とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第七十七話





 管理外世界のロストロギア管理、ジュエルシードを動力源とするローゼを保護するプランは頓挫した。中止にまで追い込まれていないが、これ以上時間は費やせない。

こちら側にもミスはあったが、何より相手の権力は大き過ぎる。世界を管理する法の組織、時空管理局の顧問官を務める局の重鎮。彼が反対する限り、一般庶民には覆しようがなかった。

相手の土俵の上で相手の定めたルールを従い、相手の方が強い戦場で戦わされているのだ。ルールそのものを無視すればどうにかなるかもしれないが、ルール違反は協力者達に迷惑をかけてしまう。

この期に及んでクロノやリンディ、クイント達に配慮している自分に苦笑いしてしまう。ローゼを救いたいのであれば容赦するべきではないのに、敵の組織所属の人達に気配りしているのだ。

何かを望むのであれば、時には何かを切り捨てる決断も必要。分かってはいるが、何を切り捨てるべきか、所詮弱者でしかない俺には、さっぱり分からん。なので、何も切り捨てない。

未熟な決断をした以上、せめて迅速に行動しようと思う。


「異世界ミッドチルダの北部、ベルカ自治領。この地への管理プラン移行を提案する」

「昨日の今日で、どうしてそうなった!?」


 リニスが収集してくれた情報を吟味して俺が出した結論、異世界への移行。最悪移住にまでなるかもしれないが、まず最初は管理プランの移行を再優先とする。

時間をかける余裕はない。先の採決で問題行動を起こしたグレアム提督とリーゼアリア秘書官が査問会議で動けない今、この場で何とか承認を得られなければならない。

相手の顔色を窺っているとまたダラダラ結論を先延ばしにさせられるので、アリサに時空管理局の泣き所を容赦なく指摘してもらった。

聖王教会にロストロギアの管理と回収を任せている、俺達には話さなかった事実を明らかにして。


「待て。どうして君達がその事実を知っている。聖王教会について先日少し話はしたが、その事は伝えていない」

「会議の前に、ユーノを問い詰めて吐かせた。"聖王のゆりかご"なんて代物がどうしてたかが一宗教団体に処理出来るのか、不思議に思って」

「くっ……まさかそちらの方面から疑問視されるとは思わなかったな」


 リンディやクロノは驚いているが、ただの嘘である。名探偵じゃあるまいし、"聖王のゆりかご"という事実一つで疑問視出来る頭脳は持っていない。アリサは気付いたかもしれないけど。

疑問ではなく、情報収集してくれたリニスから正解を聞かされただけだ。聖王教会は、ロストロギアの管理と回収を行っている。答えを聞けば、疑問に思えて当然である。

誤解による評価を受けるのは正直心苦しくはあるのだが、自分の評価を少しでも高めてこの提案を承認させなければならない。とにかく必死で提案内容を説明し、理解を求めた。

当然、管理局側は難色を示す。当然だ、この提案はすなわち時空管理局から聖王教会側への委託を意味するのだから。


「グレアム提督やリーゼアリア秘書官より重ねて受けた、管理外世界におけるロストロギア管理の危うさを軽減できます。
ベルカ自治領は聖王教会本部のある聖地、ロストロギアの管理も徹底されているでしょう」

「建前は結構よ、アリサさん。この提案の真意はロストロギアの管理そのものではない、ローゼ本人を聖王教会に承認させる為なのでしょう。
"聖王のゆりかご"という古代のロストロギアが議論されている中で、貴方達が管理するロストロギアを持ち込んで便乗する」

「聖王教会に認められたのであれば、問題はないだろう。どういう理由か分からないが、あそこだって管理と回収が認められているのだから」

「無茶苦茶言ってるわね、あなた。特権のように思っているのでしょうけど、管理体制と役割はむしろ管理局よりも徹底しているわ。
ローゼとジュエルシードを持ち込んだところで、彼らが出す結論は恐らく私達と同じよ」

「だったら、何も問題ないじゃないか。封印処置を受けるのが、管理局か聖王教会かの違いなだけだ。安全管理に問題はないんだろう、あそこは」


 こんな言い分、他の連中では絶対に通じない。社会にも、企業にも、そして法の組織にも面子がある。仕事をわざわざ他所に渡す馬鹿は居ない。

レティ提督やルーテシア、反対派に近い彼女達に強弁できるのは、この一ヶ月間何度も顔を合わせて論議していたからだ。彼女達は俺を知り、俺は彼女達を知っている。

彼女達だって、分かっている。グレアムやリーゼアリアが居る限り、どんな提案を出されても拒否される。盗聴や盗撮まで許されるのだ、この先あらゆる提案を潰してくるだろう。

グレアム達にミスがあったとすれば、自分達の真意をクロノ達に話さなかったことだろう。権力任せの強引なやり方を、彼らが快く思うはずがないのだ。


「せめて、聖王教会側に管理プランの提案をさせてくれ。向こうが求めている面会に応じ、俺は直接現地へ出向く。彼らの承認を得られたのなら、プランを実施させて欲しい。
勿論引き続き進捗は報告するし、監視体制も今まで通り行う。自分達の問題行動についても、管理が行き届いている聖王教会の地であれば何も出来ないさ。

何しろ管理外世界とは違って、神様の目があるからな」

「……リンディ、私は彼の提案に賛成は出来ない。けれど、グレアム提督の近頃の越権行為も度が過ぎているのも事実。今回は、貴女の判断に従うわ」

「"聖王のゆりかご"について、レジアス――地上本部より、捜査の命を受けている。地上は本局との合同捜査を快く思わず、この件を機に我々の捜査の打ち切りを図ろうとしているようだ。
私としては事件の有力関係者である彼の提案に乗り、捜査員を一人現地に派遣させる形で、捜査を両立させていきたい」

「でしたら私が参ります、ゼスト隊長。クイントだと絶対彼を甘やかしますから私が厳しく彼を監視し、"ルーテシア"としてゆりかご調査を行います」

「なるほど。管理局員としてではなく、管理プランのスタッフとして向かうのか。どうだろう、クロノ執務官」

「……そうですね、"ルーテシア"捜査官として出向して頂けるのであれば公平でしょう」


 なにっ、こいつが一緒に来るのか!? どこが公平なんだよ! こいつ、何かと俺を試しては厳しい目を向けてくるじゃねえか! 自由行動しづらい!?

しかし、俺には今戦力面では圧倒的に不足している。ルーテシアは基本的には人徳のある女性で、優秀な捜査官。魔導師としての実力も一級品、申し分はない。

考えてみれば、海外での事件では護衛として潜入していたのだ。役割としては申し分のないキャリアといえる。プランの大きな力となってくれるだろう。


その後も長く全員で論議をして、最終的にリンディ提督が結論を出した。


「分かりました、管理プランの移行を仮承認しましょう。まずは聖王教会への面会希望に応じ、現地へ向かって下さい。私からも教会への連絡と交渉を行いましょう。
ただしルーテシア捜査官との別行動は禁止、承認が降りなければ即撤収。かの聖地にも、管理局員が居るということを忘れずに規則ある行動を行って下さい」

「分かった――色々ありがとう、本当に。ローゼが人間だとゴリ押しするつもりはない。ただ心は在るのだということだけは、知っていて欲しい」

「この場にいる全員が、分かっている。君の気持ちも、歯がゆさも――僕達は敵ではないということだけは、君にも知っておいて欲しい」


 分かっているさ――聖王教会に委託なんてすれば、あんた達の立場だって悪くなる。俺が失敗すれば破滅だということも、知っている。結局、わがままだ。

自分の無茶で、自分一人が責任を取れればどれほどいいか。自分を超える願いを持てば、自分以外にも負担がかかってしまう。苦しみを一方的に共有させるのが、仲間ではないはずだ。

せめて彼らに押し付ける苦労が報われるように、結果を出す以外に恩返しは出来そうになかった。承認が得られたのなら、ローゼを連れて彼らに改めてお礼を言おう。

聖王教会への面会、聖女護衛への応募、聖地における在り方、そして何より異世界ミッドチルダの常識と価値観。異文化を知らなければならない。


「今後の進捗報告は、あたしが受けるわ。連絡手段も整えるからよろしくね、アリサちゃん」

「はい。これから先も色々ご面倒おかけしますがよろしくお願いします、エイミィさん」


 アースラ及び艦長達への提示報告は、エイミィ・リミエッタが窓口となった。むかつく女だがアリサと連絡を取り合えばぶつかることもない――と言ったらフラグだと、エイミィが嫌な顔をした。

監視役としてルーテシアが同行、ゼスト隊長が現地捜査と管理プランの取り纏めを行ってくれる。地上に関しては彼らの本場、聖地滞在の管理局員とも折衝してくれるらしい。頼もしい人だ。

そして何と、バックアップとしてユーノが同行してくれる事となった。聖王教会やゆりかごへの関心も強く、ジュエルシード事件に巻き込んだ俺への責任もあると名乗りでてくれた。

実にありがたいのだが、いい加減姿を見せろと言いたい。何故か頑なに断られては、クロノ達が笑っているのが気になる。何なんだ、ブ男だったりするのか?


ひとまずこれで、ルーテシアとユーノが俺の戦力となってくれて――見事にハズされた人達の、不興を買う始末となった。


「もう、ゼスト隊長ったら本当に頭が固いんだから。私がリョウスケの監視役で、何が問題なのかしら」

「日頃の行いだろう、絶対」

「公私混同はしないわよ、任務なんだから。しばらくはこちらで生活をする上で、お小遣いくらいあげるのは普通でしょう。お母さんの財布、持って行きなさい」

「仕送りは親の義務だ、当然だろう。住む場所も用意してやらないといけねえな、大至急部下に探させよう。
おい、リョウスケよ。教会で何かあればすぐ親父である俺の名を出せ、ガツンと言ってやるからな。

聖女の護衛するってんなら、人数も居るだろう。部下の中から優秀な奴を何人か、いやいっそ俺自身が全員連れて――」

「あ、ずるい。だったら私も――」

「自立させてくれ、頼むから!?」


 人材の次に厄介だった資金面の問題が、あっさり解決した。ありがたい、ありがたいんだけど、こう……釈然としない。

ルーテシアにしがみついて懇願し、何とかなだめてもらった。すごく頼りになる女性でした、はい。今後とも宜しくお願いします。















 詳細は引き続き詰めなければならないが、異世界への根回しは大筋は済んだ。聖王教会への招待に応じ、面会日時の段取りがつけば異世界へ出向することになる。

先月海外へ旅立ったばかりだというのに、何とも慌ただしいものである。だが海外への旅立ちとは違い、今回は若干の猶予もあり、何より反省もあった。

利き腕を失い、大きな敗北を味わった後もあって、海外へ出た時はほぼ突発的だった。自分のことに精一杯で、他への配慮が一切抜けていたのだ。

自分ばかりが大切だった結果、この八月での大いなる不幸が訪れた。救われたのは仲間や家族達の協力、そして幸運に恵まれただけだ。同じ失敗は二度と、してはいけない。

自分はまた旅立つが、人間関係はその後も続く。今度は自分のことなんて一切忘れて、他人の為に行動しよう。


「異世界に行くのね!? リアルRPG、キター! 旅の準備、してくる! エロい格好してくるね!」

「何でだよ!? おい、女学生さん。夏休みは、残り半月で終わるぞ」

「侍君。うちの学校には、休学という便利なシステムがあるのだよ」

「また補修で泣きを見るぞ!?」

「私が居ないと神速が使えませんよね、良介さん!」

「今度は、真雪とリスティがセットで敵になるから!?」

「久遠と一緒に説得します、任せて下さい! それに私も若輩ながら、神道に携わる者です。
実家からも久遠のことで連絡もありましたし、異なる世界における教会と神の文化に触れることが出来れば、ヒントが得られるかもしれません」

「久遠に関して、何かあるのか……? いや、聞き出すのはやめておくか。どんな事が起きようと、俺はお前と久遠の味方になってやる。
俺の法術についても、教会から聞き出す必要がある。お前も一緒に行って、調べたいものを調べればいいさ」

「ありがとうございます、良介さん」


 思えば、俺は那美の素性を殆ど知らない。退魔師ということは知っているが、言葉だけだ。久遠についても、化け狐ということしか認識がない。表面だけだ。

そもそもの話、退魔師と化け狐という組み合わせ自体矛盾している。妖怪連中を引き連れている俺が言うのも何だが、人と魔の組み合わせは異端なのだ。祓う者と、祓われる者なのだから。

平和な顔をした子狐にも、何かあるのかもしれない。学業を後回しにしてまで一緒に行こうとする那美の決意を、今は尊重しよう。どうやら真雪やリスティも、何か知っているようだしな。

忍については、どうでもいい。嫌だと言ってもついてくるし、一応ローゼの技術者として管理局にも認可されているからな。管理プランの一員である那美とセットで、同行許可を貰ってやろう。


そして主人が行くというのなら、当然従者も一緒となる。


「妹さんは来るよな、当然」

「どの世界であろうと、剣士さんを必ずお守りします」

「すずか様が参られるのであれば、わたしも一緒に同行します!」

「本音を述べよ」

「異世界の平和は、わたしが守ります!」

「同じテンションで言いやがった!? えーと、ノエルはその顔を見れば分かる。ただ、さくらが許可しないと駄目だぞ」

「かしこまりました。旦那様のお世話役として、ご認可頂きます」

「えっ、私の世話じゃないの!?」


 ノエルとファリンの同行はありがたいのだが、難点もある。見た目の美しさで俺さえ惑わされるが、この二人もローゼと同じく自動人形なのである。

ジュエルシードは組み込まれていないので危なくはないのだが、ロストロギアの基準をそもそも俺は知らないのだ。間違えられる可能性も、ゼロではない。

とはいえ、既に管理プランの一員としてクロノ達には知られている。隠し立てするのも変な話だ。外見だけでは全く分からないので、武装について不自然ではないように偽装しなければならない。


そして同じプランの一員でありながら、スネに傷のある人達は当然難色を示した。


「話は分かったけど、アタシははやての騎士だ。同行は出来ねえな」

「そんな、ヴィータちゃん! リョウスケの力になってあげましょうよ、今は一人でも多くの力が必要なんです!」

「ちっ、しょうがねえな。アタシは駄目だが、相棒を紹介してやるよ。そいつ、連れてけ」

「相棒なんていたっけ、お前……?」


「その名も、"のろうさ仮面"だ!」


「……」

「……」

「何だよ、その顔!? すごいんだぞ、こいつ。ちょー可愛いのろうさの仮面をつけた、正義のヒーローだ!」

「仮面をつけてると、ハッキリ言ってるじゃねえか!」

「ありがとうです、ヴィータちゃん! 一緒に頑張りましょうね!」

「アタシじゃねえって言ってるだろうが!?」


 ……ものすごくどうでもいい余談だが、当日こいつは本当に仮面だけつけて来やがったのである。なのに何故か、ルーテシアには可愛いと大絶賛。俺より好感度が高いという、理不尽。

特撮ものには共通の認識ではあるが、正義のヒーローってのは仮面だけで正体を隠せるらしい。何故犯罪者には適用されないのか、サッパリ分からない理屈だが。

まさか守護騎士が力になってくれるとは思わなかった。とはいえ子供とは違い、良識ある大人はそうはいかない。


「はやて。お前にはこの屋敷と、妖怪達の管理を任せたい。さすがの貫禄というのか、あの連中はお前には頭が上がらないからな」

「あはは、何でか一家のお母さんみたいに扱われてるんよ。悪さしたら、ちょっと叱るくらいやのに」


 多分あの連中、今まで誰かに叱られたことなんてないんだろう。やりたい放題やって来た、のではなく、人間達に怯えて何もやれないまま影に潜んで生きてきたんだ。

車椅子というハンディを背負って生きてきたはやては、弱者の気持ちが痛いほどよく分かっている。本人の資質もあるのだろうが、多くの挫折と辛さを経験した人間は強い。

物怖じせず接し、恐れを抱かずに叱り、励まし、共に生きる。支え合うことの大切さを知って、少女は今誰かを支える喜びを噛み締めて生きている。

平和な今の世を生きる新たな王に、古き騎士達も忠誠を誓っている。


「私は主と共に残り、皆を助ける剣となろう。居場所を求めて来る彼らの力となり、居場所を奪いし悪鬼が来れば討ち取ってみせる。安心して、行くといい」

「頼むよ、シグナム。あんたがいれば安心だ。折角居世界へ行くんだ、出来れば彼らの居場所も作りたいと思ってる。
海鳴に新しいコミュニティを形成しているが、どうしても限界はあるからな。新天地は、必要だろう」


 それが異世界行きを決断させた、もう一つの要因。天狗一族と決着をつけたその後のことも、人妖共存を訴える俺は考えなければならない。

海鳴町は健やかな優しい町、妖怪達でも平和に暮らせる数少ない楽園。けれど、楽園の広さは無限大ではない。必ず、限界は来る。

そうなれば、居場所争いになるのは自明の理。人間でさえ自分達の領地をかけて、戦争するのだ。土地というのは、どんな種族でも死活問題となる。

異世界であろうと都合よく場所は空いてないだろうが、開拓するロマンはある。彼らの住める新天地を、求めてみようと思っている。


「私は騎士であり、ウェイトレスさんなので、一緒には行けません。ごめんなさいね、仕事で忙しいの」

「何だその無駄な、キャリアウーマン顔!? 忙しいと、言いたいだけだろう!」

「その代わり、クラールヴィントを貸してあげる。この子も、貴方の力になりたいみたいなの。
ちょっと悔しいわね、自分のデバイスが他の人に信頼を寄せるなんて」

「……水洗いの邪魔とか言ってはずす騎士と一緒にはいたくないだろう、こいつも」


 厨房に立つのは正直ウェイトレスの仕事とは若干違う気もするのだが、翠屋開店に向けてこいつも大忙しである。接客から食器洗いまで、研修中だ。

厳密に言えばアクセサリーは禁止ではないのだが、印象が悪いと言ってクラールヴィントをはずす始末。絶対にこいつを騎士だと思いたくない。

洗い場の角に放置されるこいつの未来が不憫でならず、ちゃんと装備してやることにした。頑張って生きような、クラールヴィント。


「シグナムとシャマルが残るのであれば、主も安心だろう。我は同行し、主の家族であるお前を守ろう」

「あ、あんたが来てくれるのなら百人力だが……いいのか?」

「見ての通り、小さな獣形態での行動を可能としている。このサイズであれば、さほど咎められはすまい。
あの狐と連携して、お前の補佐に回るとしよう」


 なるほど、彼なりに久遠のことも気にかけてくれているらしい。久遠にはどうやら何かあるみたいだし、いざという時の為に同行して貰えれば心強い。

何より俺はゼスト隊長と同じく彼のことを心から信頼し、頼もしく感じている。自分には兄弟はいないが、こういう人が兄貴という存在なのかもしれない。


「リョウスケ、同行は出来ないが――現地で、私も合流する」

「俺達が行くのは聖王教会、あそこもロストロギアには危険な場所だぞ!? ローゼとはまた事情が違うだろう、あんたは」

「法術について調べるのであれば、媒体となっている我が書も無関係ではない。改竄のルーツを探らない限り、リスクはいつまでも付きまとう。
私にとって今は、法術の解除こそが何よりの懸念材料だ。今更お前の改竄を戻されるのは困る」

「昔と正反対のことを言っているぞ、あんた!?」


「ふふ、一体何のことだ? 私は"紫天の書"システムの管制者、今を守るのが私の新しい使命だ」


 ……なんかこの人、シュテル達の誕生以降妙に性格が明るくなったよな? こんな前向きな女性だったろうか。

不気味なほど俺に協力的になったし、どういう訳か率先して力になってくれる。クールな彼女は、何処に行ったのだろうか。


「それにお前の話では、この地は時空管理局最高幹部の違法な監視を受けている。この先主の元で私がこの地に留まる方が、主には危険だ」

「……そうか、そうだな。確かに俺が離れたからといって、監視の目が無くなるとは限らないか。
はやて達管理プランのスタッフも何人か残るし、妖怪達も行き来するからな。問題行動を咎めるべく、今後も監視の目を光らせそうだな」

「そういう訳だ、よろしく頼む。私とてユニゾンデバイス、改竄によるシステム変更や主の許可もあって、お前とのユニゾンも短時間だが可能だ。
お前が起こした"大いなる奇跡"を守るためなら、あらゆる敵をなぎ倒してみせよう」


 おお、頼もしいぞ。それに、この屋敷にはやて達を残すのは悪い手ではない。言い方は悪いけどはやて達の動向が囮となって、グレアム提督やリーゼアリアの目を逸らすかもしれない。

あいつらの狙いは『ロストロギア』にあるが、管理プランも大いに注目どころだ。プラン自体移行しようとも、スタッフが引き続き残っていれば注視せざるを得なくなる。

はやてが取り仕切ってくれれば、何の問題も起こらない。だとすれば夜天の人が残っている方が、むしろ危険だ。

"聖王のゆりかご"という巨大な隠れ蓑があり、時空管理局の目が届きづらい聖地の方が安心といえるだろう。彼女が来てくれるのは、ありがたい。


「アタシは当然、一緒に行くぞ。むかつくけどあのロボット娘と同様、管理プランとやらの対象物だからな」

「ミッドチルダに行くのは、アギトにとってもいいことかもしれないしな」

「あん、何で?」

「だってお前、管理プランが成功すれば晴れて自由の身じゃねえか。何処にでも、行けるぞ」

「……、おーおー、言われてみればそうだったな」

「言われてみればってお前、ずっと自由になりたがっていたじゃねえか」

「ま、まあ、そうだけどよ……なんつーか」

「? 何だよ」

「アタシが居ないとやっていけねえだろう、へなちょこだし」

「へなちょことまで言うか!?」

「はっはっは、まあいいよ。しょうがねえから、飽きるまで面倒くらいみてやる」


 頭をパシパシ叩いて、機嫌よくアギトは飛んでいってしまった。あれだけ自由を渇望していたくせに、すっかり忘れていたようだ。何なんだ、あいつは。

管理プランを通じて生きる目的を探してやると約束したのだが、あの調子では自分で勝手に見つけ出しそうだった。力になるどころか、力を借りてばかりだったしな。

もっとも、俺も自分の人生を切磋琢磨している最中だ。共に生きて、人生の目標を見出すのもいいかもしれない。あいつがいれば、頼りになるしな。


それにしても――と、電話だ。アリサに今後のはやて達の事を任せて、俺が携帯電話を取った。


『失礼します、父上。シュテルです、貴方の娘です』

「自己主張を付け加えなくていいから。ちょうどいいタイミングで、連絡してきたな。
実はしばらく留守にするので、連絡も不通になる。しばらくお前達とも話せないので、電話をするつもりだった」

『そうでしたか、それは非常に残念ですが仕方ありませんね』


 あれ……? 思った以上に、引き際がいいな。何か色々駄々をこねると思っていたのだが、過保護だっただろうか。

娘もいずれは父のもとを離れるものだが、今まで懐かれていた分少し寂しく感じる。うーむ、我ながら親バカだったかな。


『実は我々も正式に居場所が見つかりまして、近々住居を構えるつもりです』

「おっ、ようやく決まったのか。いずれ一緒に住むつもりだと言っていたが、何処に決めたんだ」

『ミッドチルダの北部、ベルカ自治領です』

「なるほど、異世界か。一時的とはいえ身を隠すにはいいかも――ベルカ自治領?」


『はい、ベルカ自治領です』


「……そこって確か、聖王教会の本部があったりするんじゃないか?」

『詳しいですね、父上。もしかすると、まさかとは思いますが、父上もこちらへ参られるのですか?
おお、なんという偶然! なんという奇跡! これこそまさに、父と娘の絆ではありませんか!』

「そんな偶然があるかぁぁぁぁぁぁ!!」


『父上、異郷には危険が付き纏うものです。万が一……そう、万が一にでも戦力がお望みでしたら、実力者に心当たりがあります。いいですか、しっかりメモを取ってくださいね。

理のマテリアル『星光の殲滅者』、"シュテル・ザ・デストラクター"
力のマテリアル『雷刃の襲撃者』、"レヴィ・ザ・スラッシャー"
王のマテリアル『闇統べる王』、"ロード・ディアーチェ"
システムU-D『砕け得ぬ闇』、"ユーリ・エーベルヴァイン"
紫天の書『防衛プログラム』、"ナハトヴァール"

この五名の名前を、頭に刻んで下さい。今なら何と、無料です。父上のご命令であれば何であろうと順守いたします。父上への愛は、神にも勝ります。
素晴らしい人材ですね、すぐに雇うべきでしょう。ご安心下さい、いかなる敵も容赦なく滅ぼしますから。ユーリを含めて全員、力の制御も父の愛により完璧です。戦術・戦略もお任せ下さい。

では現地でお会いしましょう、父上』


 ――何も言わせずに、一方的に電話が切れた。昨今の悪質な勧誘や詐欺よりも酷い電話である。何しろ俺の返答を一切聞かずに、要求するだけだったのだから。

誰に似たんだあの性格と呆れていると、自分本位な俺であることに気付いて頭を抱える。マジかよ、あいつら来るのかよ……戦力とか言ってたけど、自分の娘を戦わせるのはちょっと。


頭が痛くなったので、気分転換にテレビでも――あれ? スイッチ入れてないのに、電源がついたぞ!?


『お久しぶりです、陛下。直接ご挨拶に行けず、このような形で申し訳ありません』

「トーレ……? それに――チンクも!?」

『我々、近い内に陛下の元へ馳せ参じるべくお知らせに参りました。何卒陛下の元でお引き立て頂けたく、お願いに参る所存であります。
必ず貴方の御力となりますので、是非とも一考の程よろしくお願いいたします』

「お、おいおい、そんないきなり……と言うかいつの間に、テレビを!? あ、コラ、勝手に切るな!」


 ――ちょっと待って、整理させて。えーと、未確定や現地合流組を含めて、今の段階で……



・アリサ・ローウェル
・ミヤ
・アギト
・ルーテシア・アルピーノ
・ユーノ・スクライア
・月村忍
・月村すずか
・ノエル・綺堂・エーアリヒカイト
・ファリン・綺堂・エーアリヒカイト
・ローゼ
・神咲那美
・久遠
・のろうさ仮面(ヴィータ)
・ザフィーラ
・夜天の人
・シュテル・ザ・デストラクター
・レヴィ・ザ・スラッシャー
・ロード・ディアーチェ
・ユーリ・エーベルヴァイン
・ナハトヴァール
・チンク
・トーレ



 "現時点で"――22名。



「……寝るか」



 明日はフィアッセ達とも会う必要があるし、カレン達にも事情を説明しないといけない。天狗一族の件もあるし、なのはやフェイトともちゃんと話したいからな。

あー、疲れた。自分で書いた名簿を握り潰して、俺は自分の部屋に戻った。



――何だよ、この陣営……どうなってるんだ? 人集めする前に、何で次から次へと集まってくるんだ。何が出来るんだ、このメンバー!?










<続く>








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