とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第五十三話




 剣士は敵を斬ればいいのだが、人間であれば敵を斬って終わりではなくなる。まして人の上に立つ立場であれば、どんな行動であろうと責任を負わなければならない。

やらなければならない事は山ほどあるのだが、真っ先に行ったのは責任ある立場の方々への連絡だった。子供の責任と大人の責任では、重さがまるで異なる。報連相は最低限の義務だった。

古今東西、あやゆる歴史においても、宗教は温和であり過酷な概念。宗教祭であれば神は祭り上げられ、魔は断罪される。俺が神と誤認されたのであれば、自動的に敵は悪魔と断定されてしまう。


リーゼアリアに連絡して三役に仲介してもらい、聖地へ派遣された現地管理局部隊へ通報。敗北したプレセア・レヴェントンは応急処置を施された上で、緊急逮捕される予定だ。拘束という名の護送である。


聖なる神の僕というべき信徒達であれど、何処にでも居る人間。神の復活が宣言された歴史的瞬間に熱狂すれば、度を超えた狂気を誘発する。断罪という処刑が公認される危険があった。

異形であれど、プレセア・レヴェントンは龍の姫君。悪魔と認定された麗しき女性は、魔女として扱われる。ましてこの聖地には聖女が存在するのだ、相反する魔女は鬼の如く刈り取られるだろう。

魔女裁判は忌まわしき制裁と唾棄されようと、如何なる歴史からも消えた試しがない。戦乱に荒れた聖地のような社会不安から発生した集団ヒステリー現象は、後を絶たないのだ。

本来聖地で起きた事件は聖王教会、争い事は聖王教会騎士団が処罰するべきであろう。だが俺を聖王だと勘違いするような組織に、プレセアを預ける気にはなれない。魔女裁判なんぞ見たくもない。

幸いにも三役は聖王教会と時空管理局、両方の法の組織に精通したお三方だ。彼らのような人徳者であれば両組織と上手く連携して、法に照らした公正な裁きを行ってくれるだろう。


……何で俺が敵の身の安全なんぞ保証しなければならないのか理解に苦しむが、剣士である事をやめた以上は人として行動すべきだろう。渋々、聖王教会側へも経緯と意向を伝えておく。


「ローゼ。お前はカリーナお嬢様と共に、『罪を憎んで人を憎まず』の精神を民衆に説うておけ。魔女狩りなんてさせるなよ」

『主の『鶴の一声』があれば、民の方々は平服なされるのではありませんか?』

「今の状況で俺が一言でも民に訴えかければ、神の一声で伝え聞かされてしまうじゃねえか。徹底的にシカトしてやるから、現場のお前が何としても誤魔化せ」

『承知致しました、主。ローゼこそ主の真なる使徒である事を、民の皆様に認知して頂きましょう』

「余計な事を言ったら、即座にスクラップにしてやる」


 俺の周りにいる女共は最近、事後承諾せざるを得ない状況を使って社会的認知を迫ってくるから怖い。分類で言えば先程のルーラーの主従宣言も同様なので、頭が痛くなる。

阿呆の分際で変な時だけ頭が回るから、始末が悪い。物分りの良いイレインにモードチェンジさせたいが、あいつは馬鹿っ子なのでアドリブが一切出来ない。キレて暴れそうなのでやめておく。

忌々しいが、俺が神だと誤認された今の熱狂を利用するしかない。世界中で祭り立てられた厳かな一夜でローゼが先頭に立って民を先導すれば、教会の導き手として聖人認定されるだろう。

被災者達を救った救世主が神の復活の目撃者となり、聖なる夜で人々に対して徳を説く。信徒は導き手を崇め、人々は救世主に祈りを捧げる。教会の威信は不動となり、ローゼの存在は確定する。

聖女の護衛争いに王手をかけた形だが、一切の油断はしない。アギトは今宵命をかけてまで俺を救ってくれたのだ、絶対に自由と安全を保証してみせる。俺という存在を、自分で利用して。


「聖騎士――いや、イグナティオスさんだったか。聖女様とお話させて頂きたいので、お取次ぎ願いたい」

『畏まりました、直ちに』


 凛々しき武人であった聖なる騎士は仮面を取り、麗しき貴婦人である素顔を見せている。曇りなき瞳は真っ直ぐに俺を映しており、丁重な臣下の礼を取っている。

明確な返答は避けていても、俺に対する揺るぎ無き姿勢は正しき騎士の立ち振舞い。決して礼を欠かない彼女の生き方こそが、仮面に隠されていた素顔を美に磨き抜いているのだろう。

何とか勘違いを正してやりたいのだが、単なる言葉を並べるだけでは彼女への礼に反する。清廉な聖人ではなく、凡庸な人の生き様を見れば自ずと真実を見透かしてくれる。


百の言葉より一の行動、凡人がどう足掻こうと聖人にはなれない。人の心は善と悪、清濁併せているのだから。


『聖王陛下、改めまして御挨拶をさせて頂きます。教会騎士所属のカリム・グラシアと申します。此度はこの聖地をお守り下さいまして、誠にありがとうございました』

「……色々と言い正したいのですが、単なる成り行きなので礼は不要です」

『お話との事ですが、まずは傷付いたお身体をお休め下さい。至急、修道女の皆様を派遣いたします』


 ――全身、泥と血に塗れた身体。傷付いていない部分はなく、バリアジャケットの力で支えられている。夜の一族の血と癒しの魂により、何とか意識を保っている状態。

鍛錬による筋力と魔力増加に救われたが、どちらも酷使して既に枯渇してしまっている。筋肉疲労で身体中が震え、魔力不足に目眩すらしている。日常生活にも支障が出そうだった。

龍の顎で喰い付かれた首、龍の爪で切り裂かれた胴体、龍の槍で貫かれた肩。魔龍に噛み付かれた腕は原型を保っているのが奇跡的な状態、汗と一緒に血が流れている。

感心した。戦い抜いた自分ではなく、戦った自分に対して何も口出ししなかったローゼとイグナティオスに対して。俺への情ではなく、俺の意思を第一に行動してくれたのだ。


覚悟はしていたが――これでもう、今後戦う事は出来ない。少なくともこの聖地での滞在中は、治療と療養に努めなければ障害を負う。俺自身の戦いは終わり、聖女の護衛レースからは脱落だ。


悔いは無いし、悔しさもなかった。俺一人なら戦闘継続したが、生憎と今の俺はフィリスによる療養観察中の身分だ。フィアッセとも護衛の約束を行った以上、無事に帰らなければならない。

プレセアとの決闘は必須であり、避けられない戦いだった。彼女と相対した時点で覚悟を決めて、今日この時まで死に物狂いで修行した。生き延びられただけで僥倖だろう。

ミヤの死が発端であり、ミヤはナハトによって回帰した。ミヤの為に戦った訳ではないので、無駄な戦闘とは思わない。戦うべくして戦い、精魂尽き果てた。よく戦えたものだ。


聖女様の申し出はありがたかったが、まだ休む訳にはいかない。俺の戦いは終わったが、俺達の戦いは続いている。


「復活祭は今開催されたばかりです、私一人が休んでいる訳にはいきません。とはいえ、聖女様たってのご厚意には甘えさせて下さい。
私は見ての通りの身体、到底人前に立てる状態ではありません。祝福して下さる皆さんには大変申し訳ありませんが、皆さんを先導する御役目は別の者にお任せしたい」


 プレセア・レヴェントン捕縛とその経緯、聖王復活による取り仕切りと先導について、聖女様に詳細を説明。今宵行われる徹夜祭の監督を、お願いする。聖女様であれば聖王の代役は果たせる。

民衆をローゼに、騎士団をイグナティオスさんに、権力者並びに賓客の方々をカリーナに、時空管理局を三役に、そして聖王教会の今後を聖女様に頼んでおいた。祭りは皆で行うものだから。

聖王として矢面に立てば、予言は確定になってしまう。皆の誤認は利用させてもらうが、認定までさせるつもりはない。仮病ではなく、大怪我を理由とした欠席であればこの場はしのげる。


人の噂も七十五日、吹聴さえしなければその内風化するだろう。ようは聖女の護衛さえ決めればいいのだ、俺の代役としてローゼが果たせばほぼ確定だろう。


「見ての通りの体たらくで申し訳ありませんが、白旗として今後も貴方の御力とならせて頂きます。安心してお任せ下さい」

『貴方様の多大なご好意とご配慮に未だ未熟な身ではございますが、教会を代表して感謝を述べさせて下さい。非才なこの私の予言にお応え下さって、感動の余り言葉もございません』

「まだ私と決まった訳ではございませんよ、聖女様。戦乱の火はまだ消えていない――これからも共に、戦いましょう」


『はい、どこまでも貴方様と共に』

"私はずっとご主人様と――"


 ……? どこかで聞いたような言葉を最後に、感謝と感激で涙を滲ませた聖女様が通信を終える。既視感というものは時に空想も混じっているので、明確な答えなんて出ない。

ともあれこれで復活祭は無事開催されて、徹夜祭の運営は滞り無く行われる。架空の聖なる存在である聖王の身柄は聖王教会預かりとなり、魔の化身であるプレセアは時空管理局預かりとなった。

聖王教会が実績を積んで、時空管理局が手柄を手にした事になる。法を司る両組織さえ納得させれば、仲介役の白旗も万事安泰だ。あー、疲れた。人の上に立つとなると、他人に押し付けられない。


程なくして、時空管理局の現地派遣部隊が急行――抵抗するかと思われたが、プレセア・レヴェントンは大人しく確保された。


「――龍族の姫であるこの我に、貸しでも作ったつもりか?」

「おうとも、絶対に生きて返せよ」

「ぬかしおるわ、クク……それでこそ我を御した男よ。今宵の宴は楽しかったぞ、宮本良介。"褒美は"くれてやる」


 ――眉を顰める。褒美を、ではなく、褒美はくれてやると今言った。妙な言い回しである。単純な言葉の取り違いかと思ったが、違和感を感じた。問い質す前に、プレセアは護送されてしまう。

聖地における最大の脅威は去ったが、何故か不思議と安心も安堵も出来ない。猛火は切り払った筈なのに、今も燻っている匂いを感じる。何だ、奴は一体何を言っているんだ?

プレセアは正真正銘の戦士である。戦いにおける結果に、恨み事など吐かない。報復さえも恥と感じる潔さを持っている。全力を尽くしたからこそ、ああして笑っていられる。

あいつ自身が問題なのではない。あいつが派手に燃やした炎によって、何処かで何かの影響が出ているのだ――くそっ、何か引っかかっているのに、見通せない。


何なんだ、一体何を俺は見逃している……?


「――大したもんだな、あんた」

「夜分遅くに呼びつけて申し訳ありませんね、隊長さん」

「深夜の緊急呼び出しなんぞ、局員なら珍しくもないさ。ただ此処に飛ばされてからというもの、しばらく縁がなかった。
働き尽くめで正直ウンザリした時もあったんだがよ、この聖地で暇していたら無性に懐かしくなっていたんだ。人の為に働きてえ、そんな風に燻っていたもんさ。
お前さんがあの御三方と出会わせてくれたおかげで、俺達はこうして御役目を与えられている。ありがとよ、坊主」

「感謝しているなら、未成年の前で喫煙はやめてもらいたいんだが」

「悪しき性分ってのはなかなか治らねえさ、勘弁してくれ。煙草休憩がてらの、ちょっとした話さ――さっきも言ったが大したもんだよ、あんたは。
直接ではなく、御三方を通してくれたんでこうして急行出来た。やばかったんだぜ、正直」

「やばい……?」


「御三方と入れ違いで――お前さんを緊急逮捕しろって指令が、地上本部から直々に届いた」


 息を呑んだ。この聖地はベルカ自治領、時空管理局と蜜月関係にある聖王教会が自治権を有している。治安維持活動は教会に全権限があるからこそ、教会騎士団が設立されている。

現地に時空管理局員が派遣されているのは言わば建前であり、有名無実化された部隊だ。左遷扱いの聖地では無力な部隊に対して、地上本部が直々に要請しても意味など無い。一度は教会に伺いを立てないといけないからだ。

それにもかかわらず頭越しにそのような実権が行使されるとなると、教会を飛び越える権限が必要となる。まして今、聖地は聖王復活により権威が高まっている。定められた領分を無視するのは、自殺行為だ。

そこまでしてまで俺を逮捕するとなると――


「お前が御三方を通してくれたおかげで、俺達はこうして本来の実務を行えている。何が悲しくて聖王様にわっぱをかけなければならねえんだ、まったくよ」

「やめてくれよ、俺はそんな柄じゃない」


「御三方が押さえて下さったとはいえ、気をつけろよ坊主。

間違いなくお前さんは今晩――火を、つけちまったんだからな」


 煙草の火が、消える。時空管理局と剣士、現場での休憩が終わって再び別れた。俺達の関係は利害に基づいた関係であり、表沙汰には出来ない。ギリギリの忠告だったのだろう。

心当たりはあった。ジェイル・スカリエッティに命じて、御三方が追っている黒幕の全財産を残らず奪った。その上で今晩の聖王復活騒動、俺の存在が確定されてしまった。

聖王教会――かの宗教組織は果たして、俺と管理局のどちらを取るのか。実歴ある法の組織と架空の聖王、天秤にかけるまでもない。思わぬ形で、新しい敵が台頭しつつある。


聖女の護衛の争奪戦、山場を迎えつつあるが――まだ安心は出来ない、か。今宵起きた事件もまだ、完全には終わっていない。


「パパー!」

「おっ、噂をすればという奴か」


 一台のマイクロバスが急停車、屋根の上に乗っていたレヴィが嬉々として駆けつけてくる。今宵の別働隊、もう一つ起きた事件の解決に努めていた部隊である。

バスから降りてきたのは指揮官と参謀役、ジェイル・スカリエッティとウーノ。現場指揮及び調整役を務めていたリーゼアリアは、ナハトヴァールを抱き上げている。

この面子が揃っているということは――思わず、破顔してしまう。


丁重に連れ出されたのはジークリンデ・エレミア、彼女の手を取っているヴィクトーリア・ダールグリュンであった。


「大変申し訳ありませんでした、ヴィクターお嬢様。今宵、貴方様の王子役を果たす事が出来ませんでした」

「そのようなこと、おっしゃらないで」


 涙ながらに、飛び込んでくる。痛いなんてものじゃないが、嬉しさの方が優っている。猟兵団と傭兵団、両組織が起こした同時誘拐事件はこれで何とか解決した。

笑えない話ではある。誘拐されたヴィクターお嬢様は無傷なのに、救い出そうとした俺が重傷を負っている。気遣わなければならない相手に、気遣われるようでは駄目だった。

まして相手は遙か年下のお嬢様、大の大人がみっともないと言うしかない。実際プレセアと戦っている間は、お嬢様の事まで頭に回らなかった。本当に、情けない。

俺の血に濡れても強く抱きついたまま離さないお嬢様に、心の労りと気遣いが感じられた。


「くやしいですわ……いままでじぶんのちからをはじておりましたのに、こよいあなたさまのおちからになれなかったじぶんがはずかしいです」

「力不足は自分も同じですよ。自分自身の手で、お嬢様もお救いしたかった」

「いいえ。わたくしをおすくいくださったのはまぎれもなくあなたさまですわ、わたくしのおうじさま」


「……おうじ、さま?」


 今度は感激に涙を濡らすお嬢様の背後で、ジークリンデが怪訝な顔で俺を見つめる。頭の上から爪先まで、不審ではなく本当に怪訝な顔で。

しまった、先程急行した管理局員に迷子のこいつを預ければよかった。救出には参加しなかったはずなのだが、どうしてこいつもお嬢様と一緒にいるんだろうか。

友達を探していたはずなのだが――ひょっとして。


「ヴィクター、もしかしてこのひとが?」

「ええ、わたくしのこんやくしゃですわ!」

「……ほんまに、このひと?」

「そうですわよ、あなたもみていましたでしょう。このおかたがせいおうさま、わたくしのこんやくしゃにふさわしいおうじさまですわ!」

「……」

「……」


「……ぷっ」

「おい」


 ヴィクターお嬢様の婚約者と聞いた途端険しい顔をしたのだが、俺だと判明した途端に吹き出してしまう。おいおい、侍ってのは昔、戦国大名にもなれたんだぞ。何が不満なんだ、コラ。

それにしても、ジークリンデの待ち合わせしていた相手がヴィクターお嬢様だったのか。人の縁というのは不思議なものだ、何処で誰と繋がっているのか予想も出来ない。

今晩出逢った時は今にも死にそうな不幸面だったガキンチョが、俺の顔を見てケラケラ笑っている。何故か不遜な笑みを浮かべて、俺に耳打ちする。


"うまいことやりましたね"

"何の事だ?"

"とぼけてもだめですよ、うちにはわかります。こんやのアレ――ヒーローショーやったんでしょう?"


 今夜の見世物といえば、プレセアとの決戦以外にない。このガキンチョ、アレがヒーローショーに見えたのかよ! まあ確かに、魔龍とかトンデモナイのが出てきたけどさ!

こいつは本物のヒーローショーと俺の弱さを、今晩まとめて自分の目で見ている。だからこそ聖地を巻き込んだ決戦も、子供の目から見ればヒーローショーにしか見えなかったのだろう。

実に馬鹿馬鹿しい勘違いなのだが、笑える事にこいつの勘違いの方が真実には近い。今晩の戦いは俺の力だけではなく、聖王を気取ったつもりもなかったのだ。

ミヤも無事だった、道化には相応しい舞台ショーだったのかもしれない。


"ふっふっふ、よくぞ見抜いたな。我が構成員よ"

"すぐわかりますよ。よわよわのふっけばいんさんが、せいおうさまのはずがないですから。でもあのショー、わるものをたおしていましたよね?"

"当然だ。聖地を脅かす悪、これすなわち世界征服を目指す我々フッケバインの障害である"

"おお、なるほど。わるいひとやなー"

"同じ悪といえど、敵対するなら容赦はしない。我々に友情や愛など不要、フッケバインの絶対の掟だ"

"あいといえば、ヴィクターのせーりゃくけっこんあいてがふっけばいんさんというのはうそでしょう?"

"むっ、何故そう思う?"

"だってヴィクターは、『せかいのだれよりもすてきなおうじさま』やといってましたから"

"正に、我を的確に表現しているではないか"

"はっはっはっはっは……あっはっはっはっはっはっは! うち、こんなにおもろいじょーだんきいたのはじめてですわ"


「粛清せよ、我が娘」

「オッケー、ボス!」

「ウヒャヒャヒャヒャ、やめて〜〜〜!」


 ワクワクしながら盗み聞きしていたレヴィに命ずると、喜び勇んでジークリンデをくすぐり地獄に処した。我が悪の組織は、子供であっても容赦はしないのだ。

今まで一度も心から笑った事がないと言っていたジークリンデ・エレミアの笑い声が木霊して、ヴィクターお嬢様が目を丸くしている。俺もちょっとビビった。

こいつ、不幸面しているけど、意外とケラケラ笑うんじゃねえか。子供の悩みなんぞ案外、この程度なのかもしれない。


"ハァハァ……で、でも、もしふっけばいんさんやとすると、なんでヴィクターとこんやくしたんですか。わるものやのに"

"政略結婚は悪!"

"おおおおお、うちもそうおもてた!? ものすごくだめなこというてるのに、なにひとつまちがえてない!?"

"ふっふっふ、あの小娘を存分に騙して、金と権力を巻き上げてくれるわ"

"おおおおおおおおおおお〜〜〜〜と、まってくださいよ。うちのともだちなんですって"


"我が組織の掟を言ってみよ、構成員"

"われわれにゆうじょーやあいなどふよう――うわ、ほんまや。どないしょー!?"


 頭を抱え出した我が構成員に、我が婚約者が目を白黒させて背中を擦っている。一連の話を聞いていた我が娘は、すごく楽しそうに大笑いしていた。うむうむ、子供とは気軽に生きるべきだ。

子供相手に言い負かした俺を、実に呆れた顔でウーノが手当をしてくれた。あくまで応急処置であり、然るべき医療施設へ搬送すると息巻いている。すいませんね、親子共々入院で。

一方、俺達の会話を聞いていたジェイルは実にワルそうな微笑みを浮かべている。


「ジークリンデ・エレミア、ヴィクトーリア・ダールグリュン――オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。ふふふ、ははははははは! 聖王復活の今宵、ここまで因子を集めるというのか!
素晴らしい、実に素晴らしい。やはり君は素晴らしいよ。なんと凄まじき縁、聖王などという矮小なる器に収めようとする民衆の滑稽さが際立っている。愚かしくも、愛しき舞台ショーだ。

聖王のゆりかごを破棄して正解だった。私が行おうとした祭りなど、今にして思えばとんだ茶番だったな」

「お祭り……? お前、俺に隠れてまだ何か悪巧みしようとしていたのか」

「安心したまえ、君と約束した通り私は全てを告白して罪を償うつもりだよ。それに――祭りはまだ、始まったばかりだ。これからだよ、盛り上がるのは」

「これからって、何かあったっけ?」

「ほう、君はどうやら知らないようだね」


 比喩表現なのは、分かっている。祭りは開催されて、運営は完全な体制で行われている。復活祭は万事、上手くいくだろう。その点はもう心配していない。

だがしかし、神の復活を告げたところで戦乱が収まるとは思えない。この祭りはあくまで人々を安心させる為の催しであり、安全の保証は出来ないのだ。

猟兵団と傭兵団は互いに潰し合って戦力が低下、白旗は復活祭を成功させて万全の体制を整えた。俺を聖王とする流れはこのまま、ローゼを聖女の護衛へと導くだろう。神の名のもとに。


だが、忘れてはいけない。人間は本来、神に背く罪深き存在――禁断の果実を食べて、欲望の権化と成り果てたのだ。





「あの魔龍は、"絶滅危惧種"――この世に二つとない、貴重な素材となるのだよ」










<続く>








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