とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百六十話
――遷延性意識障害。
夜の一族の世界会議で海外へ行っていた最中、日本の海鳴でフィリスが不慮の事故により怪我を負った。
重度の昏睡状態を指す病状。脳外傷後1年又は酸素欠乏後3ヶ月を経過しても、意識の兆候が見られない患者は回復の見込みがゼロに近い。
当時夜の一族のカレンが手配してくれた最高峰の医療チームと最新医療機器導入、海鳴大学病院への多額の出資により、フィリスはほぼ健康状態にまで回復していた。
しかし階段から派手に転げ落ちて、命こそ拾ったが植物人間状態となってしまった。
『初めまして、"父上"。この時を長らく待ち望んでおりました』
――闇の書には、夢を見せる力がある。
守護騎士シャマルに頭を下げて相談した時、当時可能性の段階ではあったが、夢を通じてフィリスの心に触れられるかもしれないと、可能性を訴えてくれた。
他人の心に触れる――それは恐らく、最大の禁忌なのだろう。フィリスのためとは言わず、自分の為に俺は外道となり、あいつの心に侵入することにした。
とはいえいきなり試すわけには行かない。俺は夜天の魔導書システムを使って、自分自身の精神を実験に使った。
『此処は、闇の書の管制システムが用意した"夢の世界"ではありません。
我々がこの日の為に周到に準備した、"捕獲空間"なのです。
捕獲対象の精神に直接アクセスして、深層意識で望んでいる夢を見せる捕獲魔法。闇の書の改竄を続ける貴方本人を調べるべく、いずれこの魔法を試みるであろう事は予測しておりました。
しかし、まさか貴方本人が実験と称して自らの精神を差し出すとは思いませんでした。嬉しい誤算です』
――そこで待ち伏せていたのが、シュテルだった。
植物人間状態となったフィリス・矢沢の精神を呼び覚ますべく、対象者の精神に直接アクセスする捕獲魔法を応用する実験。
自分の精神を自ら差し出して捕獲空間に閉じ込める事で、自分から遷延性意識障害に陥る。
捕獲空間の中で悪夢を見せ続けて、精神の障害を誘発する悪夢の実験――あいつはそれを利用して、俺にコンタクトを取った。
『貴方本人を狙うには護衛の数が多く、実力者も揃っている。
こちらの存在を事前に発覚される訳にはいかず、手をこまねいておりました。
機会があるとするならば先に申した通り、闇の書が貴方の精神を調べるべく接触を試みる事。
さすれば闇の書のシステムを通じて、我々が介入出来る』
俺の法術は発動条件が不明で、効果時間や効力も定かではない。だからこそプレシア・テスタロッサの助言で聖王教会の聖典を求め、アミティエ達に破壊されたデータをイリスに復旧させている。
ただシュテルがいうには、一定のルールがあるらしい。書の主である八神はやてに害する要素を第一に、法術が使用される度に闇の書の改竄が行われる。
まずは書に記載されている攻撃魔法、次に書を通じてシステムに干渉して危険要素が改修されていく。
今では二桁に達した改竄頁は力を持ち、遂に闇の書の防衛プログラムにまで辿り着いてしまった――シュテル達に繋がるシステムである。
『要求を、伝えます。
貴方の法術を用いて、次に述べる闇の書のシステムを全て改竄していただきたい。
理のマテリアル『星光の殲滅者』
力のマテリアル『雷刃の襲撃者』
王のマテリアル『闇統べる王』
システムU-D『砕け得ぬ闇』
"闇の書"『防衛プログラム』
我らの願いを叶えて頂ければ、速やかに貴方の精神を開放しましょう』
法術の力を使用して闇の書のシステムに眠っていた存在、シュテル達の改善と解放を要求された。
頁として願いを書に刻まれれば、願いは固定化されて存在が確立する。
確立された存在はアリサのような怨霊であっても、安定感を誇っている。その例を目の当たりにしたシュテル達は、安定した存在として産み出されてほしいと願い出た。
これがシュテル達の出生であった。
『法術を使って改竄すれば、私達は貴方に危害を加えられなくなる。
貴方を殺せば、改竄を取り消されてしまう。制御法が確立すれば、我らは貴方の手の平の上です。
貴方の奇跡を目の当たりにした時の我らの喜びは、途方も無いものでありました』
我が子を宿した母親の気持ちは男の俺には分からないが、自分を産み出す親の存在を知った子の気持ちとはこういったものなのだろうか。
自分の子供として望まれたあの時、俺はどんな気持ちだったのだろうか。フィリスを救いたい一心で、シュテル達の要求を飲んだのか。
子供を生むということは、責任を持つということだ。自分の親にゴミ捨て場で捨てられたこの俺が、親になるとは何の冗談だろうか。
俺はどうしてあの時、シュテル達を"産んだ"のか。
『どうか――私達を新しくこの世に産み出して下さい、"父上"』
自分の軌跡を辿る。あの時頭にあったのは――プレシアの顔だった。
ジュエルシード事件でアリサを法術で救った後、プレシア・テスタロッサは俺に奇跡を嘆願した。アリシアを蘇らせてほしいと、泣いて縋って俺に身を投げ出した。
奇跡とは、安易な代物ではない。途方も無いほど努力して、挫折して、力尽きて、それでも叶えられない。絶望の果てにあるのは、希望ではないのだ。
プレシア程の大魔導士が全てを投げ出す程の価値がある、我が子――その姿に何かを、見出したかったのか。当時何の価値もなかった、自分自身に。
『Good morning to you』
理のマテリアル『星光の殲滅者』――"シュテル・ザ・デストラクター"
『Good morning to you』
力のマテリアル『雷刃の襲撃者』――"レヴィ・ザ・スラッシャー"
『Good morning』
王のマテリアル『闇統べる王』――"ロード・ディアーチェ"
『dear、"children"』
システムU-D『砕け得ぬ闇』――"ユーリ・エーベルヴァイン"
『Good morning to――all』
闇の書『防衛プログラム』――"ナハトヴァール"
「――それが俺の子供達の名前だよ」
夜の一族の姫君達に、自分の想いを込めて紹介する。
魔法だの何だのという説明はややこしいし、何より伝える必要はない。
俺がなぜ子供を持つことになったのか、その気持ちが大切だからだ。
<続く>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.