とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十七話




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 戦いは白熱する。

複雑な操作に技の出し合い、激しい攻防。


「っ―――」

「―――っ」


 周囲に反響するのはキャラの音声のみ。

画面を見つめる目は二人とも真剣で、声の一つも出さない。

月村に最初の余裕は無く、なのはは自分のペースを取り戻している。

頑なだった表情は消えて、戦いそのものを楽しんでいる様子すら見えた。

・・・・・・さっきも思ったが、あの兄妹と言葉に出来ない何かで繋がっているのだと感じさせられる。

戦闘内容は五分五分。

敵キャラの持ち味を熟知し、武器の使い方を理解し、ランダムに選ばれた戦場の特性を判別している。

それでいて自キャラの長所・短所を知り、先を取りに行く。

この二人はそれこそこのゲームを俺の何百倍のプレイ数をこなし、全てを理解しきっている。

戦いの行方を決めるのは、結局互いの腕の違いのみ。

極めて純粋で、明確な結果が訪れる。

言い訳なんて通じない世界。

そんな戦う二人の女達に、観客はただ黙って見惚れるのみだった。

――――月村に大勢のファンが付くのは分かる気がする。

見た目の美しさもあるが、こいつは人を惹きつける不思議な魅力を持っている。

ただゲームに熱中しているだけなのに、沢山の人間が目を奪われるのだ。

対戦相手のなのはも、また同じ。

その辺のガキ共には無い知性と、精神年齢の高さが表情に出ている。

月村忍と高町なのは。

この二人の戦いは、このゲームセンターで後々語り継がれる名勝負となるだろう。

――――そこが気に入らない。


(・・・・・・なんか馬鹿馬鹿しくなってきた)


 周囲が注目しているのは二人。

中間に立って様子を見守っている俺なんぞ、眼中に入ってもいない。

商品扱いされるのも気に入らないが、メインになれないのもむかつく。

高レベルなラウンドを見ていると、俺もついつい見取れてしまいそうになる。

この空気がやばい。

どうもこのままこの場にいると飲まれそうになってしまう。

戦い方は参考になるが、他人に熱中するのは俺には合わない。

それでは群がる馬鹿共と何の変わりも無い。

俺は集中して見守る連中に白けた視線を送る。

と―――


(・・・・・・ん、あれ?あいつは・・・・・・)


 熱い眼差しが並ぶ中、一つだけ浮いている冷めた瞳。

ただ様子を淡々と見守るだけの、観察者の眼差し。

一人の女が其処にいた。

目鼻立ちの整った優美さが漂う女性。

端麗な容貌と麗しいスタイルが目立っており、周囲に完全に浮いている。

女は二人ではなく―――俺を見つめていた。

ゲームセンターで遊ぶようには全然見えず、俺とだって未来永劫話が合わないであろう上品な女。

生憎と―――俺の知り合いだった。


(ま、しばらく離れても大丈夫か・・・・・・)


 俺はこそっと(別にこそこそするつもりも無いが)離れて、女の元へと向かう。

女は特に驚いた様子も無く、俺を前にするなり頭を下げた。


「・・・・・宮本様」

「おっす、ノエル」


 ノエル・綺堂・エーアリヒカイト―――だったかな?

名前が長すぎて自信が無い。

他人に深い関わりなんぞ持たない為、俺は人の名前を覚えるのが苦手だった。

いつもノエルと気軽に呼んでいる。

月村の家のメイドであり、忠実かつ誠実な女性。

月村の送迎、家では料理など雑務を黙々とこなすプロだった。

メイドではなく社会に出たって、立派にやっていける才能はあるだろう。

なのに、メイドという職業に収まっている理由がいまいち分からない。

人間なんて誰だって分からないと言えば確かにそうだが・・・・・・


「毎度月村のお守りか・・・・・・お前も大変だな」

「お気遣い、ありがとうございます。
ですが、忍お嬢様をお守りするのが私の仕事ですから」


 やんわりと自分の仕事への忠実さを示しつつ、他人への配慮に感謝する心を忘れない。

・・・・・・全部、俺には無い感覚だ。

月村は本当に、いいメイドに巡り会ったと思う。


「あいつなら、俺の連れと今ゲームで盛り上がってるぞ。ほれ、あそこ」

「承知しております」


 淡々とそう言って、ゲームに集中する月村を見つめる。

気のせいか、普段の無表情さに温かみがアクセントされたように思える。

二人の戦いはそろそろ架橋に入ったようだ。

延長しても第三ラウンドで片はつく。

あっちを気にしても仕方が無いので、俺は興味を無くして視線を逸らした。


「・・・・・月村ってこの辺じゃ有名なんだな。今日初めて知ったんだが」

「お嬢様はインドアゲームがお得意ですから―――
家でもよくプレイされております」

「なーるほど、それで・・・・・・」


 なのはと同じくゲーム好きなのか、あいつも。

ほんっと、最初に出会ったイメージから離れていくな・・・・・・あの女は。

ここまで第一印象を覆されたのは今まで無いぞ。

大人びた外見に、もの憂げな雰囲気を持つ女。

―――と最初思った俺が馬鹿みたいに思えてきた。


「お前もよく相手とかさせられるんじゃねえのか?」

「はい。忍お嬢様にお誘いを受けまして、よく・・・・・・」


 なのはに誘われた俺と同じか。

何かちょっとだけ親近感が芽生えてきたぞ、こいつに。

俺とは違って嫌々ではないのは確実だろうけど。


「・・・・・・お前、今暇?」


 ふと反射的に思いついた事を、そのまま尋ねる俺。

ノエルは少し間を置いて答えた。


「・・・・・私はお嬢様と共におりますので」

「つまり、今は、暇なんだな?」


 遠回しに月村の面倒見で時間は無いと言っているのは分かるが、俺はひかないぜ。

あっはっは、困ってる困ってる。

月村への忠義と俺への配慮の間で悩んでいるようだな。

他人が見れば何の表情も浮かんでいないように見えるが、俺はこいつや月村と何日も一緒に暮らした関係。

ちょっとした表情の変化や仕草で分かる。

これ以上苛めても仕方ないので、俺は本心を打ち明けた。


「ノエルさ・・・・・・俺にちょっと付き合ってくれないか?」

「宮本様に?」


 今度こそ、ノエルは少しではあるが意外そうな顔をした。
















 ・・・・・・ノエルは仕事熱心なのが今日でよく分かった。

メイドとしての誇りとでも言うべきだろうか?

何度言っても聞き入れてくれない。


「だーかーら、ジュース一本賭けて俺と勝負しようって言ってるだけだって」

「お飲み物でしたら、私が買って参ります」

「それじゃあ意味がねえって、何度言わせるんだお前は!」

「宮本様は忍お嬢様の大切な御人です。そのような事はさせられません」


 ・・・・・・この繰り返しである。

俺はただ、ノエルもゲームが出来ると聞いて対戦希望しているだけなのに。

別に俺はノエルにパシリをさせたいんじゃない。

勝負事にはやはり賭けが無いと燃えないからだ。

リスクを背負うからこそ、やりがいが出る。

・・・・・・こいつはどうもその辺が理解できていないようだ。

くそー、何か腹が立ってきたぞ。

このくそ真面目なメイドを、何が何でも陥落させてやりたくなってきた。

よーし・・・・・・


「分かった。お前の言う事ももっともだ」

「御理解頂けて嬉しく思います。すぐに買って参りますので」

「ジュースはもういいから!
それより、さっきも言ったけど一ゲームだけ付き合ってくれないか?
一ゲームだけ!
ゲーセン内だったら、月村に万が一何が起きても分かるだろ?」


 もっとも、あんな目立った状況で月村に手を出す人間なんていないと思うが。

俺の必死な願いに、ノエルは考えた後に承諾してくれた。


「・・・・・・分かりました。御付き合い致します、宮本様」

「オッケー。じゃあ勝負の際の決まり事として・・・・・・
勝ち負けに発生する条件を決めよう。
ジュースを賭けた勝負はノエルに不評なので止めにして―――」


 俺は得意げに言った。


「勝った方の願い事を一つ聞く」


 ・・・・・・懲りない奴だな、とか言った奴ぶっ殺す。




























































<第十八話へ続く>

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