とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第四十話







「なのは、酒」

「はーい」


 トクトクトクっ。

笑顔で酒瓶を傾けるなのは。

受けとって呑む俺の横で、膝を抱えて小首を傾けてなのはは俺を見る。

可愛らしい仕草の裏に、俺の言葉を純粋に待っている。

苦虫を噛み潰して、俺はわざと横柄な態度でぶっきらぼうに言い放った。

無言で呑むと、


「・・・なのは、つまみ。嫌いなのを入れたら、殺す」

「うん!」


 おにーちゃんが好きなのはぁ〜、これと、これとー・・・

すっげえ嬉しそうに、なのはは紙皿に持ち込んで来たおつまみを載せている。

くっそー、こき使ってるのに嫌がる気配がねえ。

しかもいつの間にか、俺の好みを知ってやがる。


「はい、どうぞ!」

「・・・おう」


 ニコニコ差し出されたお皿を、俺は忌々しげに受け取った。

皿の上に載っているのは、間違いなく俺の口に合うものばかり。

難癖つけて払いのけても、無駄だろう。

邪魔だから何処かへ行けとか、鬱陶しいから消え失せろとか、言いたい事が山ほどあるが――

今のこいつには間違いなくきかない。

もう一度挑戦します、とか、反省して出直します、とか言って、チャレンジし続けるに違いない。

せめて先程まで――花見に来る前の関係なら、なのははしょげて近付かなかった。

俺の顔色を窺ったり、話し掛けようかどうか迷っていたはずだ。

拒否されたら落ち込み、嫌われたと諦めて距離を置いていたに違いない。

――もう無理。

これまでの関係には、最早二度と戻れない。

殴る蹴るなどの暴行を加えても、へっちゃらな顔で俺に接してくると確信出来る。

無垢な心は以前のまま。

今ではその心すら無抵抗なまま俺に傾けて、無防備に寄り添ってくる。

俺は頭を抱えて、夜空を仰ぎ見る。

本当に最悪なのは、今のなのはじゃない。

そんななのはの愛情溢れる甘ったるい信頼に、不快感を感じない俺だ。

肌が震え、突き飛ばしたい衝動に溢れているのに・・・この手は何も動かない。

なのはの入れてくれた酒を飲み、なのはの持ってきてくれた食事をついばむ。

久遠を撫でながら、熱心に話しかけるなのはに耳を傾ける。

今までの余所余所しさが嘘であるかのように、なのはは色々な話をする。





私生活、


「ふーん、生意気に店を手伝っているのか」

「おにーちゃんが来てくれたら、嬉しいです」

「そこのおチビなウェイトレスさーん、お水くださーい」

「おにーちゃんなおきゃくさーん、注文おねがいしまーす」


家族、


「そっか、お前の親父はやっぱりもう・・・」

「・・・いいんです。わたしには、おかーさんとかおにーちゃんとか、その・・・」

「俺の前で見栄を張るな」

「・・・うん」


学校、


「塾も通ってるんだよな、お前」

「学校より塾の方が難しいです、実は。
ちゃんと勉強しないとついていけなくて」

「お。弱音が出たな」

「えへへ、おかーさんには内緒にしてくださいね」

「桃子ー!! こいつなー、お前の教育方針にー!!」

「はわわー!? おにーちゃんの、意地悪ー!」


恋愛、


「最近のガキ共は、ほんっとそういうのが好きだよな」

「女の子は、皆憧れているんですよー」

「へぇー、お前にもやっぱいるのか?」

「え・・・?」

「好きな男だよ。
夜寝る時に、ベットの上で毎晩そいつの顔を思い浮かべたりとか」

「あ、いえ、その、わた、えと、ぁぅ・・・」

「あっはっは、顔真っ赤にしやがって。
お前が好きになる奴だから、眼鏡の真面目な優等生で、優しさだけが取り柄のつまんねえ男だろ」

「違います! その――

勉強が大嫌いで、いつも不真面目で、なのはに意地悪ばかりする人です」

「? 何で、そんな奴好きになったんだお前」

「いっつも、一人でいようとしてて・・・寂しそうで・・・気になって・・・

優しい所もあるんだって、分かって・・・」

「意地悪されるのに、か?」

「意地悪されるのに、です。あはは」


 他愛のない話。

適当に相手をして、やはり不快感を感じないのに戸惑って。

ぼんやりと顔を上げて――



俺は、意識が冷めた。



殺気。

いや、そこまで鋭敏な気配ではない。

鋭く周りを見渡して、俺は視線の主を追い求めた。



瞼の裏に浮かぶのは、冷たい夜の幻風景――



月の光に濡れて輝く、金の髪。

無慈悲な眼差しで俺を射る――



違った。



我知らず、安堵する。

俺を見ていたのは、恭也。

俺となのはを交互に見ていて、何か思いつめたように俯く。

・・・何だ、あいつ?

相手にする必要がないと俺は興味を失ったが、奴のほうは別らしい。

話し相手のフィアッセに断りを入れて、立ち上がって俺のほうへ来る。

お、もしかしてなのはが心配で俺から離してくれるのか?

やっと一人になれる・・・

・・・

・・・? 喜べよ、俺。

変だ、どうした、何があった。

肩の荷がようやく下りそうなのに、まるで嬉しさを感じない。

訝しげに思う暇も無く、恭也は近付いてきてなのはに話しかけてくる。


「宮本と話していたのか、仲がいいな」

「・・・なのはがお話したいって、言ったの」


 ・・・? なのはの様子も変だ。

笑顔を浮かべているが、どこかこう――


「俺もお邪魔させてもらっていいか? 
こうして、三人で話す機会はあまりなかったからな」

「うん! どうぞ、お兄ちゃん・・・・・


 ・・・?? 今の呼び方――


「あ・・・ごめんなさい、なのはが勝手に決めちゃって。
いいですか、おにーちゃん」

「・・・あ、ああ」

「・・・おにーちゃん?」


 訝しげな顔の恭也。

戦慄だけが先走る、兄貴と妹を加えた三者面談が始まった。



































































<続く>







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