とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第十七話




『君は、プレシア・テスタロッサの最終目的を覚えている?』

『アリシアの蘇生を目的とした、どこぞの場所へ行く事だった筈だ。俺の法術を知って断念したと本人から聞かされている』

『"アルハザード"――実在が危ぶまれているけれど聖王教会について調査した結果、その昔此処から流出した兵器開発技術を用いて別世界を侵略していたようなんだ』

『なるほど、プレシアが法術へのヒントに聖王教会を指し示していた理由がその辺にあるのか』

『法術は未知なる能力、アルハザード同様に謎が多い。極論だけど、法術の根源もアルハザードにあるのかもしれない。
この兵器開発技術を発端とした戦乱の中世期、人造生命体と呼ばれる研究が大きく進化を遂げた。列強諸国の王達が自分自身の肉体を強化して、子孫にも宿命づけたらしい』

『自分達のガキや孫の人体を使って、代々技術を受け継がせていたのか。狂っていやがるな』

『元々逸脱した技術だ、人の手には余る。結局実質的に消滅して、ベルカ戦争も終結。広大なベルカの地も汚染によって数百年経ても人の住めぬ土地となってしまった』

『核兵器なんぞ所有している地球側から見ても、耳の痛い話だな』

『管理外世界と言えど治安維持の必要がないとイコール付けられる事じゃないからね、話を続けるよ。ここで登場するのが、例の聖王のゆりかごだ。
このゆりかごを保有する聖王家が周辺世界に散り、再起を図ろうとした他国を制して世界統一を図った。聖王統一と呼ばれる大規模な戦争だ。

世界を荒らしたこの大戦乱の最中にゆりかごは消失してしまい、聖王家も途絶えてしまう。同時にこの時期、古代ベルカ式の魔法や武装もほぼ絶滅したそうだよ』

『戦争のゴタゴタで、過去の技術や能力が失われてしまった訳か。だとすると、もし法術がアルハザードを根源としていると仮定すると、戦乱の最中で伝承は無くなっていそうだな。

……あれ? でもよ――』

『――そう、失われた筈の聖王のゆりかごが現代に現れた』

『失われた大いなる遺産、その中にもしかすると法術に関する手掛かりも遺されている可能性があるのか!』

『現在所有しているのは聖王教会だ。ひょっとすると、プレシア・テスタロッサは聖王のゆりかごの現存を知っていたのかもしれない。
本来なら彼女に聞き出したいところだけど、今フェイトやアルフと一緒に大事な裁判中だ。まもなく裁定が下るこの時期に、妙な揺さぶりを掛けたくない。ごめんね』

『ここまで巻き込んでおいて、何言ってんだ。せっかく命を張って説得したんだ、あいつらの今後の生活が最優先に決まってる』

『君がそう言ってくれるのなら、僕も喜んで協力するよ。事前に打ち合わせた通り、別行動としよう。僕が教会が保有する聖王のゆりかごを探索する』

『クロノやリンディ、ゼストの旦那も調べてくれたけど、所在すら分からなかったらしい。聖王教会に頼み込むのが一番なんだけど、招待された理由も分からんし保険はかけておきたい』

『入国前に別れて行動した方がいいね。聖王のゆりかごを第一に、聖王教会やベルカの歴史そのものについても引き続き調査してみるよ。合流は時期を見て、僕から接触する』

『ベルカ自治領は広いぞ、俺達の居所は分かるのか?』

『君が大人しく出来るとはとても思えない。自覚はなくても勘違いとかして、騒ぎを起こしていそうだ。噂を追えば自然に君と会えるよ、きっと』

『ひどい言い様だな、この野郎!? 仲間も大勢いるんだし、大人しくしているよ』

『絶対ありえないと思うから再度忠告しておくよ、本当に気をつけて。ベルカ戦争を終わらせた聖王家が信仰対象となり、この聖王教会が設立されている。
過去の悲惨な戦争の教訓より質量兵器の断絶と次元世界の平和を目的として、ミッドチルダは時空管理局を成立したんだ』

『それって、順序が逆じゃねえの?』

『ほら、もう勘違いしている。聖王教会の設立は、時空管理局が組織化される以前の話だよ。
つまり今や次元世界全土を管理している平和組織の樹立に、聖王教会は大きく貢献したんだ。だからこそ時空管理局は聖王教会に大いなる恩と、切り離せない蜜月の関係を結んでいる。
一部とはいえ、広大なミッドチルダに「ベルカ自治領」という国家の建国を許されたんだ。大袈裟な言い方だけど、あの地は唯一時空管理局の法の適用外とも言える。
何が起きても決して不思議じゃないし、クロノ達やゼスト隊の皆さんもおいそれと口出しできないんだ。頼むよ、本当に気をつけてね。

今は調査中となっているけど、聖王のゆりかごも近々聖王教会より限定的に公開されるらしい。僕もその頃には調査を終えて、合流できると思う』



『心配症だな、何も起こりはしないさ。聖王のゆりかごと法術の事をよろしく頼むぞ、ユーノ・スクライア』

『君が逮捕とかされない事を祈っているよ、ミヤモト』















 ――俺はどうやら、本当に変わってしまったらしい。


憤りを感じたのは自分が逮捕されたからではなく、逮捕された自分を助けようと追撃した妹さんが取り押さえられた瞬間だった。

絶望を感じたのは自分が示そうとした正しさを否定されたからではなく、自分の正しさを否定された瞬間を見た娘達の顔を見た瞬間だった。


振り返ってみれば過去、自分に手錠をかけられた事はない。孤児院を飛び出して放浪の旅に出て幾星霜、浮浪者同然だった馬鹿な自分だったが運良く捕まらなかった。通り魔事件が最初と言える。

大人達の正しさを――他人の正しさを証明しようとして捕まるなんて、皮肉な話だ。自分らしさより一歩でもはみ出すと捕まるなんて、ある意味で治安維持は果たされているのかもしれない。

危険なロストロギアを民間管理なんぞしようとする自分は、世の中から見れば危なっかしい存在だ。だからといって、無実の罪で捕まってやるつもりはない。

騎士団は、妹さんや観衆相手の対応に追われて現場に残っていた。今車に乗っているのはベルカ自治領に派遣された時空管理局員達――


正義の味方であるはずだった、人達だった。


「事情を説明させてくれ。俺は何もしていない」

「何もしていない……? 嘘をつくな。我々は通報を受けて急行し、現場を見ている」

「騎士団や管理局に通報させたのは、俺だ。現場を見ていたのなら分かるだろう!?」


「ああ、よく分かるよ。お前が"白旗"の首謀者だという事――この聖地を、揺るがしているのだという事を」


 後部座席の真ん中に座らされて、両脇を二名の局員に囲まれている。運転手は無言、助手席に座る年配の男性がミラー越しに鋭く俺を見やる。油断のならない、野良犬の目つきだった。

この男が管理局チームの隊長格、ゼスト隊長とは器にこそ差は出ているが貫禄を窺わせる顔付きをしている。綺麗なオフィスではなく、小汚い現場で鍛えられた男の顔だ。

煙草でも吸えば似合いそうな、場末の感覚。綺麗事を吐くタイプには確かに見えない。だからといって、汚い真似は許されるはずがない。

睨み返すが、せせら笑われた。ガキの威嚇なぞ、大人には到底通じない。


「時空管理局の本局や本部のお偉方より、お前が要注意人物であると通達が届いている。お偉いさん達に睨まれるなんてお前、よほど馬鹿な真似をしたんだな」


 歯軋りする。グレアム提督とリーゼアリア秘書官の顔が思い浮かぶが、ふと顔を上げる。確か本局がクロノ達の部署、本部がゼスト隊長やゲンヤの親父達の部署だった。

本局からはグレアムが通達を出したと仮定して、本部からは誰が俺を名指ししたんだ。いや、俺個人を名指ししたとは限らない。本局からの通達に便乗した可能性もある。

少なくとも、本部側にも俺を煙たがっている奴らがいる。かろうじて推察できる理由として、ゼスト隊長達が行っている捜査だ。隊長の上司とやらが、捜査の中止を求めていると聞いた。

中止を阻止すべく俺の証言を元に捜査は進展し、積極的な結果を出している。捜査中止の理由は分からんが、本部のお偉いさんの意向に沿っていないのは明らかだ。


「だったら俺の罪状を教えてくれ。要注意だから問答無用で捕まえるなんて、無茶苦茶だ」

「理由は他にもある。そもそも要注意人物で逮捕なんて理由であれば、入国審査の時点でお前を捕縛している」


 あ、そうか。アッサリ入国パス出来たのでむしろ拍子抜けしていたのだが、確かに入国審査とあれば教会側だけではなく時空管理局側だって局員を出している。

要注意人物だから逮捕対象となるのであれば、審査の時点で捕らえている。要注意の人物を何事も無く通していれば、審査も何もあったものではない。

理由は分かったが、だとすれば判然としない。教会側は顔パスで通したのに、何故騎士団が俺を目の敵にするのか。


「聖王教会騎士団からお前に対する問い合わせがあったのは、つい先日だ。騎士団長直々の問い合わせとあれば、我々も情報を開示しない訳にはいかない。
お前が時空管理局の要注意人物だと判明し、騎士団長及び騎士団は憤然とした様子で聖王教会に申し立てを行ったそうだ」

「な、何で騎士団が俺を問い合わせるんだ!?」

「我々も分からなかったさ――聖騎士様が聖王教会騎士団を除隊されたと、知るまでは」

「それは聖騎士が新しい任務を……あっ、まさか!?」

「俺達も見たんだ、当然騎士団だって見ただろうぜ。彼女が、お前の旗印である白旗を掲げていたんだからな」


 ば、馬鹿野郎! 何を勘違いしているんだ、あの騎士団長。聖騎士は、あんたの騎士になると決めているんだぞ。除隊したのは俺への手伝いではなく、むしろあんたへの義理立てだったんだ!

騎士であれば兼任なぞ許されないが、彼女は俺への協力を約束してくれた。だからこそ『あんたへの』義理を果たすべく、騎士団を除隊したんだよ。何を勘違いしているんだ、あいつ。

高潔な女性だ、彼女が裏切ったとは露とも思っていないのだろう。俺が彼女を誑かしたのだと思い、問い合わせると要注意人物だと分かって逆賊を捕らえに来たのだ。

どうして彼女の気持ちに気付いてやらないのか、悔しくて涙が滲む。あれほど立派で、美しく、誇り高い聖騎士が、自分の騎士となってくれるんだぞ。男の誉れだろうが、くそったれ!


で、でも、だからって逮捕はやり過ぎだ。騎士団の誤解や勘違いも罪深いが、そもそも何で管理局まで動いているんだ!?


「理由になっていないぞ。俺はあの場で自分が逮捕された罪を聞いているんだ、罪状を正確に言ってくれ」

「詰め所でタップリ聞かせてやるさ。どうせお前は、しばらく留置される」

「取り調べどころか、留置所にまで送るつもりか!? ふざけ――」





 ――夜が、明けた。





「ぅ、ぁ……あああああああああああああああああああああ!!」

「ハァ、ハァ、オゴエェェェェェェェーーーーー!!」

「ヒャハ、ヒャハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「お許し下さい、お許し下さい、お許し下さいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 日が暮れて間もない時刻。深夜に差し掛かろうとしているのに、空は晴れていた。夜空に輝いていた二つの名月が、信じがたい事に陽の光に隠されてしまっている。

満天の星空、二つの月、魔導炉より生み出される電力、人々の生活の灯――その全てが、消えた。途絶えたのではない、光は光によって蹂躙されてしまったのだ。

例えばである。凶悪犯が時空管理局員を追えば、即座に撃退して捕縛する。月村すずかが追っても、歴戦の管理局員や騎士団員なら取り押さえられる。相手が、人間であれば。



だがもし、隕石が降ってくれば――太陽が頭上から落ちてきたら、法の番人は捕らえようとするだろうか?



沈む事なき、黒い太陽。影落とす月、ゆえに、決して砕かれぬ闇。永遠結晶エグザミアを完全に制御した、魄翼の太陽が天に降臨していた。

ベルカ自治領どころの話じゃない、ミッドチルダ全土の夜が明けている。未知なる魔力の光量はもはや暴力、太陽が落ちれば世界の全土が滅ぼされる。

時空管理局員だけではない。車の窓から外を見れば、人々の誰もが平伏して許しを請うていた。現場の騎士団や観衆、そして恐らくは猟兵団や傭兵団も同じだろう。


ユーリ・エーベルヴァインと、彼女を補佐する三人のマテリアルズ。彼女達の全力全開、絶望的なスペックの全てが今公開されて――いない。


信じ難い事に世界全土を照らし出す光でさえも、まだ全力ではない。魄翼の絶対神は平伏した世界に関心を示さず、ナハトを抱いて必死で左右を見渡している。

ジュエルシードが、路傍の石にしか見えない。科学や技術、魔法の進化がちっぽけに思える。どれほど人類が進化しても、ユーリ・エーベルヴァインの足元にも及ばない。

世界を潰すのは簡単だが、足元には俺がいる。ただそれだけの理由で、世界が辛うじて踏み止まっていた。人類は存在することを、束の間だけ許されていた。

化け物という認識さえ、人々はありはしないだろう。聖女の予言と照らしあわせて、誰もが皆思う。憧れ、恐れ、そして――求めていた、人物。



神――"待ち人が、来たる"



「何をしている、車を出せ!」

「た、隊長ぉ……!?」

「現場で見た顔だ。"あの御方"の目的はこいつだ、見つかれば"罰せられてしまう"!」


 幸いというべきか何というかユーリ達は俺を補足出来ていない為、あの巨大な力は誰にも向けられていない。本物の太陽と同じく、ただ地上を照らし出しているだけだ。

彼らが狂乱しているのはユーリの威嚇ではなく、天を直視してしまった為だ。天に唾する者は我が身に返る、自分達の無法への罪悪感と訪れるであろう天罰に自分から震えてしまっている。

敵などという表現さえ、用いない。神は区別なく、罪人を罰するのみ。神への恐れは、畏れとなって畏敬に附するのみ。


――発車される。向かっていた方角よりハンドルを切って、明らかに人の居ない閉鎖空間を進んでいた。天から見えないように、必死で隠れようとしている。


多分、妹さんもこの騒ぎに乗じて俺を再び追うだろう。あるいはナハトヴァールさえ呼べば、ユーリ達はすぐに補足して俺を救出してくれる。

気持ちは嬉しい、だがとても悲しかった。これでは、勝利ではない。権力に対して暴力で対抗したのと同じ、大人の正しさは子供の正義で潰されてしまう。


ユーリ達も二度と、大人を信用しないだろう。ミゼット女史、ラルゴ老、レオーネ氏――家族になると言ってくれた人達が、失望されてしまう。


「どうして俺を捕まえたんだ、ちゃんと俺の顔を見て理由を言ってくれ!」

「馬鹿野郎、今そんな話をしている場合か!」

「あいつは、お前らの行動を見て怒っているんだぞ!!」


 関係ないとは絶対に言わせない。そして、ユーリ達の行動も絶対に認めてやらない。ユーリ達の怒りは正当なものだが、認めればあの子達は悪い子になってしまう。

大人に裏切られれば、子供であれば誰だって辛い。大人を見て、子供は成長するのだ。大人が模範的でなければ、子供は無軌道に生きるしかなくなる。


だが、その先にどんな未来が待っている――社会に絶望して背を向けるのであれば、放浪していた俺と変わらないじゃないか。


俺だって、こいつらのやり方に怒りを感じている。グレアムの、時空管理局の、騎士団の、大人達のやり方に、失望と絶望を感じてはいるさ。

だからといって、こいつらの真似をして、諦めたり、項垂れたりするなんて、論外だ。俺は一人じゃない、子供も仲間も支援者も保護対象までいるんだ。戦わない未来などありはしない。

俺が他人に失望して目を逸らしたせいで、先月フィリス達全員を不幸にしてしまった。もう絶対に、二度と同じ間違いを繰り返さない。フィアッセや美由希に、誓ったのだ。


どれほど辛くても、俺はちゃんと他人と向かい合う――そう決めたんだ。


「……"白旗"を降ろせと、要請があった」

「何処から!?」


「何処から? 何処からも、だ。時空管理局、聖王教会――今このベルカ自治領を支配する、あらゆる権力がお前を目の敵にしている」


「! まさか、あの現場で猟兵団や傭兵団のトップが出てきたのも!?」

「パフォーマンスだろうな。連中が出張り事を収めて、その後お前が逮捕されれば誰だってあの場での支配構造が見えてくる」

「あんた達法の守護者が、よりにもよって強権に平伏するのか!」


「お前は此処を、何処だと思っているんだ。ベルカ自治領、自治権は聖王教会を筆頭に委ねられている。教会や聖地を支えているのは信者であり、信者を取り囲む権力構造だ。
猟兵団や傭兵団の連中のスポンサーは、その連中だ。奴らは持ちつ持たれつ、上手く商売をやっていやがる。だからこそ今の聖地は繁栄し、支配圏も急速に広まっている。

聖王のゆりかごや聖女の予言が教会と、教会を支える権力者達を強気にさせているんだろうな」


「その連中のために、聖地に生きる人々がどうなろうがかまわないのか!」

「不平不満や苦情は出るだろうさ、当然。だからこそ、俺らがいるんだ。お前、自治権が成り立っている国で管理局員が絶対視されるとでも思うのか?
聖王教会騎士団という、ご立派な治安維持部隊まであるというのに」

「……あんた達はまさか、最初から覚悟していて」

「自治領になんぞ派遣される局員に、未来なんぞねえ。問題が起きても時空管理局本部には行かず、現場の俺らが罵倒されるだけだ。隊長の俺が言わば、苦情受付係よ。
当然本部や本局よりも、教会や教会が優遇する連中の言う事を優先するさ。管理局も聖王教会とはよろしくやってる、関係維持さえ支障がなければいい。

人々は文句を言うだろうが、その声は決して自治領の外に出ることはねえ。連中にだって生活があり、その生活を支えているのも権力者様だからさ」

「……」


 言い返せなかった。自分が元いた世界もそうだ。政府や警察に不平不満があって騒ぎ立てても、支配構造が変化した試しがない。腐っていても、維持はされている。

俺にはユーリ達がいるから今大騒ぎになっているが、俺一人だったらどうなっていただろう。あの場を見ていた人々が、管理局や騎士団と戦ってまで俺の味方をしてくれるだろうか?

隊長の、疲れた顔を見れば分かる。多分過去にも似たような越権行為があり、問題にもなったのだろう。でもこの聖地は変わらない、全てが握り潰されてしまっている。


だからこの聖地は不平不満が蔓延していても、成り立っている。繁栄はしているのだ、恩恵を受けられれば人々は我慢して生きていける。


「少なくともあれほどの観衆の前で、逮捕されたんだ。理不尽かどうかは別にして、"白旗"に力がねえことは人々も思い知っただろうよ」

「ぐっ……!!」


 『紅鴉猟兵団』副団長エテルナ・ランティス、傭兵師団『マリアージュ』オルティア・イーグレット。あいつら、その為にわざわざ現場に来やがったんだな。

白旗を掲げて正しさを訴えたら、即座に捕まった。理不尽な逮捕、冤罪行為、現場を見れば誰でも分かる。ただ俺達が正しいと分かっていても、トラブルなのは事実なのだ。

彼らが俺達に依頼するのは停戦であり、交渉だ。トラブル解決を行う本人が、トラブルの元では誰も依頼してこない。巻き込まれたくないからだ。


なんて事だ、グレアムどころの話じゃない。時空管理局、騎士団、猟兵団、傭兵団、権力者――敵が多すぎて眩暈がしてくる。


「安心しろ、お前に前科はつかねえし釈放もされる。犯罪者じゃねえんだ、書類やら何やら書いてもらうがそれだけさ。
体裁さえ整えば、別に詰め所でのんびりしてくれてもいい。『公式面談会』まで、大人しくしてくれればいいんだ。

――と言ってもまず、あのお天道様をどうにかしねえといけないんだが」

「『公式面談会』……?」

「近日行われる予定の、聖女様お披露目と護衛選出の為の初対面式だ。護衛候補となる者達と直接面談し、護衛に相応しき人間を選び出すのさ。
面談会で全てが決まる訳じゃねえが、何しろ護衛対象である聖女様との面談だ。印象も相当重要になってくる。
無論護衛志望者全員と会っていてはキリがねえから、教会がある程度選別するがな。騎士団はともかく、聖王教会の招待客であるお前なら志望すれば一応面談は出来るだろうな。

だが果たして大勢の観衆の前で逮捕され、人民が忌避する勢力を聖女様はどう見られるかな?」

「ふざけんな、何もかもお前らがやったことじゃねえか。潔白を訴えてやる」

「聖女様は日々、神に祈りを捧げる身。騎士団の声とお前の声、どっちが聖女様に届くだろうな」


 出る杭は打たれる。正しい事をやろうとしても、正しくないのだと断罪される。どれほど白でも黒だと強者が言い切れば、弱者は従うしかないのだ。

誰もが間違えている、許せない。けれど俺に、正すことなんて出来るのか? 今日だって逮捕された、不当だと世間に訴えてもこの自治領ではどれほどの人間が耳を貸してくれるだろうか。

巻き込んでしまえば、責任は全部俺にのしかかってくる。それ自体はかまわないが、間違いなく管理プランの悪影響になる。面倒事が続けば、司祭だって縁を切るに違いない。

ユーリ達に頼めば、多分何とかなるだろう。しかし、もはや正当性は完全に消える。何よりユーリ達が大人に絶望する。子供達の正義が、歪んだ形でまかり通ってしまう。


世間の信用も、そして何より聖女にも信用してもらえなくなる――文字通り、八方塞がりだった。


「あんた達は」

「あん……?」

「あんた達は、この現状を何とも思わないのか。無実の人間を拘束し、人々の抗議をせせら笑う――今の自分達を」


「汚れ役だと言っただろう――もう、何とも思わないさ。此処へ派遣された時点で、俺達は正義も夢も失っている」


 項垂れた。批判したい、だけど彼らの苦境を罵れない。彼らだって誰かの尻尾切り、笑っている奴らは彼らの上にのさばっている。手も届かない。

誰が悪いのか、突き詰めればキリがなかった。発端はグレアムだが、敵対心は波状的に広がっている。誰が悪いと祝われば、誰もが皆悪い。

只今の状況で言えるのは、このままでは俺達が悪くなってしまう。ユーリ達を止めなければならないが、止めた後でどうするんだ。大人の正しさは、踏み躙られたというのに。


眩暈がした――精神的じゃない、肉体的に視界が猛烈に揺さぶられた。


衝撃、顔を上げると車が"縫い付けられていた"。フロントエンジンに、槍が突き刺さっている。爆発しなかったのは、たまたま運が良かっただけだ。

闇よりも深き黒槍、見覚えがあるどころの話じゃない。闇夜が照らされた灼熱の世界で、堂々とこんな真似が出来るのは一人しか居ない。



堂々たる黒翼を羽ばたかせて、空の王者が車のボンネットを踏みつける。



「失望したぞ、神よ。黒い太陽を消し去る前にまず、偽りの神を殺す――と言いたいが、虫けらが邪魔だな」

「貴様、一体何者……!?」

「虫けら如きが、我を問い質すか。己が死をもって、罪を贖うがいい」


 プレセア・レヴェントン、魔龍の姫君。なるほど、あの現場は地上だけではなく空にも観客がいたのか。俺を一目散に追って、ついに捉えた。

今此処で処刑を宣告しているのは、ユーリ・エーベルヴァインの降臨に他ならない。世界は間もなく終わりを告げるこの日を、決戦と見込んだのだろう。悔しいがもう、正義は風前の灯火だった。

今の襲撃で俺を固めていた管理局員は気絶、運転手は頭から血を流して項垂れている。隊長は咄嗟に防御したのだろうが、完全に飲まれてしまっていた。


――孤立無援、ユーリ達や妹さんは居ない。敵は殺す気満々で、実力は俺とは比較にもならない。手錠がされて、剣も取り上げられている。完全に、終わった。


ナハトヴァールを呼ぶしかない、それでユーリ達は駆けつける。彼女達であれば、空の王者が相手でも遅れは取らない。怒りに満ちた今の彼女達ならば、本領を発揮するだろう。

それで止まればいいが、戦いが激化すれば手の施しようが無くなる。白旗は血に染まり、大人の正しさは踏み躙られ、子供達の正義は戦乱に埋もれてしまう。正しい人間は、誰もいなくなる。



ふざけるな。



「この人には手を出すな、てめえの敵は俺一人だろう」

「! お、お前……!?」

「俺がこいつを何とかする。あんたはすぐに、自分の部下を助けるんだ。どれほど不貞腐れていても、自分の部下くらいは助ける気概はあるだろう!
人々とも――そしてあんた達とも、話し合うことを絶対に諦めない。分かり合おうとする気持ちまで、失ってたまるか」


 呆然とする隊長さんに部下の救助を任せて、俺は車を降りる。手錠はかけられたままで、車に乗っている傲慢な強者を見上げた。

エンジンに突き刺さった槍は片手で引き抜かれて、即座に突きつけられた。喉元に向けられた殺意、一押しで死ぬ距離にむしろ龍の姫が舌打ちした。


「まさか、これほどの愚鈍さとは……つくづく見誤っておったわ、貴様如きを」

「確かに見誤っているようだな、俺という人間を」

「何だと……?」


「槍はまだ、突き刺さっていない。俺を突き殺してから言うべき台詞だぞ、プレセア・レヴェントン」


 そのまま一歩踏み出した、槍が喉に突き刺さる。咽喉にまで届かんばかりの距離感だが、痛み以上の感覚はまだない。死の恐怖は、痛みが相殺してくれた。

槍に爛れた血の滑りに、プレセアが目を見張る。殺人への忌避ではない、自ら死に飛び込んだ愚者の意図を文字通り見誤っている。


「お前に、俺は殺せんよ。俺という人間を、お前は知らない」

「貴様の底は既に見切っておるわ、愚か者め」

「嘘だな。俺はお前を知っているが、お前は俺を知らない。俺が今生きている事が、その証。
本当に俺を知るのであれば、有無をいわさず殺している。初撃を外して何を戦功とするつもりだ、龍の姫よ」

「っ……!」


 そもそもの話、俺を殺すのならエンジンなんぞ狙わずに車ごと俺を刺し殺せばよかった。単純に気まぐれか何かだろうが、その心の動きこそ何よりの隙であり恐れだ。

時空管理局に捕まった俺を失望しながらも、命の脅威に晒せば何か出て来るかもしれないと勘繰ってしまった。それはすなわち、俺という人間の底が見えていない証拠だ。

ユーリは、自分よりも俺が強いと断言している。そして今、ユーリ・エーベルヴァインが天に降臨している。ミッドチルダ全土を照らし出す太陽よりも、俺が上であると思っている。


未知という暗闇は、闇の龍姫では照らし出せない。


「このまま殺し合うつもりなら受けて立とう、お前が恥を晒すだけだ」

「貴様に、我を倒せるとでも?」

「殺せなかった時点で、この場での勝負はお前の負けだ。それでも殺し合うというのであれば、お前の惨めな悪足掻きでしかない。
それで果たしてお前は満足出来るのか、空の王者」


 みくびるなよ、プレセア・レヴェントン。俺は確かに弱者だが、自分の弱さを自覚している。非力だと知っている人間が、今更強者に震え上がるとでも思うのか?

蟻は恐竜に踏み潰されるだけ、弱肉強食の世界。それでも蟻は、地面の下に生きる事を許されている。精一杯足掻いて生きてきたからこそ、恐竜が全滅しても蟻は現代まで生き残った。


強者は決して負けられないが、弱者は敗北すらも許される。勝利へのこだわりこそが、強者の隙なのだ。


「――このまま虜囚に甘んじるつもりはないということか、"神"よ」

「人間に試練はつきものだ、"龍"よ」


「なるほど、これもまた貴様の戦い――水を差してしまったな。謝罪はしないが、詫び代わりにこの場は退いてやろう」


 槍を退いた。安堵の息を吐かない、緊張を緩めたら殺される。綱渡りとは常に命懸け、渡り終えて安堵するようでは剣士の資格などありはしない。

魔龍の姫君、プレセア・レヴェントン。壮絶なまでの美貌と、悪辣なる強さを見事に兼ね備えた戦士。圧倒的でありながらも、鮮烈に美しかった。


暴力の権化は、血に濡れた極上の微笑みを浮かべる。


「目の覚める、素晴らしき夜であった。神よ、我は嬉しいぞ」

「……」

「貴様は強く、誇り高き戦士だと確信出来た。いずれ貴様と戦えるその日を夢見て、今宵は眠るとしよう」


 背を向けて、大いなる黒翼を広げて飛び去っていく。遠くなるその背中を追いながら、彼女が残した賛辞の残滓に思いを馳せる。溜息が、出てしまう。

やはり、見誤っている。俺が強いなんて、あの女の目はどうかしている。あの槍を突けば、俺は殺されていた。運が良かっただけ、勇気でも何でもない。

喉に手を当てる。溢れた血に、顔をしかめた。深手ではないが、浅くもない。さじ加減一つで、喉を貫いていたかもしれない。常に、命懸けなのだと思い知らされる。


後ろを振り返ると、隊長が複雑な顔で俺を見ていた。庇われた理由が分からないのだろう、俺は息を吐いて言った。


「自分のやった事に責任を取る。少なくともあんたは説明責任を果たしてくれた、極秘事項だったんだろう」

「……ふん、気が向いただけだ。馬鹿馬鹿しい、さっさと逃げたらどうだ。捕まえた時点で、一応お偉いさんへの義理は果たしている」

「悪いが、俺はこれからも正当な道を進むつもりだ――ナハトヴァール!」


「おーーーーー、おとーーーーーーーさんーーーーー!!」


 ダダダダダダダダダ、と滑空する影。同時に太陽が沈み、夜が訪れる。ナハトを追うように、ユーリ達が急速してこちらへ向かってくる。

どうやら怒り心頭でも、連携自体は取れていたらしい。ナハトが笑顔で俺に飛び込み、ユーリ達が涙ながらに俺の元へ駆け寄ってくる。娘達を抱擁していると、観光車が特攻して来た。

運転手はマイア、どうやら騒ぎを聞きつけて車を出してくれたらしい。車から出た妹さんが息せき切って駆け込み、膝をついた。どうやら何とか騎士団から解放されたようだ。


「申し訳ありませんでした、剣士さん」

「本当に助かったよ、妹さん」

「えっ……?」

「妹さんが俺を助けようと奮戦してくれる姿が、見えた。いつも妹さんは俺が一人じゃないと、勇気付けてくれる。これからも、よろしく頼む」

「……はい……はい!」

「よし、まずはあいつらを何とか救助――」


「助ける必要などない!!」


 ディアーチェが、強烈なステップでコンクリートの地面を踏み砕いた。彼女が放つ王者の如き魔力が、空気を震わせている。涙すら滲ませて、怒りに咆哮する。

彼女だけの話ではない。シュテルは無言で炎熱の魔気を放ち、レヴィは雷気で大気を鳴動させている。ユーリは闇色の炎を浮かべて、壮絶な眼差しで負傷した管理局員を睨みつけていた。

観光車より降りてきたのは、ご隠居方三名。よかった、彼らが妹さんや娘達を取りなしてくれたのだ。明けた夜が平穏を取り戻したのは、俺を見つけただけではない。


必死で宥め、説得して、全員をここへ導いてくれた。やはり彼らは、正しい大人だった。


「もういい、やめよう父上。人々に理解を求めても、世界に正義を訴えかけても、蔓延する愚者共が父の理想を食い潰してしまう。
亡者の如き馬鹿共に、父の崇高な理想など理解出来はしない。聖女を守るのであれば、力を持って聖地に覇を唱えよう。

父には、我らがいる。父の敵を全て、我が薙ぎ払ってくれよう。だから、もう――やめよう、父上」


 誰からも、反対は出ない。誰も、管理局員を助けようともしない。皆が喉から血を流す俺に悲しみ、逮捕した局員達に怒りを向けている。

ディアーチェは、泣いていた。その涙には、あらゆる感情があった。悔しさ、悲しさ、怒り、憎しみ、どれもこれも負に満ちた感情そのものだった。

白旗は空しく、たなびくばかりだった。


「宮本君、どうか安心して欲しい。この場は――いや、君達の事は必ず我々が何とかしよう」

「レオーネ氏……?」

「まさか現地の局員が、これほど強硬な真似に出るとは思わなかった。前々から憂慮はしていたが、このベルカ自治領は思っていた以上に混乱しているようだ。
彼らに代わり、謝罪させてくれ。すまなかった、宮本君。君を、そして君の大切な家族を、我々大人が傷付けてしまった」


 ああ――よかった……本当に、よかった……


神様がこの世にいるのならば、心から感謝しよう。彼らのような大人に出会わせてくれた事を、彼らが今この場にいることを心から喜ぼう。

俺は、首を振った。笑顔が勝手に、零れ出る。あの女の言う通りだ。



今宵は、素晴らしき夜だ。



「謝る必要なんてありませんよ。俺はこのまま、捕まりますから」

「何だと!? 何故だね、君が責任を感じる必要はない!」

「何を仰っているんですか。責任とは、果たすべきものです。俺達は白旗を掲げている、揉め事があるのなら解決しなければならないでしょう。
時空管理局に問題があるのなら、まずはそこから解決していきますよ」


 レオーネ氏だけではない。ミゼット女史やラルゴ老まで、俺の発言に信じられないといった顔をしている。シュテルだけが大きく溜息を吐いた、あいつは頭がいいので察したようだ。

ディアーチェは奮然と、足取り荒く俺に詰め寄る。もはや我慢ならぬと、鼻息荒く抗議する。


「父上、あのような者達に父の理念など通じぬ!」

「通じているじゃないか。だからこそ、薄汚い大人達が目の色変えて、妨害に出ているんだ。これもお前達が頑張ったおかげなんだぞ、よくやったな」

「むっ――と、違う!? 幾ら我らが真っ当な行為に出ても、また踏み躙られてしまうかもしれない!」

「だったらもっと頑張って、世間の声を広めようじゃないか。一旗や二旗では、確かにどうにもならないかもしれない。
だけどもし、この聖地全てに白い旗がたなびく日がくればどうだ? 世の中の人達全員が、俺達の味方になるんだぞ」

「夢物語だ。現実は今、父が捕らえられてしまったではないか!」

「だから、今から時空管理局へ行くんだよ。車の中で少し話したんだが、理不尽ではあるが話に耳を傾けてくれる連中だ。それに」

「それに……?」

「俺には、お前達がいる。そしてこの聖地で出会った、ルーラー達がいる。輪はちゃんと、広まっているんだ。
その環はまだ小さいかもしれないし、今後は狭められるかもしれない。でも決して、断ち切られたりはしない。俺がそれを、証明してみせよう」


 疑問符を浮かべるディアーチェの頭を撫でて、俺はご隠居方三名の前に出て――申し出る。


「レオーネ氏は先程、我々を助けて下さると仰った。そのお気持ちに甘えて、是非ともお願いしたいことがございます。
本日初めてお逢いした時より感じておりましたが、皆さんはどうやらひとかどの人物でおられる。そのお力を是非、お貸し願いたい」

「勿論力となるつもりだが――推測するに、君は我々に君達の活動の"後見"を求めているのだろうか?」


 もし時空管理局に意見出来る人達であるのならば、彼らもまた権力者である事を意味する。俺達を取り巻く権力者達に対抗できる、大物――是非とも得たい、人物。

彼らの権力がもし絶大なものであれば、一気に黙らせられるだろう。反撃どころか、全ての敵を権力で黙らせられる。状況は一気に改善し、目の覚めるような栄光の道を進める。

支援もそうだが、ナハト達の後見人を求めれば受け入れてくれるかもしれない。後見人であれば支援者どころか、絶対の保証が確立される。

あのグレアムさえも、黙らせられるかもしれない。だがそれでは、奴らと何も変わらない。


「いえ、違います。ご事情もお有りでしょうし、滞在の許す限りとなりますが――我々白旗の、"相談役"となって頂きたい」


「なんと……!?」

「上に立つのは、あくまで俺です。今回のように問題が起きた場合、責任追及されるのは俺であるべきです。私は未熟者です、支援や後見など恐れ多い。
私にとって彼らは仲間であり、家族同然。家族を心配させる家長が、何処におりましょう。


あなた方は、正しい人達だ。どうか私を導き――時には、お叱り頂きたい」


 顔を、上げる。



「娘達に誇れる、正しい事をしたいのです」



 そして、頭を下げた。屈辱になど、思わない。俺はただ、悔しかった。世間の有様ではない。こんな酷い世の中に胸を張って挑めない、自分の未熟さが悔しい。

そんな俺に、彼らの権力に縋る資格はない。権利すらない。彼らに頼ってしまったら、俺はもうユーリ達の親ではない。ローゼやアギトを守る資格などない。


グレアム、リーゼアリア。俺を陥れたいのなら、勝手にしろ。俺は他人に頭を下げてでも、娘達に誇れるやり方を貫き通してみせる。お前らのようには、絶対にならない。

権力者達よ、笑いたくば笑え。お前らが唾棄するやり方で、俺は成り上がってみせる。人々を救い、聖女を必ず守ってみせる。


白い旗を、掲げ続けてみせる!!


「頭を上げたまえ、宮本君」

「はい」

「言っておくが、私は厳しいぞ。君を決して、甘やかしたりはしない。少しでも非があれば、君に容赦なく責任を追及する」

「! それでは……!?」

「ほっほっほ、儂は君が気に入っているので厳しくは出来そうにない。ふむ、"顧問役"で良ければ引き受けよう」

「だったら、あたしは"参与役"を引き受けようかい。坊やもそうだが、ユーリ嬢ちゃん達もあの力も含めて危なっかしいからね。面倒見させてもらうよ」

「ありがとうございます、皆さん。今後共、よろしくお願い致します!」


 こうして、俺達白旗に新しい人材が加わった。ミゼット女史、ラルゴ老、レオーネ氏の御三方が、俺達白旗のご意見番として加わる。

置かれた状況は絶望の一言だが、頼もしい方々が加わってくれた。前途多難だが諦めずに、自分達の理想を貫いてみせる。大人の声に耳を傾け、子供達の助けに応じる。

それにしても本当に立場ある人達らしく、隊長さんが目を見張って御三方に敬礼しているのが何とも可笑しい。彼らがいれば、局員も少しは俺の話を聞いてくれるかもしれない。


ただ、問題はこの前にある。シュテルを招き寄せて、相談してみる。



「――『公式面談会』、ですか」

「権力者達や騎士団が、聖女に俺の悪い噂を流す可能性がある。何とか心象を良くすべく、帰ったら娼婦達と相談しよう」

「いえ、必要ないでしょう」

「何でだよ!?」

「聖女様が父上を悪く思う可能性があるかどうか、ですよね?」

「そうだよ」


「ありえません」


「何で言い切れるの!? あ、こら、溜息吐いて去るんじゃない。父の危機だぞ!」

「まあ、確かに父の危機ですね――父だけが、危機を感じておりますから」










<続く>








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