とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第三話




「ここは入管なのよ」

「にゅう、かん……?」

「"入国管理局"だから入管、前例のない施設だから便宜上そう呼ばれているの。天の国は聖王陛下のおわす天上の楽園、ゆえに出入国管理は徹底しなければならない。
"聖王"陛下はフリーパスでも、聖王陛下の同行者は厳重な審査による登録が行われる。聖王陛下関連の行政事務を行う施設なのよ」


「いや、待ってくれ。そろそろ話についていけなくなってきた」


 そもそもの話、此処は本当に海鳴なのだろうか――いや逆に、ここまで徹底した出入国管理が行われているのだから管理外世界である事に間違いはない。

その点は大いに理解出来るのだが、地球であるのならば地球人が行政管理している筈だ。なぜこいつらは我が物顔で、異世界に入国管理局なんぞおっ建てているのか。

まさか俺が居ない間に、地球は時空管理局を法とするミッドチルダに占拠でもされたのだろうか。異世界は魔法を主軸としながらも、高度な科学技術を有しているからな。


俺の懸念は、エイミィのジト目で払拭された。


「管理外世界の出入国管理は法の枠外となる為、本局の所管に置かれるのよ。異世界人の滞在及び退去に関する件も、管理外である為に相当厳しい。
本局の任務では、管理外世界への不法入国の取締りも年々強化されているからね。その活動の一環として、私達が今まで行ってきた。

ただしこの天の国においては聖王教会の勧告によって、自治法の影響を受けた出入国管理令が管理局との間で制定されたの。"聖王"陛下の重要性を伴った、特例法というわけ」

「次元世界の法務を所管する本局から、聖王教会へ特例法による出入国管理権を移管された形か」

「自治権を持つとはいえ、あくまでミッドチルダの管轄内。本来ならばそこまで聖王教会に譲渡する事なんてないわ――けれど、あんたの存在によって勢力図が激変した。
"聖王"陛下降臨による宗教性の成就に加えて、魔龍や異教の神を滅ぼす武功。王が作り上げた白旗の勢力は、地上本部を脅かす戦力と勢力を有している。

挙句の果てに古代ベルカ戦争を終結させた、聖王のゆりかごを保有。聖王教会、ベルカ自治領の申し出を拒否出来なくなったのよ」


 ……むなしい。時空管理局を及び腰にまでさせた努力の成果が、アホ一人の自由の為にあったのだと思うとむなしい。三か月分の疲労が蓄積された気がした。


ちょっと言い辛いが「本局の外局」として此処が発足されたのだと、エイミィ・リミエッタが経緯を物語る。出向者であるクロノ達は管理局内における外様扱いとなったのだ。

なるほど、エイミィが俺に憤るのも頷ける。教会の言いなりにならざるを得ない上層部が、八つ当たり気味に管理局内の厄介者をここぞとばかりに左遷したのだから。


左遷されたとはいえ、クロノ達は超一流の有能者達。加えて"聖王"陛下の関係者となれば、聖王教会も一も二もなく大喜びで迎え入れたに違いない。可哀想過ぎて泣けてきた。


「経緯は分かったが、実現できるかどうかは話は別だろう。此処は管理外世界、本局にとっては監視対象であり取り締まりの領域だ。なぜ、これほどの権限を行使出来ているんだ」

「入国管理局という認識はあくまで、ミッドチルダ側の事情を伴った一面でしかないの。先程、入管と便宜上で呼んだのはそういう事よ。
あんたの不安を解消してあげると、この施設は海鳴に建設された国際文化会館。国際相互理解のための文化交流、知的協力の促進を目的とする施設よ」

「……エイミィ達のような異世界人を、"外国人"と定義する隠れ蓑か」


「数多くの国から研究者、文化人、芸術家、企業人等が集って、人物交流を中心に取り組んでいるわ。実際、そうした施設やプログラムが用意されている。
欧米からの人物招聘も積極的に行っているから、あたし達異世界人が参加しても大丈夫なのよ。宿泊施設や会議施設、レストランや図書室なんてものまであるわ」


 海外からの人物招聘――この時点でもう、眩暈がした。本当は事情なんて把握していたのに、頭が理解する事を拒否していたのかもしれない。

海外から文化人や芸術家、企業人等が海鳴なんて田舎町に集う理由なんぞ、各分野で台頭する怪物達の存在以外にありえない。わざわざ日本になんぞ積極的に来ないだろう。


だが、俺も日本男児。何事も諦めてかかってはいけない、不屈の意思で挑むべきだ。


「隠れ蓑とはいえ、どうしてこんな田舎町で国際文化会館なんぞ建設出来るんだ。こういう施設は財団規模の援助と国際政治力レベルの支援が要ることくらい知っているぞ」

「あんたは知らないだろうけど、この三ヶ月で知事や市長等の議会勢力がほぼ総入れ替えになったの」

「俺の居ない間に、何で選挙なんぞ行われたんだ!?」


「管理外世界の政治事情を、あたしに聞かないでよ。とにかく政治が基盤ごと変わってしまって、積極的な国際相互協力と理解を目指す政治が行われるようになった。
世界有数の財閥や財団をはじめとする内外の諸団体及び各著名人達の支援により、この海鳴は急速な発展を遂げている。地域密着型の親交政策が取られているから、住民の理解も得られているそうよ。

一定の要件を満たしていれば、事業目的に公益性や社会性がなくても設立できる国際財団が設立されて、経済や教育も活性化。多くの人材が海鳴に集まっている。

アリサちゃんがアリアを通じて、教会の使者としてあたし達にコンタクトを取ってきたのはこの頃よ。あんたの我侭を叶えるべく、あの子がこの海鳴を取り仕切る財団にコンタクトを取ってくれたのよ。
本当に凄いわね、あの子。その日の内にあらゆる方面からの支援援助を確約して、国際文化会館を隠れ蓑とした入管の設立を約束してくれたわ。


感謝しなさいよ。アリサちゃんのおかげで、こんな立派な施設が出来たんだから」


 ……嫌な予感が、見事に的中した。あいつは確かに女帝の後継者にまで実力で上り詰めた偉人だが、留守中に基盤を固めた関係者各位にコンタクトを取れる筈がない。

だが、最初から国際財団とのコネが出来ているのであれば話は別だ。しかも即承認されたのであれば、何一つ異世界の事情を求められなかったのに違いない。

そこまでのごり押しがきく連中は、思い当たる限りあいつらしかいない。冗談じゃない、帰って来たばかりであんな怪物共の縄張りに飛び込みたくはない。



――あっ。



「ナハトヴァール達を別室に移したのは、もしかして」

「気付いたのは褒めてあげるけど、気付くのが遅いので帳消し。なんで親切丁寧に、あたしがわざわざあんたに事情を説明したと思う?」

「時間稼ぎ――だ、誰に、連絡を取った!?」

「残念だけど、もう関係者全員に連絡を取っている。アリサちゃんはあんただけの事情ではなく、関係者全員の事情も考慮して今日という日を決めたのよ。

そしてあたし達は、時空管理局。迷子になった子供を見つけたら――誰に、連絡すると思う?」



「この野郎、あいつに連絡を取りやがったな!?」



 ニシシと嫌みったらしく笑うエイミィの顔面を殴ってやりたいが、時間の浪費にしかならない。即座に回れ右をして、此処から出て――のおおおおお、なんだあの警備員の大群は!?

愚か者め、俺は魔龍や異教の神を成敗した男だぞ。貴様ら如き、薙ぎ払ってくれるわ。剣を振る意欲そのものはないが、害虫駆除にわざわざ意欲なんぞ必要としない。

果敢に剣を振り上げた俺の胸元めがけて、先頭の男がタックル。たたらを踏んだ瞬間に、右から男が手を伸ばして手首を固定。抵抗した途端によろけてしまい、左から男が足を掴む。


みじろぎしたところを取り囲まれて、丁重かつ豪快に持ち上げられる。何じゃ、この見事なコンビネーションは!?


「一応言っておくけど、全員プロだからね。どれほど強くなったのか知らないけれど、対人訓練の量はあんたの比じゃないわよ」

「こ、こら、"聖王"陛下にこんな無礼を働いていいと思っているのか!?」

「聖王教会による治外法権下とはいえ、地元の有力者相手に逃げるような奴なら、確保しても許されるでしょうよ。連れて行きなさい」


「は〜〜〜〜な〜〜〜〜せ〜〜〜〜!」


 くそっ、駄目だ。人を斬る事に、どうしても専念できない。雑念が混ざりまくって、プレセアやガルダ相手に発揮出来た集中力が維持出来ない。このザマでは多分、神速も使えない。

どうなっているんだ。どうしてしまったんだ。確かに剣を捨てて夢破れたのは事実だが、やる気を失ったのではない。剣は好きだし、剣で強くなりたいという気持ちはある。

剣への恐怖症ではないのは、今分かった。敵であれば、倒そうとする気概はあった。ただし、斬れない。斬るという感覚が、宿らない。


痛感した――"剣士"に、なれない。人を斬る事に、専念できなくなっている。一体、どうして!?


「ジュエルシード事件当時の俺と、一緒にするなよ――断空剣!」

「嘘っ、足で斬り裂いた!?」


 空中戦は、ガルダとの死闘で嫌というほど経験している。空中に地面はないが持ち上げられている状態であれば、人間という足場で地の力を練り上げられる。警備員の帽子を、斬り落とした。

思わぬ反撃に目を剥いた警備員の肩の上を蹴って、舞い上がる。取り囲んでいた警備員の包囲網を飛び越えて、着地。剣を竹刀袋ごと手にして、その場を全力で離れる。

確かに対人訓練を積んでいるようだが、猟兵や傭兵には及ばない。あくまでも鎮圧が前提であれば、プロが相手でも素人の付け焼き刃でどうにでもある。プロより教わった知識と、経験があれば。


どうしてあいつに連絡が取れる。自分の身の上をアリサ達に話した事はあるが、身元を正確には説明していない。自分の足で帰るつもりだったからだ。


アリサが段取りをしてくれていたのは知っていたが、俺の予想を遥かに超えて準備が整っている。あの怪物共が全面協力すれば、俺の故郷や孤児院を見つけ出す事は容易い。

故郷へ帰るつもりだった、あいつにだって顔を合わす事を覚悟していた。ただ何を言えばいいのか、今でも分からなかった。話すべき言葉は、剣と共に消えてしまった。


あいつだって今更俺と会うつもりなんて――なっ!?



「予想通りの行動を取ったな、バカ息子」

「お前――!?」



 ――よく勘違いされるのだが、子供達が遊ぶチャンバラはあくまでチャンバラ"ごっこ"である。本物のチャンバラは、小太刀護身道を基にした立派な剣術である。



小太刀護身道を基にしたルールが制定されて、用具の開発が進められたチャンバラは現在においても進化し続けている剣技。より安全にしかも健康的に、という観点から、女性も比較的多い。

1人対1人で行う対戦、1人対多人数、多人数対多人数といった多人数対戦の乱戦、より人数を増やして50人対50人の合戦といった対戦方式。周りにいる全員が敵と想定し戦うサバイバル技術まで存在。


子どもの遊びを原点に生まれたチャンバラを幼児期から少年期、青年期への礼儀を教えるという観点からマスターした――無敵の女が、かつていた。


「"両車"!」

「私を相手に先の先を取ろうとは、生意気だ」


 左から牽制すれば切り離され、右足から右方向へ踏み込んで袈裟に斬れば返される。間を置かず右足を踏み込んで更に袈裟に斬りこめば手刀で弾かれる。

相手よりも先に動作を始め、相手よりも先に剣をあてる戦い方。俺が得意と出来たのは、模範となる技を実際に見ていたから――チャンバラごっこで遊んでいた、この女と。


竹刀は空へ舞い上がり、俺は地面に叩き付けられる。起き上がろうとしたら、肋ごと踏み込まれて呼吸さえ詰まされた。


「マフィアやテロリスト相手に生き残ったと聞いたが、随分と腑抜けた剣だ。親だろうと他人、戦うのであれば容赦をするなと教えた筈だぞ」

「この、ババア……ゴハっ!?」


「口の悪さは変わらんな、一体誰に似たのやら」


 集まった警備員達、慌てて追いかけてきたエイミィまで、呼吸さえ忘れて見入っている――無手の剣技を見せ付けた、大人の女性。絶世と讃えられる容姿と、絶技とも言うべき剣技に見入って。

日本人には珍しい長身と、均整のとれた抜群のスタイル。 ロングの黒髪、丸みを帯びた胸、細いながらもくびれた腰、白シャツにジーンズという飾り気のない服装さえ美しい。

年齢不詳の、妙齢の美女。知的でモデル並みの体格は、何年経過しようと少しも色褪せない。叩き付けられた地面から見上げても、大きな胸に隠れていて憎たらしい顔が見えない。


誇り高く、何者にも傅かない、王者の気質を持つ女性。踏み付ける足の太腿も、美しく整っていた。


「――だが、また生意気な口をきけて安心した。良い人間に巡り会えたな、バカ息子」

「俺を容赦なく売りやがったあいつらは全員敵だよ、"ヒミコ"」


 長剣を槍のように持って戦える女、"宮本陽巫女"――孤児院で俺の育て親をやっていた、天下無敵の保母である。











<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.