とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第五十五話






「――つまり難民となった多くの妖怪達の為に、未開の地を開拓する許可が欲しいと?」

「次元世界には、今でも手付かずの土地が残っているだろう。住めそうな土地を紹介してくれ」

「それを執務官である僕に堂々と求めるとはいい度胸だな、宮本!」


 若手キャリアのエリート執務官様に懇願してみたが、怒られてしまった。俺にしては珍しく事前に手続きしたのに、怒られる結果は同じだというのは納得がいかない。

夜の一族の姫君達に国内封鎖する勢いで引き止められてしまったが、必死で帰国を果たした俺は早速入国管理局を通じてクロノ達に面会を求めた。

彼らはここ管理外世界へ左遷された身分だが、だからといって地球に引き篭もっている訳ではない。職権自体は与えられているので、通常業務は行えている。


次元航行艦アースラで巡回業務を行っていた彼らにアポイントを取り、此度の戦争の経過報告を行ったのだが――


「何でだよ。どうせ管理外世界として放置されている惑星とか世界とか、腐るほどあるだろう。妖怪の住処にするくらい、かまわないじゃないか」

「君が降伏させた妖怪達は、反人類を語っていた勢力だと報告にあるぞ?」

「うむ」

「平然と頷かないでくれ!? 誤解を恐れずに敢えて言わせてもらうが、テロリスト予備軍を“匿う”真似はさせられない」


 テロリストという表現は過激ではあるが、そもそも全人類抹殺に賛同していた魑魅魍魎である。時空管理局執務官に言われてしまえば、全くもって反論できない。

人類抹殺の最先鋒だった天狗一族は、戦争までふっかけて来たのだ。表沙汰にならなかったのは天狗一族ではなく、俺が率いる白旗が配慮したからだ。

万が一主要各国に存在がバレていれば、全面戦争となっていただろう。ユーリ達や妹さんがいたから穏便に制圧出来たが、隕石を落とす力すら持った連中である。相当、やばかった。


本気で世界に反旗を翻していれば全人類抹殺とまではいかずとも、主要各国に隕石の雨が落ちていたかもしれない。


「妖怪達の原理は弱肉強食、強い者に従う原則が徹底されている。俺達が実力で鎮圧したから、奴らは必ず従うさ」

「更生させたと言いたいのだろうが、口では何とでも言える。敗北したから、世界を乱した罪が贖える訳ではない」

「ちっ、分かったよ。無理を言ってすまなかった、じゃあな」


「――待て、聖王教会に掛け合うつもりだろう」

「なぜ、俺の行動を先読みできる!?」

「君はすぐ安易な方向に流されるからだ。君がきちんと納得するまで、僕は帰さないぞ」

「拘束する権利はないだろう、離せ!?」

「一民間人であれば丁重にお返しするが、今や君はベルカ自治領の王であり、聖王教会が信奉する神の象徴だ。
君の一言で世界が変わる、恐るべき事態になっている事をいい加減当人が自覚してくれ」


 あろう事かアースラの職員まで多数呼ばれて、拘束されてしまった。多くの恩を受けた連中でなければ、この時点で斬り飛ばしている。クロノには全く勝てないけれど。

頑張って掛け合ってみたが取り合ってもらえず、双方の身内が出張る羽目になってしまった。うちから時空管理局交渉役であるアリサと身内のシュテルが、平謝りで入艦。

口喧嘩に発展しつつあったので、クロノの親であるリンディがお馴染みのゼスト隊長達を連れて、笑顔で取り成してくれた。結局、会議メンバー勢揃いである。


気を使ってリンディがお茶を入れてくれたので、周囲が遠慮する中で俺はありがたく頂く事にした。


「いつもリョウスケ君が美味しそうに飲んでくれて、私としても嬉しいわ。お茶の感覚が合う人が、なかなかいなくて」

「グルメな連中というのは、味に妥協しませんからね。お茶は喉で味わうものだというのに」


「……何を言っているのか、よく分からないわ」

「……安心してくれ、実の息子である僕にも分かっていない」


 リンディ・ハラオウン館長が入れるお茶は独特の甘さであり、度が過ぎた糖分でお茶が変色している。皆がその味が合わず、内心嫌がって拒否するのだろう。日本茶を分かっていない連中である。

お茶の味なんてそもそもの話、美味さなんぞ求めてはいけない。美味しい飲み物が飲みたいのであれば、それこそ世の中に安価で山のように売られている。お茶に拘る必要はない。

手をかけてまでお茶を煎れてくれるのは、客を歓迎する気持ちである。人間関係に常日頃悩む俺にとって、歓迎の気持ちとはこれ以上ない報酬なのだ。泥水飲んで生きてきた浮浪者には、ご馳走だった。

味なんぞで他人の好意を否定するのは、人間関係の厳しさを知らない世間知らずである。


――つまり、不味いと言っているんだけどね。


「リーゼアリアはどうしたんだ、こうした交渉の場には必ず参席していたからこそわざわざ出向して来ていたのに」

「あいつなら、うちの子を抱っこして公園へ遊びに行ったぞ」

「……何しに来たんだ、あの人は」


 俺が聞きたい。グレアムの爺さんからお目付け役として来た筈なんだが、全く俺の監視をせずにナハトと遊んでばかりいる。クビになりそうだが、なったらなったで住み着きそうで怖い。

俺の立場としては監視役が居なくてのんびりやらせてもらっているが、緩すぎて逆に警戒してしまう不思議な空間が我が家に出来上がっている。

妹さんが護衛にいる限り常に動向は把握できているのだが、本当にナハトと遊んでいるだけなのでアリサまで呆れている始末である。


ベビーシッタ―として引き抜きをかければ応じてくれそうなので、ちょっと誘惑にかられている。クロノは頭を抱えているけれど。


「クロノから話を聞いたわ。まずはお疲れ様、何事もなく戦争が無事終結して安心したわ」

「管理外世界における魔法の使用、その目的が戦争とあればどうしても目を尖らせてしまうからな。平和裏に事を収めるためとはいえ、私も案じていた」

「シュテルちゃん達の力は、ずば抜けているものね。極めて優秀な子達だから、うちとしては是非入隊して活躍してもらいたいのだけれど」

「正当に評価して頂けて光栄ではありますが、正式に父の娘となった以上はまず出自のハンデを乗り越えるべく力を振るうつもりです」


 保護責任はあくまで俺にあるのだが、聖王の聖遺物より誕生したという特殊な身元を与えられたシュテル達は、自分達の出生を正すべく努力していた。

強大な力を持っているからこそ、安全かつ平穏に生きて身の証を立てる。人として健やかに生きて、人々に認められるべく力を尽くす誓いを立てていた。

本音はその力を振るってもらいたいが、建前は普通の少女として生きることを望まなければならない。本音ではなく、時空管理局の建前をつかれたクイント達としては黙るしかない。


シュテル本人はその理屈を分かっているので、平然とした顔で理想論を口にする――本人は戦争時、平気な顔でブレイカーを撃って薙ぎ払っていた。


「戦争終結は大いに結構だけれど、その結果が国盗りであるのならば問題ね。勢力図に乗らないのであれば、尚更に」

「国土や領地を争った戦いではなかったけれど、一大勢力同士のぶつかり合いではありましたからね。
俺としては大いに不本意なのですが、妖怪達の暴走を防ぐためにも取り込むしかありませんでした」

「だからこそ、難民となった彼らの受け入れ先を求めているのね。安易に受け入れ先を探すのではなく新しく開拓しようとする挑戦心は、我が子として応援したいわ」

「勝手に貴方の子にしないでもらえるかしら、メガーヌ。うちの子達の頼れるお兄ちゃんなのよ、リョウスケは」


 すっかり会議のご意見役となったレティ提督と真面目に話し合っているのに、うちの親馬鹿達は実に不毛な論議を加熱させている。無視するとしよう。

優秀な方々だけあって、意向そのものは趣旨を含めてすぐに理解してくれている。手段としては個人的に賛同できても、組織的には問題があるらしい。


いい機会である、前から思っていた疑問点を追求してみよう。


「そもそも管理外とする基準は何なんだ? うちの地球だっておたくらと比べれば文明度は低いかもしれないけれど、億を超える人口が生活出来る環境なんだぞ」

「そういえば君には明確な基準を説明していなかったな。判断基準はいくつか決められているが、その最たる点は『次元を渡る能力』だ」

「世界の壁を突破できるかどうかにある、と?」

「あんたはどうも差別による蔑称だと受け止めているのかもしれないけれど、
そもそも次元を渡る能力を持たない世界を管理外世界と呼んでいるのは、それらの世界は不可侵とする事が管理局法で定められているからなのよ」


 会議に参席するエイミィにジト目で指摘されて、図星だった俺としてはグウの音も出ない。なるほど、きちんとした基準があったのか。

きちんと指摘されれば、大いに納得出来る基準である。次元を渡る能力がなければ、その世界の中で全てが完結する。世界の枠組みを超えて、影響を及ぼす事は決してない。

完結された世界に干渉すること事態が、そもそも火種を巻く結果になりかねないのだ。だからこそ不干渉、管理の外において見守るだけに留めている。


ジュエルシード事件のように万が一干渉する要素があれば、やむを得ず接触して事件を解決する。その為にクロノ達本局が、巡回を行っている。


「話は分かってもらえたか、リョウスケ。難民達の為に開拓を行う君の挑戦心は大いに買うが、その開拓自体が『管理外世界に干渉する』事に抵触するのだ」

「そうなると、管理の外に置かれていた世界が管理の枠に入る事になりかねないの。
私達としても管理の枠組みを広げたい気持ちはあるけれど、世界の枠に触れる事には慎重でいなければならない」

「藪をつついて蛇を出す、貴方の国のことわざでしょう。貴方に危ない真似は、親としてさせられないわ」


 管理世界と管理外世界、その国境線上でのやり取りには慎重であるべきとゼスト達が諭す。大人として、時空管理局員としての正しい判断である。ゴリ押しは出来なかった。

管理外世界としての基準も、正当な判断基準である。せめて次元を渡る能力を個人で有していればいいのだが、あいにくと地球側はそんな能力を持っていない。

地球が管理世界として認められるようになるには、それこそ宇宙を超えて別次元へ渡らなければならないのだ。スケールの大きい話に目眩がする。


そこまで考えて、ふと気付いた。


「つまり俺のやろうとしている事は――」

「やっと気付いてくれたのか、つまりはそういう事だ。万が一他の管理外世界を発見して干渉した場合、君は地球の代表者となってしまう。
そうなると時空管理局としても管理外世界として放置できず、あらゆる干渉を行わざるをえない」

「ましてその世界は聖王教会にとって、聖王様のいる『天の国』と認知されてしまう。ミッドチルダ全体に波紋を広げる賛否の議論が広がってしまうわ」


 世界を乱すのは、何も戦争だけではない。平和な話し合いそのものも、世界に紛糾を広げる結果となりかねない。

議論が広がるのは大いに結構だが、波紋まで広げてしまうのは危ない。下手をすれば紛糾して、口ではなく手まで出てしまうことに繋がってしまうからだ。

特に今は聖王教会が大いなる繁栄を遂げて、時空管理局が最高評議会の手で革新を行っている最中。組織図が激変する中で、更なる波紋を生むのはやばかった。


出だしから躓いて俺が項垂れていると、うちの頭脳陣がそれぞれに疑問と提案の声を上げた。


「父上に変わり、一つ質問させて下さい。逆であれば、どうなのでしょう」

「逆……?」


「『別の管理外世界』が地球に干渉、父上に接触するような事態となればいかがですか。そうなってしまった場合、父上に交渉権は与えられますよね。
時空管理局としても不可抗力であり、父本人は罰せられない」


「ま、まあ、相手側からの接触であればそうだが――待て、何を考えているんだ?」

「いえ、何も。養女となった小娘の他愛ない疑問です、お気にならずに」

「何か企んでいるその顔は、親である宮本そっくりだぞ!?」


 俺も驚いてシュテルを見るが、何も言わずに俺に微笑みかけるばかり――何なんだ、何を企んでいるんだお前は!?

時空管理局が認知していない、別の管理外世界があるとでもいうのか!!? いやでも、相手からの接触というのはどういう事だ。


首を傾げている俺を放置して、今度はアリサが手を上げた。


「ミッドチルダへ行った時に調べたことなのですが、時空管理局は『テロリスト達』を収容する施設を『無人世界』に置いて管理していますよね?」


「? それが一体、どうしたんだ」

「いえ、何も。ご主人様に従う一メイドの疑問です、お気になさらずに」

「どうして君たちは、主人の悪いところに影響を受けるんだ!?」


 なになに、一体何を企んでいるんだお前ら!?

当事者を置いてけぼりの状況で、俺は泣きながらお茶を啜るしかなかった――













<続く>








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