とらいあんぐるハート3 To a you side 第二楽章 白衣の天使 第九話






 噂をすれば何とやらだな…

俺の病室に入ってきた二人を見て、俺は嘆息と共に心の内で呟いた。

高町 美由希と高町 恭也。

並んだ二人を落ち着いて見比べてみると、顔こそ似ていないが雰囲気が似ている気がした。

兄妹だという話だが、こうして見ると改めて納得できる。


「おししょーに美由希ちゃんやないですか。二人もお見舞いに来たんですか?」


 やや驚き混じりに尋ねるレンに、恭也も少し驚いた顔をする。


「それはこっちの台詞だ。
レンや晶が見舞いに来ていたとは思わなかったよ」

「こんにちは。どうぞお入りになってください」


 病室の主の意見を何一つ聞かず、にこやかに応対するフィリス。

――まず、友人かどうかを聞けよ。

高町兄妹も軽く丁寧に頭を下げて、ドアを閉めて入ってくる。

追い出すつもりはなかったので、別にいいけど。

後で色々聞かれるのもうざいので、予め高町兄妹との出会いと事件に関して説明はしておく。

話し終えると、フィリスも簡単に自己紹介する。


「なるほど、分かりました。
改めまして、私良介さんの担当医をさせていただいているフィリス・矢沢と申します」


 馬鹿丁寧な態度で、フィリスは礼儀正しく頭を下げる。

別にただの見舞い客にそこまでせんでもいいと思うが、そこはそれこいつの人柄なのだろう。

フィリスは自己紹介し終えて、あっとした顔をする。


「ごめんなさい、飲み物三つしか買ってきていません。
追加でお二人の分も買ってきますね」


 そう言って部屋を出て行こうとするフィリスに、レンが慌てた様子で制止した。


「い、いや、もううちらそろそろ帰りますから!」

「そ、そうですよ! 俺達の分、師匠と美由希ちゃんでどうぞ」


 レンはおろか、晶まで恐縮した様子で声をかけて立ち上がる。

二人の様子に感化されたのか、指名された当の美由希も目を見開く。


「わ、私達に遠慮する事はないよ。ね、恭ちゃん」


 恭…ちゃん?

聞きなれない単語を耳にして、俺は背中が痒くなるような感触を覚える。

恭ちゃんと呼ばれた男も、ああと頷く。


「診察の邪魔をしては迷惑だからな」


 …それを言うなら、こいつら二人がいても同じだと思うんだが。

口に出したい衝動に駆られたが、こいつなりの配慮なのだろう。

俺は静観する事にした。

高町恭也の気遣いが嬉しかったのかレンは嬉しそうに笑い、それでも首を振った。


「夕飯の支度もあるんで、そろそろ失礼します。
今日はお礼を言いたくて来たので」


 レンはそう説明して、俺のほうを見る。

今までにない優しい顔つきに、俺は何も言い出せずつい黙ってしまった。


「また来て…ええかな?
病院食だけじゃ味気ないと思うし、よかったらお弁当こしらえて来るけど――」


 弁当? お前が?

疑問が顔に出ていたのか、途端にぶすっとした顔に戻ってレンは言い募る。


「何や、その顔は!
こう見えても、あんたを唸らせる位の料理は作れるんやで。
何やったら、お寿司でも作って持ってきたろか?」


 俺に断る理由はなかった。

俺の中でこいつの人気ランキングが跳ね上がる。

この間まで生意気なちんちくりん中国娘だったのが、今俺の食料大臣となった。

俺は超大真面目な顔で頷く。


「ぜひ来てくれ! というか、来い」

「命令形かい!?」

「どうしてもお前が来れない時は、弁当だけこっちに持って来い。
というより、寿司だけでオッケーだぞ」

「…正直な男や…」


 表情を険しくするレン。

ふん、人間正直に生きるのが一番なんだよ。

周りを見ると、俺とレンを見て他の女達がくすくす笑っていた。

なんだなんだ、どうして笑っているんだお前ら!?

文句を言おうとしたが、下手に身体を動かしてしまい肩に激痛が走る。

いだだだっ!? 

痛む肩を無闇に押さえる事は出来ず、かと言ってこいつらの前で悲鳴をあげるのもカッコ悪い。

必死で痛みを堪えて俺が横になると、晶が俺を上から心配そうに覗き込んだ。


「大丈夫ですか、良介さん。肩、痛むんじゃ…」

「た、大した事はねえよ、これくらい」


 今でもジンジン痛むが、それでも余裕に答えられる俺はやはり器がでかい。

男とは何時如何なる時でも耐え忍ぶ者なのだ。

大丈夫だと言い切る俺に安心したのか、晶は青空のような眩しい笑顔を向ける。


「俺もまた来ます。
俺も料理には自信あるんで、こいつなんかより美味い物作ってきますよ」

「へえ、お前も料理作れるのか」 


 意外だった。

レンはまあ見た目が見た目なので、びっくりはしたが意外でもなかった。

だけど晶はどこから見ても体育会系であり、料理が作れるようには全然見えない。

そんな俺の顔を伺って、傍らにいたレンが馬鹿にするかのように鼻で笑った。


「あんたみたいなこざるの料理なんて、病気悪化させるだけだろ。
うちがちゃんと誠心誠意こめて作るからひっこんどき」

「なんだと…」


 穏やかだった顔を一変させて、晶は立ち上がってレンを睨む。


「お前の料理こそ脂っこいもんばっかりで、入院を長引かせる結果に終わるんじゃないのかぁ〜?」

「…うちの料理に因縁つける気か、あんた!」

「お前こそ俺の料理に変な言い方するなよ!」

「なに!」

「何だよ!」


 見る見るうちに大事になって、二人はここが何処かも忘れたように口論し始める。

二人の声は発声がいいのかよく響き、病室内は大いに賑わう結果となった。

ここが個室じゃなかったら、俺が他の患者に文句を言われるところだったな…

俺は言い争う二人を尻目に、高町兄妹に視線を向ける。


「…こいつらって実は仲悪いのか?」

「ほ、本当はすごく仲がいいんですよ。
ただ、ちょっとたまに意見の食い違いがあって…あはは…」


 …笑い声に力がないぞ、美由希

レンと晶が普段どういう関係なのかを知ってしまった気がする。

俺の想像を裏付けるかのように、高町恭也は疲れた表情で言う。


「本当にすまない。
後五分もすれば終わるから、もう少しの間我慢してくれ」

「あ、ああ…」


 二人の関係は、こいつにとって頭痛の種なのかも知れない。

口論し続ける二人を見つめ、俺はちょっとだけ高町恭也に同情した。


















 結局、二人の口喧嘩は引き分けで終わった。


















 フィリスの優しい注意で二人は我に帰り、俺に謝って帰っていった。

俺は俺でなかなか楽しめたので二人を笑って見送り、先程訪れた第二の珍客に視線を移す。


「で、お前らもまさか俺を見舞いに?」

「はい。肩、大丈夫ですか?」


 立ちっ放しで放置する訳にもいかないので、二人には椅子を提供する。

ちょこんと腰掛けながら心配そうに尋ねる美由希を見ると、剣を振るようにはとても見えない。


「ああ、全然大丈夫。もういつでも剣が振れるぜ」


 自信満々に言ったのだが、それを平然と受け入れるフィリスではない。


「嘘をつかないで下さい。
回復には向かっていますが、まだ安静です」

「えー」

「不満そうに言っても駄目です」


 じろっと俺を見、フィリスは断言する。

言葉の何処にも妥協点が見えず、俺は観念するしかなかった。

そんな俺とフィリスの会話に、美由希は表情を和ませる。


「良かったです、本当に。
本当はもっと早く見舞いに行きたかったんですけど…」

「別にお前が気にする事じゃないだろう。
俺は自分の都合で戦って、怪我しただけなんだからよ」


 思い遣ってくれるのはいいが、変に思いつめられるのも困る。

実際、俺はこの怪我を誰のせいとかにするつもりは毛頭なかった。


「いや、本当に感謝している。
危機的状況だったなのはを助けてくれて、先生も君で救われた。

…俺では先生を助けられなかった…」


 沈んだ顔をして、高町恭也は顔を俯かせる。

出会った当初から融通の利かないタイプだとは思っていたが、予想通り生真面目な性格らしい。

俺は聞いていて、肩が凝りそうなこいつの暗い言葉を鼻で笑う。


「うじうじ言っても仕方ねえだろう。
俺だって、じいさんには一撃食らわされた借りがあったんだ。
お前が戦おうが戦うまいが、俺は自分の都合で戦ってたさ」


 優しさとか思いやりとかは剣を振る人間には不要だ。

相手を倒すことのみ考えて、純粋に剣を振ればいい。

変に相手に思い込まれても、俺が困るからな。

俺は高町恭也にそう言ってやったが、どうも煮え切らない顔をしている。

と、その時ふと閃いた。


「ま、それでもあんたが俺に悪いって思っているなら…」


 俺は高町恭也の顔を見る。


「俺と勝負してくれ」


 心から真剣に――

俺は、目の前の男に挑んだ。


















<第十話へ続く>







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