とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第四十三話







 おーと、空気を読めないガキが一人現れましたよ。

ガシッとしがみ付いて離れないお嬢さんに、俺は渋々当たり前の理屈を話してやる。


「あのさ、なのは。
俺はお前の家を出て行く算段をしてるんだぞ」


 月村にそう話しただろうが、この馬鹿。

何でお前の家に在住する事になるんだ?

俺がこう言うと、普段のなのはなら落ち込むか嘆くかで離れる。

そんな俺の見積もりは、目の前の頑固な女の子には全く通じなかった。


「おにーちゃんはなのはのお家が嫌いですか?」

「い、いや、別に嫌いじゃないけど…」


 そういう問題ではない。

好きか嫌いかで言えば、あの家ほど住み心地の良い家は今まで知らない。

余所者だらけの家なのに、自然と家族になれている。

俺が出て行く理由は、もっと別だ。


「お部屋が欲しいのでしたら、なのはのお部屋を使っていいですから!」

「寝間を提供してくれてるだけで、十分だって。
仮にも女の分際で、男に部屋を譲るな。
恥ずかしいとか思わんのか」

「おにーちゃんになら、なのはは平気です」

「俺は平気じゃないの!
大体俺がお前の部屋使ったら、お前どうするんだよ」

「わたしはソファーで寝ます」

「それで、俺がお前のベットに寝るのか?
高町一家にリンチを食らいそうな気がビシビシするぞ」

「で、でしたら――一緒のベットでおにーちゃんとなのはが寝…」

「こらこらこら! そこの暴走娘!?」


 恥ずかしいセリフを大声で言うな!

間違いない。

月村との話の何かが触れたのか、このガキンチョテンパってる。

俺は慌ててなのはの口を塞ぐが――既に遅かった。



静まり返る場。



月村は驚愕の顔で氷結。

ノエルは表面上淡々としているが、ちょっと心が揺れているのは長い付き合いで分かる。

そして何より――高町一家の皆さん。

このお嬢さんがトチ狂ってるだけなので、そんな顔で見ないでください。

特に見事に耳に入っていたのか、恭也の気配が殺気立っている。

見た目が普通なので余計に怖い。

手元に刀があったら、絶対に斬りかかってきたに違いない。

レンや晶は口の中の料理をポロポロこぼしている。

美由希と神咲の姿が見えないのは、嫌な気配を察した為か。

面白がっているのは桃子とフィアッセ、そしてリスティ。

母親の分際で感極まったように涙し、死んだ父親に娘の成長を告げている。

なめんな。

フィアッセとリスティは祝杯とかぬかしている。

後で殺す。

――あれ?

ひい、ふう、みい…誰か足りないぞ。

獣達は熟睡、赤星はよってたかって絡まれたのか目を回している。

他に誰か――と、探すまでもなかった。



俺に覆い被さる強大な影。



凄まじい気配に引き攣った顔を上げると――鬼が立っていた。


「…良介さん…」


 白衣の天使、病魔に苦しむ人達の救世主。

常識と模範の手本とも言うべき存在、フィリスが仁王立ちしていた。

しかも、頬が微妙に赤い。

リスティを睨むと――奴は日本酒の瓶を掲げて舌を出した。

殺してぇぇぇぇぇ!


「貴方という人は…こんな小さい女の子に…」

「ま、待て…落ち着け…今日は無礼講じゃないか…
ガキの言う事を真に受けず、盛大に騒ご――」

「もう許しません! 良介さん、そこに正座して下さい!」

「ぬわー!?」


 哀れな被告の釈明も聞いてくれず、花びらの乱舞に負けない説教の嵐が吹き荒れた。















「…少しは、人の話を聞けよ…」

「す、すいません…」


 精も根も尽き果てた頃合に、フィリスはようやく落ち着いてくれた。

酔いも醒めたのか、恥ずかしそうな顔をしてうつむいている。

説教を思う存分食らった俺は、グロッキー寸前だ。


「大体もう俺は退院したんだし、お前がそこまで心配しなくても――」

「いいえ、良介さんは今でも私の大切な患者さんです。
怪我は完治しても、良介さんは心配事が多いんですから」


 お前は俺のお袋か。

この分だと私生活まで関わってきそうで、げんなりである。

疲れ切って桜の木にもたれかかっていると、月村が俺を凝視しているのに気付く。


「・・・何だよ?」

「――別に。侍君って、意外と女の子に好かれてるんだなって」


 ・・・何を言ってるんだ、この馬鹿は。

説教地獄を間近で見ていただろう。

好きな人間に、説教なんて出来るか?


「なのはちゃんにも、おにーちゃんって呼ばせてるし」

「おいおいおいおい! 
俺が命令しているみたいな言い方はよせ」

「侍君の性格から考えて、嫌だったら――不気味だからやめろって言う筈だもん」

「ぐ・・・」


 絶対に言うだろう。

――嫌だったら。

慣れてきたのは、何時からだっただろうか。

少なくともさっき呼ばれた時にはもう、何の抵抗も無かった。

なのはが期待の眼差しで見上げているのを感じつつ、あえて無視する。


「一緒のベットかぁ・・・なのはちゃんには優しいんだね。
添い寝とかしてあげてるのかなぁー」

「そ、添い寝!? あぅぅ・・・」

「いい加減黙らんと、桜の木の下に埋めるぞ!
お前も真に受けるな、なのは!」

「ふーん、だ」

「うー、ごめんなさい・・・」


 急に不機嫌になりやがって。

女って生き物は本当に分からん。

ま、居候の話はお流れになったっぽいからいいか。

全くどいつもこいつも・・・はぁ。


「ふふ、大変みたいですね」

「――何とかしろ、こいつら」


 フィリスも自分のペースを取り戻したのか、楽しそうに俺を見ている。

自分と俺の分のお茶を紙コップに入れて、


「・・・でも。安心しました」

「? 何が」


 フィリスはそっと俺を見つめて、


「良介さんは、御一人ではないようですから」

「・・・あのな、俺は」

「フィアッセから、ちゃーんと話は聞いてるんですからね」

「っち」


 言い訳を封じられて、俺は舌打ちするしかない。

こいつには、かなわない。


・・・一人じゃない、か。


重荷になっているのか、思いもよらない存在になってきているのか。

迷惑なのに、突き放せない連中――

なのはや月村、フィリスを見ていると、俺は自分が分からなくなる。


――暗い夜の星空を見上げる。


何も、答えてはくれなかった。



































































<続く>







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