とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第七十三話







「ナカジマ家及びアルピーノ家合同主催の家族会議を始めます」

「何故宮本家と言わぬのだ、父よ。父こそ、我が一族の頂点ではないか」

「自分の一族が出来上がりつつあるこの現実を、受け入れたくない」


 いい加減手に負えなくなってきたので、急遽家族一同全員集めて家族会議を開催する事にした。半年前まで孤独な旅路だったのに、どうしてこうなったのか。

食事も兼ねて家族仲良く友好を深めても良かったのだが、人数の多さにファミリーレストランでは席不足となってしまった。この時点でも、人数の多さに頭痛がしてしまう。

高町なのはは妹分だが、収拾が付かなくなるので申し訳ないが欠席。家族同然のメイドであるアリサは、説明がひたすらややこしいので泣く泣く欠席。経緯を説明するのは大変難しい存在である。


本人達は笑って遠慮してくれたが、今にして思えばあの笑顔は俺の苦労を明らかに笑っていた。おのれ、生意気なガキンチョめ。


「まさかこれほど節操のない子だとは思わなかったわ、エライ」

「気のせいか、最後褒められた気がしたんだが」

「少子化問題に嘆くこの国で早々に結婚して、子供まで授かったもの。こんなに可愛い子供達に恵まれて、お母さん幸せだわ」


「立場的にアンタは婆さんになるんだぞ、一応」

「祖母と言ってほしいわね、おほほ」


 無敵か、この女は! 女は年齢や外見をひたすら気にする生き物だと思っていたのに、クイントさんはゴキゲンに笑っていた。なんて図太い女だ、クソッタレ。

俺から話すつもりだったのに、クロノのバカ野郎が容赦なくチクったせいで大変な騒ぎになってしまった。当然だ、我が息子の子供を造ったというのだから。

早速聖地に乗り込んで、ジェイル・スカリエッティ博士を尋問。内容は聞いていないが、打撃系捜査官の尋問となれば想像くらいはつく。顔をさぞ腫らしているだろう、ザマアミロ。


クローン技術の違法性を問い質してみたのだが、意外にも捜査官本人が難色を示した。


『聖王教会が自治権を有している聖地内である事を差し引いても、クローン技術の違法性を問うのは難しいわね。いえ、厄介というべきかしら』

『プレシア・テスタロッサの研究は違法なのに、どうしてクローン技術は違法じゃないんだよ』

『合法とまでは言わないけれど、クローン技術による子供の誕生は出産の手段として選択肢にはあるの。勿論、幾つもの厳しい査定があるけれど』

『でも実際プレシアは――あっ、もしかして魔導師の製造か』

『そういう事よ。表現の仕方は悪いけど、兵士の製造は原則的に禁止されている。私達が今直面している戦闘機人や違法魔導師研究が該当するわね。
難しいのよ、この問題は。ミッドチルダ現地でも、大きな社会問題となっている。法律の見直しも進められているけれど――』

『時空管理局のトップである最高評議会が黒幕とあっては、世論が賛同に傾くのは当然か』


 子供が出来ない家庭がクローン技術に頼るケースは、枚挙にいとまがないらしい。特に上流階級や王族ともなれば、世継ぎの問題は深刻とも言える。聖王家だけの問題ではないのだ。

社会に望まれた技術、とまでは言わないにせよ、法律での検挙は難しいようだ。ディードやオットーは明らかな戦闘機人なのだが、聖王教会の要請だったので時空管理局が踏み込めない。

たとえ今回の問題が発覚して大義名分があったとしても、時空管理局そのものが問題視しないだろう。クローン技術の反対は、戦闘機人製造を推奨する最高評議会の首を絞めるだけだ。


ジェイル・スカリエッティが彼らの元から去った以上既に野望が達成される事はないのだが、彼らは決して諦めないだろう。いずれにしても、公に問題となる事はない。


「クイントの話は概ねもっともだけれど、社会的問題はなくとも社会的な立場は確実に必要となるわ。早く親権を勝ち取って、家族円満となりましょう」

「そう言ってさり気なく、親権同意書を出さないの。この子達には優しいお姉さん達が必要なんだから」

「クイント、貴女は何人家族を抱えているのよ。スバルちゃん達の親権手続きも相当苦労したのでしょう、自分の娘達を育てる事に集中しなさい」

「メガーヌも、ルーテシアちゃんとの家族団欒に励んでいるのでしょう。親友として、良い家庭を築いてほしいわ」


「……まずお前らの間で、正当な合意を得て貰いたいんだが」


 自分の子供も多いが、親もまた多いという贅沢かつ難儀な問題。当人たちが毎度揉めるので、息子候補である俺は常に板挟みになっている。

昼ドラならば刃傷沙汰にでもなりそうな問題なのだが、親が長年の親友同士かつ子供達が大はしゃぎという状況なので、クイントとメガーヌが睨み合っていても家族の空気は明るい。

俺が大岡裁きよろしく決断すればいいのだが、どっちも気が進まないという心境なので手を焼いている。時空管理局捜査官という社会的立場が互角な人達なので、余計に悩ましい。


ということで家族全員が揃って、こうして家族会議の場を設けた次第である。


「せっかくこうして、家族が揃って集まったんだ。自己紹介していこうか」

「そうだな、見知らぬ連中が顔並べていてはガキンチョ達も緊張するだろうしよ。よろしく頼むぜ」

「……こういう場合、年長者が取り仕切るもんじゃないのか?」

「若いもんに任せるのも、大人の器量よ。ガキンチョ達も懐いているようだしな。お前さん」


 ナカジマの親父さんは部隊長経験のあるダンディズムな大人で頼れるのだが、本人のこうした気風の良さが若干困りものである。何かと任せてくるので、難儀させられる。

責任放棄であれば殴ってしまえば済むのだが、困った時は嫌な顔一つせず相談に乗ってくれるのでついつい頼ってしまう。こうして家族一同集まれたのも、この人の呼びかけによるものだ。

落ち着いて話せる場が必要だと、入国管理局の会議室を準備してくれた。互いの家に呼びつけてしまうと親権問題で鞘当てが生じてしまうという、心憎い配慮までしてくれている。


本当の父親のように頼れる人なので、俺としてもついついこうしてのせられてしまう。


「分かった。親権も含めて家族一同世話になるのだから、まずうちの家族を紹介しよう」

「父は名乗らなくてよいのか、偉大な家長であるぞ」

「ここに居る面子、全員俺を知っているじゃないか。欠席してもいいくらいだぞ」

「駄目ですよ、兄さん。兄さんが居て下さるからこそ、家族の融和が成り立つんですから。兄さんとは私、もっと仲良くなりたいです」


 ディアーチェに問われて述べた俺の何気ない本音は、ギンガの熱烈なファンメッセージで退路を断たれた。妹の分際で何故兄に頬を染めているのか、深刻な娘さんである。

ノーヴェが勝ち気ながらやや緊張した顔をしているが、列席している子供達は落ち着いたものだった。ナハトヴァールなんて、リーゼに持たされた冷凍みかんをモグモグしている。

同世代のヴィヴィオは俺の家族に出会えて嬉しいのか、全く物怖じせずにキラキラした目で家族全員を見つめていた。ディードとオットーはすました顔、大した器量である。


家長が静観であるのならば、と後継者を名乗る長女は堂々と立ち上がった。


「偉大なる父の娘であり、聖王の後継者であるロード・ディアーチェである。我こそが崇高なる宮本家の長女、お見知りおき願おうか」

「一番上のお姉さんですか、カッコイイです!」

「黙れ、下郎が!」

「ええっ、いきなり怒られた!?」


「ヴィヴィオよ、貴様の噂は聞いている。大層な知略の持ち主だそうだが、自惚れるなよ。たとえ父の遺伝子を持って入ろうと、宿命は我にこそ受け継がれている!」

「はあ……そうですか」

「なんだ、その気のない顔は!? 我の好敵手であれば、我を追い落とす勢いで挑んでこい!」

「ふええええ、りふじん、りふじんですよー!?」


 ディアーチェにグイグイ振り回されて目を回しているヴィヴィオ。虐められているように見えるが、実際は弄られているのだろう。ヴィヴィオは困りつつも、嬉しそうだった。

ヴィヴィオの出身については、ディアーチェには正直に話した。後継者を名乗るディアーチェに、正当な世継ぎであるヴィヴィオの存在は決して心穏やかには済まされない。

歴史上何処にでもありえる後継者問題、聡明な彼女達が歴史の愚を犯すとは思えない。とはいえ人の心とは分からぬもの、本当の家族であっても憎しみ合う事もありえる。


けれど、俺は決して隠し立てせず本人に伝えた。歴史上の偉人達よりも、この子の方が優れている。自慢の子であったからこそ、打ち明けられた。


「まあよい、貴様の複雑な出生については理解しておる。我を本当の姉だと思って、何でも頼ってくるがよい」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「馴れ馴れしいぞ、貴様は好敵手でもあるのだ。高い意識を持って接してこい!」

「うわーん、パパの娘さんだこの人ー!?」


 どういう意味だ、コラ。扱いづらいとでも言うのか、俺達なりに可愛がっているというのに。体育会系ですね、とシュテルがこっそり辛口コメントを出している。

ディアーチェとしても複雑な心境なのだろうが、きちんと口に出しているあの子の気性は立派であった。何でも溜め込まず、どのような難事でも堂々と挑んでいくだろう。


続いて、次女がすました顔で立ち上がった。


「シュテル・ザ・デストラクターです。父の右腕として、あらゆる采配に力を尽くしております」

「お父様のお力になるのは、この私です。私がお父様の剣となった以上、貴女はもう不要ですよ」

「立派な心構えです、頑張ってください。結婚式の仲人は、よろしくお願いします」

「……お父様には、私達がいます。花嫁など、必要ありません」

「安心して下さい、私が貴方を実の娘のように可愛がりますよ」


「お父様、この人は何なのですか!?」

「理性的に攻めようとしても無駄だからやめておけ。頭の切れ味は天下一品だから」


 ディードとしては実の娘として確かなポジションを確保していたのだが、次女兼右腕として確立しているシュテルは無敵の存在だった。色々言われても、受け流している。

実を言うとギンガとも同じようなやり取りをして当初揉めていたのだが、何を言っても良い子良い子と頭を撫でられて根負けしてしまった。シュテルの冷静さは、大地震が来ても崩せない。

法術で存在を確立された時点で、シュテルという存在は完成していたと言える。父を公然と慕い、隙あれば好感度を上げようとするシュテルは妹達からある種の尊敬を集めていた。


冷静な次女と違って、三女は明るく元気に立ち上がった。


「ボクはレヴィ、レヴィ・ザ・スラッシャー。パパのようなヒーローになる勇者なのだ!」

「……カテゴリーが2つあるような気がしたのですが、気のせいでしょうか」

「ダイジョーブ、ボクはパパの子だからなんだって出来る!」

「なるほど、お父さんの子であれば当然ですね。僕も見習います」


 えっ、納得しちゃうのかそこは!? 根拠のない自信に満ち溢れているレヴィの宣言に対して、オットーが控えめかつ尊敬を交えて拍手している。

同じボクっ子同士、波長でも合うのだろうか。オットーはシュテルのような理性的な子だと思っていたのだが、意外とフィクションな熱意を持っているようだ。

なかなかどうして、人間同士の関係とは分からないものである。仲良くなるに越したことはないのだが、父親としては何となく納得できない感じがある。


随分と友好を深めている二人が、重要な一点に対して認識を合わせている。


「やっぱり男の子はヒーローを目指さないと駄目だよ。ボクが心構えから教えてあげる!」

「……そうですね、お父さんのような立派な――」


「何を言っているんだ、レヴィ。オットーは女の子だぞ、お前と同じ可愛い盛りの子だ」

「ふえっ、女の子だったの!?」


「――お父様、オットーが女の子だとご存知だったのですか」

「自分の子供の性別くらい、親だったら誰でも分かるだろう。中性的だけど、可愛い女の子じゃないか」

「お父さん、ありがとう」

「何で抱き着くんだ、お前!?」


 何だか感激しているオットーに、目を白黒させてしまう。クイント達大人勢も驚いた顔でオットーを見ている。お前ら、外見で判断し過ぎだろう。

他人の子供であれば俺も惑わされていたかもしれないが、自分の子供だけあってオットーが女の子だというのはすぐに分かった。男のように振る舞っている理由の方が分からない。

多分よく勘違いされてしまうので、自己主張しないオットーは肯定も否定もしなかったのだろう。こうして喜んでいる辺り、オットーも女の子だという事か。


その点、自己主張がハッキリしているこの子は人気者だった。


「ナハトヴァール! おとーさんが好きー!」

「あたしもリョウ兄が好きだよ、ナハトちゃん!」

「スバルも好きー!」

「えへへ、好かれちゃった」

「むっ……ア、アタシだってアニキのことは好きだぞ!」

「おー、カッコイイー!」

「そうだろう、そうだろう……フッフッフ」


「気が強いのか、弱いのか、よく分からん奴らだな」

「末っ子達だからお姉さんぶりたいんだと思うよ、兄さん」


 スバルとノーヴェが、にこにこ顔のナハトヴァールを囲んで盛り上がっている。子供達のテンションについていけない俺は、ディエチと二人で苦笑いしていた。

ディエチも次女としての立ち位置なのでお姉さんぶりたい面もあるのだろうが、生来の面倒見の良さ故か距離感は適切に保っていた。間違いなく、人生で損をするタイプだな。

その辺は兄としてサポートくらいしてやるべきだろう。ディエチに自分の子供や姉妹達の話をして、家族の良さを大いに語ってあげた。


随分と賑やかな家族になったのだが、この人間関係の問題点に小悪魔な女の子が鋭く切り込んだ。


「ところでパパ&ブラザーとしては、この中で誰が一番好きなの?」

「藪から棒に何を聞くんだい、ルーテシアさんよ」

「そのまんまの意味だけど。とーぜん、サイキョーにかわいい私だよね」


 ――この場にいた全員が、黙り込んだ。揃いも揃って固唾を呑んで、俺に注目している。何なんだ、この空気は!?

家族に対して序列をつけるのは大黒柱の特権であって、親権問題に苦しんでいる俺のような微妙な立場の人間に聞くべきではない。とんだ爆弾を投下しやがった!

しかし甘いな、ルーテシア。過去の俺ならいざ知らず、今の俺はあらゆる人間関係の問題に取り込んだエキスパート。戦場を渡り歩いた剣士である。


この程度の危機に狼狽えているようでは、今までの困難を乗り越えられなかった――きちんと答えてやろうではないか。



無論、誤魔化すつもりはない。誰これ構わずいい顔をするような男は、日本男児ではない。



「ユーリが好きだぞ」

「ふえええええええええええええええっ!?」


「大変、ユーリちゃんがヤカンのように沸騰して気絶しちゃったわ!?」

「大人しい子には刺激が強すぎるわよ!」


「さすが長男だな、おい。男らしく答えやがった」

「ふふふ、この展開は読めていた」


 大人しく家族団欒を見守っていた女の子に爆弾を投下すると、次元世界最強の防御力を誇る魔導師は直撃を食らって沈黙した。ふふふ、勝った……!

ユーリが一番好きだと告げられて、他の女の子達は悔しそうにしながらも納得している。分かる、よく分かる。ユーリという子の可憐さは、同性であっても納得させられる魅力を誇っている。


久しぶりの勝利に、俺もいたくご満悦だった。


「ところで、息子よ。ものは相談なんだが」

「何だよ、親父。面倒事は勘弁してくれよ」



「家族旅行としゃれこまないか?」

「は……?」



 ――この何気ない提案が、あの波乱を招いたと言っていい。












<続く>








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