とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第三十八話






 基本的に、俺の朝は早い。基本的という前置きを付けているのは、夜の一族のお姫様達と真夜中の密会があるかないかによるからだ。話がこじれると夜も遅くなってしまう、厄介な方々である。

我が家では鶏よりも早く、可愛い末娘が元気に叫んでいる。


「おはよー!」

「おはよう、ナハトヴァール。今日も朝からお散歩か」

「うん」


 叫ぶという表現を用いたが、一度アリサに叱られてから朝早くから騒ぐ事は無くなった。マイペースな我が子ではあるのだが、聞き分けが良くて大変助かっている。

静かに寝静まっている住民達を起こさないように静かに着替えて、ナハトはお友達を連れて颯爽と家を飛び出していく。聖地でのパトロール習慣は、現地に帰ってからも続いているようだ。

自然豊かな優しい場所である海鳴の治安はすこぶる良好で、荒れた気配は特にないのだが、決して皆無ではない。それでも子供の注意レベルで収まる程度には、この街は平和であった。


ナハトヴァールの最近の連れは、意外にもこの人だった。


「そんじゃ、行ってくる。ナハト、いい子にするんだぞ」

「おー!」


 鉄槌の騎士ヴィータ、俺という子分を持って彼女もすっかり姉御肌になってしまった。うちの子を連れて、町中へと降りていく。この街には、あの子達のファンが非常に多い。

6月のゲートボール大会以降老人グループと仲良くなったヴィータは、異世界に出てしばらく留守にしていた分、毎日のように老人達と憩いの時間を過ごしている。そこへ、うちの子が加わったのだ。

親に似ず誰からも愛される我が子は、実の孫よりも可愛いという何とも言い難い評価を得て思いっきり可愛がられていた。地方における老人達の影響力は、これがまた非常に強い。

彼らと懇意になるという事は、地域住民とのネットワークに強力に食い込む事を意味している。発言力は自然と高まり、影響力は非常に強くなる。この街のマスコットは、王にも等しい。


当然パトロールにも大きな力となっており、ヴィータとナハトヴァールのコンビは無敵であった。


「おはようございます」

「……お前、絶対に待ち構えていただろう」

「幼馴染としては、偶然を装う気遣いを殿方からも見せて頂きたいものですね」


 一方こちらは決して、名コンビとは言い難かった。早朝トレーニングに顔を出すようになった幼馴染、御堂音遠。無論、断じて偶然ではない。俺のスケジュールが、余裕で漏れているのである。

待ち伏せされる理由は多すぎて見当もつかないが、拒絶するのも面倒なのでこうして付き合っている。色恋沙汰に元より縁のない二人は、無言でランニングである。華も何もあったものではない。

銀に近しい髪の美しい少女に地味なトレーニングウェアは正直目立つのだが、本人は気にした様子もなく黙々と町中を走っている。怪獣の如き巨体だった女がよくもここまで、スリムアップしたものだ。


試合を行った後、特に人間関係で拗れた事はなかった。実に意外だが、デブは再戦も報復もやろうとはしない。


「高町美由希さんには正式に謝罪をした上で、再戦の申し込みを致しました。ご本人も快く応じて下さっております」

「俺としては、約束を守ってくれるのであれば構わない」

「貴方との約束は破りません、創愛に伝わりますから」


 実に分かりやすい理由で、大いに納得させられる。


「――あの」

「何だよ、改まって」

「私の婚約の件なのですが……貴方は、どう思われますか?」

「何回同じ事を聞くんだ、お前は」

「明確な返答を頂けておりませんから」


 これまた明快な理由だった、申し訳ない。


「お前は、俺の婚約をどう思っているんだ」

「実に分不相応な婚約ではないでしょうか。良縁であろうと生活環境及び価値観の共有は難しいと、幼馴染としてハッキリ申し上げておきます!」


「答えが出ているじゃないか」

「あっ……」


「……」

「……」


「お相手の方には誠に申し訳ないですが、お断り致します」

「そうか」

「貴方もそうして下さいね」

「何でっ!?」


 ――また新しい問題が増えた瞬間だった。















『ご主人様。休暇中に申し訳ございませんが、お帰りになる時期を教えて頂けると助かります。聖女様もいたく、気にされておりまして』

「まださほど日にちが経っていないぞ」

『大変恐縮ではございますが、龍族から"大使"が参られておりまして……"異教の問題"も表面化しつつあるので、教会としても対応に苦慮されております』

「ええい、どっちも俺の問題だけにシカトする訳にもいかないか」


 問題は、この町に限った話ではない。異世界で起きた問題そのものは解決しても、起きてしまった問題が原因で新しい火種が生じてしまうケースもありえる。

魔龍の姫プレセア・レヴェントンと、異教の神ガルダの討伐。人外であり破格の怪物を討伐した影響は、周辺各国にまで波紋を広げてしまっている。

内々に処理していれば話は早かったのかもしれないが、両存在はどちらも俺が派手に暴れた末に討伐した化物である。化物を退治した俺もまた、化物と同じ視点で見られてしまうのは致し方ない。


神であれ魔龍であれ、トップを討伐すれば一族全体を震撼させてしまう。


「プレセアについては、カリーナに預けてある。商会に話を通してくれればいい」

『カリーナお嬢様が、可愛くもない異端の集団との交渉は田舎者がやればいいと仰っておりまして』

「そこはお前、俺のやり方でお相手するように仕向けろよ」

『わ、私のような娼婦では、とてもご主人様のようには出来ません!?』

「そもそもお前は娼婦なんだから、接待すればいいじゃないか。時間を稼いでくれ」


『交尾するのは難しいと思います』

「シビアだな、おい!?」


 さすがは風俗嬢、性交渉の管理や観点は非常にデリケートだ。娼婦も最初はウブな小娘だったのに、教会との交渉をやらせてから逞しくなりつつある。

面倒な問題だった。聖地で大暴れしたあいつに完全な非があるのだが、戦争では勝者となった場合でも戦後の手続きは決して簡単ではない。

敗戦国の総大将なんぞ従来打ち首なのだが、首を切れば報復に出てくる可能性は大いにある。全面戦争されると困るのは、戦争を望んでいない側だ。


仮に戦力で上回っていたとしても、戦争が起きたという事実だけで汚点となってしまうのだ。平和は一筋縄ではいかない。


「異教の問題なんてそれこそ、邪教として片付けろよ」

『魔女裁判を行うとご主人様の出自にまで手が及ぶのではないかと、ドゥーエさんとクアットロさんが懸念されておられます』

「ぐっ……うちの頭脳陣は、なかなか厄介な点をついてくる」


 俺が聖王でないことは、間違いない。つまり、偽物である。聖王教会の神様が偽物なのに異教集団を邪教として扱えば、話がややこしくなってしまう。

そもそも先日まで神は不在であり、聖地は宗教戦争にまで発展しかけたのだ。俺が何とか収めたが、俺が聖王だと信じられているからこそ収まったのだと言える。

向こうの出自を問えば、当然向こうも俺の出自を問うてくるだろう。聖王である明白な証拠と言えば、魔力光と聖王オリヴィエの怨霊くらいしか思いつかない。


そしてそれはどちらも公には出来ない代物だ、出自の応酬は確実に泥沼となるだろう。猟兵団が崇拝する神ガルダは一応本物だからな、うーむ。


「よし、クアットロに任せる」

『えっ!? ク、クアットロさんは是非ともご主人様にと――』

「魔龍の問題は、聖女様に一任する」

『ええっ!? 私はご主人様に是非とも――』

「お前には頼んでいないだろう」

『あ、いや、そ、そうですけど』


「よろしく伝えてくれ、じゃあな」

『ご、ご主人様、実は貴方の娘を名乗る子が今そっちに――』


 通信を切る――言うまでもないが、何も解決していない。















「良介さんの問題は結局のところ、人間関係に起因しています」

「人間関係の構築を勧めた発端は、アンタにあったと思うのだが」

「はい、私も責任を感じております。ですのでまず、カウンセラーとクライアントとして良い関係を築いていきましょう。今後ともよろしくお願い致します」


 積み重なった問題に辟易していた俺に手を差し伸べてくれたのは、主治医であるフィリスだった。天使のような女性なのだが、捻くれ者からすれば悪魔の如き存在でもあった。

天狗との死闘による怪我は回復しつつあるが、心の問題は一進一退だとフィリスは診断する。試合は剣への価値観の見直しとしての効果はあったが、対戦相手を斬った結果は芳しくない。

この問題の原因は人間関係だという見識は、俺も異論はない。孤独であれば発生しなかった問題だと、言い切れた。他人を斬るなんぞと言っても、性根が弱かった俺が斬り殺せたかどうかは疑わしい。


誰かの為に斬るという行為は、その誰かが居なければ起きない。


「人間関係にあると言っても、それこそ切る訳にはいかないだろう」

「勿論です、しかしただいたずらに縁を結べばいいというものではありません」

「人を選べとでもいうのか?」

「そもそもの話、私は良介さんが人を選べているかどうかも疑問を持っています」

「もう少し、具体的に頼む」


「個々人の関係が不明瞭だと、言っているのです。良介さんには今親と呼べる人、娘と呼べる人、婚約者と呼べる人――コホン、あ、愛人とまで言う人もいれば、メイドとまで言う人も居ます。
そうした人達に対して、良介さんはきちんと区別をつけられていますか?

蔑ろにしているとまでは言いませんが、今の良介さんは人との交流にそのまま流されているのではないかと思っています」


 現実社会において、大人と呼べる人達は人間関係にはきちんと線引を行っているのだという。仕事上の関係、プライベートの関係、身内との関係、その全てを明白にしているとの事。

対して俺は、そのどれも明白に出来ていない。実の娘達であるシュテル達に対しても、向こうから望んで来たので親子となったのだ。その後も何も聞かず、娘達の愛情に疑問すら持っていない。

無論、俺としての言い分はある。人を選べる余裕が、どれもなかった。例えばローゼにしても完全に押しかけだったが、結果的にあいつに救われたので、恩返しという形で聖地にまで乗り込んだ。

では強いられた関係であるかといえば、そうでもない。俺個人も、今では望んで付き合っている。そう、言い切れる。実に恵まれてはいるのだが幸運に身を任せてしまい、特に人間関係に対する配慮がない。


理由は単純だ、配慮するまでもなく愛されているからだ。フィリスは、そう指摘する。


「普通という表現はあまり適していませんが、本来普通の人間は良介さんほど多くの人間関係を持てたりはしません。望んでいても、構築するのが難しい。
まして人に愛されるとなると、より多くの努力を必要とする。ここまでは分かりますね」

「ああ、その点は痛感している」

「もちろん良介さんご本人の努力も、並大抵ではありません。少なくとも私は一人の少女を救うべく、異世界にまで乗り込める行動力はありません。
時空管理局という強大な法の組織の決定とあれば、たとえ身内であってもかばいきれなかったでしょう。良介さんは、愛されるに足る努力は行っています。

ただそれでも多くの愛に対して、良介さんは答えるのみに留まっていると思えるのです」

「単に進展を推奨するのではなく、現状の関係に対する整理も必要であると」

「親権問題が最たるものですね。何を守りたいのか、誰のために剣を振るのか――理由を明確にしていけば、改善点も洗い出せるでしょう」


 なるほど、確かに俺は他人の為に剣を振るうのにまだ迷いを持っている。なるべくならやはり、自分のために剣に没頭したいとは思う。剣や剣士に価値がなかったとしても。

それでもこの先他人に関わるのであれば、決断を求められる時は多々あるだろう。そんな時俺は誰のために剣を振るのか、その誰かは俺にとってどういう人間なのか、ハッキリした方がいい。

まあ人間、他人に対して複雑な気持ちを持っている。急に区別するのは難しくとも、せめて今人間関係を築けている人達との間柄はキチンとした方がいい。


せめて自分の親くらいは、ハッキリさせるべきだな。


「話は、よく分かった。ひとまずこれから、その親候補と会う予定だ」

「良いことだと思います。お相手を伺ってもよろしいですか?」


「メガーヌ・アルピーノと、その娘――ルーテシア・アルピーノだ」


 ――考えてみれば、これもこれでややこしい関係である。名前を間違えないように、注意しよう。













<続く>








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