とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第六十三話




 ――白旗対聖王教会騎士団で分かれた、フィールドマッチ。ライフポイントを利用して、魔法戦技術を競う決闘方式。魔導師ランクを問わず、両チーム各員が一万のライフポイントを設定。

攻撃がヒットした際にライフポイントが減っていき、ライフが0になると敗北。特殊な結界の中では本当の負傷にはならないが、クラッシュエミュレートにより身体ダメージが表現される。

実際の身体には一切傷を負わないが、負傷を受けた時と同じように痛みを感じたり、身体の動きが鈍るといった状況が魔法で再現。付加されたダメージは試合が終わると、傷も痛みも残らない。

ライフポイントやクラッシュエミュレートは、決闘場で用意されたシステムで付与される。このシステムは管理局と聖王教会が長年の記録を元に開発したため、精度の高いものとされている。

だからこそ今目の前で起きている現実に、世界中が沈黙してしまった。


『ユーリ・エーベルヴァイン DAMEGE:2 LIFE:9998』


 "真なる聖王"の秘伝技、マグナ・グラエキア。聖王教会騎士団の団長殿が放った、開幕からの超絶技。大地を切り裂く光の一刃は決闘場を両断して、ユーリを真っ二つにした。

俺は魔法についてはまだまだド素人ではあるのだが、恐らく今の一閃は団長殿の奥義に等しい渾身の一撃だったのだろう。開幕から真っ先に大将の俺を狙った奇襲は合理的で、容赦がなかった。

聖王の名を冠した、伝統の奥義。聖王家の必殺は、信徒達の間でも秘奥である技。観客が聖王教会騎士団の勝利を信じて疑わなかったのは、正にこの騎士団長の剣技があってこそだ。

聖王教会騎士団の騎士達、歴戦の勇士達が茫然自失となっている。正直標的であった俺自身でさえも娘の無事より、娘の陥落を想像してしまった。信じられない。


「ユ、ユーリ……お前、本当に何ともないのか?」

「お父さん、私を心配してくれたんですか!? ありがとうございます、嬉しいです!」

「そこまで喜ばれると、傷一つない事が逆に不安になってくる」

「愛する娘の心配をする父上の心中を慮って、父の右腕であるこのシュテルがユーリの回復を行いましょう。常に父上の事を一番に思っている、このシュテルが」

「あっ、ズルい!? パパへの露骨なアピール!」

「戦闘中であっても父への心証を第一とするとは、恐るべき妹よ。偉大なる父の後継者であるこの我も、負けられないな」


『ユーリ・エーベルヴァイン RECOVERY:2 LIFE:9998→10000』


 シュテルの回復魔法で、ユーリのライフポイントがあっさりと全快。ユーノと比べれば稚拙な回復術だが、DAMEGE:2程度ならばこれくらいで問題がない。つまり、全快してしまった。

聖王家の必殺技、騎士団長殿の奥義が回復魔法一つで簡単に無かった事にされてしまう。父親が右往左往している中、肝心の娘達だけが呑気に歓談してしまっている。何が何だか分からない。

会場の観客達はおろか、世界中でこの決闘を見守っている観衆達も同様の反応だろう。娘達の呑気な会話を聞いて正気を取り戻した人達の中で、どよめきが起きてしまっている。

振り下ろした剣の行き場がなかった高潔な騎士団長が、奮然と立ち上がった。


「聖王教会騎士団を率いる団長として、私はこの決闘のシステムに異議を申し立てる!」


 当然何を言い出すのだと困惑する俺と、絶対に言うと思ったと言わんばかりに嘆息するクアットロ。異議を申し立てられたユーリ本人も、涼しげな顔を浮かべている。

言いたい事は同じ剣士としてよく分かるのだが、この決闘は正義の在り処を問う場。異議の申立てに容易く応じていては、主義主張を闘う意味が無くなってしまう。

居住まいを正して、白旗を率いる大将として反論を申し立てなければならない。


「我らは質実剛健を志す白き旗の一団である。何故に剣ではなく、言葉で問い質すのか!」

「清廉潔白が聞いて呆れるわ、"聖王"殿。我こそが聖王家に連なる者、互いに王を名乗りながら目指すべき頂が違うとは残念でならぬ。
我が一刀は聖王教会騎士団を代表する正義の刃、断罪を受けた者が不実であっては正義は問えぬと知れ!」

「口を慎められよ、聖王教会騎士団長殿。この決闘は法の守護者である時空管理局、神の信徒である聖王教会が審判とする戦場であるぞ!」

「知っておられるか、"聖王"殿。世俗の間では、貴君が時空管理局及び聖王教会と癒着しているという噂がある。偉大なる三提督並びに司祭殿、大商会との親密さがその証ではないか!」


 ……こいつも誤解しているのか、盛大に肩を落とした。どうやら決闘にあたって、聖王教会騎士団の特権を行使して、白旗について徹底的に調べたようだ。管理局や教会にも問い合わせたらしい。

三提督と言えば、俺の知り合いではリンディ提督にレティ提督、グレアム提督の事だ。何を勘違いしているのかしらないが、彼らには立場が別にあって提督として俺とは関係していない。

司祭殿との定例会議は秘匿していたのだが、定期的に教会へ通っていれば騎士団長殿の特権があれば知られても不思議ではない。ただ話し合っているのはローゼの件が主であって、決闘は関係ない。

大商会については、言語道断だ。カリーナ・カレイドウルフは個人を優遇する女ではない。彼女が肩入れするのは、便宜を図るべき利益があるからだ。個人の嗜好が入る余地などありはしない。


この決闘の場は大商会が段取りして、時空管理局と聖王教会が審判となることで成立している。白旗とその組織の関係を疑ったため、決闘システムへの疑惑も生じてきたのだろう。


「貴殿はこの決闘に我ら白旗の不正な介入があるのだと、申し立てているのか!」

「いま目の前で起きた現実が、赤裸々に語っているではないか。我こそ真なる聖王、S+ランクの魔導ランクを誇る魔導騎士。渾身の一撃を受けて、DAMEGE:2などありえぬ。
何の防御もせず、回避行動も行わず、無抵抗で受けてあのダメージ数値。それこそが、不正を物語っている。聖女面をした魔女の本性を、この場で暴き立ててくれる!」


 実に大仰な言い方ではあるが、聖王教会騎士団を率いる騎士が決闘の場でこれほど感情的に事を荒立てるとは思えない。多分、不正があることを前提として演技だ。

魔導を知らぬ俺でさえありえないと疑った現実は、同じ弱者である観客達も共通認識だろう。その嫌疑を不正だと自分から申し出る事で、自らの正義を確立させた。

同じ団長である俺が右往左往している間に、いち早く決断して意義を申し立てた判断力には目を剥いた。いちいち悩む俺の優柔不断を恥じ入るばかりの決断に、唇を噛みしめる。

だが後悔して俯く時間は、とうに過ぎている。俺は既に個人ではない、ユーリ達を率いる長だ。相手の偉大さに平伏すだけでは、他人を率いる資格はない。


「ならば、世界に問おうではないか。我らが掲げる白旗に曇りなどないことを、この決闘を見守る全世界に証明してみせよう!」

「見事な決断である、"聖王"殿。我らとて聖王教会を代表する騎士団、決闘相手である自分達の手で傲岸不遜に断罪するつもりなどない。我らが神に審判して頂こう!」


 舌打ちする。ここでいう神とは教会そのもの、聖王教会にシステムを調査させるつもりだ。仲介役なので采配としては正しいが、宗教組織に絶対の公明正大など存在しない。

宗教権力者達は味方につけたが、聖王教会騎士団を援助しているのは宗教組織を支える貴族達だ。聖王家に連なる家系であれば、有力な家系が多い。そうなると団長に味方する可能性がある。

システム改竄を調べるのではなく、システムを改竄されてしまうのはまずい。不正がなくても、不正があったとするのは難しくはないのだ。


ならば時空管理局を味方につければ――と考える俺の決断は、やはり遅すぎた。


「双方の申し立てを受理する。時空管理局顧問官を務めるこの私ギル・グレアムが、時空管理局を代表して仲介させて頂こう。双方に、異存はないな?」

「ギル・グレアム顧問官殿の評判は耳にしている。最高顧問である貴殿あれば、何の問題もなかろう。聖王教会騎士団、異存はない」


 腹が立って仕方がない。ギル・グレアム提督、どうしてあの男は常に俺が崖っぷちに立たされている状況で介入してくるのか。敵として天晴だが、味方ではないので憎たらしいの一言だ。

万が一不正がなくても、俺には懐疑的なあの男が納得するとは到底思えない。自分から名乗り出た以上、ユーリの実力には相当な疑惑を持っているのだろう。それほどまでにありえない実力なのだ。

不正がなくても不正を疑われた上で身の潔白を証明するのは、結局悪魔の証明に等しい。疑っている人間を相手に、絶対にないのだと証明するのは困難だ。何をどうしたところで、怪しいと決めつけられてしまう。

経験上、あの男を相手に反論すると水掛け論になるのは目に見えている。


「決闘システムは時空管理局と聖王教会に設定して頂いた、正当なる決闘場だ。システムへの疑惑は、管理局への信用に繋がってくるのではないか」

「我々は次元世界の法を守る、絶対的中立の組織だ。信用問題となれば尚更、自ら潔白を証明するべきだろう。
君達白旗への疑いが、我々への信用問題へと発展しつつあるのだぞ。君の失態になりかねない問題について、我々が責任を持とうというのだ」

「我々ではなく貴方自身でしょう、ギル・グレアム最高顧問官。貴方自身の名でシステム調査を行うと、今宣言されたではありませんか」

「その通りだ。私はこの場において、時空管理局の代表として参っている」


「つまり時空管理局代表である貴方が白旗への疑惑を持ち、最高責任者である貴方自身の名を持ってシステム調査を行うという事ですね」


 俺が何を言いたいのか分かったのか、グレアム提督がようやく口を閉ざした。馬鹿め、俺個人への疑惑を白旗全体への疑惑に心の中ですり替えてしまったお前の負けだ。

反論ではなく、敢えて賛同することで相手を陥れる窮余の策。絶対的王者の立場で会議に挑んでいたカレン・ウィリアムズが好んでいた戦法である。自分でやっていて、このエグさに戦慄する。

聖地を白夜に染め上げたユーリの実力は本物だが、人智を超えてしまうと逆に受け容れ辛くなる。ましてライフポイントという具体的な数字を出されると、数字で表せない力には懐疑的となる。

我が故郷の日本にも超能力者の類は幾らでもいるが、本当に超能力だと信じている人間は少ないだろう。必ず手品の種があると確信している。この場で言えば、システムの不正だ。


グレアム提督は俺への疑惑から追求しているのだろうがアースラならともかく、この場はベルカ自治領だ。責任問題に発展すれば、時空管理局で強い権力を持っていても誤魔化せない。


時空管理局の威信で圧力をかけようとするグレアムの心理を見抜いて、俺は責任の所在を赤裸々にしてやった。この指摘自体は正当なものなので、否定は出来まい。

管理局の土俵であれば幾らでも誤魔化しが利いたのだろうが、聖地では聖王教会と対等の立場である組織のお偉いさんにすぎない。特権を振りかざすのは不可能だった。


『聖王教会騎士団を率いる騎士団長の指摘に対し、仲介役である時空管理局が受理致しました。この決闘の運営役である我々カレイドウルフ大商会としても静観出来ない事態です。
聖王教会のご承諾を頂けるのであれば、この決闘を一時預かりとしてシステム調査を行いましょう。如何でしょうか?』

『私達聖王教会は神の御名において平等であり、決闘には公平な立場で望んでおります。白旗の団長殿こそ我ら教会が待ち望んでいた神、"聖王"陛下であらせられる。
不正を行う人物が、神を語る事などあってはならない。"聖王"様が身を正すと仰るのであれば、我ら信徒は是であると平伏いたしましょう』

『ではこの決闘をこの私、カリーナ・カレイドウルフの名を持って一時預かりと致します。双方共に、その場を動かないで下さい』


 大変な事態になってしまった、この場にいる各責任者が重い責任を背負う事となった。誰も傷付かずに終わる事は最早、あり得ないだろう。単なる停止ではなく、停戦命令がそれを物語っている。

疑惑をかけられた白旗のみならず、疑惑をかけた聖王教会騎士団もカレイドウルフが身柄を預かった。すなわち、双方いずれかに罰を下すという厳正な態度に他ならない。

司祭様の態度も、聖王教会本山として正しい。復活祭開催で俺こそが"聖王"であり、聖女の予言成就を世界に向けて宣言したのだ。不正問題を指摘されて、態度を翻す事などあってはならない。

停戦となって観客は混乱と困惑に声を上げて、広大な決闘場を巡回していた主要マスメディアの全てが盛大に騒ぎ立てている。聖王教会と時空管理局を発端に、世界全体を揺るがす事態だった。


「陛下」

「何だ、クアットロ」


「白旗を有利とする為にわたくしがシステムへの介入を行ったのだと、思いませんでしたの?」


 聞き捨てならないと、主賓席に控えていたセッテが目の色を変える。けれどクアットロは少しも怯まず、逆に鋭い視線を向けてセッテの足を止めてしまった。

正面に立つユーリが顔色を変え、脇に控えていた月村すずかが拳を握った。誰もが皆、今起きている疑惑の重さを理解している。不正が発覚すれば、白旗は終わりだ。

時空管理局と聖王教会が仲介している以上、システムへの不正となれば両組織への責任となる。その事を指摘すれば不正の調査とならなかったのに、俺が身の潔白の為に自ら差し出したのだ。

クアットロがもし、本当に改竄していれば終わりである。


「愚問だな、クアットロ」

「あら、随分とわたくしを買って下さるのですね。貴方を裏切った人間なのですわよ、わたくしは」


「何を勘違いしている。お前が不正を起こしたというのであれば、代表である俺が責任を取るだけだ」


「えっ……わ、わたくしを単に信じたのではなく!?」

「クアットロ、お前が公明正大な人間ではない事くらい分かっている。お前は勝つ為ならば悪辣な戦略を考えつく魔女であり、敵を平気で陥れる戦闘兵器だ。
そんなお前を白旗に受け入れたのは、俺だ。あらゆる状況を想定してこの場に挑んでいるお前が、不正なんて意味のない事はしない。そう確信しつつも、もし下手を打ったのなら俺が責任を取る。

お前は、自分の役割を果たせばいい。お前という悪辣な女の行動に対して責任を取る事が俺の仕事なんだよ、クアットロ」

「……」

「俺はお前が善人だから、仲間だと思っているのではない。勝つためならば何でもやる、それでこそお前だ。俺が責任を取るから好き勝手にやれ、クアットロ」


 唖然とした顔で俺の言葉を一字一句吟味して、クアットロは信じられないといった顔で俯いてしまった。俺の言葉を聞いたセッテは自らを恥じ入るかのように、その場で平伏する。

俺は自分がこの場で一番弱いと確信している。大将の座についているのは単に、白旗の代表だからだ。お飾りの神輿に出来る事は、代表として責任を取る事だけだ。

クアットロの不正どころか、俺はむしろあの魔女の不正すら視野に入れている。あいつは機械操作に慣れている、余計な介入をした可能性は十分にある。


俺に出来ることなんて仲間の行動に責任を取り、仲間の実力を信じるだけだ。不正なんて程度の低い戦略をクアットロは取らない。魔女の介入は必ずジェイル博士が許さないと、信じている。


仲間に裏切られたら破滅と言うが、俺に言わせれば本当に今更である。信じる、信じないの問題ではない。俺は一人では生きられないのだ、仲間を頼る以外に生き残れる道なんてない。

もしも裏切られたのなら、俺は単に死ぬだけだ。仲間達の全てを受け入れて責任を取る、それこそが唯一弱者の俺に出来る事。やらなければならない、人間としての義務なのだ。


他人とのつながりを持つ事が、俺という人間が強くなれる唯一の道だと信じている。


「――フッ……今度という今度こそお前の負けだな、クアットロ」

「他の誰でもない陛下の元でこそ、我々戦闘機人は真価を発揮出来る。我々が製作された意味、この世に生まれてきた意味は陛下のお力となる為だ」


「フン――このわたくしを"モノ"にした以上責任を取って頂きますわよ、陛下」


 心の中より生じた思いが伝播したのか、震える手先で眼鏡を外して――そのまま握り潰した。素面になったクアットロは美しい容貌を晒し、結んでいた髪を解き放った。

クアットロのスタイルを目の当たりにしてトーレは不敵に微笑み、感激に身を震わせていたチンクが力強く拳を握った。主賓席のドゥーエも微笑み、セッテが高らかに敬礼している。

不正疑惑に問われているというのに、俺達は何故か団結を強めてしまった。疑心暗鬼に陥った雰囲気の中決起する白旗に、騎士団長が驚愕に目を見開いた。


ようやく、理解したのだろう――俺達は白き旗の元に集った、正当なる猛者である事を。


『皆様、お聞き下さい。聖王教会及び時空管理局、そしてカレイドウルフ大商会が、マスメディアへ公開した上で決闘システムの全てを洗い出しました。
結果、システムへの不正はないと判断いたしました。全世界に向けて、再度申し上げます。

この決闘において、あらゆる不正は行われていない。我ら一同、世界に向けて宣言致します』


 まるで闇の全てを吹き飛ばすかのように、世界中のあちこちから大歓声が上がった。聖地を守り抜いてきた白旗は、平等に民と接してきた正しき組織であると認められたのだ。

疑惑の解消は、更なる追求を招く。不正を指摘した聖王教会騎士団、不正を疑った時空管理局最高顧問ギル・グレアム。謂れ無き罪を騒ぎ立てた、彼らへの怒りは深い。

ベンチのヴィクターお嬢様は憤然とした態度で声を上げており、ジークは本当に不正がなかった事に対して仰天している。あの黒髪娘、後で悪人キックしてやる。


ざまあみろと、言いたかった――悲しみに表情を曇らせるアナスタシヤと、失望に身を震わせるリーゼアリアを目にするまでは。


「騎士団長。私が思っていた通り、貴方はやはり高潔なる騎士殿だ」

「……っ、これ以上の屈辱を与えようと――!」

「我々に不正がないことを承知の上で、敢えて疑惑を追求してこの決闘の正当性を訴えたかったのでしょう」

「なっ――!?」

「グレアム殿もお人が悪い。我々がかねてより世間から両組織との癒着を疑われている事を懸念されておられ。だからこそ自らの責任を持って、我々の潔白を証明したかったのでしょう。
お二方のお気持ち、私はいたく感じ入りました。こうして世界中の皆様に我々白旗の潔白を証明する機会を与えて頂き、私は心から感謝しております」

「……き、君は……!?」


 観客席のアリサが吹き出し、シュテルがクスクス笑っているのが見えた。実に馬鹿で稚拙なフォローだと、思っているのだろう。うるせえよ、俺だって言いたくないわ。

だがグレアムのジジイはともかく、騎士団長の気持ちは分かるのだ。圧倒的な強者を前にすれば、弱者はその理不尽さに憤りを感じる。才能の差に歯軋りして当然なのだ。誰が責められるというのか。

聖騎士は目を潤ませて深々と頭を下げ、リーゼアリアは涙で頬を濡らして俺を見ている。大切な人を信じたいという女性の気持ちを、踏み躙りたくはなかった。剣士は、剣で人を傷つけるべきだ。


俺は、剣を掲げた。


「聖王教会騎士団。いざ尋常に、勝負だ!」

「我ら騎士団の力、今こそ『聖王陛下』にお見せいたしましょう!」


 こうして何の憂いもなく、決闘は再開された。










<続く>








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