とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第八話






 セイン。セミロングで水色の髪の、美少女。ヴィヴィオの護衛に任命された戦闘機人だが、使命感や正義感に囚われず生きている、自由奔放な女の子。

突然変異により生まれた彼女の先天固有技能はディープダイバー、無機物潜行。その名の通り、無機物に潜行して自在に通り抜ける事を可能とする、恐るべき能力である。

作戦決行の上で戦闘機人達の能力を一通り説明を受けた時も、博士やウーノが絶賛していた激レアな特殊能力であるらしい。


才能に愛された少女は、世界を自由に動ける能力を持っている。


「何故この家を監視していたのか、説明してもらおうか」

「人聞きの悪い事を言わないで。あたしはあくまでも、貴方を守っていたの」

「そんな話は事前に聞いていない」

「あたしは命令を受けただけ、下っ端に命令系統を聞かれても困るわ。苦情は、時空管理局本局へどうぞ」


 こいつ、開き直りやがった。管理外世界の人間が時空管理局の本局へ苦情を出してもどれほど上にまで伝わるのか、怪しいものだ。それを見抜いて、こんな態度に出ている。

本局は大丈夫だとは思うのだが、地上本部は事件の黒幕である最高評議会が牛耳っている。俺が苦情を出しても、何処かで必ず揉み消されるだろう。被害妄想でも何でもなく、確実に。

俺だって、コネはある。クロノ達に直接抗議すれば、必ず動いてくれる。だがそれでも、何処まで効果があるのか怪しい。身内に温情をかける連中ではないにしろ、厳しくは言えないだろう。


立場を利用した強権に歯噛みするが、だからといって泣き寝入りする俺ではない。


「どうしてわざわざ変身魔法をかけてまで、偽装していたんだ。護衛するのに必要ないだろう」

「管理外世界での特別任務、変身魔法による偽装は必要よ」

「聖地でも偽装していたじゃないか、あそこは立派なミッドチルダだぞ」

「聖王教会への体面を考慮しての礼儀よ。わかったのならそろそろ解放してくれないかしら、事情聴取される謂れはないわ」

「不法侵入という言葉を知っているか」

「知っているわ、だから大人しく質問には答えてる。本来であれば、こんな馬鹿な質問にいちいち答えない」


 ……何でこいつ、こんな喧嘩腰なんだ?


単純に捕まってしまった悔しさとは別種の、並々ならぬ怒りを感じる。恨まれる筋合いは全く無いと思うのだが、理由が分からない。逆恨みだ。

拷問の一つでもするべきか一瞬真剣に悩んだが、頭の中で棄却する。こいつの俺への態度からして、うちの連中が積極的に賛同しそうなので怖い。セッテがこの場にいなくてよかった。

忠誠心に厚いチンクなんて、先程から俺に強い視線を送っている。粛清すると言わんばかりに、身を乗り出していた。目で宥めるのは、非常に大変である。


ともあれ、このまま解放したらただの泣き寝入りだ。全員捕まえると決めた以上、成果なしでは意味がない。


「護衛の為にこの地へ来たと行ったよな」

「ええ、そうよ。何か問題でもあるの?」

「何で無いと言い切れるか不思議で仕方ないが、とりあえず言っておく――我が聖王騎士団は今宵、ガジェットドローンとマリアージュを捕獲した」

「聖地を荒らした機体が、ここに!?」

「その点も問題だが、この場における論点はそこではない。お前の言う通り、時空管理局には"聖王"として正式に抗議させていただこうではないか。
『天の国へ戻った聖王が襲撃に遭ったが、自衛による殲滅で事を成した。管理局より派遣されていた護衛もいたが、何もせずに静観していた』――とね。

これなら職務による秘匿なぞ、何の意味もない。そもそも職務を遂行していないんだ、管理外世界であろうと管理局も腰を上げるだろうよ」

「ぐっ……卑劣な!」


 どうして卑劣なんだよ、正当な抗議じゃないか。世界会議や聖地の覇権戦争に勝利した俺を甘くみるなよ。これくらいであれば、かろうじて頭を働かせられる。

管理外世界での個人的なトラブルであれば本局を動かせないが、次元犯罪が関わってくると話は別だ。俺は今回の作戦決行で、敵は管理局からも出てくると予想はしていた。

そもそも最高評議会に恨まれているのだ、俺個人をマークしないなんてありえない。管理外世界へ戻ったとしても、"聖王"となった俺の影響力を恐れている筈だ。その程度はわきまえている。


だからこそ事前に必死で考えて、対応できる手段を用意していたのだ。マリアージュまでいるとは思わなかったが、捕獲してくれた騎士達には感謝しかない。


「"ソニックムーブ"」

「!? 逃げるつもりか」


 チンクの固有武装でAMFが起動している場、高速魔法であれど行使出来ない。ただしアンチマギリングフィールドも絶対ではない、一瞬ではあるがタイムラグが生じる。

例えば発動プロセスの必要もなく起動する事が可能であれば、起動→解除という手順の間だけ魔法が働くのである。攻撃魔法では何の意味もないが、高速魔法なら逃走にのみ有効である。

一瞬だけ働いた高速魔法且つ使い魔による身体能力の高さで、一瞬でも爆発的な距離を稼げる。その場を離れた彼女は、我先へ逃げ出していった。素晴らしい機転である。


――実に惜しいのは、作戦を立てたうちのメイドがその行動を読んでいたという事だ。


「じゃじゃーん!」

「なっ!?」


 ――セインの固有武装、ペリスコープ・アイ。両手の人差し指の先についているカメラにより。普通の目と何ら変わらない監視機能を持っている。

アリサの密命を受けて地面に潜んでいた彼女はペリスコープ・アイで監視しており、刺客の逃走先に移動して地面より登場。悪ノリで舌を出して驚かれるのは、愛嬌というべきか。

まさか地面から現われるとは思っていなかった刺客は思わず足を止めてしまい、セインに捕獲される。彼女も戦闘機人、基本的なスペックは段違いに高い。


刺客も抵抗するが、アンチマギリングフィールド内では魔導師が圧倒的に不利。捕らえられてしまった――


  「さあ、いい加減観念して理由を述べてもらおうか」

「っ……」

「今度は黙秘か、職務上追求をかわす手段には長けているようだな」


 リーゼアリアの関係者であれば、当然時空管理局より教育を受けている筈だ。犯人を追い詰める手段に長けていれば、追求を逃れる手段にだって当然詳しいだろう。

先ほど口にした時空管理局への抗議というやり方は確実に勝てる手段ではあるのだが、あくまで最終的に勝てるという条件付きである。

"聖王"の立場で訴えれば聖王教会は当然のように巻き込んでしまうし、時空管理局との関係も下手をすれば悪化してしまう。


最高評議会は敵側ではあるが、時空管理局全体は敵視していない。実のところ、あまりやりたくない手段なのである。


「どうしても話さないというのであれば、仕方がない。こちらも少々思い切った手段に出なければならないな」

「……拷問でもするつもりなの? 私的な拷問は犯罪に――」

「だから不法侵入者に言われたくないってのに……まあいい。妹さん、彼女を呼んで」

「分かりました、剣士さん」


 意味深な俺の言葉もそうだが、唯々諾々と冷徹に従う妹さんの態度に、女は瞼を震わせる。拷問は犯罪だと警告しつつも、容赦なく行われれば恐怖の一つも浮かぶ。

それでも狼狽えたりしないのは、凶悪な犯罪者達と向き合ってきた結果ゆえだろう。使い魔に年齢を求めるのは無粋だが、見た目通りの経歴とは限らない。


リーゼアリアと同じく、この女も侮れない。悪いが、容赦はしない。
















 セッテ。ピンク色の髪をした、ロングヘアーの少女。聖王騎士団団長の任に就いた彼女への栄誉に、博士が製作したヘッドギアを贈ると歓喜されてしまった。愛らしい彼女の額に今、装着されている。

セッテの先天固有技能は、スローターアームズ。彼女の固有武装であるブーメランブレードへの制御を行う能力であり、彼女だからこそ授かった強さの象徴であった。

ブレードを投げて使用する事で軌道を自由に変化させ、中遠距離の戦闘において絶大なアドバンテージを誇る。狭い閉所では取扱が難しいが、打撃武器の特性である高速回転で切断能力を発揮する。


セッテの強さは如何なる状況下におかれても動じない、精神性。彼女こそ、真なる戦闘機人である。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……っ」

「……」


「――ごめんなさい」

「よし」


 ――壮絶な表情で項垂れた女に、俺は力強く頷いてやった。

分かる、分かるぞ、女よ。セッテの尋問には、プロの管理局員であろうと耐えられない。

人間の瞳は、他人を映し出す。そして機械の瞳は、自分を映し出す。セッテの瞳に映る自分の姿に、女自身が耐えられなかった。

尋問ではあるが、セッテは何も語らない。主である俺が既に質問した以上、従者が決して無駄な口は叩かない。必ず聞き出すのだと、ただ迫るだけだ。


戦闘機人の高き戦闘力も、必要なかった。セッテは完成された戦闘機人、人を超える存在相手に使い魔では叶わない。


「ではまず、名前から聞かせてもらおうか」

「リーゼロッテよ」

「見た目通り、リーゼアリアの姉妹だな。グレアム提督の命令で、俺達を見張っていたのか」

「いいえ、あたしの意思であんた達を見張っていた」

「そうだろうな」

「……疑わないの?」

「使い魔相手に主人の責任を追求するのは無駄だろうよ」


 例えばセッテがリーゼロッテと同じ立場であれば、捕らえられた場合絶対に俺の事は話さないだろう。いざとなれば自害する覚悟を持っている。

今でこそ態度を改めつつあるが、リーゼアリアも同様の覚悟で俺達に挑んでいた。グレアム提督の責任問題とはならないように、気を張っていたのは記憶に新しい。

グレアム本人に苦情を言えば認めて謝罪するだろうが、そこまでだ。追い込むには、材料が足りない。経歴に傷をつける事は出来るが、名誉提督の積み上げた功績は大きい。


英雄の名声を、庶民の苦情程度では崩せない。


「俺達を無断で監視していた目的は何だ」

「そうね……この状況なら限られているとはいえ方便はあるけど、このまま延々と睨み合いを続けても埒が明かないと思ってた。
ちょうどいい機会だから、あんたに言っておく」


 戦闘機人達に囲まれながらも、リーゼロッテの眼光は鋭さを増した。


「闇の書の所有者が八神はやてであると、あたし達は掴んでいる」


 ――敢えて、正直に言おう。取り乱さなかったのは、奇跡に等しい。もしもグレアム提督の関係者でなければ、間違いなく動揺していた。


あの男にミスがあるとすれば、俺を何度も徹底的に追い詰めすぎた事だ。手を変え品を変え、あらゆる角度から俺を責めて追求してきた。ゆえに、耐性がついたのだ。

内心非常に驚いたが、同時にあの男ならばありえると思考をスライドした。そもそもの話、グレアム提督はあまりにも俺を敵視しすぎていたのだ。


その全てが俺の家族、八神はやてにベクトルがいっていたのであれば納得できる。だからこそ、はやてを守る俺を崩そうとしている。


「八神はやての家を荒らしたのは、お前か」

「何か証拠があって言っているのかしら」

「お前達が睨んでいる八神はやての家を荒らされたと聞いても、取り乱さないお前の態度が物語っている」

「……っ」


 埒が明かない――言い当て妙だった。グレアム提督であれば、そんな軽挙妄動を犯すはずがない。闇の書を長年留守にしている家に置きっぱなしにする筈がないからだ。

聖王教会が保管している蒼天の書が、闇の書であるらしき事実が浮かび上がった。もしも本当であれば、こいつらの推測の前提が崩れてしまう。だから、こいつは焦った。

家探ししたのは多分明確な証拠ではなく、痕跡を探し回ったのだろう。とにかく何か新事実を見つけたかった、そんな焦りがあんな馬鹿な行動に出てしまったのだ。


それにしても、厄介だな……何故バレたのか分からないが、事実ではあるので取扱いがややこしい。


「何にしても、謝ってもらおうか」

「だから、証拠を――」

「寝ぼけるな」


 一刀両断する。剣がなくても俺は剣士、言葉であろうと人を斬ることに躊躇はしない。

相手が時空管理局員であろうと、容赦は一切しない。


「八神はやてに謝罪しろと言っているんだ。自分の家を荒らされた被害者の気持ちを、お前が知らないとは言わせないぞ」

「! ……それは」

「家荒らしについては、お前を追求する材料は確かに無い。このまま開き直るなら好きにしろ。その代わり、俺は徹底的に戦うぞ」


 リーゼロッテがこの時初めて、苦渋に満ちた顔をする。どれほど責められても平然としていた彼女が初めて、顔色を変えたのだ。

やはりリーゼアリアと同じ、崇高な意思を持っている。きっと善人なのだろう、正義感より使命感を優先しているだけなのだ。

何度も葛藤させられているが、闇の書の件については彼らに非はない。闇の書自体が危険なのは事実なのだ、どうにかしようとするのは正しい。


だからといって、はやてやシグナム達を捕らえられる訳にはいかない。


「――このままでいいと思っているの、あんた」

「何を言いたいのか、よく分からないな」


「そうね、あんたは何も知らない――本当に、あの子が可哀想だわ。

クロノはあんたを、自慢の友人だと誇らしげにしているのに」


 ――クロノ……? あいつが何だと言うんだ。

事実こそ全て言っていないが、嘘はついていないぞ。あいつに後ろめたいことは、何もない。


この時俺は、リーゼロッテの言いたいことを全く理解していなかった。













<続く>








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