とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百五十七話
思い返してみると道場破りする所を選んだのは、当時出会った月村忍とノエルに聞いたからだった。
怪我したあいつを助けた際、お礼に朝飯をご馳走になり、その時にこの街に剣術道場がないか聞いたのだった。
助けられたとはいえ自宅に男を招くあいつはどうかしているし、そんなあいつに道場破りするところを聞いた俺も常識外れだった。
とことん俺達は、他人には興味がなかったようだ。
「あそこで、その……道場破りをした」
「なぜこんな遠くから指し示すのだ、下僕よ」
外国人に道場破りの概念を説明するのは難しいし、日本人に説明するのは恥ずかしい。
今の自分でも気概自体は失われていないんだけど、仲間や家族が出来てしまうと社会性も意識してしまう。
道場破りなんて現代人ならありえないし、フィクションの世界でも今時見かけない行動概念だ。
勝てても迷惑だし、負ければみっともない。道場破りする本人に何の利益もなかった。
「そもそも道場破りって何をしたのさ。
日本語自体は分かるんだけど、言葉の意味が聞き慣れないんだけど」
「えーと……」
フランスの貴公子に、ハンサム顔にクエスチョンを浮かべて問われてしまう。
ええい、フェンシングの名手のくせに、道場破りくらい察せられないのかこいつは。
せめて武勇伝であれば聞かせられるのだが、当時はあろうことか叩きのめされてしまった。
何で勝てると思ったんだ、当時の俺は――詰め寄られて、渋々話した。
「えっ、ウサギ負けたの。よわーい」
「やかましい。当時は、いや今もそこまででもないけど……技術も知恵もなかったんだよ」
「何でそれで挑んだの?」
「うっ……」
ロシアンマフィアの殺人姫は、実に純粋に首を傾げている。
戦争するのに素っ裸で突撃してどうするの、死にたいの、とごく当然に俺の無謀さを突っ込んでくる。
当時の自分は勝って当然だと思っていたし、強敵を倒し続けていけば自然と上へ上がっていけると信じていた。
映画やテレビの世界であれば起こり得たかも知れないが、現実はそんなに甘くはない。
「報復するのであれば、喜んで協力しますよ」
「携帯電話を取り出すな。報復なんて考えていない、けど」
「けど?」
「いずれはまた挑んでみたいとは思うかな」
ロシアンマフィアの女ボスであるディアーナの前で、少しだけ懐かしさと恥ずかしさを滲ませる。
無理である。あの道場の主は通り魔事件の犯人で、今も刑務所にいる。重い罪であり、出られたとしても当時の強さは失われている筈だ。
あの道場は主がいなくなり、今は師範の代役としてシグナムが道場生を鍛えている。あいにくあいつはエルトリアの開拓手伝いで、今は不在だが。
過去へと押し流された敗北はもう、挽回する機会はない。
「王子様もそういったところは男の子ということでしょうか、ふふふ」
「今でも剣を持っているくらいだからな、ただの性分だよ」
道場破りで敗北した時は、現実を受け止められなかった。だから反省せず、そのままズルズルと負け続けた。
けれどあの時、敗北していなければ人生から転げ落ち続けていただろう。たとえアリサであっても連れ戻す事はできなかっただろうし、そもそもあいつを傍に置かなかった。
道場の爺さんはそんなつもりはなかったのだろうが、あの人は剣で俺を止めてくれたのだ。
通り魔であったとしても、爺さんはその身を持って体現してくれた――だからこそ今の俺がいる。
アリサ達と共に生きている俺が、成り立っている。
<続く>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.