とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第二十話







 俺がノーヴェを連れ戻したタイミングでナハトとなのはがスバルを見つけて説得し、妹さんがウェンディを発見して保護。なのははスバルの手を引き、妹さんはウェンディの脚を引き摺って合流。妹さんは意外と容赦がない。

何とか全員見つけられたのはいいが、入国管理局での手続き中における脱走だったので大目玉。当然だがゆっくりランチタイムなんて事にはならず、結局ナカジマ親子との親睦会はお流れになった。

新天地での初日から大人達に叱られて、妹達は全員揃って落ち込む始末。自業自得でしかないのだが、ギンガ達に涙目で訴えかけられて撃沈。甘やかす訳にもいかないので、俺個人ではなく身内にフォローをお願いする。


ここで俺が慰めると依存する危険があったので、同じ子供達に相手をさせるのがいいだろう。子供にとって新しい世界での生活に必要なのは、同じ年代の友達だ。


「シュテル、金を渡しておくからギンガ達にお菓子でも買ってやってくれ。面倒を頼む」

「昼食会は無くなりましたが、親睦会であれば当初の目的は果たせるでしょう。父への評価は万全にしておきますので、お任せを」

「もうこうなったら風評被害にしてくれ、頼むから」


 ジャングルジムから豪快に連れ帰ったと言うのに、ノーヴェは始終俺の後ろに隠れて纏わり付く始末。兄ではなく親を頼って欲しいのだが、気弱なノーヴェは両親にも遠慮していてアニキアニキとうるさいのだ。

考えてみれば子供であれば年長者に頼るのはむしろ自然で、自立心の高いうちの子供達の方が珍しいのかもしれない。ユーリ達は本当に手間がかからないので、子育てによる煩わしさを全く感じない。



「ところで、父上。あのナノハという少女――私によく似ている気がします」

「むっ、言われてみれば確かに声とかも似ているかも」

「私は父上の娘、ナノハは私によく似た人――想像に難くないですね」

「何を想像しているんだ、何を」

「母上との感動の対面ですね」

「ハッキリと言い切りやがった!? どう見ても子供じゃねえか!」



「あの、お父さん……お父さんは、よその家族の子供になるのですか?」

「うーん、今のところは保留だな。親権問題もあるから、今後の話し合い次第になりそうだ。ただ――お前が心配するような事にはならないよ、ユーリ。
俺はお前の父親で、お前は俺の子供だ。どんな家族構成になろうと、その点は何も変わらない」

「あっ……はい! 私はずっと、お父さんの子供でいたいです!」


「にしし、ボクは家族が増えてもヘーキだよ。おねーちゃんとして、妹達といっぱい遊んであげるよ」

「おお、やる気だなレヴィ。その調子で今日は思いっきり遊んでやってくれ、ちと落ち込んでいるみたいだからな」

「生意気なのとか、かわいーのとか、色々揃ってるよね。楽しくなりそーだな」


「父は午後から病院であろう。はしゃいでいるレヴィ達も含めて、我がしっかりと面倒を見ていよう。ナハトも、あのスバルとやらを随分気に入ったみたいだからな。遊んでおるわ」

「追いかけっこしている内に仲良くなったみたいだな。町全体を何周もしたらしいぞ、スケールが違う」

「体力が有り余っておるようだ、お弁当でも作ってやればよかった。父には面倒をかけぬので、安心して我を頼って欲しい」

「お前がいると、本当に助かるよ。ご褒美に、前から聞きたがっていた俺の昔話でも聞かせてやろうか」

「ほ、本当か!? 是非とも聞かせてくれ、我は父の事を何でも知りたいのだ!」


 泣く泣く再手続きを開始した妹達の為に、今の内にディアーチェ達に頼んでおいた。俺はこれからカウセリングなので、元々ナカジマ一家に面倒を頼むつもりだったが、すっかり逆になってしまったな。

魔導書から生まれた子供達と人工的に作られた戦闘機人達、どういう因果なのか家族という大所帯で引き合わせる事となった。どうなるのか気掛かりだったが、結果的には上手く着地出来たらしい。

下手にお昼ごはんを囲んで緊張するよりも、遊び相手として向かい合った方が子供らしくていい。ウェンディを手放しで評価することはできないが、あいつの無駄な行動力がこの良い結果を出したのだ。


聖地で俺に会えた事といい、あいつは幸運の持ち主かもしれない。


「とはいえ油断は出来ないので、妹さんは護衛を兼ねて見張っておいてくれ。あいつの再犯率は侮れない」

「お任せ下さい、剣士さん」

「再犯って……妹になった子達でも容赦ないですね」

「お前相手でも同じような事をしていたじゃないか」

「だからこそ気持ちがわかると言うか、同情してしまうというか……何にしてもまた、すずかちゃんとも会えてよかったです!」

「なのはちゃんも、元気そうでよかった」

「うん! あのスバルという子も気になるし、なのはもよかったら一緒に遊んであげますよ!」


「うむ、逃げそうになったら後ろから撃ってくれていいぞ」

「な、なのはに砲撃なんてやらせないで下さい!?」

『YES』


 ちっ、レイジングハートまで否定的か。相変わらずミッドチルダの魔導師ではなく、地球の魔法少女として平和を愛する子でいるようだ。三ヶ月経っても、他人を傷つける事を嫌がっている。

元々血を見るだけで卒倒する軟弱者だ、才能はあるらしいが戦闘力へは全く還元していない。ただ乗り越えられたのか、魔法に対する忌避感は無くなったらしい。心の整理もついたのだろう。

魔法を知った上でも、言葉への対話を重んずる少女。兄姉のような戦士としての道ではなく、母のような商人としての道を歩んでいる。他人を倒すのではなく、客のように接するのだ。


他人を友達と出来る強さは何より凄いものだと、俺も実感はしている。


「――お前の母親は今、どうなんだ?」

「おかーさんは一応立ち直ったんですけど、その……お店の方は、フィアッセさんが切り盛りしている状態で」

「家庭に専念――どうやらまだ、責任を感じているらしいな」


 俺の訃報が起因で家庭の崩壊が起きてしまった、高町家。一人一人説得やら斬り合いとかして何とか再生出来たのだが、一家の大黒柱は崩壊した事を今でも悔やんでいるらしい。俺としては耳より、心が痛む話だ。

あくまで俺の責任だと唱えるのは簡単だが、本人がそう思っていないのであれば通じないだろう。意味の分からん責任感だと言ってやるのは、少しばかり時間が経ちすぎてしまった。俺も今は、一家の大黒柱なのだから。

他の誰かによる原因で起きた崩壊だとしても、家族が壊れてしまえば親である自分の責任だと思ってしまう。もしユーリ達がそうなってしまえば、俺も剣を捨ててでもあいつらを支える事に専念するかもしれない。


家の事に専念するのは結構だが、肝心の子供達が納得していないのであれば建設的とは言いがたかった。


「フィアッセがオーナーにでもなったのか?」

「いえ、フィアッセさんはチーフなので店員さんと一緒に店を立て直しているんです。店頭販売などもしているんですけど、おかーさんがいない翠屋を開店させるのも悩みものでして」

「桃子あっての翠屋だからな、フィアッセの努力を否定する気はないが、延命処置にしか現状なっていないな」

「フィアッセさんも帰国したばかりでして、人手とかも足りなくて、大変だったんです……」


「? どうして過去形で話すんだ、立ち直ったのか」

「? だって、おにーちゃんがこうして帰ってきましたので」


「俺が解決するのかよ!?」

「おにーちゃんが解決できないんですか!?」


 こいつ……確かに自分一人で何でも抱え込むなとかつて言ってやったが、いい感じに昇華し過ぎだろう! 三ヶ月ですっかり等身大の子供になってしまって、俺としては大変になってしまった。

魔導師であれば自分で戦えと言えるのだが、魔法少女であれば戦わせるのは酷だ。大人の事情というのは、子供には分からないものだからな。余計な世話を焼くんじゃなかった。

放っとけば自分で成長して立派な魔導師となっていたかもしれないのに、世話を焼いたせいですっかり魔法少女になってしまった。子供のように純真に、大人を頼っている。


また面倒な問題が増えたな……店の経営となると、スケールは違えど同じ経営者であるカレン達にも夜相談してみるか。


「分かった。とりあえずこれからフィアッセにも会うから、事情を聞いてやるよ――帰国したあいつの様子はどうだ?」

「喉も回復して、声も綺麗に治っていますよ。海外でもフィアッセさんのおかーさんやお友達と一緒に、歌を歌ったそうです」

「……えーと、その、恭也達とはどうだ?」

「……あー、一応元通りです。おねーちゃんとも、普通に話しています。と言うか逆に普通すぎて……困惑してしまうというか」

「お前の様子から察するに、惚れた腫れたの状況はお前も理解していたようだな」

「正直いいまして、なのはが落ち込んじゃったのはその辺の気苦労もあったので……はい」


 俺が家の外で事情を聞いた時でも胃が痛かったのだ、家族として家にいたなのはにとっては肩身が狭い事この上ないだろう。そりゃあ、部屋に引き篭もりたくもなってしまうか。同情する。

皮肉にも美由希が凶行に走ったせいで恭也は自分の想いに気付き、想いに気付いた恭也への思いを募らせたフィアッセが心を痛めて喉を潰してしまった。悪循環とはこの事を言うのだろう。

事件が解決して恭也と美由希は結ばれたが、フィアッセは声こそ取り戻せたが失恋してしまった。静養の意味も兼ねて、海外にいる両親と過ごすようにすすめたのは俺だ。


美由希は俺が止めて、恭也が救ってくれた。ならばせめて傷つき取り残されたフィアッセだけでも何とか守ろうと、誓いを立てたのである。救うことは出来ずとも、せめて見守ってやりたかった。


「居心地悪い関係になっていないのであればいいけれど、どういう心境の変化なんだ」

「おにーちゃんの事ばかり、聞かれました。いつ帰ってくるのか、手紙を出せば届くのか、電話は通じないのか、等など」

「ちっ、あいつめ。俺に縋らないように、気を使っていたと言うのに」

「おにーちゃんは大人ですからね、頼ってしまうんですよ!」

「……俺を褒めるのって、基本的に身内ばかりなんだよな」


 頬を高揚させてなのはが力説してくれるのはありがたいけれど、フィアッセには何とか立ち直って欲しいので、別の恋に走られるのは良い傾向とはいい難い。次の恋に破れたら、より一層傷つくからだ。

特に、俺に縋ってくるのはまずい。失恋したばかりの女に優しくして絆すのは、絶対健全な恋愛関係にはならない。下手に受け入れると、爛れてしまうのは目に見えている。傷の舐め合いは、不健全に過ぎる。

それに俺は婚約者だの愛人だのと、余計な女に取り囲まれている面倒な状況だ。我ながら、いい案件とはいえない。護衛である以上距離を置けないし、近づけ過ぎるのもまずい。うーむ、どうするべきか。


このまま会ってしまうと、再会のキスでもされそうな勢いだった。


「どうせフィリスやリスティとも会うし、うまく緩和されることを祈るしかないか。日を改めて、お前の家を訪ねにいくよ」

「帰って来てくれるんですか!?」

「帰るとまでは言ってないだろう!? 部屋の片付けは禁止だからな」

「み、見破られている……おにーちゃんの部屋、今もそのままなのに」


「むしろそのままだから、余計に未練が残って家族の不和を招いている気がするぞ」

「うっ――そ、そうかもしれません……おかーさんもすごく、おにーちゃんの事を気にしていますので」


 通りすがりの居候に、いつまでも未練を残されると俺も困る。気持ちはありがたいのだが、かつての家族がいた部屋を残したままにしていると、寂しさが募るばかりなのだ。

しかし改めて見つめ直すと、色々な問題を置き去りにしているな俺は。三役の方々にも指摘されたが、問題を中途半端に棚晒しにしているから、あれこれと波及している気がする。

せっかく海鳴へ帰ってきたのだから、一つ一つ問題を解決していくか。幸いにも昔と違って、今は戦力も増えている。異世界ではあるが、相談できる相手もいるしな――


――そうだ、相談するのがいい。三役の方々ほどの大人であれば、建設的な意見を出してくれる気がする。大人の問題は、大人に相談するべきだ。


「お前も色々気苦労が多かったようだな、世話をかけた。今度異世界ミッドチルダの聖地へ行くから、お前も良かったら来いよ。向こうの仲間に紹介してやるぞ」

「本当ですか、嬉しいです! 是非、一緒に行きます!」

「うむ、そのついでにフェイトの問題も解決してくれ」

「はい! ――えっ、さり気なくすごく重要なことを任されてしまってる!?」


「陛下、お迎えに上がりました」

「ご苦労。それじゃあなのは、後は頼んだ」


「もの凄く綺麗な女の人と一緒にフィアッセさんと会うつもりですか!?」

「我が妹分よ、覚えておけ。兄は失恋した女にも容赦しないのだ」

「血も涙も無さ過ぎですよ、おにーちゃん!」


 元気に立ち直ったなのはのツッコミは、なかなか切れ味がきいている。家族の多い家庭で育った子の指摘はなかなか鋭く、的確だ。俺は退却するしかなかった。

こうやって退却しているから事態が悪化するのだが、その辺は勘弁して欲しい。俺も次から次へと問題が出てきて、対処するのに精一杯なのだ。


さてフィアッセ達に会いに、病院へといこう――女騎士を連れて。












<続く>








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