とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第十七話







 まずは、俺の話。

フェイトとの出逢いを話すには、蒼い石の顛末が必要となる。

病院の中庭で拾った事を話すと、話の出鼻からなのはが素っ頓狂な叫び声をあげた。


「えええっ!? お、おにーちゃん、本当?
蒼い石を拾ったって!」

「あ、ああ・・・こういう形の、不思議な光を放つ宝石だった」


 指で空中に軌跡を描いて、我ながら精密に形を伝える。

なのははますます驚いた顔をして、俺のシャツにしがみ付いた。


「す、すぐに渡して下さい!」

「・・・は?」

「おに―ちゃんが拾った石、わたしにすぐ――きゃ!?」


 なのはの脳天に拳骨。

悲鳴を上げて地面に落下する我が妹に、俺は兄として優しく言ってやった。


「紅い石の次は蒼い石か。俺に似て図々しくなったな、なのは。
さすが妹分、嬉しいぞこの野郎」

「ち、違うんですよぉ・・・」


 床に這いつくばるなのはは、呻き声を上げて起き上がった。

余程痛かったのか、半泣きで頭を抱えている。

なのはには良い娘に育って欲しいという兄心なのだ、俺も胸が痛い。

俺の辛い心境を前に、なのはは必死で説明する。


「おにーちゃんが持っている石は、本当に危ないんです。
今までその石を使って、何人かの人が被害を――!」

「待て待て、冷静になれ。深呼吸しろ」


 突然パニくるなのはを、俺は冷静に押さえてやる。

まだ子供だ、理路騒然とした説明は不可能。

その上、落ち着きが無くては何がなんだかわからん。

小さい頭を撫でてやると、なのははポーとした顔で大人しくなった。

頭を撫でたら大人しくなるとは、やっぱり子供だな・・・


・・・視界の隅に映る、アリサのふくれっ面。


「…何だよ」

『ロリコン』

「ストレートに物凄い発言をしたな、貴様!?」


 肺腑をえぐるメイドの台詞に、俺は仰け反る。

俺だってガキばっかり相手にしたくねえよ。

つーか、その領域だとお前も対象に入るぞ。

不機嫌なアリサに睨みを利かせて、俺は引き続き話に入る。


「――落ち着いたか、なのは」

「は、はい・・・ごめんなさい、おにーちゃん」

「よし、なら一つ一つ俺の質問に答えろ。説明は後で聞いてやる。

――お前、あの石が何か知ってるのか?」

「はい、知ってます」

「持ち主はお前――もしくは、高町家の誰かか?」

「ええと・・・違います」

「フェイト・テスタロッサがそうなのか?」

「違います!

――っ、まさか!?

・・・フェ、フェイトちゃんに渡したんじゃ・・・」

「渡してないから、落ち着け」


 なのはをなだめつつ、話を一度整理する。

中庭で拾った当時、持ち主は傍にいなかった。

代わりに見つけたのはあの獣だけで、俺は早速自分の物にした。

その事実を何故かフェイトが知っていて、あの夜渡すように要求した。

なのはの言う通りなら――あいつは所有者ではないのに、俺から取り上げようとした事になる。

確かに高価そうな石だが、フェイトに物欲があるとは思えない。

あいつは別れ際に言っていた。


――後悔すると。


そして、なのははあいつに石が渡るのを恐れている。


「あの石の所有者を、お前は知っているのか?」

「それは・・・

でも、あの石に関しては知っています」


 ――なるほど、曰くつきのお宝か・・・

俺の心の奥底から、長く眠っていたモノが揺さぶられる。

乾いた心を根底から破壊する、灼熱の炎――

ようやく訪れた俺好みな展開に、活力が漲る。

人助けとかいうつまらん理由より、こっちの方がやる気が出る。


――ま、まあ、フェイトはフェイトでちと気になる奴ではあるんだけど。


さて、石の説明をさせる前に――


「部外者が約一名いるんだが、こいつに聞かせていいのか?」

『ちょ、ちょっと!? 今更何言ってるのよ!

フェイトはあたしの友達なのよ!?

あの娘が関わってるんなら放っておけないわよ』


 はいはい、分かった分かった。

どうせ、今更だ。
こいつが聞いたところで、何か変わる訳でもない。

無駄だと分かっていてもあえて聞いたのは、こいつの本音が聞きたかったから。


――友達・・・


あいつにも、そう言ってくれる人がいるという事を教えてやりたい。


「アリサちゃんが、フェイトちゃんの友達・・・」

『そうよ! 文句ある?』


 何を威張ってるんだ、お前は。

友達が一人出来て得意げになるメイドに呆れる俺。

なのはは俯いて、


「ううん、ただ――


いいな、って思って・・・」


 ――なのはの表情は、暗い。


アリサも絶句した様子で、きまり悪そうに浮いている。

どうやら、なのはとフェイトは純粋に友人同士とかではないらしい。

フェイトの名前を出す度に、なのはは辛そうにしている。


――再会した時、なのはは声を上げて泣いた。


見栄を張るなと――辛さを隠すなと言った途端に、だ。

どうやら、こいつもこいつで因縁を抱えているらしい。


・・・嘆息。


俺も俺で、何を心配しているのやら。

気まずい雰囲気を断ち切るように、俺はなのはに元気良く語りかけた。


「俺もあいつとはちょっとした関係だ、見過ごす訳にはいかねえ。
ぶん殴りたい奴もいるしな」


 ――予感がする。


聞いたら、もう後戻りは出来ない。

旅に出るなら――もう一度孤独に戻るなら、これがきっと最後のチャンス。

見なかった事にして、聞かなかった事にして、何もかもに背を向けて。

人間関係の全てを斬って、終わりに出来る。

今なら――


「なのは、話してくれ」


 ――今更引けるか。

あの孤独の山中から脱出した時、俺は生きる事を選択した。

ガードレールを掴んだ手を、決して離さなかった。

逃げた先に待っているのは、一人ぼっちの死だけだ。

死に物狂いでしがみ付いてでも、俺は生きていく。

なのはの声が、死に向かう俺を振り向かせた。

フェイトの声が、生への道の道標となった。

はやての声が、生きることの価値を教えた。

レンの声が、強さの意味を教えた。

アリサの声が、死ぬことの無意味さを教えた。


――悔しいが、俺にはまだこいつらが必要らしい。


月明かりに満たされた廃墟の中で、俺達は幻想の御伽話を耳にする。











 さて、ここから先は俺独自の解釈で話そう。

なのはの拙い説明は聞いていて、俺も理解しづらかったからな。

つーか、理解したくねえ話だった。

まず、あの石には名前があった。



――ジュエルシード。



青い輝きを放つ美しい宝石。

貴き光を宿すこの石は――遥か彼方の世界で発見された古代遺産だった。

無論、即座につっこんだ。


「…おいおい、いきなり胡散臭くなったぞ。
遥か彼方って何処だよ、北海道か?」

『あんたの遠さって、その辺なんだ…スケールが狭いわね』

「俺は徒歩の旅人なんだ。外国は遠すぎる」


 アホ話はさておいて、続き。


日本レベルは勿論、外国レベルすら超える遠い世界――異次元。

物語は、俺の想像を超える向こう側の世界から始まる。



――偉大なる歴史と、悠久の時代を宿した宝石。



高度な文明より生み出されたその石は、大いなる力を宿していた。

人々の願い、希望を叶える"奇跡"。

手にした者に幸運を与え、正統なる所有者の願いを叶える石――それがジュエルシードらしい。


「…願いって、何でも?」

「何でもと言うか、限定的というか…」

「どっちなんだよ、お前」

「うう、ごめんなさい…」

『なのはを苛めないの! さ、続きを話して』


 ――生み出された経緯・目的その他は一切不明。


やがて歴史の表舞台から消えて、長き時の眠りについた。

人々の欲望から逃れ、忘却の中に埋もれた歴史的遺産。

人間の歴史から抹消された遺産を呼び覚ましたのは、皮肉にも同じ人間だった――


「一番欲深いのが人間だからな、やれやれ」

『あんたが一番欲深いくせに』

「言うと思ったぞ、この野郎。殴れ、なのは」

「えええっ!? む、無理です!?」

『安心して、なのは。こいつをまず殴るから』 


 発掘者の名前は――ユーノ・スクライア。

考古学を学ぶ一介の学生である。


「ユ、ユーノって、あいつか!?」

『ちょっと、良介!

誰よ、その女!?』

「――待て、貴様。何故、女だと決め付ける。
ユーノ・スクライアって、男っぽい名前じゃねえか?」

『フン、どうせ女なんでしょ。やらしー、スケベー、ロリコーン』

「最後のは取り消せ!?」

「…なのはは、おにーちゃんがどうしてユーノ君を知っているのか、聞きたいです…」

「――あ、あの野郎…なのはに内緒で俺に会いに…

まあいい、後で話すから続き」

『良介、あたしの質問に答えてないわよ! 
女関係を全部暴露しなさい!!』

「質問が変わってるぞ、コラ!」

「わ、わたしも聞きたいです。 
おにーちゃんは今、誰と仲良しさんなんですか?」

「興味を示すな!?」


 ユーノは将来への向学と生活を兼ねて、遺跡発掘を仕事にしていた。

そんな彼が、とある古代遺跡を探索中にジュエルシードを発掘。

歴史的価値と潜在する力を見出した彼は、すぐさま調査団に補完を依頼。

賢明かつ慎重な判断でジュエルシードを掘り出した彼だが、悲劇が訪れる。

搬送中の、事故。

移送中の艦より飛び散った宝石は、世界へ飛び散ってしまったのだ…


「――俺って、最近運命の女神って奴と戦ってるんだけどよ…」

『何を急に? 幽霊は信じないくせに』

「いいから聞けよ。
万が一なのはの話が本当だとして、俺が関わりを持つなら――


――その石が落ちた先が、おのずと分かって来るんだよな…」


 総数は、21個。

人々の願いを叶える力を宿した遺産は、再び歴史の表舞台へ登場してしまった。

危険と責任を感じた少年ユーノは、回収の為に追跡。

彼が向かった先は、宝石が落ちた場所――


――この海鳴町だった。


「ほらな。
広い宇宙の、広い世界の、広い日本の――ピンポイントで落ちてきたんだぞ?


俺の居る、この街に。


別世界の事故なのに」

『…あんた、実は呪われてるんじゃないの…?
日頃の行い悪そうだし』

「失礼な。俺ほど善行に生きている人間はいないぞ。
な? なのは」

「そ、そうですね…」

「目を逸らすな!?」


 単独行動で回収を始めるユーノ。

海鳴り町へと訪れた彼はすぐにジュエルシードを求めて、彷徨い歩く。



――さて、ここからが俺の物語との交差点。



散らばったジュエルシードの一つを、俺は偶然発見してしまう。

発見場所は、海鳴中央病院の中庭。

無論、その時は高価な宝石だと信じて疑わない天才剣士。

何の躊躇もなく俺が拾ってしまう。

この時拾わなかったら、俺は永遠に何も知らないままでいられただろう――


『交番に届けなかったのは、不幸中の幸いだったかもね。
違い世界の持ち物だと、説明が大変よ。
良介が意地汚くて良かったわね、なのは』

「え、えーと…」

「俺の顔色を伺うな、お前も」


 ユーノが俺が拾ったことを知っていたかどうかは、分からない。

病院ではそれっぽい奴はいなかったからな…

ま、俺の話はこの辺で。

とにかく、探し続けたユーノはとうとう別の一個を見つけた。

彼が発見を急いだのは理由がある。

ジュエルシードは、確かに望みを叶える力があるらしい。

だが、美味しい話には当然裏がある――

叶える望みの高さに比例して、所有者は色々なモノを失ってしまう危険性があるのだ。

見返りなく差し出す行為は、世界が許さない。

特に正しい使い方を知らない者が使用すると非常に危険なのだ…

その状態とは――オーバーロード。

急いで望みを叶えようとする愚かな人間に与える、ジュエルシードからの罰。


ユーノが所有者に辿り着いた時――もはや手遅れだった。


「…あれは…夢か現実か、はっきりとは分かりません…

でも確かに、わたしはユーノ君に呼ばれたんです。

――助けてくれ、て」

「なのはを呼んだのは正解だな。俺だったら無視する」

『お金をあげるって言ったら?」

「…」

『御主人様が真剣に悩みだしたから、先に話を進めていいわよ』

「あはは…おにーちゃんのこういうところ、なのはは好きです」


 オーバーロード状態に発展すると、正気を失い、時にその容姿さえ変化させてしまう事がある。

所有者の欲望や悪意、邪悪な感情を媒介に石が発動する。


悪意とはすなわち――害意。


世界に敵対する魔の存在として、所有者は己の欲望に沿った変化を遂げる。


浅ましき願いを抱いた者の、末路――"思念体"


現場へ辿り着いたユーノは思念体と激戦を繰り広げた。


そして、負けた。


「がはははは、馬鹿な奴。俺なら勝ってるな、うむ」

『…奇襲に弱いくせに』

「ア、アリサちゃん!? 

――おにーちゃんも、落ち込まないで下さい!?」


 暴走する思念体は、周囲に悪意を広げる。

痛手を被った彼は限界を感じ――助けを求めた。


一人の少女、高町なのはへ。


――ここから先が、なのはの物語。


ここまで話を聞いて、俺はいい加減頭が痛くなってくる。

真剣な話の途中だが、そもそも――


「――アリサ、採点」

『うーん…ありきたりだけど、なのはは良い娘なので50点』

「俺好みの話じゃないけど、本気っぽくなのはが話したので20点」

「何の採点ですか!?」


 ――こんな与太話、信じろってのか?

馬鹿馬鹿しいにも程がある。

別の世界がどうだの、願いを叶える石だの、奇跡の力だの、思念体だの――

これで魔法とかエルフとか出てくれば完璧だな。

呆れた目で見る俺を、なのはは真っ向から見据える。


「おにーちゃんやアリサちゃんが疑うのは当然だと思います。

でも、本当なんです!

おにーちゃんが持っている石は暴走すると、とても危険なんです」

「でも俺ずっと持ってるけど、願いも何も叶わなかったぞ」


 ――それどころか、あの石を持ってから俺の運は下がってる気がする。

ここ最近、俺は本当にろくな目にあっていない。

一時は死にかけたのだ。

大怪我だって負った。


一人になりたいという願いだって、叶えてくれなかったじゃねえか…


何が幸運を招く、だ。

あの石を拾ってから、どんだけ俺が大変だったと思ってる。

高町家の連中に振り回されたり、フィリスや月村が付き纏ったり。




俺は――不幸、だよな?

あいつらとの出会いは…俺にとって幸運ではない――そうじゃない、と思う。

…。



――え…?



「――な、なのは。今の話、本当に本当なのか?」

「本当です! おにーちゃんに嘘は言いません!

おにーちゃんが持ってるあの石は――」

「――持ってねえ…」

「え…それって…」

「俺は今、持っていない! あれは――!?」


 ――お、落ち着いて考えろ俺。


なのはの話が、マジだとする。

あの石が本当に人の願いを持っていて、使い方を間違えれば暴走するのだとすると――



――はやては…?



待て待て待て、あいつは俺じゃない。

欲望や悪意なんぞ、あいつは全くの無縁だ。

金銭や権力、途方もない力なんぞ糞ほどにも価値はないだろう

他人の心配ばっかりして、家族さえいれば幸せだと考える純真な奴だ。

家族、さえ…



"少しずつ、仲ようしていこう。

足使えへんわたしと、手使えへん良介。
友達も、家族もおらん二人や。

助け合っていこう"



…その家族が、いなくなったら…?



病院に取り残されたあいつが、一番に願うのは――





その願いを、叶えようとしたら…?





「――やばい、はやてが!?」


 くそ、やってくれるぜ運命の女神!

フェイトに続いて、次ははやてまで俺から取り上げる気か!!



ふざけんなーーー!!



呆然とするなのはとアリサを置き去りに、俺は竹刀を手に飛び出した。





















































<第十八話へ続く>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     












戻る