とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第十話






 ――本人は非常に嫌がったのだが、リーゼロッテはリーゼアリアが引き取ってミッドチルダへ連れて帰った。おもちゃ箱を置いていくという迷惑ぶり、明日ナハトに預けておこう。

蒼天の書を時空管理局に分析するという提案も、リーゼロッテも持ち帰った。彼女の一存では決められず、グレアム提督の判断を仰ぐ事となる。

当初の目的だった俺の監視網を破壊する目的自体は、完了。後始末は聖王騎士団が行い、新警戒態勢を夜の一族の姫君達が総力を上げて取り組んでくれる手筈となっている。


作戦は、完了である。


(予想以上の成果と、予想外の収穫があった作戦だったな)


 本日の作戦で監視は全て根絶され、明日からは多くの目に晒される事もなくなる。ここまで徹底的にやった以上、新しい監視を送る馬鹿はいないだろう。ウーノ達の尽力により、後顧の憂いもない。

妖怪達に最高評議会、マリアージュにグレアム提督。目下、敵対している勢力がこれで明るみに出た。勢力そのものは大分削ぎ落としたのだが、厄介な連中である事に変わりはない。

今年も残り一ヶ月、問題や課題は全て解消して一年を終えたいのだが、排除はなかなか難しい。正義と悪、両面に属する勢力が敵対しているので難しい。


いずれにしても監視は無くなったので、これで堂々と胸襟を開けて話し合える。


「はやて、お前の家を荒らした泥棒を捕まえたぞ」

「違うよ、良介。わたしじゃなくて、わたし達の家や」

「そういう拘り、嫌い」

「いい加減慣れてほしいわ、ほんま」


 平然とした顔をしているが、犯人が見つかったと聞いて八神はやての声に安堵の色が混じる。大人じみた少女ではあるが、自分の家が留守中荒らされれば不安や恐怖もあっただろう。

リーゼロッテは結局謝罪はしなかった。謝罪すれば、監視や暗躍を認めた事になる。立場を考えれば頑なに否定するだろうが、俺が追求した時心苦しく顔を歪めていたのは確かだ。

謝罪するまでは許さないが、さりとて強要するのも筋が違う。少なくとも今は、はやての不安を解消するのが先だ。捕まえた事は本当なので、嘘をつく必要もない。


はやても状況を見極めるまで被害届は出さなかった分、官憲に頼れない心細さはあった筈だ。成果を聞いて、安心した様子だった。


「お前の言う通り、魔導書を狙った犯行だった」

「可能性は低かったけど、ズバリやったんや……わたしの事ももしかして、バレてる?」

「……お前が一人暮らしのままだったらやばかったけど、今は大所帯だからな。犯人も混乱していたな」

「おー、確かに我が家は個性派揃いやもんな……犯人さんに同情するわ」


 正直、悩んだ。家を荒らしただけで何も盗んでいないので、誤魔化そうと思えば幾らでも出来た。はやてには無関係のままでいてもらう事だって出来たのだ。

考えあぐねた挙げ句、ほぼ真実を打ち明ける事にした。単なるガキンチョなら嘘をつけたのだが、こいつは頭が良くて鋭い。ボランティア活動を行い、町内会にも出席していて社会経験も積んできている。

こいつ相手に嘘を突き通す自信はなかったので、闇の書の事を話す事にした。どうせあの魔導書は無害になっているのだ、はやて本人には害はない。


ただリーゼロッテ本人の事は、まだ話さなかった。リーゼアリアが我が家に通っているので、微妙な空気にはしたくない。


「捕まえたその犯人さんはどうしたん?」

「時空管理局関係者であるリーゼアリアに引き渡したよ」

「……そっか。あのベビーシッターさん、管理局の人やったね」

「もう完全にベビーシッター扱いなんだな、お前の中で」


 どういうコネがあるのか知らないが、管理外世界にある月村邸にも最近は足を運ぶようになっている。そのうち家賃とか払って、この家に越してきそうなので怖い。

グレアム提督の関係者でシグナム達も警戒しているのだが、あの女本人が無防備にナハトをあやしているので、最近はもう完全にベビーシッターさん呼ばわりである。

はやてが闇の書の主だと知っていることが判明したのだが、そのはやて本人や守護騎士達にも赤ちゃんのあやし方とか我が者顔でトークしているので、本当に関係者なのか今でも疑わしい。


いずれにしても犯人が捕まって、はやての中では事件は解決と言える。


「ただの魔導書やったらあげてもよかったんやけど、あの本はわたしの家族やからね。奪われるわけにはいかんもんね」

「曰く付きの魔導書ではあるからな、狙ってくる奴もいるだろうよ。その点については色々対策も考えている。
こっちは俺がなんとかするから、何でも屋は引き続きお前に任せる」

「そろそろ社長の看板、背負ってええかな」


 アリサの仕事しろ宣言により、今年の6月に開業した何でも屋はめでたく今月で半年を迎えた。商売繁盛で、海鳴を拠点に業界ネットワークを広げて人脈を構築している。

ただ開業以来業務を担っているのははやてや守護騎士達で、俺はあらゆる問題の対処や対応に追われて全く業務が出来ていなかった。

世界会議に身内のゴタゴタ、聖地での戦争に海鳴での問題解決と、この半年間国境や世界線を問わず飛び回っていて、全く仕事ができなかった。


夜の一族のカレン達も俺の留守中業務の補佐や会計処理は行っていてくれたそうで、俺がいなくても商売は成立してた。俺としては、複雑だが。


「良介を信頼してるから私も安心して任せるわ。わたしにやってほしいこととか、出来ることがあったら言うてな」

「来年は、学業復帰かな」

「うーん、お仕事楽しいから、学生に戻るのは抵抗があるわ……そういう訳にもいかんけど」


 車椅子から松葉杖、松葉杖からロフストランド杖へと変わってきている日常生活。はやての足は半年を経過して、順調に回復している。

ロフストランド杖はサポート力の高さや高い安定感に定評があり、握力が弱っている高齢者の歩行も安定しやすくて評判が高い。

特に握力が弱っている方や身体に麻痺がある人に向いており、下半身に体重をかけることが出来ても筋力が足りずに支えきれない患者に効果的な杖のようだ。

来年には歩けるようになるとの希望を込めて目標を言ってやると、はやてはぼやきつつも笑い、杖をついて歩いていった――


次に、シグナム達にも事情を説明する。彼女達には闇の書の危険性も共有できているので、深掘りして話せる。


「事情はよく分かった。本作戦は次のフェーズへ移行するのだな」

「アリサ殿の想定では十分な地ならしを行った上でのフェーズ移行だったのだが、やむを得ないか」


 守護騎士達には夜天の魔導書に関する記憶は一切なく、闇の書としての曖昧な知識しか残されていない。よってクロノ達より提供された情報を連携して、補強を図っている。

その上でアリサが立てていた作戦を俺が遂行し、彼女達が補佐する体制で動いていた。まずは蒼天の書の分析より始まり、主への認識を俺へとスライドさせていく。

蒼天の書が安全だと判断されれば、主候補である俺も無害となるので、その段階で次に蒼天の書と闇の書を結び付ける。危険だという前提を、今は安全だという認識で覆す作戦だった。


時間が必要な長期戦だったのだが、八神はやてが主だと疑われているのであれば、フェーズを早めなければならない。


「今の段階で貴方が主だと疑われてしまうのは、危険の方が大きいと思うわ。時空管理局側に大義名分を与えてしまう」

「大義名分があれば、連中も大々的に動いてくれるだろう。黒幕にでんと構えられても困るからな」

「あらゆる事態を一気に動かしてしまうと、想定外が頻発すると言っているんです」


「……あいつ、あんなに心配症だったっけ?」

「……奴との関係も、次のフェーズへ移行したと見るべきかもしれんな」


 うるさい外野は無視するとして、シャマルの指摘は正しい。敵であるリーゼアリアも、俺の提案には度肝を抜かれていた。

驚愕していたのは、提案そのものではない。そもそも俺の提案そのものは、平凡である。誰にでも考えられるし、土壇場での窮余策にも見える。

彼女やシャマル達が驚いているのは、タイミングだ。まだ闇の書の安全性が確保されていない状況で、秘密の蓋を開けるのは俺に飛び火する危険は確かにあった。


火傷すると分かっていて火遊びを提案するのは子供のイタズラであり、大人には迷惑でしかない。


「時期尚早に思えるが、そのタイミングを実はコントロールする事は出来る」

「何故ですか。既に提案が持ち帰られている以上、相手次第ですぐにでも詰め寄られますよ」

「だって蒼天の書を管理しているのは、聖王教会だ。"聖王"次第で、どうにでもなる」

「考え方が甘いですよ、貴方はあくまで神輿です。聖王教会と時空管理局の関係を考えれば、双方が歩み寄って決断することも考えられるじゃないですか」


「立場が一緒、もしくは管理局側が上である場合はお前の言う通りだ。だが、今は違う。聖王教会は"聖王"とゆりかごを得て、隆盛を誇っている。
こちらの提案を元に相手との関係を顧みる動きに出れば、案外面白いことになるかも知れないぞ」

「まさか、貴方……蒼天の書を餌にして、時空管理局と聖王教会の力関係に一石を投じるつもりですか!?」


 シャマルの言い方だと大胆な改革に聞こえるだろうが、今に始まった話ではない。俺が"聖王"として祭り上げられた時から始まった、ある種の必然である。

神が降臨した宗教組織、聖王教会は今絶大な影響力を誇っている。聖王のゆりかご、次元世界最大のロストロギアを保有して、強大な戦力まで手に入れた。

ロストロギアの危険性を訴える時空管理局としては見過ごせず、聖王のゆりかごの重要性を訴える聖王教会としては譲れない一線――


均衡は既に、危うくなっている。


「最高評議会に睨まれている以上、いずれは戦わなければならなくなる。現状管理局の頂点に立っている連中を相手に戦うのは、"聖王"という立場を利用しても難しい。
何としても連中を叩き落とさなければならないんだ、今の現状は何としても揺さぶらなければならない」

「……危うい賭けではあるが――主はやてが睨まれている以上、猶予はないか」

「だからといって冒険に出られても困りますので、私達の方でも調整はしましょう」

「そんじゃアリサとも相談して、こいつの無茶な提案をどうにか上手くコントロールしてやってくれよ。
アタシとザフィーラが、現地でガッチリフォローするからよ」

「主の平穏を守るには、思い切った手段に出なければならないという宮本の姿勢は理解できる。しっかり守るとしよう」


 聖王教会と時空管理局、この関係の危うさを利用すれば、闇の書やはやて達を安全圏まで逃がす事ができるかも知れない。

リーゼロッテの発覚から次元世界の巨大組織にまで影響が及ぶ事態となりつつあるが、いずれ来るべきことが起きたに過ぎない。


最高評議会とグレアム提督、そしてもう一人――レジアス中将。



CW社からの働きかけも、そろそろ実を結びそうだった。













<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.