とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第十二話







 あのガリ野郎から一体どんな本を受け取ったのか妹さんに聞きたかったが、呼び出しを思いっきり食らったので渋々追求を避けた。あの女のせいで、会議が行われる前から疲れてしまった。

入国管理局の管理体制がどのようになっているのか知る由もないが、地元の名士達と夜の一族、夜の一族と時空管理局、時空管理局と聖王教会。横の繋がりがトンデモなくて、暴き立てるととんでもない事になるだろう。

仲介役のアリサに言わせれば俺を主軸とした関係だと豪語しているが、各方面の人間関係にひたすら振り回されている身としては複雑な思いがある。昔のように、ガリやデブの相手をしていればよかった時期が懐かしくもなる。


人間関係の発展をもたらした急先鋒が、わざわざ会議室の前から出迎えてくれた。


「エイミィから帰還報告は受けていたがひとまず無事で何よりだ、ミヤモト」

「一応執務官服は取り上げられてはいないようだな、クロノ」

「あくまで僕のバリアジャケットであり、任務を行う制服だ。環境は変われど、職務は全うする気概で望んでいる」


 人を斬る剣士ではあるが、俺とて人間だ。自分の取った行動や選択により、知人の人生が変わってしまったと嘆かれれば気にかける。本人を目の前にすれば、尚の事である。

エイミィが左遷を嘆いていたクロノ・ハラオウンではあったが、別段変わった様子はない。心配と共に懸念させられるのは、やはりかつて海外から戻った時の美由希達の変貌があったからだろう。

仏のような優しい人間でも、環境が激変すれば修羅となってしまう。天国から地獄へ落とされれば、天使も悪魔となり得る。非難は覚悟の上であっても、敵意や殺意を向けられるのは正直キツイ。


護衛役である妹さんが静観しているので杞憂ではあるだろうが、ともあれ変わっていない顔が見れたのはホッとした。会議室へ入室すると、久しぶりの面々が揃っている。


「おかえりなさい、リョウスケ。メガーヌから話は聞いたわよ、大活躍だったそうじゃない。母として、実に鼻が高いわ」

「息子の自慢をしたのは私であって貴方が鼻を伸ばす事ではないわよ、クイント」


「……っ」

「……っっ」


「――オヤジまで顔を出しているのはまさか、飛ばされたからではないよな。この件か?」

「協力していた手前本部からは睨み付けられているがな、今のところは警告程度よ。この会議の後、お前さんと家族で昼飯を一緒に食うつもりで来た」


 美人捜査官二人が不毛に睨み合っているのを尻目に、ゲンヤのオヤジが苦笑いして手を振っている。それなりの階級に就いている能力ゆえか、飛び火が来るのは何とか免れたようだ。

ただクロノとは違ってカジュアルな服を着ているので、多分休暇か謹慎でこちらへ来たのだろう。流石に上から睨まれている状況で、堂々とクロノ達に協力する事は出来ないらしい。

その点については責任を感じている手前、詳細は知っておきたい。情報連携する上でも、現状把握は不可欠だ。とりあえず睨み合っている女二人を宥め、アギトを連れて腰掛ける。


進捗報告を行っていたアースラではないと言うのに、会議室で所定の位置に座ってしまう習慣がなんだか滑稽だった。


「よく無事に帰ってきましたね、リョウスケ君。それにアギトも、今までの捜査協力には本当に感謝しているわ。今後何かあれば、いつでも力になるからね」

「けっ、お偉い役人さんが偉そうによく言うぜ――と言いたいが、こいつのせいで左遷を食らったんだってな。一応世話になったから、同情はしているよ」


 ローゼに続いて、アギトも身分を保障されて自由の身となった。身の安全が保証されたからでもないだろうけど、アギトの物腰は基本的に柔らかくなっている。精神的に余裕が出て来ていると言うべきか。

以前捜査協力を強要されたから管理局や局員には良い感情を持っていなかったんだが、今では誰であろうとあまり神経を尖らせてはいない。毒舌やふてぶてしい態度は相変わらずだが、悪意はなかった。

古代の融合機としてロードのいない自分を恥じる一面もあったというのに、こうして俺の面倒を見る余裕もある。自由を求めていながら、自由を得た瞬間に放浪するのをやめてしまった。


人のことは言えない、俺も旅をやめてしまっているのだから。


「エイミィから話は聞いたけど、まさか関係者一同全員が左遷を食らう事態になるとは思わなかったよ。有り金を分捕ったのがそこまできいたのか」

「そうそう、あんた。オークションへの資金として、スカリエッティを通じて事件の首謀者から根こそぎ奪い取ったんでしょう。メガーヌ捜査官も注意したでしょうけど、本来はれっきとした犯罪だからね」

「とにかくまず、話を聞かせてくれ。首謀者に関する報告書より、君に関する報告書を読む度にこっちは戦々恐々とさせられたんだ。
越権行為ではあるけれど一緒に行くべきだったと、心の底から思い知らされたよ。

長らく追っていた主犯は君を通じて自首してくるし、神経を尖らせていた戦闘機人達は君に対して保護を求めているし、挙句の果てに君自身が黒幕を勝手に追い詰める事態になっている」

「聖王教会からは、聖王陛下として祭り上げられていると聞いている。尋常ではない事態に介入するべきか悩みに悩んだが、君が無事に帰って来てくれて今ようやく安心させられたよ」


 空の苦労人であるクロノと、地上の苦労人であるゼスト隊長が揃って深く息を吐いている。聖地へ何しに言ったのだと問われれば、張本人の俺でも首を傾げてしまうからな。本当、何をしに行ったのだろう。

苦労するには目に見えていたが、聖地では権力闘争から全面戦争にまで発展して大変な騒ぎだった。最終戦では異教であれど、本物の神まで降臨したのだ。まるで物語の中にでもいるような気分だった。

この体験談を一から十まで説明してしまうと本当にお伽噺のようになってしまうが、実体験なので許してもらいたい。そもそも俺のような管理外世界の人間からすれば、こいつら魔導師だって空想上の存在なのだから。


同席したメガーヌ・アルピーノの補足も受けて、まずは俺から全員に聖地での出来事を詳細に語った。


「――嘘みたいに聞こえるけど、こいつの話は全部マジだからな。何でこいつが生きているのか、同じく死にそうになったアタシでも分からん」

「いや、むしろ彼だからこそ起きた出来事の連続だと思うと納得させられる。君も痛感しただろうが、この男の影響力は時にとてつもない波紋を生む」


「相当苦労なされたとは思うけれど……あのお三方よりお力添え頂けたのは、本当に不幸中の幸いだったわね」

「メガーヌ捜査官の話だと、今でも現地で折衝して頂けているんだろう。俺も年の事は言えねえが、今でも立派に現役だわな」

「彼が直接協力を依頼したのは、大した先見の明であったと思う。直接介入が行えなかった我々としても、心強い限りだ」


 アギトやクロノが呆れ顔を見せる中、捜査チームに協力するレティ提督やゲンヤのオヤジがゼスト隊長と話し込んでいる。お三方の話をした時の、皆の反応は劇的だった。

メガーヌから事前に報告は受けていたと言うのに、この反応だ。時空管理局や聖王教会に強い発言力を見せていた三人の御老公達、彼らの影響力を持ってすれば印籠で身分を証す必要もない。

基本的に影響力を持つ外部の人間を取り込む事についてはあまりいい顔をされないのだが、あのお三方については恐縮しつつもクロノ達にとっては心強い存在であったらしい。評価が高かった。


俺の評価が上がったというよりは、お三方の存在が群を抜いているのだろう。結局身分や階級を聞かなかったが、俺にとっても頭を下げるべき人生の師である。


「君の聖地における活躍は納得しがたいものはあるが、よく理解出来た。事件のことは差し引くにしても、困ったことになったな」

「い、色々思い当たることはあるけれど、具体的に聞かせてくれ」

「確かに君自身が起こした数々の一件も困ったことではあるのだが、僕達が懸念しているのは君自身の今後だ」

「"聖王"陛下の一件か……?」


「それに纏わる話ね。貴方にはジュエルシード事件から今日に至るまで、大きく貢献してもらったわ。捜査協力に始まって遂には主犯の説得にまで漕ぎ着け、事件解決の大きな足がかりとなった。
その事については本当に感謝しているのだけれど、同時に心苦しくもあったの。本来民間人であった貴方に対し、私達は過度とも言える干渉と介入を続けてしまった。

今更無関係を強調するつもりはないけど、かといって貴方の厚意に甘えて深入りをさせ続けていては、やがて干渉を断ち切る事が出来なくなってしまう」

「今のリンディの話は私からの忠告でもあったのよ。ローゼさんやアギトの件についても、元はと言えば私達が貴方に協力を持ち掛けた事が原因の一つであったと思っている」

「お前さんは男気のある奴だ。当初はうちのカミさんの申し出ではあったんだが、今では俺はお前を実の息子のように思ってる。でも俺らの関係が、お前の人生を大きく左右しちまうのは心苦しくてな」


「せめて進路について選択肢を作るべく距離を置きたかったのだが――聖地における君の立場が、決定打となってしまった」


 ――次元干渉事件の民間協力者であれば、事件が解決すれば終わりだった。ところがローゼやアギトの人権問題に発展してしまい、ついには"聖王"陛下という立場にまで収まってしまった。

ここまで至ってしまっては、たとえクロノ達が協力関係を収めたとしても無関係ではいられないだろう。感謝状と金一封で収めるタイミングを、彼らなりに図ってくれていたのだと言う。

思い当たる節は多分にあった。クロノ達からも散々忠告は受けていたし、レティ提督やゼスト隊長も常に厳しい態度で望んで俺との協力関係をふまえてくれていたように思える。

どこかで断ち切れればよかったのかもしれないが、俺らしくもなく事件解決に大きく貢献してしまった。貢献すればするほどに手を切るタイミングを失ってしまい、結果として深入りする羽目になった。


確かに何処かのタイミングで手を切ってしまえば――今の現状は、ありえなかっただろう。


「実を言うと今、剣に対する意欲を失ってしまったんだ」

「剣への……?」


「クロノやリンディ達は、俺が剣に対してどれほど意欲的だったのか知っているだろう? 平和な管理外世界で実に馬鹿な話だが、剣で天下を取ってやろうと意気込んでいた。
あんたらを通じて数多くの強敵とぶつかり、戦っては強くなれた。聖王様なんぞと崇め奉られて、天下を取る目前だったんだが――俺は自分から退き、剣を捨ててしまい、意欲もなくしてしまった。

こんな事を言うとらしくないと言われるかもしれないが、今後どうしていこうか悩んでいる」


 自然と打ち明けられたのは、彼らが苦しい心境を語ってくれたからだろう。カウセリングで話すべき相談を、今後の関係について悩む彼らに言うのはどうかしている。

でも、話しておきたかった。愚痴を言いたいのではない。不平不満を述べたいのではない。八つ当たりがしたい訳でもない。


彼らは思い違いをしている、その点を分かって貰いたかったのだ。


「こうして剣士であるべきかどうか悩むのだって、ゼスト隊長の言う選択肢の一つじゃないかな」

「! 君は……」


「盛大に苦労させられたけど後悔はしていない、それだけは本当だ。だから俺の将来について考えてくれているのなら、是非とも今後も相談に乗ってくれ。
大きく関係を持ってしまった今が良いのか悪いのか、分からない。だからこそせめて、関係を持って良かったのだと思わせてくれ。その分、俺も力になる」


 三ヶ月経過して聖王なんぞとなっても、大層なことは言えなかった。どこにでもいる十七歳の、当たり前のような発言。進路に迷う子供が、大人達に頭を下げているだけだ。

ただ成長がないとは思わなかった。先ほどガリに指摘されて気付いたのだが、俺は多分色々なことを経験してようやく年相応の人間になっているのだろう。真っ当な人間という奴だ。

そして今言った通り、それがいいことなのかどうかは分からない。人間としては喜ばしくても、剣士としては失格だ。剣士だからこそ生き延びられたのであれば、人間になってしまうと命運が絶たれる。


素直な心境を語って彼らとしても感動こそしないが、大人として大きく頷いてくれた。


「"聖王"陛下となって大層な身分となったが性根のところは変わっていないな、ミヤモト」

「ガッカリさせてしまったかな」


「僕としてはそのまま悩まずに真っ当に生きてほしいのだが、悩んでしまうあたりは君の困った点が改善されていないらしいな」

「私達による影響であるのであれば、私達としても力になりたいわ」

「私はあくまで協力者の立場でしかないけれど、リンディ達の事も気がかりだし、その延長で良ければ相談にのるわ」


 リンディ提督やレティ提督からの温かい微笑みを向けられて、改めて俺は彼らの手を取った。聖王になったことを除いたとしても、この関係を今となっては断ち切れない。

自由になったアギトも不敵に笑って、俺の肩に飛び乗った。一応は力になってくれるらしい、頼もしいデバイスだ。俺の剣で眠る守護者達の力強い鳴動も、聞こえてくる。


一層の協力関係を確約したところで、ゼスト隊長が立ち上がった。


「君がこの先も力となってくれるのであれば、我々の現状も話しておくべきだろう」

「俺も気がかりでした。何でも時空管理局側で、大きな人事の動きがあったとか」


「時空管理局、地上本部――その正規階級における最高位、軍司令官となる"中将"が選ばれた」


 "リューテネント・ジェネラル"、軍団将軍とも呼称される律令制における官職。大将の下ではあるが、将官に区分される中将階級章である。

実働部隊における統合軍の副司令官、大将級ポストを補佐するナンバー2の役割を担う役職。各統合軍隷下の陸部隊において、部隊司令官においても中将が充てられている。


管理局が保有する戦力を指揮する権限を与えられる階級に、強力な推薦をもって任命された。



「地上本部においてトップに君臨した人物、レジアス・ゲイズ"中将"。俺の上司であり――我々が捜査した一連の事件に、大きく関与している人物だ」



 自分の心情を赤裸々に明かした俺に対して――ゼスト・グランガイツ隊長もまた、苦しい胸の内を明かした。











<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.