とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第七十四話







 親権問題について話し合いたかったのだが、家族が増えすぎてしまってそれどころではなくなってしまった。友好を深めるだけでも、時間がかかってしまった。

幸いにもうちの子はよく出来た子供達ばかりで、妹達とも程なく仲良くなれた。俺の妹だからギンガ達は叔母にあたるのだが、全員子供なので垣根というものがない。

そういう意味ではクイントやメガーヌなんて祖母になってしまうのだが、孫が出来て大感激な二人はヴィヴィオ達を連れて行ってしまった。お泊り保育なんぞとぬかしやがった、孫馬鹿達。


いずれにしてもこれ幸いと、俺はもう一つの大きな課題に取り込むべく宮本家親子水入らずの家族会議を行う――シュテル達の存在について。


「無限書庫で『闇の書』に関する書物を一通り調べたのだが、お前達に関する記録が何一つ見つけられなかった」

「お分かりいただけただろうか」

「分からなかったから本人に聞いているんじゃ、ボケ」


 心霊特番のナレーションの決まり文句を我がもの顔で語るシュテルに、平手打ち。もうこの時点で、こいつらの秘密には禍々しいものが無さそうだと分かってしまった。

シュテル・ザ・デストラクター、レヴィ・ザ・スラッシャー、ロード・ディアーチェ、ユーリ・エーベルヴァイン。夜天の魔導書より法術で誕生した、我が子達。

月村邸の一室に集まって内緒話と洒落込んだが、四人揃って夜のひそひそ話にワクワクしている。ナハトヴァールは残念ながら、若き祖母達に連れられてナカジマ家で家族団欒を満喫している。


あの子については既に判明しているので、今更問い詰める必要はない。


「夜天の魔導書より分離した無限再生機能が、あの子なんだな」

「そこまで調査されたのでしたら、隠し立てする必要はありませんね。我々も独自で調査を行っており、元より父上から聞かれれば詳細をお話する準備はありました。
闇の書に潜んでいた闇であり、闇の書の防衛プログラム。時空管理局が目の敵にしていた無限再生機能こそが、ナハトヴァールです」

「危険な魔導書でありながら破壊も封印も行えない、防衛機構。『闇の書』である為には必要不可欠なシステムに見えるが、どうして法術によって切り離されたんだ」

「私達と共に分離して誕生したというのであれば、間違いなくあの子の願いだったのでしょう。システムの初期化ともなれば、生まれ変わりに等しい。
ナハトヴァールは、父上の子供になる事を自ら望んだのです」


 赤子に等しき精神でありながら無闇に泣かず、いつもニコニコ顔で可愛らしくあうあう言っている我が子。本という媒体にとって初期化とは、白紙になってしまうのに等しい。

知識も何もかも真っ白になった魔導書なんて、無価値である。廃棄も同然の状態を自ら望んだということは、死を選んだのと同じだ。

防衛機構の暴走というのであれば、守るものは何もなくなってしまったのだろう。自らの存在意義を失った機構が消滅を望むのは、自明の理なのかもしれない。


生まれ変わったあの子は、名前一つで元気に生きている。


「父はあの子の事を知って、どうするつもりだ」

「どうやって育てていくべきか話し合うつもりだったのに、孫馬鹿共に和気藹々と連れ去られたんだよ」

「い、いや、父よ――問い質しておいてなんだが、それでよいのか。あの子を引き取る意味合いを今日、知ったのであろう」

「知ったからこそ、だ」

「ほう……?」


「俺以外にあの子をどうにか出来ると思っているのか、ディアーチェ」

「! すまぬ、愚問であったな父よ。あの子を引き取ってやれるのは他でもない、我が父以外にありえぬ!」


 実にご満悦で頷くディアーチェだったが、多分こいつは勘違いしている。俺本人に闇の書を抱え込める器量があるのではない、俺という人間を取り巻く特殊な人間関係を指して言ったのだ。

時空管理局と聖王教会、次元世界における二つの巨大組織に強い繋がりがあり、聖地に自分の組織を設立。執務官や捜査官、聖女様や戦闘機人達とも協力関係にある。

それでいてジェイル・スカリエッティやプレシア・テスタロッサといった裏の顔にも伝手があり、夜の一族や龍族といった人外勢力とも交流を行っている。


俺という人間を通じた幅広い人間関係を頼みに言ったつもりなのだが、ディアーチェは崇拝度を高めたようだ。まあいずれこの子も王となり、人脈を自ら構築した時に理解してくれるだろう。


「闇の書については俺とアリサで対応し、クロノ達とも協力して事に当たっていく。闇の書は現在蒼天の書となり、無害な魔導書となったので、潔白を堂々と証明すればいいだけだ。
気掛かりなのは、お前達だ。存在が目障りだと言っているんじゃないぞ、存在証明が行えないから親である俺が聞いている」

「パパの子供だと、言ってくれればいいよ!」

「もう十分に言っているわ!? 俺が言いたいのは、俺の子供じゃないと他人に証明された場合を言っているんだよ」


 時空管理局の無限書庫にこの世の全ての叡智があると、俺は思っていない。無限書の書物になかったからと言って、シュテル達の存在が何処にも記載されていないと言い切れなかった。

ヴィヴィオが丹念に調査してくれたとはいえ、無限書庫にはそれこそ無限とも言える書物の量があった。あの中にもしかすると、シュテル達に関する記録が眠っているかもしれない。

闇の書に関する危険性はほぼ全て網羅した上で、クロノには報告している。新たに何か起きない限り、再調査はないだろう。問題は、その新しい何かが起きた場合である。


シュテル達を疑っているのかと問われれば、堂々と疑っていると答える。自分の子供だからといって、知ろうとする事をやめるつもりはない。親だからといって、甘えたりはしない。


「分かりました、お話いたします。お父さんには、私達のことを是非知ってもらいたいです」

「何なら、我から説明してもよいのだぞ」

「ありがとう、ディアーチェ。でも大丈夫、私も勇敢なお父さんの子供だよ」


 頑張るとディアーチェに小さな握り拳を向けるユーリの手は、若干震えていた。恐怖ではない、自己証明の難しさと怖さをこの子は十分に理解しているのだ。この子もまた、剣士の子供だから。

剣士が自らの証明を語るには、剣を除いてありえない。そして剣とは強さであり、暴力。他人を傷付けて、自分を証明する。それが剣士の業であり、人でなしの所以だ。

ユーリも同じだ。この子は、次元世界を震撼させる力を持っている。聖地の夜を光に染める太陽――沈む事なき黒い太陽、影落とす月。


ゆえに決して砕かれぬ闇、それこそがユーリ・エーベルヴァインの自己証明。


「私はナハトヴァールと同質の存在、闇の書の最深部に封印されていた『永遠結晶エグザミア』
強大にして強力な魔力結晶を核とする魔力を無限に生み出し続ける『無限連環機構』のシステムなのです」

「無尽蔵に魔力を生み出し続ける無限連環機構と、無尽蔵に再生を行う無限再生機能――なるほど、闇の書が手に負えない魔導書である理由か」

「……ごめんなさい、お父さん。私もナハトと同じ、お父さんを困らせる子なんです」


「子供が親に迷惑をかけるのは何処の家庭でもあることだ、気にするな」

「お父さん、ありがとう!」

「俺もお前達を大いに困らせるからな」

「……それはそれでどうなのでしょうか」


 感激して抱きついてくるユーリをよい子よい子していると、シュテルが実に冷静に指摘してくる。うむ、感動のシーンだから、ちょっと黙ろうか。

ユーリを励ますつもりで言ったのではない。そもそも闇の書本体の面倒を見ると決めたのだから、その本に入っていた子達を拒絶する選択肢なんぞ最初からないのだ。

魔力を無限に生み出し続ける機構と聞いて、むしろ納得である。国家戦略級兵器の直撃を食らって痛いの一言で済む無敵ぶりも、絶対となる機構があったのであれば頷けるというものだ。


ただ、我が子であれど解せない点もある。


「ナハトヴァールの存在、無限再生機能は時空管理局に知られていて、お前の存在に関する記録が一切無かったのはどうしてなんだ」

「……私の復活が及ぼす事への影響は十分分かっていたので、自分の上に別のシステムを上書きして隠れていました」

「だから、お前の存在が明るみに出なかったのか……一番気掛かりだった点が判明して、ホッとしたよ」


 闇の書の管制システムを司っていたリインフォースが、シュテル達の存在を知らなかった。この事実がユーリが真実を告げているのと同時に、発覚する可能性が薄い事を示唆していた。

魔導書の根幹である管制システムまで騙せるのだ、誰がどう見てもユーリ達の存在が発覚する筈がない。少なくとも、時空管理局や聖王教会にバレる事は絶対にあり得ない。

言い換えるとそれほどまでに危険なシステムだという事になるのだが、その点についてはユーリ・エーベルヴァインの存在そのものが安全を証明していた。


自分が危険であれば、父親である俺にこうして抱き着いてくれないからな。


「無尽蔵に魔力を生み出せるからこそ、周囲に与える影響が大きいのか。お前達のこれまでの言い分から推測すると、無限なる魔力を制御出来なかったようだな」

「永遠結晶エグザミアの力が完全に開放されてしまうと、見境なく破壊活動を始めてしまうんです。暴走に近いですが、破壊衝動が大きいので手に負えません」

「お前の力で破壊活動されると取り返しが付かなくなるな……お前のそうした力まで、法術が制御しているのか」


「はい、これこそお父さんの愛の力です!」

「……言ってて恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしいですから、指摘しないで下さい!?」


 ユーリの性格からして絶対勢い任せの発言だと思った、顔を真っ赤にして首をブンブン振っている。恥ずかしがり屋なのだが、たまに流れに任せていってしまう事がある。

夜天の魔導書に続いて無限再生機構、そして無限連環機構まで制圧する法術の力。自分の能力が強大なのかと言えば、恐らくそうではないと思っている。

法術とは想いの力だと、プレシアは言っていた。想いが強ければ強いほどに願いにまで届き、法術による奇跡が発動する。積み重ねられた想いが、奇跡を強くする。


夜天の魔導書が闇の書になって、多くの時代を経ている。ユーリ達の想いは百を超える年月を経て、人の想像を超えて積み重ねられたのだろう。


「ユーリについては、よく分かった。それで、お前達はどういった存在なんだ」

「記憶は定かではありませんが、ユーリと私達の四人は元々一つだったのです」

「記憶の喪失なのか……?」

「父上と初めてお会いした時にも語りましたが、そもそも私達の存在は定かではありませんでした。存在意義も知らず、混沌に身を委ねていたのです」

「――まさか、ジュエルシード事件を発端とした幾つかの頁の改変によって」

「はい、若干ではありますが私が理性を取り戻して、父上に懇願いたしました」


「恐ろしい話だ。もし父がおらなければ、我々は結晶の影響を受けて破壊や殺戮を求めていたかもしれぬ」

「寝ぼけ眼で、フラフラ暴れていたかもしれないよね。パパのおかげで、こーんなに可愛くて強いボクになれたんだ!」


 いわゆる、闇の書の残滓という感じか。実態さえなく、力の破片が闇の書の中で漂っていた。そうした破片が改変によって理性を得て、俺に交渉を持ち掛けてきたのだ。

そうした前提で当時を振り返ってみると、かなりギリギリの状況だったのだろう。俺が闇の書に介入しなければ、シュテル達の存在はあり得なかった。

単なる魔力の原材料、マテリアルに過ぎなかったシュテル達。力の断片が意思を持って、魔法少女となった。


「お前たちの事情は理解した。そこまで偶発的に誕生したのであれば、実態の全てを知らない限りは表沙汰になる事もないだろう。
聖王のゆりかごと蒼天の書の起動、それに合わせて誕生したと理由付ければ、誰にも疑われない」

「はれて、父上の女になれるというものです」

「娘と言えよ、せめて」

「えへへ、パパにとってボクが一番可愛い娘だよね」

「お前のその根拠のない自信はほんと、俺譲りだよな」

「不甲斐ない連中で申し訳ない。安心して我に全て任せてくれればよいぞ、父よ」

「もう隠居したみたいに言われてる!?」

「お父さんとひなたぼっこしたいです、私!」

「この子はこの子で枯れきっていて不安になる」


 闇の書に関する情報は全てクロノ達が精査し、守護騎士達は現世に溶け込み、シュテル達は存在を変えて、蒼天の書は潔白を証明する。この問題についてはひとまず、これでいいだろう。

後は時空管理局の捜査と聖王教会の分析次第、経過を見守っていけばいい。アリサの戦略により、彼らが活動すればするほどに、こちらの潔白が証明されるというものだ。

家族の問題については博士に釘を差して量産計画は止めたので、こちらも時間を賭けて友好を深めればいい。時間がかかるのが難点だが、逆に言えば時間をかければ解決する。


となると――



「後は、俺の問題か……」



 明日は、診察日だった。












<続く>








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