とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第三十話






 道場破りに続き高町道場への殴り込み、主犯がデブであれば目的も容易く看破出来る。昔から自分の欲望に忠実だったあいつの目的は明らかだ。

――ひたすら挑発めいた行為を続けて、『俺からの』挑戦を待っている。自分に関心さえ払わずに孤児院を出て行った俺が、よほど許せなかったのだろう。

歯牙にもかけないという事は、俺にとっての自分は奪われるだけの弱者であったと烙印を押されるのに等しい。弱肉強食の理、略奪者は略奪される側を気にもかけない。

とはいえ、孤児院を出た俺は一文無しの浪人者。天下を取ると息巻いて当てもなく出て行ったところで、広い世界に潰されるだけ。

孤児としての不遇を思い知っているデブは立身出世すべく火を吐く思いで努力し、由緒正しき名家の養子となり、俺を嘲け笑う。


だが俺は異国の地で数々のテロ事件を解決して、英雄となった――俺本人の認識はともかくとして世界中からそう絶賛されている事を知ったデブは、今度こそブチ切れた。


「一番良い解決方法は、このまま無視する事だな」

「順調にエスカレートしているから、その内勝手に自滅してくれるわね。高町美由希さんとの勝負も、試合という観点で見れば一本取られているもの」


 デブの心境を考えれば酷いにも程がある提案を、ガリは平然と肯定する。俺の過去をトレースするのであれば、俺の強敵達と戦い続けなければならない。

どれほどの実力なのか定かではないが、このままあいつが勝ち抜けられるとは思えなかった。俺が今生き残っているのも、家族や仲間達が助けてくれたからだ。

あいつにも今強力な後ろ盾はいるが、仮にも名家がこのまま全肯定するとは到底思えなかった。世の中努力だけではどうにもならない壁というものが、厳然と立ちはだかるからだ。

実際に戦えるかどうかはさておいて、俺にとって道場破りの先にあるのは果てしない地獄である。死にかけた事は、一度や二度ではない。


傷付き、疲れ、倒れる。人間である以上、必ず限界は訪れる――ただし。


「あいつの執念深さを考えると、死ぬまでやめないだろうな」

「あなたの関係者を含めて、大勢を傷付けるでしょう。あなたに迷惑をかけている以上私も手を打つけれど、どれほど企てを阻止したところで挑戦し続けるでしょうね」

「……俺を追い落とすまで?」

「貴方から、全てを奪うまで。絶対に、不可能だけど」

「まあ、強力な護衛や騎士団がついていてくれるからな」

「それもあるけど――」

「? 何だ」


「貴方には、私がいるもの。あの子が貴方から、私を奪うのは不可能だわ」


「……お前、ずっとついて来ていたもんな」

「今更でしょう。私のような女は、あなた無しには生きられない」


 ふと、考えてみる。国際ニュースで俺の訃報を聞いた時、こいつはどう思ったのだろう。ガイコツまで呼ばれていた弱い女が、俺という大黒柱を失って如何なる思いを味わったのか。

再会した後も、こいつの口から何も語られる事はなかった。感動も絶望も口にしなかったところを見ると、生きていると信じて疑わなかったのか。

案外ドイツまではるばる探しに来てくれたのかもしれないが、こいつは決して自分のそうした努力を口にしない。自分の人生に、誇りなんてないのだ。

亡霊のような女だが、ある意味徹底していると言える。自分を弱者であると認識しているからこそ、強者に寄り添って生きている。

多かれ少なかれ大半の人間はそうして生きているが、こいつは子供の頃から徹底していた。


現実に立ち向かうことをやめたガリと、現実に立ち向かい続けているデブ。どちらが正しいのか、それこそ死ぬまで分からない。


「お前、デブとは連絡が取れるんだろう」

「連絡先を一方的に押し付けられているわ――会うの?」

「会いたくなんぞないが、お互いに意地を張り続けていても長引くだけだ。俺はともかく、俺の関係者にこれ以上迷惑をかけたくない」

「けれど、貴方は今戦えないのでしょう。カウセリングでも、剣の使用は止められている」


「カウセリングの一環として、一度敵と実際に対決してみる。剣士としての心境を、自分なりに客観的に分析してみる。その為には、実際に戦ってみないと分からない。
その点でいえば、デブは理想的な相手だよ。幼馴染で顔見知り、加えて由緒正しき名家のお嬢様だ。背景がきちんとしている以上、泥試合にはならない」


「あの子本人は貴方を殺したがっているけれど、貴方を殺せば全てを失う事も分かっている。殺し合いではなく、あくまで試合として事前に段取りするのね」

「不本意だがあの母親に立ち合ってもらえば、フィリスも許可してくれるだろう。金持ちのコネは一応俺も持っているから、相手の家にも話は通して貰っておくよ。
俺とあいつ、当事者同士だと絶対に暴走してしまうからな。お互いに立会人を出せば、無茶苦茶は出来ない」

「随分と大人になったのね。昔の貴方ならば他人は邪魔だと排除して、野試合でも殺し合いでも喜んでやっていたでしょう」

「それが、他人に関わって生きていくという事だ。無理してついてこなくてもいいぞ」

「貴方がどんな人間になろうと、私はかまわないわ。貴方に合わせて、生きていくだけだから。
では、あの子に連絡を取るわね。今晩、母さんにも今日の貴方の話をしておくわ」

「俺も今晩、関係者各位に話を通しておくよ。何かとうるさい連中が多いからな」


 金持ちのコネとは他の誰でもない、綺堂さくらの事である。


月村家や綺堂家が日本中の金持ちと通じているとまでは言わないが、あの妹さんがデブの家について知っていたので通じている可能性が高い。

俺の天下取りと同じく、シンデレラストーリーを望んでいるのであれば、今の栄光を失いたく無い筈だ。

直情的なあいつが道場破りに出稽古の連絡を行ったり、高町道場への殴り込みに紹介状をわざわざ用意したところを見ても明らかだ。

むしろ俺が事前に全て段取りをしておけば、あいつは手間が省けたと嬉々として挑戦に応じるだろう。結局、俺さえ折れればあいつは満足なのだ。

昔の俺と同じく、つまらないプライドに拘る。それが強者の証であるとは、限らないのに――



さて――面倒だけれど、俺も何かとうるさい愛人達に話を通しておくとしよう。当然のように、主導権はあっちにあるのが悲しいが。














『まだこの世界で我の愛しい下僕に手を出す愚か者がいたのか。よほど、死にたいと見える』

『本日起きた事件について、詳細は把握しております。王子様の手を煩わせなくても、私の方で処理しておきますわ』

『あの方に迷惑をかけるという事の意味を、思う存分思い知らせて差し上げましょう』

『ウサギにとりつく邪魔な女は、クリスが殺してあげるよ。すぐに行ってあげるから、手配して』


「まだ何も言っていないのに事情を知ってくれているのであれば、話が早いな。つまり、そういう事だ」

『……すごいね、君。平然としている』

『この人達が夫に過保護なのは、いつも通りでしょう』


 夜、時差の差なんぞ物ともしない連中が激論を交えていた。俺が来る前から既に集まって白熱しているようで、イギリスとフランス代表が呆れた様子で観戦している。

妹さんや騎士団と、忍者率いる警護チームが現在連携しているので、海鳴で起きている出来事はリアルタイムで送信される。監視社会の弊害なんぞ、こいつらは平気の平左なので恐ろしい。

この様子だと、主犯がデブである事に判明しているに違いない。俺が結論に至ったのはつい先程なのに、何故どいつもこいつも教えてくれないのか。


当事者を置き去りにした推理ゲームである。名探偵ばかりなので、物語としては何の面白みもないけれど。


『何故王子様が直々に乗り出す必要がありますの。貴方はかの聖地を支配する王なのですから、いい加減人を使う事を覚えていただきたいですわ』

『私達としては、出来れば貴方様に危険な行為をして頂きたくありません。剣が使えないのであれば、尚更です』

『カウセリング結果は、我自ら確認している。そもそも貴様が私という主以外を気にかけているから、危なげな精神状態に陥るのだ。家畜の豚なぞ、業者に処理させろ』

『可愛いウサギのために、クリスが自分で処理してもいいよ。手足を引き千切れば、そいつだって思い知るでしょう』


「……物騒極まりない発言だが、言っている事自体は間違えていないのが複雑だな」

『君がお世話になった家の人の件は試合だったとしても、道場破りは警察沙汰にも出来るからね』

『貴方の決定に口をだすつもりはないけれど、妻として貴方の心の状態には不安を感じるわ』


 カレン達は積極的な反対、ヴァイオラ達は消極的な反対を口にする。俺としても過去の因縁だというだけなので、実のところあいつについては思い入れはさほどない。

デブ本人は執着しているようだが、俺は何の執着もありはしない。何もないから声もかけずに、孤児院を脱走したのだ。ガリにだって、何も言わなかったというのに。

でもあいつにしてみれば、俺のそういう態度がより一層の反感を買ったのだろう。いじめっ子は、いじめられっ子に関心を寄せない。いじめられっ子は、いじめられたことを絶対に忘れない。


この問題の厄介な点は、あいつも問題児だということだ。


「エスカレートしていくのであれば尚更、事件性を訴えて速やかに処理すればいいという事だな」

『事件の詳細及び犯人像を照らし合わせれば、今後の傾向も容易く予想できます。王子様と違ってこの者は虫けらの如き凡庸、勝手に破滅してくれますでしょう。
覇道を歩める人間は、王子様お一人のみ。愚物が歩けるほど、平坦な道のりではございませんもの』

「基本的には、俺もあいつと変わらないんだがな。見境なく喧嘩を売って、他人を傷付けて来ている」

『それでも生き残り、出会う人達に恵まれたというのであれば、貴方様の持つ機運というものでしょう。ロシアンマフィアやテロリスト、異界の怪物達相手でも貴方様は生還しておられる』

「あいつの場合、その中に俺がいるからな……宿命なんぞありはしないが、言い換えると何もないからこそ躍起になって挑発している」

『貴様はわざわざその挑発に乗ろうとしているのだ。馬鹿な真似はやめろ』


 ――説得するつもりだったのに、説得されつつあるのがヤバイ。夜の一族の姫君達は基本的には融和路線であっても、人間を軽視しているので俺の気性に近いのだ。

戦う意味自体は、ある。デブの因縁はどうでもいいとして、デブという敵は精神を患った俺には絶好の相手なのだ。物騒ではあるが、決して危険ではない。魔龍や異教の神に比べれば。

世間体を気にしているのも、好都合だ。世間を気にかけているのであれば、世間のルールは守らなければならない。それが最低限であっても、法の枠からはみ出ることはない。

物騒ではあるが危険、危険ではないが物騒な相手。そういう人間と戦えば生命の危機自体はなく、自分に正直に戦って向き合える。


ガリと話し合った試合の段取りを、懇切丁寧に打ち明けた。


『お話は分かりました。綺堂からも後に連絡が来るでしょうから、綿密な準備を行いましょう。当然、私達も口を出させて頂きますわよ』

「口出ししないと納得しないだろうからな、いいよ。段取りについてはそっちに任せる。出来れば試合前に一度、あいつと話せる機会を用意して欲しい」

『挑戦を受けたというのであれば、嬉々として乗ってくるでしょう。二人で話す場は用意しますが、警護はつけますよ』

「その点は、向こうも同様だろうよ。今の自分には警護がつく価値があると見せびらかしたりだろうからな」

『ふん、ブタのくせに生意気。ウサギなんてこんなにかわいいのに』


 ――こうして俺はデブと試合前に明日、会うことになった。たく、面倒な……おっ、そういえば。


「気になっていたんだけど、デブの家についてお前らは何か知っているのか?」

『今更何を言っているのだ、貴様』


 俺の主を気取るカーミラは、画面越しに下僕を呆れた眼差しで見やる。



『エッシェンシュタインといえば、綺堂の姉の家ではないか』

「ええええええええええええええええっ!?」



 じゃあ最初から犯人は目の前にいたんじゃないか!? 俺はここ数日推理やら行動しまくっていたのは、一体何だったんだ!

めちゃくちゃ身内の犯行に、俺はひたすら疲労を感じた。


普通に会えたんじゃねえか……!













<続く>








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