とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第四十八話






 管理外世界である地球でも国境線一つ越えるのに面倒な手続きが多くあるのだが、次元世界そのものを越えるとなるとコネでもなければ不可能と言える。人外となれば、尚更に。

魔龍の姫プレセア・レヴェントンとの取引を取り纏めた後、謁見を求めていた龍族の使者と会って交渉。見事な角を生やした若き交渉者はプレセアの無事を確認し、ようやく安堵した。

龍族の王が取引に応じている為交渉そのものはスムーズに進み、一介の剣士でしかない俺でも十分話し合う事は出来た――勿論、教会関係者にも同席して頂いて。


元々、既に決着が付いていた勝負である。敗者に対して勝者が歩み寄りを見せれば、簡単に食い付いてくれる。戦功による恩赦という着地点は、戦闘民族の誇りを傷つけずに済ませられた。


「戦場は貴様の祖国、天の国か。我ら龍族が踏み入ってもかまわぬのか」

「全面戦争とは言え、大事にするつもりはない。戦いを仕掛けてきたのは天狗一族であれど、殲滅戦を仕掛ければ人妖融和の妨げになるからな。
いざ尋常に勝負とはいかずとも、一般の民を巻き込む総力戦は行わない。少数精鋭による武力戦で挑むつもりだ」

「軍事力を用いて政治目的を達成するつもりか。自衛や利益の確保を目的であるのであれば、理に適った行為だな。やや生温いが、取引に応じた以上は従おう。
一族の中から選りすぐりの実力者達を選出し、貴様の部隊に加える。好きに使うといい」

「お前が連中を率いた方が効果的だろう。恩赦目的とは言え、此度の戦に一族の全てが納得している訳でもないだろうに」

「士気に関わる事を懸念しているのであれば、心配は無用だ。我とバハムートを討伐した聖王の実力を疑う者など誰もいない。
それに人妖融和なんぞという大層な理想を謳うのであれば尚の事、貴様が部族を統率してみせろ。我は自らの自由を得るべく、一兵卒として戦う」


 龍族を率いる長というだけあって、単なる戦狂いではない。一介の戦士の矜持に拘りながらも長としての立場を忘れず、周囲が納得する外交的理由を提示している。

俺とて一介の剣士、自ら剣を取って戦場を駆け抜けたい欲求は大いに持ち合わせている。しかしながら実際に剣を持って突撃しようとしたら、護衛団や騎士団が慌てて止めに入るだろう。

仲間を率いる立場であれば時に、個人の自由なぞ許されない。捕虜となったプレセアも同様だ。個人として暴れ回ってしまうと、部族を率いる意味がなくなる。部隊ではなく、ただのチンピラ集団となる。


ゆえに指揮権を俺に委ねて武力解決による手柄を譲り、プレセアは一兵卒による戦功で龍族としての恩赦を勝ち取る腹である。個人的に嫌だが、応じるしか無かった。


「龍族との交渉は成立したので、俺は失礼させてもらう」

「おほほほほほ、何処へ行こうというのですか陛下。次は聖王教会関係者一同に説明して頂きますわよ」

「いたたたたた、爪が肩に食い込んでめっちゃ痛い!? お前が色仕掛けでも何でもして連中を納得させてくれよ、ドゥーエ」

「今の私は聖王教会のシスター、神である陛下に捧げた身。現神が降臨しているのであれば色仕掛けは不敬だと受け止められてしまうのですわ、残念ながら」

「お前が自分から公言しているんだろう、それ!? 戦略的支援の手段を自ら潰してどうする!」

「フフ、陛下が私を放置するからいけないのですわ。つれない男の興味を引くのもいい女の努めなのです、さあ参りましょう」

「実は怒っているんだろう、お前!? 面倒事を押し付けたのは悪かったら解放してくれ、ぬおおおおお〜〜〜!」


 敗戦国との交渉を取り纏めた後、聖王教会との調整を行わなければならない。立場上俺は聖王教会の代表となっているが、あくまで"聖王"という神輿。ベルカ自治領は聖王教会が統治している。

宗教国家にとって、国家元首は信仰やベルカ自治領内における信徒達の規模で成り立っている。一神教であれど、政治と宗教は切り離せない。宗教代表者として、政治関係者を統率する義務が生じる。

俺は"聖王"となった後ローゼを救世主にして聖地を去ったが、後継者を名乗るディアーチェがその後政治統治機構を見事に構築したようだ。代表者の意見が行き届くように洗練されていた。


龍族の対応で随分と揉めた穏健派、過激派の派閥争いも、実のところ落とし所を求めていたようだ。俺が責任を持って龍族との交渉を行ったと聞いて、皆が一様に安堵の表情を見せた。


政治家は派閥争いが大好きだと勝手に勘繰っていたのだが、権力闘争も終わりが見えないと庶民のようにウンザリするらしい。両派閥が納得する理由を持ち出されたとあれば、歓迎する他はない。

戦功による恩赦は両派閥にとって百点とはいかず指摘や意見が続々と出てきたが、その点についてはドゥーエや司祭様が上手く取り成してくれた。彼らとしても利権を得る上での交渉は必要なのだ。

昔は嫌悪していた利権争いも派閥勢力の維持や拡大と考えると、自分なりには共感出来る点もあった。自分一人の恩恵なら簡単だが、自分を支持する者達への利益も必要とあれば彼らの苦労も窺える。


聖地の覇権争いで薄汚い宗教権力者達は一新されているので、清廉潔白とは言わないにしろ今の政治関係者達は実力主義の権力者達。彼らになら、今後の交渉は任せられる。


「お疲れ様でした、陛下。続きまして、時空管理局との交渉をお願い致しますわ」

「……お前に一任した筈だぞ、クワットロ」


「はい、一任"させられた"貴方様のクアットロでございまーす――三日ほど寝てないのでよろしくお願い致しますわね、陛下」

「どうも申し訳ありませんでした、どうぞお休み下さい」


 ベルカ自治領の内部は何とかまとめられたので、次は時空管理局との交渉。ミッドチルダから管理外世界へ龍族を派遣するとあれば、次元世界を管理する組織に話を通す必要がある。

派遣するのはあくまで聖王教会であり、聖地から管理外世界に繋がるルートで送り出すので手続き上の問題はないのだが、目的が管理外世界での戦争であれば話は別だ。

一人や二人の民間人ならともかく、龍族の実力者達で統率された部隊である。管理外世界への侵略と受け止められても無理はない。"聖王"の俺が襲われたのであっても、管理外世界で解決するべき問題なのだ。

その点については繊細な駆け引きが必要となるので、交渉の窓口も選び出さなければならない。最高評議会が覇権を振るう地上本部は論外、ゆえに次元世界の海を仕切る本局へ交渉を申し出た。


幸いにも三役の方々のお一人ミゼット・クローベル氏は今の本局統幕議長と懇意にしているとの事で、交渉を取り纏めてくれた。子供には及びもつかない権力者である。


「お話の通じる方で非常に助かりました、ミゼット女史。ご足労頂いて感謝しております」

「命を狙われたとあれば無理も無いですが、正直に言えば私としても穏便な対応を望んでいるの。全面賛同とはいかないことを、理解してちょうだい」

「無理なお願いであることは承知の上、私としても頭を下げるしかありません。戦火を拡大させない為の決断であると、お約束は致します」

「異種族との交渉の気苦労は、私もよく分かっています。人と人で無き者との違い、互いに自分達の種族を重んじるのは当然です。
さりとて争いを招く行為は、私としても認められません。だからこその外交ですが、聞く耳なしであれば難しいですね」

「管理外世界には人に肯定的となったくれた種族もおりまして、一族の長に仲介を願って苦情と交渉を申し出てみたのですが……」


「和平の使者を拘束されてしまった、と?」

「問答無用であったようです、私も浅はかでした。おかげでその一族の長も激怒しており、殲滅を望んでおられます」


 俺自身武闘派だのタカ派だのと自分を位置づける気はないが、自分の命が狙われただけで問答無用で殲滅を行ったりはしない。戦争は、一介の剣士が振るう剣の範囲を超えている。

聖王教会騎士団のように代表者同士の決闘で片付く問題ではない。さりとて、弱腰では舐められるだけだ。土下座外交は国という規模だから行える手段であり、集団であれば飲み込まれて終わってしまう。

元々不仲だった自分が和平に乗り込んでも、その場で殺されて終わる。だから夜の一族に事の経緯を説明、不満げなカーミラを何とか宥めて天狗一族に謝罪と賠償を前提とした交渉を行っていた。


結果はご覧の有様、仲介役の面子を潰された夜の一族は大激怒。カーミラは武力制裁、カレンは経済制裁、ディアーナは権力制裁を世界の裏表を牛耳る形で施行。張本人がドン引きする民族包囲網を作り上げた。


「貴方自身も責任を感じての決断だったのね。結果的に判断を誤ったのであれば私としても庇い立ては出来ませんが――ラルゴやレオーネも、君に忠言は行えます。
貴方はまだ若い、今後も数々の失敗を犯すでしょう。重要な決断を自らの責任で行うのは立派ですが、時に年長者に意見を求める事も必要ですよ」

「若造が先走った故の失態です、お恥ずかしい限りですよ」


「ふふふ、まあしっかり考えるといいでしょう。後始末くらいは受け持ちます。父親の貴方ががしょぼくれると、ナハトちゃんも泣いてしまいますから」

「申し訳ありませんが、しばらくあの子の面倒をお願いします。戦争が起きれば真っ先に、身内を狙うでしょうから」

「あの子は私たちの孫同然です。久方ぶりに会えると聞いて皆喜んでいるの、安心して任せてちょうだい」


 魔龍の姫プレセア・レヴェントンと魔龍バハムート、彼らの処分には否定的だった三役の方々は戦功による恩赦を認めてくれた。

しかしながら彼らにも信念と立場があり、魔龍バハムートの進撃は彼らの一存で却下された。俺もとりあえずの申し出だったので、彼らの判断をきちんと受け入れた。

物語というフィクションならともかく、ノンフィクションの現実世界ではドラゴンが他国の制空権を脅かす事は許されない。巨大な龍が大暴れすれば、諸外国の戦闘機が飛んで来るだろう。


一般国民を広く巻き込む総力戦ではなく、少数精鋭の武力解決を行う理由はこの点にある。脚本や監督がいない戦場で、馬鹿をやらかす訳にはいかないのだ。


数々の手続きをようやく終えた俺は龍族の精鋭を引き連れて、管理外世界へと転移。現地に白旗を招集して、戦争に派遣する部隊を整えた。

騎士団は俺の親衛部隊として参戦、大将の俺には護衛として、夜の一族からは妹さんが。聖王教会からはセッテを代表とした騎士団が着任した。派遣された者を通じて、同盟という関係を周知する為だ。

俺が出向いている間返す刀で海鳴へ襲撃する事も考えて、海鳴は守護騎士達に文字通り守護してもらう事になった。主である八神はやてが町に居るので、彼らとしても否はなかった。


ようやく力になれるとあって、彼らの士気は非常に高かった。


「陛下の敵は殲滅、慈悲はない」

「殲滅しないための戦争だということを忘れないでくれ、セッテ騎士団長!?」

「……最低首を十あげることを義務付けられたのだが、どうしたものだろう」

「セッテのあの目は本気だったぞ、チンク」


「……敵の妻を籠絡してこいと言われた時の私の心境を分かってくれるかしら、クアットロ」

「……作戦を一ミリでも失敗すれば両断すると言われましたわ、お姉様」


 正直なところ気は進まなかったのだが、俺の子供達も意気揚々と参戦を申し出てくれた。シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリが作戦実行部隊として主力となる。

この時点で敵となる天狗一族には大いに同情してしまったが、子供達も自分の父親が狙われたとあって怒り心頭だったようだ。穏やかなユーリまで、本気を出すとまで言ってくれている。

見かけは子供だが、本質は守護騎士達と同様である。日本で浪人していた自分とは違って、戦時における対応や対処には慣れている。彼らなら成し遂げてくれるだろう。



こうして、すべての準備が整った。



「では父上、一言お願い致します」

「分かった。では諸君――」


「全体の士気に関わりますので、歴史に名を残す発言を期待しております」

「何故ハードルを世界最高レベルまで上げた!?」



 ――全部隊から大笑いされながら、歴史的異世界大戦の幕が切って落とされた。













<続く>








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