とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第十三話






 時空管理局からの公式視察団、彼らが聖地へ訪れる本当の理由はカレドヴルフ・テクニクス社への視察が目的だが、建前はあくまでベルカ自治領聖王教会への訪問である。

教会の神輿として祭り上げられているだけの存在だが、"聖王"という立場でも彼らを歓迎しなければならない。さりとて、神自らの歓迎なぞ宗教組織としては愚問。

よって同等の権威を持つ聖女カリム・グラシアと、聖地の救世主であるローゼが出迎える事となった。公式の立場で表舞台に出れば、ローゼの立場はより一層保証される。


……俺個人としてはあんなアホに任せていいのか大いに不安だったのだが、一応失礼な真似はしなかったようだ。


『剣一筋のワンパク王と礼装姿の美少女では、心証も大いに違いましょう。ローゼに感謝して下さいね、主』

『そうやって本音をベラベラ喋るから不安なんだよ、お前は!』


 ローゼの話では聖地の戦乱を収めた白旗への関心も大いに示されたとの事で、支援及び後見を務められているお三方ともお会いになられたらしい――何故か、非公式で。

爺さん達が時空管理局に大きな影響力を持つ只ならぬ方々なのは承知の上だが、レジアス・ゲイツ中将まで自ら足を運ぶとなるとよほどの人物であるらしい。

表立って表敬しないのは立場を重んじてか、それとも立場を疎んじてか。お三方が最高評議会と敵対する関係であるのならば、レジアス中将としても複雑であるだろう。


そして――同じく複雑な立場である俺と、いよいよ対面する事となった。


「ようこそ我が社カレドヴルフ・テクニクスへお越し下さいました、中将殿。この度社長に就任いたしました、宮本良介と申します」

「管理局地上本部所属、レジアス・ゲイズだ。肝入りという意味では君と同じだよ、"聖王"殿」


 マスメディアより大々的に喧伝された正式な視察なので、取材陣も多い。本業は剣士と武装局員、社交的な笑顔はなかなか望めないが、にこやかに握手くらいはしてみせる。

公式視察団という立場で参られた方々、どれも優秀である事には違いないが、レジアス中将の息がかかっている。中立的な視察なんぞ、到底望めないだろう。

中将の評価一つで風向きが変わってしまうが、言い換えると中将の評価を得られれば、この視察は成功となる。我が社にとっても、ビックチャンスであった。


問題なのは最高評議会と俺が、見事なまでに敵対している事だ。もしもレジアス・ゲイズが最高評議会の犬であれば、俺に勝ち目はなかった。


「我が社が開発いたしました乗用機の乗り心地はいかがでしたでしょうか」

「"公的組織向け乗用機"の開発にまで着手しているとはなかなかの切り口だな、社長。悪くはなかったよ」


 魔法文化が栄えるミッドチルダにも、乗用車は存在する。飛空魔法があるとはいえ、魔導師が自由自在に空を飛び回る訳ではない。空を飛ぶのも制限があり、許可が必要となる。

宇宙戦艦まで建造可能な次元世界なのだが、意外と乗用車の開発は進んでいなかった。特に公的組織を意識した乗用車の存在は少なく、技術の切り分けが出来ていなかった。

その点に気付いた忍がアリサに進言し、ウーノが世界の相互技術比較を行って、博士が息抜きに設計してくれたのが公的組織向け乗用機である。


レジアスは乗り心地と表現しているが、評価はあくまで安全性と機能性である。


「出迎えてくれた君の秘書より、丁寧な説明も頂いている。事前にデータは見せてもらっていたが、君のエネルギー論はなかなか斬新だな」

「公式な視察であるとはいえ、中将殿には忌憚無き意見を聞かせて頂きたい。より良い関係を築くためにも」

「相互理解の難しさは承知しているようだね。では言わせてもらおうか――極めて異端だ」


 公的組織向け乗用機は魔導エネルギーに頼らないコンセプトを用いている。魔導エネルギーのない管理外世界の技術をベースとしているのだから、当たり前なのだが。

魔力の無効化が行われたのは近年、それ以前は魔導エネルギーは絶対的な存在だった。効率の良いエネルギーはクリーンであり、神話性を誇っている。

わざわざ崩す必要性の無いエネルギー論を開発の観点から切り崩すのは斬新ではなく、異端だ。魔女裁判にかけられてもおかしくは無い、愚かしさと言える。


馬鹿馬鹿しいの極み、単なる奇行だと口にしながらも、レジアス・ゲイツという男は豊かな髭を弾ませていた。


「ベルカ自治領における数々の騒乱、そして怪物達による戦乱。我が地上本部としても見過ごせない由々しき事態ではあったが、支援が表立って行えず苦労をかけてしまったようだな」

「現地に派遣された局員の方々には、数え切れないほど支援及び援護をして頂きました。彼らの働き無くして、混乱を収める事は出来なかった」


 レジアス・ゲイツ、最高評議会主導による異例の人事改革で中将に抜擢された男。最年少の出世ではあるが、俺のような若輩者では断じてない。

地上本部という大きな組織の頂点に君臨するに相応しい貫禄を持ち、刈り上げられた髪と豊かな髭が似合うナイスミドルであった。暑苦しさよりも、威厳と畏怖を感じさせる。

強面ではあるが、威信に漲った顔立ちは、悪を許さない正義という安心感を感じさせた。何者にも退かず、媚びないその姿勢こそ、民衆が求めている法の番人そのものだろう。


かつてゼスト隊長と肩を並べていた人物というのも、頷ける。なかなか手強い人物だった。


「猟兵や傭兵達が用いていた魔力無効化、そちらより提供を受けた装置も分析してみたが、粗悪であれど効果はあったようだね」

「うちの優秀な魔導師の力が、無力化されました。幸い機転を利かして打破出来ましたが、一定のレベルに満たない術者には太刀打ち出来ないでしょう」

「魔導の絶対性は崩れたという事か。神話の崩壊、本局の連中はさぞ肝を冷やした事だろうよ」


 ――地上本部と本局の関係については、以前よりクロノから話は聞いている。ただ公式視察の場で持ち出してくるとは思わず、周囲を見渡したが取材陣も含めて別段反応は無かった。

この程度の軽口は周知であり、当然という事か。中将という立場では迂闊な発言に見えるが、その程度の批判はものともしない実績は積んでいるのだろう。

敵が見せた切り口はあからさまであり、隙を突くべきか正直悩んでしまった。権力争いや腹の探り合いは何度も経験しているが、それでも半年程度のキャリアでしかない。


悩んだ時は、剣士としての本能で動くしかない。敵が隙を見せたのであれば、躊躇わずに斬るべきだ――ただし、変幻自在に。


「中将殿が直々に改革へ乗り出した背景は、魔導を根拠とした絶対性ではないようですね」

「個人の才能によって左右される力に、絶対性なぞありはしない。隆盛を誇る聖王教会も同様の問題を抱えているだろうが、巨大な司法組織である管理局も平時において人材不足だ。
魔導における強大な力と安定性は認めるが、確実な正義を執行するには危うい。人事においては尚の事、魔導師本人による意向によって組織間のバランスは容易く崩れる」


 次元世界の管理及び安全性を確保する上で、時空間を守る本局の立場は強い。時空管理局の組織理念に基づいている為、貴重な人材は空へ流れやすいのだ。

実際クロノ達も空を守る任務に就き、本局に所属している。全員とまではいわないが時空管理局に所属する以上、現場に立って人を守りたいと思うだろう。

地上本部はミッドチルダという秩序を守る要なのだが、地上に固定されている以上戦力に重きを置けない。本来であれば必要な人材が、空への守りに傾いてしまう為だ。


事情を知れば頷ける話ではあるのだが、改革を任された人間からすれば歯痒い話であろう。


「魔力無力化という状況は恐れるべき事態ではありますが、中将殿からすれば歓迎すべき話であると?」

「貴社にとっても同様であろう。だからこそ、我々にこうして話を持ち掛けてきた」


 切り込んでみたつもりだが、簡単に切り返されてしまった。剣士の一閃なんぞ武闘派で鳴らした中将では、鼻で笑う斬撃だったのだろう。手強い人間であった。

腹の探り合いは好みではないが、言葉によるこうした応酬はなかなか面白い。圧倒的に格上であるのならば、尚の事だ。実に勉強となる。

俺は剣の情熱を取り戻せたのはユーリ達を超えたいという熱意、格上の戦士達と戦いたいという欲求だ。自分より強い人間と戦えば、敗北したとしても成長できる。


敗北を認められたからこそ、敗戦からの挑戦が行える。やり返された怒りよりも、やり返すという挑戦心が湧いてくる。


「同じ悩みを共有出来て、不謹慎ではありますが大変喜ばしい事です。我が社としても、胸を張って紹介できます」

「随分な自信ではあるが、君と私の観点は同じ高さであっても視野が異なるかも知れんぞ」

「いいえ、同じ危機意識を共有出来ております。その根拠となりますのが、今回中将殿にお渡し出来る試作品です」

「試作品……? 今日はその試作品の実験ではないのか」


「お忙しい中お越し頂いているのに、手ぶらで返す訳には参りません。此度ご用意させていただきました商品をお見せします――その名も、"CWコネクト"です」


 ――思えば、俺が携帯電話を持ったのは何時頃だっただろうか?


他人と繋がるのを極端に避けていた俺は、誰とも繋がる電話の存在を嫌っていた。常時携帯なんぞもっての外であり、持ち歩く若者達を馬鹿馬鹿しいと鼻で笑っていた。

そんな俺が携帯電話を持ち出した時こそ、もしかすると他人を必要とし始めた瞬間だったのかもしれない。俺が変わり始めたのは、その頃からとも言える。


剣ではなく電話を持ったその時こそ、武力に頼らない生き方を模索し始めた奇跡的な場面だったのだ。


「このCWコネクトは我が社独自の最新の通信システムを構築いたしまして、魔力無効状況下でも通信可能です」

「何と……念話が不可能な状況でも、通信が行えるというのか!?」

「中将殿に提案させていただいた時空管理局との武装端末の共同開発――この開発における技術プランにおいて、当然このCWコネクトも組み込ませて頂いております」


「私――いや、儂の事を知って尚、武装ではなく通信を主とした提案をしようというのか」

「先程、述べた通りです。私が――いえ、俺とあなたは同じ危機意識を共有している」


 今ようやく取材陣のみならず、公式視察団が騒ぎ出している。今日の目的は武装端末の共同開発であり視察、土産というのであればそれこそ武力を前面に打ち出すべきだ。

CWコネクトも極秘ではあるのだが、付属品に過ぎない。武闘派で名高い中将に見せるのであれば、まずはAEC武装をお披露目しなければならない。

セレナのみならず、アリサからも指導は受けていた。余計なことは言うなと、再三念押しされている。分かっている、これは決して余計な事ではない。


今日は必ず成功させる。CW社を必ず世界に羽ばたく企業にして――ゼスト隊長との約束も、果たしてみせる。


「……お主という人間の評価を改める必要がありそうだ」

「俺の評価は変わりません。貴方は素晴らしい取引相手だ、価値観を分かり合える」

「話を聞こうじゃないか、今日という日は良き日となることを願っている」

「ええ、そして必ず良い明日としましょう。我々で」


 ――冷や汗をかいたが、どうやら興味は持ってくれたようだ。この反応は、俺としても朗報であった。


この男は断じて、最高評議会の犬ではない。あの連中に、取り込まれていない。もしも連中と同じく俺の敵であれば、今この瞬間社会的であろうと殺されていたはずだ。

彼は、世界会議から帰ってきた頃の俺と同じだ――自分に邁進するあまり、大切な人達を傷つけて敵対させてしまった。

悲しい宿命を背負ったこの人を、どうにかして立ち直らせたい。その為にも、彼と関係を結ばなければならない。


後は頼んだぞ、フェイト。















<続く>








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