とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第三十二話







 フィリスと余計な奴を一匹積み込んで、車が向かった先はさざなみ寮。

俺が自主的に誘った神咲が、寮で待っている手筈になっている。

連絡はきちんとしておいたので、あの子の性格を考えて必ず待っているだろう。

――問題は・・・だ。


「んー? 何だい、ボクの顔をじっと見て。
そんなに熱く見つめられたら、照れるじゃないか」

「心で熱く燃え滾る怒りを、この際ぶつけてやろうか!」


 生意気に後部席の真ん中を陣取っている、国家の手先。

俺の怒鳴り声を余裕で受け止めるその性格だけは、大したものだと言えるかもしれない。

横で怒鳴る俺に目もくれず、淡々と自分の義務を全うするノエルも。


「良介さんがそうやってすぐに怒鳴るから、リスティが面白がるんですよ。
落ち着いて、落ち着いて。ね?」

「・・・ち、分かったよ」


 舌打ちしながらも怒りを抑える寛大な俺に、微笑みかけるフィリス。

親しい間柄として、リスティをちゃんと理解しているのだろう。

その割にたまにからかわれているのは、ご愛嬌というところか。


「ふーん」

「何だ、そのふーんは」

「へー」

「だから何だ、そのへーは!」


 後部座席に乗っているのは、三人。

フィリス・リスティ・フィアッセ。

三人の仲の良さは知っているが、呼吸を合わせられると腹が立つ。


「フィリスの言う事は、素直に聞くんだなって」

「別に他意はないんだけどね、うん」


 嘘つけ、この野郎共!

何だ、その俺達を見つめるイヤラシイ目は。

フィアッセはフィアッセで、心底楽しそうにニコニコしてやがる。

思う存分罵詈雑言してやりたいが、フィリスの忠告を思い出して自重する。

話が進まん。

フィリス本人はというと、困ったような照れたような顔をしている。

慣れっこなのだろう、この程度は。


「今日の花見・・・他の誰かを誘ったりしなかっただろうな?」

「ボクが?」

「お前以外いるか。
面白がって大勢誘ってたりしたら、こっちが迷惑するからな」


 例えば――あの眼鏡女とか。

一晩の狂宴、思い出しただけで酔っ払いそうになる。

散々酒の肴になれたからな、あの時は。

後でフィリスにも泣かれるし、散々だった。

今日もまた参加されると、おちおちゆっくり出来ない。

・・・泣かせたのは別の理由があったとは考えないのが、俺。


「はっはーん・・・真雪かー」

「っく」


 誰とは言ってないのに、リスティは正確に言い当てる。

見透かしたように、不敵に笑っているのがむかつく。

やっぱりこいつは俺の天敵だ。


「リョウスケがそこまで誘って欲しかったとは思わなかったけど――」

「脳みそ腐ってんのか、お前は!?」

「あはは、いくらボクでもそこまで図々しくないよ。
誘ってくれただけで嬉しく思ってるんだから」


 そもそも誘ってないからな、勘違いしないように。

でもまあ、こいつが道理というものを分かっているだけで安心した。

高町家の好意に甘えてゾロゾロ参加しているが、引っ掻き回されても困る。

主に、俺が。

こいつ等? このお人好し家族の嫌がる顔を想像出来ないぞ。

言っている事は違うが、俺さえ迷惑でなければいい。

さざなみ寮からの参加は神咲のみと分かっただけでオッケー。

その後、後ろから三人の外人の親密な会話が聞こえてくるようになった。

普段三人揃うのはあんまりないらしく、楽しそうに話している。

改めて見て思うのだが・・・この三人、似ている。

三人並んで座っている光景を目にして、今更のようにそう思わされた。

美しい容貌であるのは言うに及ばず。

背丈やスタイルは違うが――空気が同じというべきか。

うまく言葉に出来ないが、家族や友人とは違う繋がりを感じられた。


(・・・何で、日本に居るんだろうな)


 フィリスは海鳴の病院に、リスティは日本の警察に。

フィアッセは喫茶店の手伝いをしているが、歌姫でもある。

歌、ちゃんと聞いたことないけど。

日本にわざわざ滞在しているのはどうしてだろうか?

外人だから、外国生まれとは限らないけど――うーん。


(っち、どうかしているな俺)


 他人の詮索なんて、いつからするようになったのか。

三人の声を遮るように、俺は助手席にもたれかかって強引に目を閉じた。














 海鳴病院から車を走らせて、さざなみ寮へ。

時間をかけて到着した建物の前に、一匹の狐を抱えた女が立っていた。

・・・律儀というか何というか、別に玄関の前で待たなくても。

時間は予め知らせてはおいたが、不確かでもあった。

迎えに行くと約束した手前、寮の中で待っていても呼びにいったのに。

――なのはが。

俺の家来なので、当然である。


「くーちゃーん!」


 その家来は、大喜びで窓から手を振る。

神咲の胸の中に縮こまっている子狐は、恐縮した様子で顔を俯かせた。

久遠となのはとの関係は、まだまだ浅い。

なのはは久遠をいたく気に入っているようだが、肝心の久遠はまだ少し警戒しているようだ。

さざなみ寮の玄関から少し離れた場所で、停車。

日が沈んで夜になったとはいえ、まだ辺りは少し陰っている程度。

寮に住んでいる人達の迷惑にならないように、ノエルが配慮したのだろう。

誘った張本人として、俺は助手席から降りる。


「おーす。すぐ出発するが、準備は出来てるか」

「はい。・・・本当にすいません。
誘って頂いた上に、迎えにまで来ていただいて」

「別にいいさ。俺が運転するわけじゃないし」

「――見も蓋もない奴だな」


 うるさいよ、恭也。

外野が呆れた目で見ているにもかまわず、俺は神咲の手荷物を取ってやる。

本人曰く、御花見の差し入れらしい。

神咲は慌てて自分で持つと手を伸ばすが、車で長時間じっとしていた身体をほぐすべく持ってやる事にした。

途端――


「おっ」

「あっ――こら、久遠!」

「くぅーん」


 神咲から離れて、俺に飛びつく子狐。

ふ、流石にそう何度もお前の好きにはさせないぜ。

久遠の行動を読んでいた俺はサッと片手を出して、久遠をキャッチする。


「もう・・・すいません、久遠がいつもご迷惑を」

「気にするなって。
――なんせ、俺たちは」





『・・・りょう・・・すけ・・・』

『お、お前、まさか――久遠、か・・・?』





「秘密を共有し合う仲だもんな。久遠」

「くぅーん」


 ――悪夢のような現実。

夢と現実との境界線で、俺とこいつは互いに背中を預けた。

首を傾げる神咲が少し面白く、俺と久遠は笑い合う。



































































<続く>







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