言ったはずだ、お主の交渉については十分に堪能させてもらった。評価もしているし、信用もできそうだ。なるほど、剣士らしい見事な戦いぶりだ。
だが、我々が今日この目にしたいのはお主自身ではない。彼女が持つ武装の力だよ」


「では、存分にお見せいたしましょう。AEC武装試作機、バルディッシュ・ホーネットが保つ力の全てを!」


 実験施設内で、アンチ・マギリング・フィールドが展開される。施設内部で展開されるAMFの密度は非常に濃厚であり、魔導の実力者であれど大いに力を束縛される。

魔導師にとっては地獄とも言える空間の中で、フェイトは平然と立っている。彼女がその手に掲げるバルディッシュ・ホーネットも、また健在であった。

魔力無効に対抗するために生み出された、CWXシリーズ。AECコートされている武装が、はたしてAMF空間の中できちんと発動してくれるのか。


昨日、リニス達を信じて俺は成否を確認しなかった。何故なら――



「いくよ、バルディッシュ」

「Yes sir」



 ――愛する家族が応援しているのであれば、彼女は無敵になれる。


幽霊と山猫が影で見守る中で、フェイト・テスタロッサはバルディッシュ・ホーネットをいとも容易く開放した。

実験施設内に用意していた仮想敵、ガジェットドローンの数々を容易く切り裂いた。武装端末を用いた攻撃は魔力無効化の影響を受けない、その事実を今知らしめたのである。


「レジアス中将」


 駆動部とバッテリー内蔵のためかなりの重量物となっているのだが、視察団が見惚れるほど華麗に敵を倒していった。


「この機体の成功により、魔導の歴史が変わります」


 バッテリーの不安定さだけでなく、サイズの大きさに強度や反応速度の不足といった問題点も多く抱えている。

実戦装備としてはクリアしなければならない課題が山積みで、機体の小型化や運用の簡易化、機能の取捨選択などやらなければいけない事も多い。


だからこそ俺はこのCWシリーズを到達点にして、開始点としたいのである。


「私とあなたが、価値観を共有出来るのであれば」

「……むっ」


 俺には今、剣がない。そして彼には今、人がいない。

戦える力を求めているのは同じなのだと、俺は自分から手を差し出した。















<続く>








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