とらいあんぐるハート3 To a you side 第二楽章 白衣の天使 第十五話




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入院中は朝・昼・夜三食の飯がある。

御馳走と呼ぶには程遠い献立内容で、お代わりも出来ず味も薄い。

それでも俺の食べているご飯は、重病人とかに比べればましのようだ。

以前までは食べる物にも事欠く毎日だったので、俺としてはそんなに不満は無い。

が、味気ないとも思えてしまう。

やはりあの日々が俺にそう思わせるのかもしれない――





『・・・宮本様、本日のご夕食ですがご希望はありますか?』

『うーん、ノエルの料理は何でも美味いからな。
聞かれたら迷うな・・・・』

『・・・ありがとうございます』

『じゃあ今日は私が作ろっか?』

『・・・忍お嬢様、それは・・・』

『そうそう、お前のは不味そうだから駄目』

『ひどい!侍君、食べた事ないくせに』

『どうせ作った事なんだろう、お前』

『ちょ、ちょっとくらいは・・・・』

『ノエル、今日は和食頼む』

『かしこまりました』

『無視しないでよ,二人とも〜!?』





「くぅん?」

「・・・何でもねえよ。さ、食おうぜ」


 桃子となのはが帰った後、夕飯の時間となった。

二人が帰って、フィリスも往診に出かけた今、部屋にいるのは俺一人。

・・・正確には一人と一匹だが。


「はあ・・・・」


 運ばれて来た今日の夕食。

例によって変化のない献立で、御飯少々と数点のおかずのみ。

病院側の手作りで、栄養面もちゃんと考えられているのだろう。

入院している患者を第一に考えた料理なのも分かる。

けど・・・・・


「久遠、お前これ全部食うか?」

「くぅ〜ん?」


 狐の言葉は分からないが、目が心配の色を映している。

・・・こいつ、人間の感情とかも理解出来るのだろうか?

へ、そんな訳ないか。

自分の気にしすぎを自嘲するように笑って、俺は言った。


「腹が減ってないだけだ。
俺よりむしろお前の方が減ってるだろう?遠慮なく食え。
俺からのサ―ビスだ」


 おかずを箸で切り分けて,俺は久遠の口に持っていってやった。

食欲がないのは嘘だが、食べる気がしないのは本当だ。

少なくとも今は病院の飯を食べたいとは思えない。

俺はふと周りを見る。

日も暮れて窓からの光はなく,室内は蛍光灯のみ。

灯りはあるのに、妙な薄暗さを感じる。


「・・・・・」


 独りでいるのは慣れている。

ガキの頃から自分の事は自分でやってきた。

誰かに頼るような生き方ではやっていけなかった。

独りで十分だった。


「・・・親と子か・・・」

 ・・・分かっている。

今日の、いや今の俺は変だ。

普段なら気にも止めない事をくだらなく考えている。

何の思いもこもっていない食事がいやに冷たく感じてしまう。

思い出してしまう――

ノエルが作った手料理。

桃子が持ってきたシュークリーム。

俺の為に作ってくれた食事。

違いはあるが、忘れられない味だった。


「・・・・・食いたいな」


 空腹によるものか、感傷的になっているがゆえか。

とにかく、何か温かい物を口にしたかった。

ここ最近毎日食べている病院の飯が今日はやけに不味そうに見えて仕方がなかった。


「お前は悩みがなさそうでいいよな・・・」


 無心に俺の差し出すおかずを食べている久遠に、俺は嘆息気味に言った。

俺も別に悩みと言う程ではないのだが。

そんな俺の声を聞きつけてか,久遠は顔を上げて俺を見る。


「何でもねえよ。お前は食ってろ」


 その言葉に,まだ何か言いたげだった久遠が黙って食事を再開する。

小さな口をもぐもぐさせる姿に愛嬌がある。


「そういえばあのガキ、こいつを気にかけてたな・・・」


 始終俺と話はしていたが、隠れている久遠を目の端々で見ていた。

なのはのような幼い子供には、子狐は興味対象だろう。

見た目も可愛らしいこいつである。

本当は触りたかったのかもしれない。


「次もし来たら触らせてやるか・・・」 


 もっとも、そういつまでもここに置いておくのもな・・・

こいつの事は嫌いじゃないが、ここは病院だ。

フィリスは人が良いので見逃してくれたが、あいつも立場上いつまでもという訳にもいかないだろう。

他の看護婦や医者に見つかったら、即座に連れ出される。

第一、


「飼い主が探しているだろうからな・・」


 どうせこいつの事だから、黙って出て来たに違いない。

俺に会いに来たという点はポイントは高いが、あの娘が探しているならほっておくのも目覚めが悪い。

せめてここに居る事だけでも教えてやりたいのだが・・・


「お前に人間の言葉を話せたらな・・・」


 久遠の毛を撫でながら、俺は馬鹿な事を言う。

あの娘の居場所を知っているのはこいつだけだ。

連絡を取ろうにも,あの娘の住所や電話番号が分からないとどうしようもない。


「・・・・待てよ?・・・」


 ふと閃いたナイスなアイデアに、俺は口元のにやつきを抑えられなかった。















「いいか?足音を立てるなよ、絶対」

「くぅん」

「鳴いても駄目!静かに、静かに」 


 夜も更けて、深夜に差し掛かった頃――

消灯した真っ暗な廊下を、俺と久遠はこっそり歩いていた。

見回りしている看護婦と出くわせさないように、注意を払う。


「まさかフィリスもこの時間には居ないだろう・・・」


 この病院で俺にとっての一番の天敵はあいつだ。

別に喧嘩が強いとかではなく、何故かあいつには逆らえない。

少なくとも患者と医者という関係で、あいつに逆らう事は無理だ。

俺は慎重に行動し、向かう。


「・・・さ、案内してくれよ。お前の飼い主の所へよ」


 気分が妙に滅入っているし、腹も減っている。

こういう時は気分転換が一番いい。

ついでに、久遠に案内してもらって飼い主を見つける。

おお、我ながら素晴らしいアイデアではないか。


(ふっふっふ、悪いなフィリス・・・)


 固定している肩も行動に支障は出ない。

普段着に着替えた俺は、久遠を連れてそのまま外へ――





入院生活初めての抜け出しだった。























<第十六話へ続く>

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