とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第七十話







 ひとまず、吟味してみる。仮にも自分の娘を名乗っていた少女を疑いたくはない。あの野郎が本当に俺から分捕った遺伝子情報を使っていれば、あの子達は正真正銘俺の娘となるからだ。

俺の遺伝子より誕生したのは自分達だけだと、確かに言っていた。あの言葉は嘘だったのか、それともあの子達が騙されていたのか。いや、後者はありえないか。すぐばれてしまう。

となると嘘をついていた事になるのだが、あれほど胸を張っていた少女達の美しい誇りが嘘だとは思えない。では、こいつが嘘をついているとでも言うのか。


ディード達の言葉を吟味してみて、ようやく気づいた。


『オットーと言ったか。お前もこのディードと同じく、俺の子供なのか』

『うん、僕とディードは双子。おとうさんの遺伝子から産まれた子供だよ』


『姉妹達の中で、私とオットーの二人だけがおとうさまの子供なんです』


 "姉妹達の中"、ディードが確かにそう語っていた。なるほど、得心がいった。というか、俺の聞き方が悪かった。子供達が何人居るべきか、きちんと問い質すべきだった。

ヴィヴィオ・ミヤモト・ゼーゲブレヒト、あらゆる遺伝子の宝石に輝いた少女が高らかに名乗った。聖王家の名代と俺の遺伝子、その全てが刻まれた自分の真名を。

あのバカ博士の単独犯であれば容赦なく地獄へ叩き落としてやったが、聖王家の冠を抱いているのであれば話が異なってくる。単純な好奇心のみではないのだと、嫌というほど宣言されていた。


やばい、俺の親権問題からとてつもない方向へ問題が発展してしまっている。無駄に壮大となってしまった俺の家族問題に、頭を抱えたくなった。


「残念だが、俺はお前の父親ではない」

「わたしがパパの顔を見間違えることはないよ!」


「この顔は昨日、整形した顔だ」

「きょーがくのじじつ!?」


 豪快に仰け反る娘っ子、なかなか良いリアクションである。どう見てもよちよち歩きから卒業したばかりの三歳児なのだが、知性は恐ろしく発達している。

豪奢な金の髪に、左右の色が異なるオッドアイ。華奢な体格だが、礼節に則って整えられている。仕草や言葉の一つ一つに、気品が感じられた。お姫様のように可憐な微笑みを浮かべている。

どこからどう見ても俺の遺伝子なんぞ見受けられないのだが、どこをどう弄ったら俺からこんなお嬢様が誕生するのだろうか。夜の一族の女共の血が、自己主張しすぎだった。


自分が知らぬ間に、次から次へと子供が増えられても嬉しさより困惑してしまう。


「そもそも俺が父親だと言ったのは、どこのどいつだ」

「はかせだよ、パパ」

「実はその博士は、悪の科学者なのだ」

「じゃあわたしは、かいぞーにんげんなの!?」


「最終回になれば余裕で死ぬ」

「軽々しく扱われて死んじゃう!? たすけて、パパ!」


 ――こいつ、もしかして本当に俺の娘なのか。波長が合いすぎて、怖くなってきやがった。ここ半年あまり色々な人間とあってきたが、初対面でここまで波長の合う人間は居なかった。

たかが三歳児の分際で、地球に関するいろんな文明や文化まで知っていやがる。子供とは思えない豊富な知識量、あのクソ博士が面白がって次から次へと叩き込んだに違いない。

仲良くしてやるつもりなんぞ毛頭ないのだが、話していて楽しい人間は貴重である。我ながら剣馬鹿な自分は、他人と合わせるのが苦手だからな。


自分の家族であるシュテル達は、自分に合わせてくれているから会話が楽しめる。あの子達なりに、家族になろうと努力してくれているのだ。だから、愛せている面もある。


「お前が仮に俺の子供達すれば、ディード達はお前の姉になるんだよな。主人だと言っていたぞ、あいつら」

「そうなの。わたしも困っているんだけど、自分達はわたしに仕える護衛役と聞かないの。正統後継者だと言って」

「……なるほど、本質はセッテ達と同質なのか」


 俺の子供であると誇りながらも、剣を取るディードと剣士の思想を持つオットーは戦士なのだ。戦士は決して王にはなれない、ある種の義務感と使命感を持っている。

博士が明確に差別したんであればぶん殴るのだが、本人達が意識を持って生きているのであれば尊重するべきかもしれない。自由奔放は俺の原点、我が子にだって成り立つ。

シュテル達にディード達、そしてヴィヴィオという子供。数多くの子宝に恵まれてしまったが、育児ノイローゼとは縁の遠いよく出来た子供達なのは救いと言うべきか。


どんな子供であろうと我が子なら可愛いと言い切れるほど、俺は達観した大人にはなっていない。まだまだ自分自身で、精一杯だからだ。


「それでどうして人払いしてまで、俺に会おうと思ったんだ」

「かんどーの再会だよ、パパ!」

「認知しません」

「ガーン、わたしはのぞまれていないこどもだった……!?」

「うん」

「うんと言った、うんと言っちゃった!?」

「養育費を容赦なく滞納してくれるわ」


「なかなかえげつないね、パパ……そんなところも、すき」

「逞しいな、お前!?」


 こいつ絶対俺の子供だわ、間違いない。夜の一族のお姫様達の才能を思う存分受け継いだサラブレットなのに、中身は雑草を食って生きている雑種である。見事な野生児だった。

速攻縁を切ってやろうと思ったのに、気づけば親子でコミュニケーションをしてしまっている気がする。自分のペースに巻き込む手腕は、なかなか恐ろしいものがある。

容姿は全く似ていないのに中身がソックリというのは、女の子としていかがなものか。どれほど美少女になっても、残念美人だと揶揄されてしまわないのか不安になる。


こいつの将来なんてどうでもいいけれどね、その筈だ。


「パパがたのしーひとでよかった」

「俺はつまらんぞ」

「パパはつまらないことはすぐにやめるよね」

「うむ、どうやって捨てようか検討中だ」

「捨て方まで考えてるの!?」

「せめてお前の希望を聞いてやろう」


「お金もちの家にすててください」

「言いやがるわ、この野郎!?」


 抱っこしてダイナミックに投げ飛ばすと、キャーキャー言いながら空中で一回転して着地。くそっ、やはりクリスチーナの運動能力を受け継いでいやがる。ふざけた身体能力だった。

三歳児というのはあくまで比喩なのだが、それにしたって幼稚園児以下のガキンチョは空中一回転なんぞ普通はできない。どういう身体をしてやがるんだ、こいつ。

普通に投げ飛ばしただけなのだが、実に嬉しそうにヴィヴィオは飛び跳ねている。遊んでもらったのだと解釈したようだ、脳天気な野郎である。


こんな脳天気な娘が、黒幕だとは思いもしなかった。


「俺をコソコソつけていやがった金髪娘もお前だな。ディードにも聞いたが、どうして普通に会いにこなかった」

「認知してくださいと言ったら、オッケー出ました?」

「俺の世界には、姥捨山という観光名所がある」

「容赦なく捨てようとしていますね!?」


 なるほど、会えるタイミングを窺っていたのか。俺の周囲に居る大人達まで絡むと、ひたすら話がややこしくなる。博士一人でも、時空管理局が神経を尖らせているからな。

血筋や才能に恵まれているのだとしても、出生に多大な問題と課題があって大人達に注目される。聖王家の冠を抱くというのは、それほど大きな意味と重要性があるのだ。

だからこそ、こいつにしても俺に認めてもらえるのか不安があったのかもしれない。知性が発達しているからこそ、自分という存在の重さを理解している。


理解してしまっているのだ、この歳で――ガキンチョの分際で。



溜息を、吐いた。



「そんなに俺に会いたかったのか」

「うん、だってパパだもん」

「俺のガキならもっと堂々としていろ、変な遠慮はしなくていい」

「! わたしを娘だと認めてくれるの!?」


「そうはいっていないだろう、自意識過剰だな」

「そこはもう認めていいところだと思うよ!?」


 ワーイと、手を上げて喜んでいる。俺の言葉の意味を理解したのだろう、ハシャイでいた。その辺は本当に子供らしくて、ついつい笑ってしまった。

なにはともあれ、まずは博士のクソ馬鹿を問い質すしかない。身柄を預かっている聖王教会が絡んでいるのはまず間違いないので、実に厄介な問題である。一個人を責めれば済む話ではない。

とにもかくにも、少なくとも俺の子供をこれ以上増やすのはやめてもらわなければならない。量産計画でも立案されればえらいことだ、俺の子供が聖地を遊び場にしてしまう。


俺が危機感に震えているのを尻目に、俺の娘が脳天気に笑っていた。くそっ、子供は気楽でいいよな。


「でも、二人きりであいたかったのはパパのためでもあるんだよ」

「俺のため……? どういう事だよ」

「この本を探していたんでしょう」


 うんしょ、よいしょと、可愛らしい声を上げて、ヴィヴィオは山積みになった蔵書を整理して一冊の本を取り出した。もしかしてこいつ、これだけの本を自分で全部整理したのか。

取り出した本は、どう見ても放置されていたとしか思えない古臭い書物。整理整頓もされていなかったのか、埃で黄ばんでいる。タイトルも、カビ臭い感じで読めない。


ヴィヴィオは手招きをして、俺に耳打ちする。



「『闇の書』に関する本だよ、パパ」



 ――潜水娘によってクロノを追い払った理由がわかって、俺は目を見開いた。大人の事情をよく理解し、俺の問題を正確に把握している。

末恐ろしい我が子は無邪気に笑って、運命の本を俺に託した。












<続く>








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