とらいあんぐるハート3 To a you side 第七楽章 暁は光と闇とを分かつ 第六十四話





 ヨーロッパ中部に位置する連邦共和制国家ドイツ起きた、ロシアンマフィアとテロリストによる襲撃及び占拠事件。

ドイツの首都ベルリン北部に建てられた孤城にて、各国の政治権力者や財界人、著名な文化人が集って世界会議が行われていた。

会議の詳細は不明、最高機密レベルの会合が連日連夜行われる中で、突如銃を持った一団が乱入。ドイツの孤城の制圧と、占拠を決行。


世界各国の最高権力者達の人質確保を目的としていた彼らは、法の網を潜り抜けてテロ活動に乗り出した。


事件発生後警察当局へ通報の働きかけはあったが、即時の武力突入が行えず結果として時間を浪費してしまう。

城には欧州の覇者達以外にも多数の民間人が務めており、人質としての価値がない彼らは抹殺されようとしていた。


この歴史的大事件は、何とたった一日で解決。この目覚しくも鮮やかな平和的解決に、世界中が驚愕と感動に荒れ狂った。


世界的規模の、政府要人襲撃テロ大事件。最悪の末路を迎えれば政治的影響のみならず、世界全土が恐慌していたであろう。

世界の危機を救ったのは、法の守護者。次元世界全体を管轄とする治安組織、時空管理局――なのに。



『あの方は、私達の救いの神様です。私がこうして家族と再会出来たのも全て、日本の"サムライ様"のおかげです』

『テ、テロリスト達に銃を向けられて、怖くて怖くて……ううっ……それを、あの人が庇って下さって。
全員必ず助けると何度も、何度も優しく励ましてくれて――是非お会いして、お礼を言いたいです』

『――はい、そうです。お侍さんが全部、俺達に指示してくれたんです。あの人が居なかったら、俺死んでましたよ』

『お偉いさんが何人も人質に取られて、どうしようもなくて……日本の方が、犯人と直接交渉して全員無事に助け出したんです。
交渉内容はちょっと分かりませんけど……あの人だって撃たれかけたのに、勇ましく戦って犯人と対峙してました。

間違いありません。お偉いさんも、私達も全員、あの日本の方が一人で助けてくれました!』

『あのさ、この放送"サムライ"にも届いているよな? ホントかっこよかったぜ、あんた!』

『ニホン、バンザイ!』

『サムライ、バンザイ!!』


『――このように、被害に遭われた方々は涙ながらに感謝の言葉を述べております。
襲撃を受けたのはドイツ国民のみならず、アメリカやフランス、イギリス各国の要人もおり、世界中が"サムライ"を英雄として称えて――』


「くっそう、あいつら……俺に全部、押し付けやがって! 時間稼いだだけなのにぃぃぃーーー!」


 何とか事なきを得た、勝利よりもこの言葉がしっくりくるように思う。関係者で死人が出なかったのは奇跡的だった。

ルーテシアが呼んだ救援部隊、時空管理局の精鋭がマフィアやテロリスト達を制圧。俺を含めて全員、救われたのだ。

世界を管理する組織だけあって、事後処理に至るまで完璧だった。異世界に関する痕跡は何一つ残っていない。


ただ何も無かった事にすることは出来ず――唯一管理局の存在を知る俺に、彼らは手柄を全て押し付けていった。


突入の瞬間全員目を閉じて床に伏せさせていたので、目撃者は誰も居ない。電光石火の早業で、犯人達すら局員の顔も見ていない。

恐らく計っていたのだろう、時空管理局が事を終えて撤収後警察が大挙として到着して雪崩れ込んで来た。あれでは絶対、分からない。


謎の部隊、影の救援者、姿を見せない法の守護者達。有耶無耶になった部分に、俺というピースを強引にはめ込んだのだ。


奴らの世論操作を後押ししたのは、よりにもよって真実。要人テロ襲撃事件の詳細が明るみに出て、世界中に広まってしまった。

当事者である俺は何にも言っていないのに、救い出した使用人達や要人がこぞって俺を褒め称えるのである。強烈な後押しだった。

せめて使用人達を口止めしておけばよかったのだが、後の祭り。こうしてテレビや新聞に出て、いちいち俺にお礼を言うのだ。

何度も言うが、俺はただ時間を稼いだだけなのだ。誰にでも出来る事なのに、世界が騒ぎ立てるので表にも出れなくなった。


「会議も中止になったままだし、しばらくは此処で大人しくするしかないか」


 夜の一族が提供してくれたこの別荘は、俺以外誰も居ない。周辺に住宅も無く、豊かな自然に囲まれた一軒家だった。

一人にして貰ったのは理由がある。世界中で騒がれている手前表に出れないのも事実だが、人に見られたくない事情があった。

幸いというのも変だが、各国の代表やカミーユ達もこの事件の後処理に奔走させられている。彼らは人の上に立つ存在、務めがある。


――感謝のつもりなのか、あいつらも俺を命の恩人とか、テロリストを倒した英雄とか褒めちぎるから、余計に世界が盛り上がるのだが。


ドイツの首都ベルリンで起きた爆破テロ、フランス大財閥の御曹司誘拐、各国の要人襲撃テロ事件。そのどれも、俺が関わっている。

表舞台に姿を見せないから神格化されている節があるが、コメントを求められても困る。偶然巻き込まれただけ、では納得しないしな。


それに一連の事件による影響は、この世界だけに止まっていない――ようやく一人になれたので、用件を済ませよう。



『君から目を離すべきではなかったと、今更ながらに気付いた』

「久しぶりにリアルタイムで会った第一声がそれか、執務官」

『アルピーノ捜査官から事の顛末を聞かされて、久しくなかった眩暈に襲われたよ。作り話だったら、どれほどよかったことか』

「くそっ、あいつは捜査官だったのか。だったら、俺が出張る必要なかったんじゃねえか」

『どうして大怪我している身で、率先して前に出ているんだ!? 無事だったから良かったものの、少しは大人しくしていてくれ』


 目の前に魔法陣が浮いており、テレビ電話のような通信画面が展開されている。これこそ異世界の技術であり、表に出せない秘密だった。

映し出されているのは黒の執務服を着た、一人の少年。クロノ・ハラオウン執務官、ジュエルシード事件では世話になった。


再会の約束はしていたのだが、こういった形になるとは夢にも思っていなかった。


『本来なら管理外世界への通信は厳しい制約があるのだが、広域次元犯罪捜査を理由に特例で君個人への通信回線を開通した。
特に君の場合何かあってからでは遅いので、少しでも気になった点があれば必ず連絡するように』

「随分思い切った真似をしたな、規則にうるさいお前らしくもない」

『これだけ散々関わっておいて何を言っているんだ、君は! もっとも君自身に非はないのも、承知はしている。君も必死だったのだろう。
ただ軽率な行動が多すぎるし、あれほど注意したのに危険に自ら飛び込んでいる』

「俺だってお前の力を借りたかったんだぞ、色々と。でも連絡の取り様が無かったし――

お前らと次会う時までに、少しはビシッとしたところを見せたかったんだ」


『……僕達が一番見たいのは元気な君の姿だ、全く……本当に、無事で良かった」


本当にいい男というのは、クロノのような奴を言うのだろう。他人の無事を心から喜べるというのも器量だ。ちと青臭いが、それでいい。

とりあえず連絡が取れるようになったのは喜ばしい。泣きたくなるほどしんどい状況ばかりなのに、これまで助けを呼べなかったのだ。

お互い無事な顔を見せて、喜び合う。他人を拒絶していた頃、決して得られなかった感覚だ。


『では改めて、紹介しておこう。時空管理局地上部隊の分隊長を務めてられている――』

「……?」


 何故かクロノは言葉を止めて、隣を見やる。一言二言何やら話して、疲れを滲ませて溜息を吐いた。何なんだ、こいつ?

一度咳払いをして気を取り直し、クロノは紹介を行った。


『"ルーテシア"・アルピーノ捜査官だ』

『ごめんなさいね、お礼もロクに言えずに撤収してしまって。君の勇気ある行動、本当に素敵だったわよ』

「アンタには言いたいことが山ほどある」


 確信して言える。情報操作して俺に手柄を全て押し付けたのは、間違いなくこいつだ。気付いた時には、もう姿を消してやがったしな。

断じて責任逃れではないのは、こいつのお人好しの性格を考慮すればすぐに分かる。撤収しなければならなかったのも理屈では分かる。


けど、おかげでこっちは今世界の英雄扱いされているんだ。文句の一つくらい言わせろ、この野郎。


「時空管理局員だったんだな、あんた!? しかも何、捜査官のキャリアを持った、分隊長だと……?

だったらあの時、あんたが犯人達と交渉してくれればよかったんじゃねえか!」

『だから、私が出ると言ったのよ?』

「――そ、そういえば、言っていたような……」

『おい』


 クロノが呆れた眼差しを向ける。だ、だって、どれほど腕が立つからと言っても、女一人で戦える戦力じゃないだろ!?

次元犯罪を取り締まる時空管理局の分隊長レベルともなれば、相当な強さだろう。魔導師と知っていれば、押し付けたのに!


……分かっている、押し付けられる筈がない。あれほどびびっていたのに、俺は戦おうとしたのだから。


『そんな顔しないの。私があの時局員としての責任を果たせなかったのは、事実。そして――

とても無謀で、とても勇気ある君の行動が、私を含めた皆を救った。それも事実でしょう』

「違う。あの時あんたが動けなかったのは、俺を含めてあの場に居た全員を守ろうとしてくれたからだ。
あんたが彼らを守ってくれなかったら、俺は前だけを向いて戦えなかった。

敵を倒すよりも、味方を守る方が余程難しい――俺の方こそ、守ってくれてありがとう」


   黙って姿を消して怒っていたのは、面と向かってお礼が言えなかったからだ。ルーテシアが居なければ、喪うのに怯えて戦えなかった。

英雄扱いされて憤慨しているのは、俺一人の手柄では断じてないからだ。皆が皆、恐怖に負けないように抗っていた。

チンクやトーレ、ノエルやファリン、忍達もそうだ。皆が俺を信じてくれた。ローゼだって敵を裏切ってまで、俺に自分を預けてくれた。

世界中が、誤解している。マフィアとテロリスト達を倒したのは、俺一人で倒したのではない。

感謝を言いたいのは、俺の方だ。俺を信じてくれて本当にありがとう、皆。


あんた達全員、ヒーローだよ。


『……アルピーノ捜査官、少し意地悪が過ぎませんか? 彼は、私が言った通りの男だったでしょう』

『残念ながら違っていたわよ、クロノ執務官。彼は、貴方が言っていた以上の男だったわ。
だからこそ試してみたいの、自分の手で』


 トーレやチンク、ドゥーエといい、お前らは何故俺の前で俺には理解不能な会話をし始めるんだ!? 俺にも教えろよ!

こいつらはこいつらで、何か隠しているらしい。何かまた嫌な予感がする。女絡みでいい事があった試しがない。


『当人達の問題ですし深入りするつもりはありませんが、事件解決に彼の協力は不可欠です』

『ええ、任務にまで私情は挟まないわ。隊長を紹介しようと思うけど、その前に――あの子達に、会わせた方がいいでしょう』

『しかし、今日「レジアス中将」より通達があったのでしょう。時間がないのでは?』

『「ゼスト隊長」の許可は貰っているわ。あの子達を、安心させてあげて』

『――ご配慮感謝いたします、アルピーノ捜査官』


 頭を下げるクロノ執務官に微笑んで、ルーテシアはそのまま退室する。状況はよく見えないが、話の内容は分かった。

幾らなんでも、俺だってそこまで鈍感ではない。誰と俺に会わせたいのか、ちょっと考えればすぐに分かる。

クロノが黙って俺を一瞥し、俺も頷いた。正直に言おう、テロリストに銃を向けられるより今緊張している。

通信画面よりクロノが姿を消して――慌しい足音を立てて、懐かしき顔ぶれが通信画面に現れた。


「……よっ、元気そうじゃねえか。なのは、フェイト」


『おっ――おにーひゃんの、バカぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!』

『じ、じんばいじだんですよ〜〜〜!!!』


 可愛い顔をグチャグチャにして、二人の魔法少女が大泣きした。声が興奮で上擦っていて、言葉になっていない。

俺よりも遥かに強い戦士達が悲しみに暮れているのを見ると、やはり子供なのだと思い知らされる。


  国を超えて、時を越えて、世界を超えて――辛い時間を乗り越えて、俺達は再会した。


「携帯電話に何度かけたと思っているんですか、おにーちゃん!」

「ど、何処かに落としてしまった。悪い」

「リョウスケから連絡の一つもしてくれてもいいと思います!」

「連絡しようが無かったんだって!?」


 呆れたものだ。何度も死を覚悟したのに、生き残ってみればこれほど多くの未練がこの世に残されている。

人が生きるというのは案外、生きていく理由を作っていくものかもしれない。俺には、また一つ生きていく理由が出来た。



ミヤ、そして夜天の魔道書――犠牲にしてしまった分まで、俺は懸命に生きていく。















<続く>








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