とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第四十四話






 夜天の魔導書と蒼天の書、守護騎士達とシュテル達。厄介極まりない問題に対して、他ならぬ時空管理局側と今日の会議で折り合いがつけたのは非常に大きい。

幸運だったのは、グレアム達のような強硬派があの場に居なかった事だ。危険なロストロギアは封印すべきという主張は、次元世界の管理面で言えば正しい。ローゼの場合も悪戦苦闘させられた。

夜天の魔導書が闇の書にまで変貌したのは、悪質な改竄が行われた影響。元に戻す手段や修繕する方法がない以上、封印処置は無難かつ安全だ。反論の余地は一切ない。

闇の書が危険なロストロギアとして扱われてしまえば、その魔導書から生まれたシュテル達や守護騎士達の存在も危うくなる。守護騎士達は誕生した当時は物騒な連中だったしな、タイミングにも救われた。


根本的な解決にはなっていないが、俺にとって一番の前進はクロノ達に打ち明けられた事だろう。隠し立てしたまま発覚してしまうのが、一番最悪だったからだ。


「聖王教会側が蒼天の書を分析してデータ提供、時空管理局側は保有している闇の書の情報を提供。我々にとっては、最も有益な取引だな」

「蒼天の書はマスタープログラムである管制人格の彼女が太鼓判を押す安全性を確保しており、教会側に分析されても一切問題ありません。
蒼天の書の安全性を堂々と証明できる上で、管理局側が秘匿する闇の書の情報を入手出来るのは大きいわ」

「本来ならアタシらがいれば闇の書の情報なんぞ貰っても意味ねえんだが、改竄されているとなれば問題だからな」

「我々の主本人にも危険が及びかねない。慎重に事を進める必要がある」


 先日に引き続き、夜分遅くに集合をかけて守護騎士達に進捗状況を報告した。彼らの身辺に関わる問題なので、本人達も真剣に討論している。

大将のシグナムや参謀役のシャマルの分析は実に的確で、状況を正確に把握してくれている。比較的楽観的だったヴィータも慎重な姿勢を見せており、ザフィーラも同調している。

理想的に事を進められたのは、アリサやディアーチェの的確な指摘と意見によるものだ。何事も考える癖こそついたが、頭を使ったからといってすぐに良くなるものではない。頭が痛くなるしな。


守護騎士達も俺と同じく、時空管理局側に闇の書の存在を伝えられた事が大きいと考えている。あくまで発覚ではなく、提供という形で。


「ユーリ達の出生については、概ね蒼天の書に関連付け出来そうだ。ユーリ達の強大な力が蒼天の書、つまり聖王の聖遺物によるものだと分かれば説明がつけられるからな」

「正体不明の謎の力よりも、聖王による奇跡だと捉えてもらえるのであれば僥倖だな。不明なる力ともなれば、ロストロギア等の未知に繋げられかねない」

「問題は私達ですね……いっその事全て秘密のままに出来ればいいけれど」

「アタシ――じゃなくてのろうさやザフィーラが、白旗の勢力として加わっているからな。聖王教会の今後の出方次第では、管理局側がアタシらを調べに来る危険もある」

「一連の事件の黒幕とされる最高評議会により今、時空管理局という組織全体が変革されつつある。聖王のゆりかごを保有する聖王教会との関係も見直されるかもしれん。
そうなると聖地の代表である"聖王"と、聖王が率いる白旗がどうしても注目されてしまうな」

「蒼天の書も聖遺物として扱われる以上、無関係では済まされないだろうしな。クロノ達も蒼天の書を闇の書と誤認――いや、誤認じゃないか。ともあれ、疑惑は持っていた。
連中の情報量がいかほどなのか分からんが、グレアム達が目をつける可能性は十分ある。今アリサがアリアとの相談で、探りを入れてくれているがな」


 シュテル達と同じく蒼天の書から守護騎士達が誕生したと説明は出来るのだが、時系列に狂いが生じてしまう以上強引な言い分となってしまう。つまり、確実に疑われる。

ならばシャマルの意見通りこのまま隠していればいいのだが、ヴィータやザフィーラの懸念も的を射ているので悩ましい。聖地では戦争にまで発展して、実力を見せつけてしまったからな。

全員頭を並べて考え込むが、俺が強引に話を打ち切った。何事も一昼一夜にして成らず、全て結論有りきでは焦りによって論理が破綻しかねない。


今日は一歩前進できたことを喜ぼう。


「話は以上だ。状況が進展すれば逐次、お前らにも報告する。今まで通り、いや今まで以上に日常を過ごしてくれ」

「分かった、お前には本当に世話になっている。お前の足枷とならぬように、問題行動は起こさぬように努めよう」

「私達はもう一蓮托生となったのです、変に一人で悩まずに私達に相談して下さいね。何かあれば、私も力になりますとも」


「おっ、随分積極的だなシャマル。さてはお前、ようやくこいつに絆されたな」

「此奴だけが妙に頑なであったからな、喜ばしい事ではないか」

「ち、違いますよ!? この人には婚約者までいるんです、不貞は許せません。きちんと私と向き合ってもらわないと」

「えっ、俺の態度が悪い事になっているのか!?」


 困難だった交渉も終わりさっさと休みたいところではあるのだが、肝心な事を済ませておかなければならない。


「お前達の主八神はやてについては、秘密にしよう。時空管理局や聖王教会は、魔導書の主は俺だと誤認している。その誤解のままで押し通す」

「我々としてはありがたい申し出ではあるが、今後お前にのしかかるであろう問題を考えると全面的に賛同はできないな。代案がないのが、心苦しくはあるのだが」

「それに貴方自身も心配していたように万が一発覚してしまったら、今まで築き上げてきた良好な関係が破綻してしまいますよ」

「いや、それは大丈夫。万が一クロノ達に八神はやてが本当の主だと発覚しても、知らなかったといえば通じる」

「いくら何でも知らなかったととぼけられないだろう。アタシらやシュテル達の事だって、芋づる式に疑いが向けられてしまうぞ」

「そもそもの話、俺が魔導書の主である事自体可能性の示唆でしかないんだ。俺に疑惑を向けるということは、"聖王"である事さえも引っ繰り返さなければならない。
高く積み上げた実績は時に、信頼に勝る武器になる。俺の全てを否定することは、時空管理局や聖王教会にだって出来ないさ。

闇の書の事だって今日話した事も含めて全て、憶測でしか話していないんだ。実際魔導書について分かっていないのは、本当の事だからな」

「"聖王"だってそもそも誤解だしな、お前の場合。いつのまにか既成事実みたいになっちまっているんだ、魔導書の主だと思われたところで些細な問題か」

「分かった。我らの真なる主の存在は、何が何でも隠し通す。万が一発覚したとしても白を切った上で対処する。この方針で行くことに異存はない。


ただし主本人には、どうするつもりだ?」


 ザフィーラの疑問に、ヴィータ達も厳しい視線を向ける。はやてには健やかな日常を過ごして貰いたい、守護騎士達の共通認識であり唯一の願いでもある。

だが同時にはやてにすべてを隠してしまうのであれば、闇の書に関する問題の全ては主と誤認された俺が対応しなければならない。それは騎士として許されない事、彼らの苦悩が見えた。

俺個人としては、はやてに変わって対応する事に異存はない。面倒だとも思っていない。"聖王"なんぞという立場まで押し付けられているんだ、闇の書の主だと思われてもかまわなかった。


だからはやてには何もかも隠して無関係でいてもらってもかまわないのだが――


「この後、あいつには話すつもりだ」

「待てよ、アタシは反対だ!」


「時空管理局にバレるのと、八神はやてにバレるのと――どっちの可能性が高いと、思う?」


「うっ――ば、バレるかな……?」

「こうやって夜遅く、お前らと内緒話するのだって連日続くと確実にバレるだろうな。同じ屋根の下で生活しているんだぞ、クロノ達とは訳が違う」

「我らが主は、聡明な御方だ。まだ幼いながらに闇の書の主としての自覚を持ち、我ら騎士の存在を許して下さっている。
我々の行動や態度に不審な点が見受けられれば、必ず追求してくるだろう」

「私達のことだけならばともかく、シュテルちゃん達のこともありますしね」

「闇の書の蒐集も固く禁じられている。行動に出ずとも、態度で悟られることも考えられる。そして発覚した際のリスクは、我々にとっては時空管理局よりも切実だ」


 騎士達の言う通り闇の書や主だけの事であれば隠し通せるかもしれないが、今回の問題はシュテル達にまで話が広がっている。関係者が多く巻き込まれている以上、はやてだけに隠すのは難しい。

そしてはやてだけに隠している事が発覚してしまうと、本来の主であるはやての信頼を失ってしまう。正直言わせてもらうと、人間関係で揉めるのはこれ以上勘弁してもらいたい。

単純に斬れば終わる話ではないのだ、明白に敵となってくれないので余計に厄介だ。同じ屋根の下で戦々恐々とした生活なんぞしたくない。


だったらいっそのこと、問題となっていない今の内に話した方がいい。


「お前らが打ち明けると、謝罪大会になってしまいかねない。俺から代表して話してくるから、お前らはもう寝ておけ」

「お前だけに全て任せるのは――」

「元々、俺とはやては二人で生活していたんだ。お前らが来てから実に賑やかになったが、最初は何もかも二人で力を合わせて生きていくつもりだった。気にしないで、休め」


 恐縮する気持ちは分からんでもないが、責任感がなまじ強いと変に遠慮してしまう事になりかねない。特に重要な問題とあれば、第三者が間に入った方がいい。

俺が説き伏せるとヴィータ達は全員揃って頭を下げて、俺に任せてくれた。最初は俺が恐縮していたというのに、いつのまにか随分と関係が変わってしまったもんだ。

はやてと二人、助け合ってこの現実を生きていこうと誓いあったあの日はもう幻になっている。思えば俺達は、ただの子供だった。何でも自分たちでやろうと思いこんでいた。


手を伸ばせば、助けてくれる大人達が確かにいたのだ。居もしない神よりも、そんな彼らに感謝するとしよう。















「はやて、ちょっと裸になってみてくれ」

「何や、その率直なセクハラっ!?」


 部屋に呼びつけて話を持ち出し、グーで殴られるのはご愛嬌。顔を真っ赤にして怒られながらも、最近はとても調子がよく足のリハビリも順調だと健康状態をアピールしてくれた。

車椅子生活もそろそろ終わらせて、松葉杖による生活に切り替える準備も進めているらしい。病院側としては急激な回復にむしろ不安を感じており、本人との話し合いが行われているとの事。

無理も無い。今までピクリとも動かなかった足が今年に入って急に反応を見せて、少しずつでも確実に回復の傾向を見せているんだ。原因不明とあれば尚の事、不審に思う。


本人も不安こそないにしても、不思議には思っていたらしい。実に都合の良い疑問に、俺は今こそ事実を話す機会とした。


「俺はお前に、隠していた事がある」

「? 良介が今まで私に本当の事を言ってくれた事って、あんまりない気がする」

「うむ、お前に話すのは面倒だしな」

「……そういう人なのは分かってたから何も言わんかったけど、いきなり何やの?」


 普段から何も話してないとカラカラ明るく笑っているはやてに、俺は苦笑いしながらも闇の書に関する事を打ち明けた。妹さんに事前にチェックさせたので、周囲に発覚する事はない。

八神はやてについては、本当に何も隠さなかった。夜天の人についても、夜天の魔導書についても、シュテル達のことについても、あらゆる全てを打ち明けた。

はやては目を白黒させていたが、俺自身疑問点が多いだけに理解よりも納得に努めてくれた。疑問に感じればキリがない、ならば事情を打ち明けてくれたことに納得するまで。


この海鳴で任せた何でも屋家業――地域住民への支援活動は、着実に少女を成長させていた。


「わたしが持っていた闇の書は今蒼天の書として祀り上げられ、うちの子達も魔導書の関係者として認識されてしまう可能性が出てきたということなんや。
何やったらこの際、わたしが主として名乗り出てもええんやけどね。あの子達の主なのは間違いないんやし」

「その責任感だけは買うが、お前の立場では不利になるだけだ。被害者で済ませれればいいんだが、危険なロストロギアであれば加害者にされる危険も十分にある。
お前は単純に選ばれただけなんだけど、選ばれた不運を必ずしも被害とは見てくれないのがあの組織だ」

「悪の組織じゃないというのが、厄介やね……わたし一人の犠牲で世界を守るっちゅう決断も、大局的に見れば正しいんかもしれんしな」


 はやては、達観していた。子供らしくないとは思わない。両親も他界して今まで一人、車椅子で生活していたのだ。今更、子供らしさなんぞ押し付けられない。

関心がなさそうに言っているが、決して自分の命を軽視しているのではない。かといって、他人事だと思っている訳でもない。自分にはどうにもならない問題だと、自覚しているのだ。

だからこそ流れに身を任せるしかないと、真剣に受け止めている。先程俺が言ったように、一昼夜で解決しそうにないのだと分かっているのだろう。


この現実は、物語ではない。都合の良い展開も、助けに来るヒーローも、現れたりしない。


「きちんと足並みを揃えられそうにはないが、時空管理局や聖王教会と連携してこの問題に取り込むつもりでいる。
俺は仲介する形となっているが、将来的には取り仕切る形にまで持っていきたい。俺が魔導書の主として上手く事を収められれば、お前が狙われる事もないだろう」

「……良介に何もかも任せて、わたしは一人黙ってろというんか」

「何を言っているんだ、お前は。俺は問題を解決するだけだが、お前は問題を解決した後あいつらの家族としてやっていかなければならないんだぞ」


 面倒は解決するつもりだが、面倒を見ていくつもりなんぞ全くない。俺はシュテル達で精一杯なんだ、守護騎士達の面倒まで見きれない。

家族として生きていくのは、簡単な話ではない。血の繋がった家族同士でも今の世の中、問題が起きて事件にまで発展している。面倒を見るというのはそれほど、大変なことなのだ。

孤独に生きるよりも、他人と生きる方がよほど難しい。海鳴に来て、俺が心底痛感した真実である。俺はその苦労をなんとか糧にして、成長しようと悪戦苦闘している。


剣士ではないはやてには、そのような生き方は出来ないだろう。だから、覚悟を問うていると――


「良介の言う事はもっともや。下駄を預ける以上は、私自身もしっかり家長の自覚を持たんとあかんわ」

「おお、何だか気合が入っているじゃないか。何か考えでもあるのか」

「前々から考えてたんやけど、いい機会や。ヴィータ達だけじゃなく、闇の書の人もわたしの家族として迎え入れようと思う。成り行きではなく、今度はわたしの意思で」


 ――八神はやてが見せた覚悟は、俺とは間逆であった。親権問題からの手続きによる始まりではなく、先に家族として受け入れる覚悟を固めたのだ。

今でも養子先を悩んでいる俺では到底及ばない、決断の速さ。 手続きなんぞ後から幾らでも出来るのだと言わんばかりの、清々しい決意の現れだった。


八神はやては実に彼女らしいやり方で、家族となる決意表明を行った。


「私は祝福とともに、あの子を家族として受け入れる。その名は祝福の風、"リインフォース"――わたしが主として決めたこの名を、あの子に授けようと思う」


 こうして彼女は覚悟を示し、名付け親となった。













<続く>








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