とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第五十三話






 妹さんと山神との決闘に決着がついた事で、天狗一族と夜の一族との戦争は終結。人妖融和を掲げた俺の勝利は、歴史の影で囁かれる程度の戦績で幕を閉じた。表沙汰に出来ないので当然だが。

自然の形態を歪ませる大規模戦争であっても、ユーリ・エーベルヴァインの強力な結界の中では世界に何の影響も与えない。世界の人々は何も知らず、今日という日を平穏に生きている。

天狗の長である山神を討伐、天狗の強者達を龍の精鋭者達が屈服させて、天狗一族は降伏。反人類の最先鋒だった天狗一族の降伏は、人外社会に大きな激震を起こしたと言える。


人妖融和を掲げている以上、俺も他人事では済まされない。非常に面倒だが、戦後処理は確実に行っておく必要があった。孤独が、恋しい。


『我らの理想を妨げる怨敵を、たった一戦でよくぞ討伐した。やはりお前こそ、我が下僕に相応しき戦士である!』

「お褒めに与り恐縮とでも言っておこうか。一応お伺いを立てるが、天狗一族はどうする」

『即刻一族の長の首を刎ね、蝙蝠の餌にしてくれる。愛しき下僕の命を狙った挙句、我が一族の面子を踏み躙ったのだ。一族皆殺しでも飽き足らぬわ』

「蝙蝠に何を食わせるんだ、お前は」


 夜の一族の新しい長カーミラ・マンシュタインは、ご立腹であった。戦功を機嫌良く讃えながらも、謝罪賠償請求を無視した暴挙に堪忍袋の緒が切れている。

無茶苦茶だとは言わなかった。一族だと名乗っているが、人外社会において夜の一族とは国家に等しい勢力である。威厳を保ってこそ国家、舐められたら終わりだ。

謝罪賠償請求を行った使者に危害を加えた上に、夜の一族に宣戦布告を行ったのである。これほどの暴挙を平然と行われて呑気な顔で許していたら、夜の一族全体が侮られる。


人外魔境にとって、討伐とは殺しとイコールではない。殺し合いですら彼らにとっては手段でしかなく、命の価値は問われない。


剣士にとっても同様である。高町なのは達ならば自分の命が狙われようと許せる器量を持っているが、剣士は敵の命を斬る存在。命を断つ事に怯えているようでは務まらない。

此度の戦は名目上、夜の一族と天狗一族の戦争。実際は俺と山神との私闘であり、主義主張の激突でしかないのだが、侵略戦争の大義なんて所詮は名目に過ぎない。


夜の一族の長の意向を承った上で、こちら側からの要求を伝える――カーミラの了承を得たところで、俺は敗北者と最後の交渉を行った。


「何か言い遺すことはあるか」

「儂はどうなっても構わん。全ての責は、儂にある。一族の者達にはせめて、寛大な処分を願いたい」

「宣戦布告までしておいて、その言い分は通らぬだろうに」


 理解し難い言い分である。戦争は、決闘とは異なる。戦火が燃え上がれば、容赦なく民を飲み込んでいく。自分以外の他人を、巻き込んでしまう。

大切な者がいるのであれば、徹底して個人の責任で済ませられる戦いとしなければならない。戦いを起こす者であるのならば、尚更だ。

戦火を起こしておいて、自分の責任だけで済ませるなんて傲慢だ。戦争を起こす権力達の言い分は、剣士の俺には到底理解できなかった。


俺のような小僧に言われずとも、永き歴史を歩んできた山神には分かっている事だろう。反論一つせず、唇を噛み締めている。


「夜の一族の長の意向を伝える。総責任者であるあんたは斬首刑、天狗一族は一人残らず殲滅との裁きが下っている」

「旗頭は、儂だ。儂が民を自ら率いて、駆り立てたのだ。彼奴らの命はご容赦願いたい」

「俺は反論も許さず、暗殺されかけたんだぞ」

「お主の暗殺を差し向けたのも、儂の独断であって――」


「そういう事じゃない、俺自身の私怨なんてどうでもいいんだ。多分あんたは俺一人を殺して、事を収めようとしたんだろう。あんたは俺個人こそ鉄火場だと、判断したんだ。
俺だってそこまで馬鹿じゃない、その程度は分かるさ。だがそんな手段を用いたところで、どうしても飛び火はするんだよ。

昔はいざしらず、今の世の中はもうそうなってしまっているんだ。個人の責任一つが生きられる世界ではないんだよ、天狗の長」

「むぅ……」


「人妖融和は、世界平和への手段ではない。俺やあんたのような個人主義でも生きられる世界にするための、共存手段なんだ」


 人間も妖怪も、孤独には生き続けられない。一人で生きていく事自体は出来ても、生き続けていくのは難しい。どうやっても、他人と関わってしまうからだ。

繋がりを否定した先で待っているのは、孤独な死でしかない。通り魔の師範は投獄され、怨霊のアリサは俺に仕え、大魔導師のプレシアは娘との余生を選んだ。

それでも孤独を選ぶのであれば、共存を望むしかない。他人に囲まれた自分、世界の中での自分、繋がりを持った個として己が人生を歩んでいく。


共生ではなく、共存。お互いの存在を認めた上で、自分の人生を全うするのだ。


「俺に懇願する暇があるのならば、宣戦布告を起こした責任をきちんと果たせ」

「どういう意味だ」

「あの龍族も、お前と同じ立場だ。戦争を起こした罪で今、裁かれている。自らの責任を果たして、自由を勝ち取るべく戦っているんだ」

「! まさか我らにも、恩赦の機会を与えてくれるのか!?」

「あんたに与えるのは機会ではない、時間だ。俺が夜の一族の長に頼んで、猶予を頂いた。生きるか死ぬかの最後の機会だ、責任を果たさなければ裁きを与えるまでだ」

「儂への責任とはすなわち、此度の乱を起こした事――反人類への、責任だな」

「人と人外の戦争における罪と罰を、あんた自身の責任を持って訴えろ。その上でもう一度皆に促すんだ、孤独か共存か――今の世界でどのようにして、自分の人生を果たすのか」

「相承知した、人間よ。人妖融和を見誤った事を幾重にも詫びよう、恐れ入った。それほどの責任を持って掲げている、お主の覚悟を知れた。
夜の一族の王女殿、彼の者がお主に伝える理由も理解できたわ。しかし、お主は」

「――分かっている。剣士だって、今の時代には不要な存在だ」

「全う出来ぬと知りながら、何故剣を捨てないのだ。今や剣を振るうだけで、苦痛であろうに」


 ……悟られていた。もはや舌打ちも出てこず、ため息を吐いた。勝利こそしたが、やはり存在として格が違っていた。

御神流の絶技にまで、達成した。その達成感は今も歓喜で胸を震わせているが、剣への価値は見いだせなかった。剣士としての生き方は、今も模索している。

剣への執着が、強さの妨げになっていることは理解した。しかし剣士として強くなる道を指し示されても、そこに情熱がなければ意味がない。


孤高の道を探求する長であるからこそ、俺の空虚に共感できたのだろう。


「正直なところ、困っている。どうすればいいと思う?」

「剣士が戦に駆り立てられぬのは、この世に適している証拠であろう。世界の理に反しようとするのは、愚の骨頂ぞ。
この落ちぶれた我を見よ、若人よ。愚かしき妄執に縛られた結果ではないか、ふふふ」

「そこで笑い飛ばせるあんたの器量には、敵わないよ」

「剣への道を全うするのであれば、やるべき事は一つしかあるまいよ」

「――となれば、やはり」


「命を、斬る――ゆえにこそ、剣士じゃ」


 長との交渉は、終わった。思いがけない成果を得られたが、結局は分かりきった答えであった。出てくるのは溜息ばかりだ。

その通りだ。剣士であれば、人を斬るしかない。命を断つ以外の選択肢はない。断ってしまえば、後戻りなんて二度と出来ない。

選択肢があるからこそ、悩んでいるのだ。選択肢を初めから無くしてしまえば、退路はない。地獄へと落ちてしまえば、鬼を斬って生きるしかないのだ。


平和であることに甘んじるな、か――簡単であるのに、難しいな。


『天狗一族が陥落した以上、反人類勢力は崩壊。天狗の長が促せば、我らの理想を阻むものは最早おるまい。大儀であったぞ、下僕よ』

「はいはい、どういたしまして。賠償請求などはこっちでやらないぞ、おたくらでやってくれ。俺個人の要求はもう伝えている」

『うむ、お前もこれから忙しくなるからな』

「忙しくなる……?」


『はっはっは、とぼけおって。天狗の長を促して、反人類勢力を残らず取り込んだのだ。これでこの世に生きる主だった人外勢力は皆、お前に従う事となる。
多くの勢力がお主に平伏して集う事だろう。お前も今や、我が誇る立派な王だ』

「な――」


 なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


見事なまでに移民処理を押し付けられて、頭を抱えた。













<続く>








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