とらいあんぐるハート3 To a you side 第一楽章 流浪の剣士 第二話







 一瞬天下を狙う俺への刺客かコンビニの店員かと思いきや、女のガキだった。

顔立ちはわりとしっかりした感じがするのだが、いかんせん身長が低い。

屈んでいる俺の座高からでも胸の辺りまで来ているのだから、身長は150cmに満たないだろう。

どこか変わった雰囲気を漂わせる小柄な女で、服装もその辺のこじゃれたガキが着る服ではない。

ゆったりとした感じで前をボタンで止めており、よく似合ってはいる。

俺自身あまり見かけた事はないが、中国人とかがよく着ている服装に見えた。

よく見ると、全体的にどこか日本離れしているように感じられる。

見上げる顔は十代前半なりの可愛らしさがあるのだが、俺を見る目は尖っていた。


「あんた、ここで何をしてるんや?」


 言葉に非難の声色をのせて、そのガキは生意気にも俺を睥睨していた。

言葉に変な訛りが感じられるが、出身地はここではないのだろうか?

まあこんなガキの故郷なんぞ俺の知った事ではない。


「見れば分かるだろう。昆虫採集だ」

「全然そんな風には見えへんで。それに昆虫採集って何やねん」


 む、ガキのくせに呆れるとはいい度胸をしている。

怒鳴ってもいいのだが、俺はこれでも天下を取る男。

こんなガキ相手に腹を立てる程、器は小さくはないのだ。


「昆虫採集の言葉の意味も知らんのか。帰って辞典で調べるように」

「誰が言葉の意味を聞いてるねん!」

「贅沢なガキだな。聞かれたから答えたというのに」

「質問に答えてないやないか!
うちが聞きたいのは、あんたがここで何をやっているかって言う事や」

「だから言っているだろう。昆虫採集と」


 何気なく下調べの続きをしながら、俺は律儀に答えてやった。

おお、飲み物も捨ててあるとは贅沢な。

ちゃんと選り分けをしていない所を見ると管理がずさんだな、コンビニは。

いかんな、まったく。

俺がちゃんと有効利用してやろうではないか。


「ちょっと待ち、待ち!何にやにやしながら、勝手に続きを再開してんねん。
うちの話はまだ終わってないで」

「何だよ。ガキは帰って学校にでも行ってろ」

「失礼な奴やな、ガキガキと。うちはもう立派な大人や!」

「ぷ……」

「何笑ってるねん!」


 顔を真っ赤にして怒る目の前のガキに、俺は上から下まで見やる。

ショートカットの髪にぱっちりとした瞳、凹凸のない胸に小柄な体格。

俺は観察し終えて、ため息を吐いて首を左右に振った。

すると何故か俺の態度が癇に障ったのか、持っていた荷物を振り乱して肩を怒らした。


「うちがこんなに殺意を抱いたのは、あのおさるを除いてあんたが二人目や」

「猿しか友達がいないとは可哀想な奴だな」

「そのさるとちゃう!まあおさるはおさるやけど」


 微妙な言い回しをするガキに、俺は訝しげに思った。

まあ行きずりのガキの言う事を気にしていては、旅人など務まらない。


「で、結局お前は何なんだよ。邪魔するならあっち行け」

「うちはあんたのやってることを止めにきたんや。
ここのコンビニでの余り物を拾うのは禁止されている筈やで」


 ち、ガキの癖に面倒な事知ってやがるな……

俺は内心舌打ちをして、目の前の見下ろすガキを見やった。

昔はどのコンビニでも店員や店長の親父に頼めばもらえたのだが、

ここ最近何やら規制とか何とかがあるらしく、出し渋る店が多くなってきたのだ。

おかげで折角の貴重な栄養源が減りつつあって困っている。

だからこそこうして俺がわざわざ自分から出向いてやっているのだ。

こんなガキに邪魔されてはたまらない。


「その点は大丈夫だ」

「?どうしてや?」

「お前が言わなかったら、万事オッケー」


 俺は爽やかな笑みを浮かべて、親指を立てる。

対するガキも俺に同意してか、にっこりと笑った。

へえ、なかなか可愛いじゃないか……

が、緩んでいる唇から発せられた言葉が俺を凍りつかせる。


「うち、ここの店長さんと知り合いやからそれはでけへんな」

「何い!?ま、まじですか?」

「大マジや。こう見えてもうちは家事の一端を担っているから、ここの常連さんやねんで」


 うわっ、本当っぽいことをさらっと言いやがった!?

まずい、まずいぞ。コンビニの店員に告げ口されたら、めでたく警察のお世話になってしまう。

身分や自己経歴を問われると、かなり面倒な事になる事請け合いである。


「くそ、騙された。誘導尋問に引っかかるとは不覚」

「何もうちは誘導なんてしてへんけど」

「別にいいじゃねーか、弁当や寿司の一個や二個。
恵まれないカッコいい男を労わろうとか思わないのか、このガキは」

「うちの事ガキって言ってる時点でアウト確定や。神妙にしてもらおか」 


 ……待てよ?

どうして俺はこんなガキに怯えなければいけないんだ?

俺は仮にも十七歳の大人だぞ、大人。

こんな俺の胸ほどにしかないチビにどうして俺がびびらなければいけないんだ。

うむ、まったくないな。

ちょいと脅して追っ払うのが吉と見た。


「ふっふっふ……」

「な、何や?ついにおかしくなってしもうたか」

「ついにって何だよ!こら、ガキ。
俺が黙って大人しく貴様に捕まると思っているのかよ、おい」


 不適に笑って、俺は立ち上がって腰にぶら下げている剣を抜いた。

優しい朝日が降り注ぐ下でカッコよく剣を構える俺の姿。

ふ、自分で言うのもなんだがかなり憎い演出だ。


「……一つ聞いてええか?」

「何だ?サインなら色紙を持ってくるように」

「あんたのサインなんかいらんわ!それより……
その汚い木の枝は何やねん」


 汚い木の枝!?

ガキの容赦ない言葉に、俺の視界はブラックアウトする。


「もしかして武器かなんかのつもりか?
それにしては構えがなってないし、完全にど素人やな。
刃物じゃない分ましやけど、素人が振り回したら怪我するだけやで」


 次々と投げかける容赦ない言葉の矢は、俺のハートにグサグサ突き刺さった。

く、くそう、気にしている事を全部言いやがって!

……ん?


「素人?どうしてお前にそんな事が分かるんだよ、こら」


 内心の動揺を隠しつつ、俺はガキを上から見下ろした。

体格差で普通はびびる筈だが、ガキは全く臆する事無く俺の視線を正面から受け止める。


「それはうちが……」

「ん? こら、貴様! そこで何をしている!」


 場をぶち壊す男の大きなダミ声が、俺の背中から飛び込んでくる。

ギョッとなって後ろを振り向くと、ネームプレートを胸に下げたエプロン姿のおっさんがこちらを見ていた。

いや、睨んでいると言った方がいいだろう。

やべえ……


「あ、店長さん」

「おや、レンちゃん。え、え〜と……一体これはどういう事かね?」


 現場に散らばっているゴミの数々に俺、そして目の前のガキ一人。

俺が手に持っている弁当類を見て怒鳴ったものの、知り合いがいて戸惑っているようだ。

確かに状況だけを見れば意味が分からなくなるのも無理はない。

これはチャンス!


「リーダー、これはどういう事っすか!」

「は、はあっ!?」


 突然馴れ馴れしく詰め寄る俺に、ガキは目を白黒させる。

ふふ、訳が分からなくなっているな。


「リーダーが店内の店員の注意を引き付けている内に、俺が弁当を盗む手はずでしょう。
これじゃあ話が違いますよ〜、リーダー。
リーダーが安全だって言うから、俺はこんな汚れ役を引き受けたんですよ」


 やれやれとばかりに肩を竦めると、背後の親父は動揺を隠せない様子で俺とガキを交互に見る。

くっくっく、いいぞ。その調子だ、親父。


「レ、レンちゃん。まさか君が……」

「ち、違います違います! 大体なんでそないな事をうちがやらんといかんのです!?
うちはただ調味料を買いに来ただけです!」

「調味料を買いに!? 立派な言い訳じゃないですか、リーダー。
俺、尊敬しそうですよ」

「あ、あ、あんたは……」


 徐々に染まり行く怒りの気配に頃合とばかりに、俺は目元を手で覆った。


「ひ、ひどい、リーダー!!俺が全部悪いって言うんですか!
うえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」


 こう見えても演技には人一倍自信がある。

俺は感極まったように人目をはばからず、激しい泣き声を上げた。

無論涙は一滴も出てはいないので、目元を手で覆っている。


「鬼、悪魔、夜叉! リーダーの馬鹿ーーー!!」


 俺は喚き散らして、そのまま高速ダッシュでその場を走り去った。

これぞ俺の必殺技その一『事態を有耶無耶にしてばっくれろ攻撃』。

背後で「あんた、ちょっと待たんか!」という一少女の声が聞こえるが、知った事ではない。

俺はペースを落とさずに、そのままコンビニから逃げ去っていった。















「はあ……はあ……やばかったな」

 がむしゃらに走ってきたので方角は定かではなかったのだが、どうやら海寄りに来てしまったようだ。

とは言え、海が見えるからといって海岸や砂浜があるわけじゃない。

海脇に沿って柵が敷かれており、夜には輝くであろう街灯が並んでいる。

柵の前には歩道が綺麗に舗装されており、人口の森林に並んでいるベンチと憩いの場であるようだ。

朝日を反射している海からの風が、俺の流れる汗に優しく触れて気持ちがいい。

どうやらここは公園であるようだ。

俺はコンビニでの戦利品である弁当類を持って、近くのベンチに座った。


「さてと、朝飯タイムといくか。腹が減って死にそうだぜ」


 あの妙なガキに関わって、かなり時間を過ごしてしまったからな。

俺は舌なめずりせんばかりに、袋からごそごそと弁当の数々を取り出した。

何だかんだ言ってもちゃんと寿司まで持ってきた俺はやはり偉大だな、はっはっは。

あんなくそガキに邪魔されてたまるかってんだ、まったく……

さっきからしきりに腹がぐうぐう鳴っている腹を落ち着かせるために、俺は膝に寿司箱を置いた。

ちゃっかり一緒に持ってきた割り箸を綺麗に二つに割って、手を合わせる。


「んじゃ、さっそくいただきま……」





キキキー!!!!





「きゃっ!?」


 割り箸で一口寿司(卵)を掴んで口元へとその瞬間、車のタイヤ音と女の悲鳴が聞こえて来た。

声は公園の外の方からのようだ。

それ自体は別にどうでもいい。

どうせ誰かがドジって事故ったか、轢かれそうになってびっくりしたかどっちかだろう。

ただ問題はその音にびっくりして、膝に抱えていた寿司箱をうっかり落としてしまった事だ。


「お、おのれ……誰だ、こら!!」


 寿司なんて滅多に食えないんだぞ!!!!

俺は半ば涙混じりに吼えて、現場らしき場所へと走っていく。


「あいたたた……」


 公園前に一直線にひかれている歩道。

街路樹が並ぶその道の真ん中で、一人の長い髪の女が足を抑えて倒れていた。

俺は駆け寄って、女の傍に腰を屈める。


「てめえか!? ん……? なんだ、怪我しているのかよ」

「え……?」


 女が何気なく顔を上げて表情を見せた時、俺は不意にドキッと胸が高鳴る。

Gジャンにミニのスカート。

そして何より青みがかった瞳にぞっとする程美しい容貌がそこにあった……



























<第三話へ続く>








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