とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百四十九話
各国の政府には政府要人の輸送や自国民の救難等のために使用される航空機として、政府専用機というのがある。
主要各国が国家として成立し、外交が成り立ち始めた時代から多くの改良を重ね、半世紀以上に渡って生産が続けられていったそうである。
こういった航空技術はNASAのスペースシャトル輸送機等にも転用されているとの事で、安全性と飛空性を追求した画期的な技術開発となっている。
航空は大量輸送時代を到来させたことによって、一般庶民にとっては身近になりつつあるとはいえ、まだまだ高嶺の花となっている。
「大型ジェット旅客機?」
「はい、政府専用機でも採用されたジェット機で来日されるそうです」
「金持ってんな、あいつら……」
クリステラソングスクール主催のチャリティーコンサート、世界中で注目されている初の公演が日本で開催される。
コンサートが第一目的ではないだろうが、主要各国の夜の一族が揃って日本へ来日するとの事で、歓待と接待の依頼があった。俺個人を名指しで。
護衛任務を理由に断ろうかと思ったが、経済面や政治面、そして何よりテロ撲滅濃度機でクリステラに支援している連中が、アルバート議員やティオレ御婦人に働きかけたらしい。
フィアッセが作曲中なのもあって、見事なまでに俺に時間が与えられた。ふざけている。
「予定の時間通り到着したようですね、あの機体です」
「……テレビでも見たことのない飛行機が見えるんだけど。映画かなんかの撮影か」
「王族専用機として採用された実績があるそうです」
「大袈裟すぎるんだよ!?」
カタールやアラブ首長国連邦、イギリスなどの一部の国では国王を含む王族専用としての格式があるらしい。
聞いた話だと運航乗務員は空軍のパイロットが機種別の訓練を受けて、乗務しているらしい。だからどうやって採用したんだよ、そんな人材。
客室乗務員についても軍の兵士が民間航空会社で訓練を受けて乗務したり、民間航空会社のプロ乗務員が採用されて乗務する徹底ぶりらしい。
悪名高いチャイニーズマフィアやテロ組織でもおいそれと手出しできない用心ぶりだった。幅利かせてやがるな、あいつら。
「久しぶりだな、下僕よ。我の到着時間前から出迎えるとは分かっているではないか」
「散々催促しておいて何いってやがる」
カーミラ・マインシュタイン、夜の一族を統率する新しき長。
青髪に真紅の瞳、流麗に結ばれた唇、背に生えた漆黒の羽。人前では見せられない、暴力的な美を堂々と晒している。
ドイツの夜の一族で、純血種月村すずかの次に血の濃い異端種。
かつては異形の子として親にも疎まれた少女が、日傘を差して俺の前に立っている。
「下僕の分際で貴様がなかなか我に会いにこないからだろう。
いい加減、このような島国だと捨てて我の元へ来い」
「ドイツはロクでもない思い出が多いから嫌だ」
「ふふん、我と貴様が出会った地ではないか。運命で結ばれているのだぞ」
俺がドイツへ行ったのは、当時怪我で障害を負った利き腕の治療を目的に、一族の血の特殊性に期待した上での目的だった。
ドイツの夜の一族を訪ねた時、たまたま出くわしたのがこいつで、その後多くの事件に巻き込まれて主従関係を強制的に結ばれたのである。
お互い追い詰められていた分、助け合った関係により蟠りもなくなり、その分繋がりも深くなった。
だからこそ運命とするのは分からなくもないが、こいつは大袈裟に語るからな。
「最近話してなかったが、反対派との抗争は大丈夫だったのか」
「うむ。小煩い連中だったが、昨今のテロ撲滅の動きと、それらに加速した世情の動きで日和りおったわ。
停戦と称して交渉を仕掛けてきたので、ここぞとばかりに条件を飲ませてやった。
時代の流れも読めん古臭い連中であったからな、立場を与えてやって大人しく引っ込んでおる」
「いわゆる名誉職という名の閑職か。よく滅ぼさなかったな」
「我としては貴様一人いれば問題ないが、とはいえ敵を作ってばかりでは面倒だからな。この辺が潮時だろうよ」
――カーミラはかつて異形ゆえに両親に疎まれ、人の世に出れず暗闇に閉じ込められて、世界のあらゆる存在を憎悪していた
夜の一族の世界会議開催の際も人間への制裁を行おうとして、俺とは対立していた。
死闘の末に敗北して再び幽閉されそうになったが、行きずりの関係上なんとか救出に成功。その際に唯一の下僕として指名されて今に至っている。
世界会議では同席して他の一族相手に論争を行い、勝利。その功績もあって、次の長に俺も指名してそのまま任命された。
「そういう貴様はまだ女の面倒にかまけておるのか。面倒な女だから手を引けと行っておいたであろう」
「日本で開催されるコンサートが決戦となりそうだ。
その後の世界ツアーまで付き合うつもりはないから、それでお役御免だろうよ」
「ではコンサートが終われば、ドイツへ帰れるな。良い土産ができそうだ」
「人を持ち帰ろうとするな!?」
いい事を聞いたと言わんばかりに、カーミラは目を輝かせている。しまった、余計なことを言ってしまった。
こんな暴力的な女ではあるが、これでも今では人と人外の共存を掲げて、カリスマ性を発揮して夜の一族を繁栄させている。
反対派が大人しくなったのも、彼女の今を理解して平伏したのかもしれない。
そうであれば、ドイツで頑張ったことも少しは報われるというものだ。
<続く>
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