とらいあんぐるハート3 To a you side 第二楽章 白衣の天使 最終話




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 朝っぱらから意外な奴に出会ったな・・・

ここ最近、知り合いとの再会が活発になりすぎている気がする。

俺は嘆息して、車の外から睥睨する。


「・・・・で、こんな所で何やってんだ?」

「そ、それは私の台詞だよ!
どうして侍君がこんな所にいるの!?
まだ入院中でしょ」


 助手席から顔を覗かせる月村が、驚きも冷めないまま尋ねてくる。

月村とノエルには入院期間は教えてある。

というか、病院の連中に勝手に聞きやがった。

何回か見舞いに来てそれっきりだったので、もう会う事もないと思ってたんだが・・・・俺はちょっと考えて、答えた。


「リハビリ中だ」

「リハビリで外には出れないと思うんだけど?」

「考え方が古いな、お前は。
時代は変化し、世の中も変わってるんだぞ。
もう少し常識を新たにしたらどうだ」

「・・・現代の侍に言われるとは思わなかったな」


 月村はくすっと笑う。

・・・気になる笑い方だが、誉められたのだと思っておこう。


「で、お前らは何やってんだ?
朝っぱらからこんな路上で」


 別に何か珍しいモノが見える訳でもない。

何の面白みも無い普通の道路の真ん中で停車させる理由が分からん。

ガス欠ならエンジンかかっているのはおかしいし、何よりノエルがそんなミスしないだろう。

問い詰めると、月村はきまりが悪そうな顔をする。


「え、えーとね・・・その・・・」

「うん」

「その、さ・・・・ね?」

「いや、ね?とか言われても分からんし」

「あ、あはは、そ、そうだよね、うん・・・・・」


 ???

頭でも狂ったのかと言おうとして、口をつぐむ。

言い出し辛いのには、何か理由がありそうだ。


「何だよ?何か悩みとかあるのか」


 悩むなら普通家で悩むとは思うけどな。

何とか聞き出そうとするが、月村は何やらもじもじしたまま。

ああああああ、もう!


「じゃあノエル。お前が説明してくれ」

「えっ!?ちょ・・・っ!?」

「シャラップ!お前じゃ話が先に進まん。
さあさあノエル、一から十まで説明するのだ。
こいつはどんな恥ずかしい秘密を隠している?」

「そ、そんなのないよー」


 何やら抗議する月村は無視。

こんな路上でいつまでも車の傍で突っ立っている程、暇じゃない。

・・い、いや、暇は暇だが、早く帰らないとまたフィリスに文句言われる。

・・・・・い、いやいや、別にあいつが怖くて急かしているんじゃないぞ!

俺の内心の葛藤をよそに、ノエルは瞑目してそっと口を開いた。


「・・・宮本様、お車へお乗りになりませんか?」

「え・・・・?」


 予想外の言葉に眉を潜めると、


「宮本様は怪我をなさっています。
ご無理をなさるのはどうかと思いまして・・・・」


 そう言われて、ふと車の外で立ちっぱなしの自分に気付く。

傍から見れば、あまりいい印象は与えないかもしれない。

それにこのまま話すのも確かに疲れるだけだ。


「忍様もよろしいでしょうか?」

「う、うん、それは勿論!侍君なら大歓迎だから」


 慌てて笑顔を向ける月村。

じゃあ折角だし乗っけてもらうかな。

俺は後部座席のドアを開こうとすると、ノエルが運転席から出て来た。

そのままゆったりと歩み寄り、後ろのドアを開く。


「・・・どうぞ、お乗り下さい」

「あ、ああ・・・」


 さ、流石メイドと言うべきなのか、これ?

丁寧すぎる気がしないでもないが、悪い気はしないのは事実だった。

俺はそのまま乗り込んで、ゆったりと座席に腰掛ける。


「相変わらず乗り心地は抜群だな、これ」

「あはは、侍君はもう何度も乗ってるもんね」


 ものすごい経緯でだけどな。

何やら楽しげな月村に、俺も苦笑いを思わず笑いがこみ上げる。


「・・・いかが致しましょう?
何処か目的地があるのでしたら、そちらに向かいますが・・・・」


 うーん、一応病院に帰るつもりではあった。

フィリスも付き添っていたし、これ以上面倒事を起こすとまた泣かれそうだ。

かといって、このまま病院に帰って話をするのもな・・・

色々考えあぐねていると、不意に腹の虫が鳴った。
思いっきり聞こえたのか、月村は笑みが広がる。


「私、リクエストしていい?」

「ん?何処、行きたいんだよ」


 月村は俺に悪戯っぽい瞳を向けて、


「私と侍君が出会った場所」


 可愛らしくウインクした。
















 この公園にまた来るとはな・・・・

海が見渡せる広い公園で、海に沿って快適な遊歩道がある。

朝方で人はちらほらとしか見えないが、それでも屋台は開店されていた。

月村の話によると今が特別なのではなく、年中この辺りに屋台は立ち並ぶのだと言う。


「ここで会ったんだよね、私達」

「んー、ほうはっはっへ?(そうだったっけ?)」

「侍君には遠くの思い出より、近くの食べ物なんだね」


 正確には公園の前を通る道路だった気もするが、それは言うまい。

鯛焼き(当然奢り)をがっつく俺に、月村は唇を尖らせる。

怒っているような物言いだが、表情はどこか楽しげだった。


「初めて会った時もそうだもん。
落としたお寿司で嘆いてたし」


 そういえばそうだったな。

何か事故ったらしいこいつに気を取られて、戦利品を無残にしちまった。

久しぶりのお寿司だったのに、もったいない事をしたもんだ。

・・・・ま、もういいけど。


「お陰で、久しぶりにリッチな朝食を堪能出来たけどな」

「すっごく美味しそうに食べてたもんね、侍君。
またいつでも食べに来―――あ・・・・」


 それまで笑顔だった顔が急に曇る。

?何だ、一体・・・?

思わず箸の手を止めて凝視すると、月村は落ち込んだ顔で視線を逸らす。

今日はさっきからどうしたんだ、こいつ?


「どうしたんだよ、お前。本当におかしいぞ。
何か悩みでもあるなら、俺・・・・
い、いや、有料で聞いてやろう」


 俺に何でも相談してみろ、と言い掛けて軌道修正。

俺までフィリスみたいな事言っててどうする。

連中の甘さが移ってるな・・・反省、反省。

俺の言葉に月村が振り返って、


「タダでは聞いてくれないんだー
侍君、冷たいな」

「現実は厳しいんだ。金持ちだからって甘えてはいかん」


 したり顔で頷くと、月村は表情を崩した。


「・・・いいよね、侍君のそういうとこ」

「ん?」

「・・・・気取らない思い遣り。
上辺だけ優しい人なんかより、ずっといいよ」


 な、何を言ってるんだこの馬鹿?

あ、朝っぱらから意味不明な事言いやがって・・・

俺が当惑しているのにもかまわず、月村は視線を横に向ける。

風もなく穏やかな水面――

月村は表情を見せないまま言った。


「・・・侍君は・・・・やっぱり退院したら町を離れるんだよね?」

「え・・・・・?」


 思わず、持っていた紙皿を落としてしまう。


「だ・・・・だったらさ、何時出て行くのか教えて欲しいな。
き、気持ちの準備とかあるし・・・・
そ、それと・・・・また、こっちに来るかな?」


 次々と言葉を投げかける月村。

正直、その勢いには圧倒された。

口も挟めずにいると、最後の最後で月村は消え行くような声で呟いた。





「・・・このままお別れは・・・・嫌だよ・・・・」





 ・・・・・こいつ・・・・・

――分かった。

何でこいつがあんな場所にいたのか―――?

どうして病院へ続く一本道で途中停車していたのか、を。

この馬鹿・・・・・変な遠慮しやがって・・・・

俺は回れ右する。

顔を見られたくはない―――


「・・・・誰が出て行くって言った」

「え・・・・・」


 驚いて振り返る気配が背後に――

俺は声が上擦りそうになりながら、たどたどしく言った。


「出ていかねえよ。
や・・・・・やらないといけない事だってあるしな」


 それは嘘じゃない。


「あ・・・・・」


 い、言わないといけないだろうか、やはり?

自問自答しながら俺は渋々・・・・そう、渋々口にする。


「・・・・お前にそんな顔されちゃ・・・・行くに行けないだろうが」


 ・・・顔を見せずにいたのは正解だった。

こんな顔見られたら、俺は恥ずかしさで切腹する。


「ほ、本当に?
本当に何処にも行かない・・・?」

「男に二言はない」


 ・・・ま、他にも色々あるしな・・・・

しばらく腰を落ち着けて修行するのもいいだろう。

他にも約束事とかも作っちまったし、全部片付けてトンズラしよう。

自分を納得させていると、背後から柔らかい感触が飛びついてくる。


「えへへ、侍君!」

「おわっ!?抱き付くな!?」

「い・や♪」

「痛いって!?怪我、怪我!?」


 ふと顔を上げると―――

車の側で佇んでいたノエルが微笑んでいるのが見えた気がした。

はあ・・・・・・

変な事言っちまったな、俺もよ。
















 海鳴町――

どうやら、俺はまだ離れる訳にはいかないようだ。























<第三楽章へ続く>

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