とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第三十一話







 今夜の花見だが、場所は綺堂の家の私有地。

高町家から結構な距離があり、歩いていくには大変である。

俺は全然平気だが、ガキのなのはや桃子達はひ弱なので無理だ。

って事で、高町家まで迎えを寄越してもらう事になった。

俺が頼んでやったお陰である、せいぜい感謝して敬うように。


「月村さんには本当に感謝ねー」

「うん、ちゃんと御礼を言っておかないと」


 子供のようにはしゃぐ喫茶店店長と、お馬鹿な外人殿。

・・・今日は楽しい宴だ、怒らないでいてやる。

準備を無事に済ませた一同が玄関先で待機していると、迎えがやって来た。

普段乗り回している高級車ではない、実用車。

十人以上乗れそうな大型のワゴン車が、高町家の前へ停まる。

狭い通りなんだが、戸惑いの無い鮮やかな運転ぶり。

感心する俺の前でドアは開かれ、運転席より一人の女が歩み出る。


「御迎えに上がりました、ノエル・綺堂・エーアリヒカイトと申します。
本日は御誘い頂きまして、本当に有難う御座います」


 招待者が迎えに来るという微妙な立場だが、仕方ない。

招待客の一人であるノエルの主――その親類の私有地に、今日出向くのだから。

ノエルの丁寧な挨拶に、慌てて返礼する高町家の皆さん。

俺は元々礼儀に無縁な男なので、適当に手を上げて返すだけ。

それよりも気になるのは――


「・・・お前のとこ、こんな車あったっけ?」

「本日は沢山の方が御見えになるので――」


 ――綺堂か月村が用意した車って事か。

おのれ・・・俺なんかコンビニの御握り一個買うのにも悩むのに。

ピカピカに磨かれた新車を前に、金持ちへの怨念を大いに燃やす。

その私有地にお世話になるんだから、文句を言える筋合いではないのだが、俺だからいいのだ。

ともあれ、大勢が乗れる車は有難い。

皆厚意に感謝して、車に乗り込んでいく。

・・・おい、待て。


「・・・何で助手席に乗らないんだ、貴様ら」


 後ろの席でのんびりしようと狙っていたのに、次々後ろへ乗る家族達。

ノエルは当然運転席。

隣に乗るのを何故嫌がるんだ、貴様らは。


「俺、後ろでいいですから」

「うちも別に」


 普段仲悪いくせに、返事は気が合っているチビ共。

美由希は恐縮して拒否、恭也は寡黙に拒否。

桃子とフィアッセは大人としての礼儀で、これも拒否。

なのはは・・・パス。

ガキんちょだから、一緒に座るとか言い出しかねん。


「宮本様、お時間が――」

「分かった、分かりましたよ・・・」


 渋々、俺が助手席に乗る。

ノエルが嫌いなのではないのだが、何というか・・・意識しすぎだろうか?

どうも近頃、女絡みで変な因縁を感じる。

ノエルは特に気にした様子も無く、シートベルトを締めて出発した。







まずは病院へ――







「良介さーん、こっちです」

「ハーイ、良介」


 広い助手席で引っ繰り返る俺。

海鳴の病院前で待っててくれ、俺が待ち合わせの際に確かに言った。

場所を教えていただければ近くまで――フィリスはそう言ったが、遠慮は無用と俺が誘った。

ただでさえ大勢なのだから、皆で行った方がいい。

待ち合わせの場所と日時を、俺はフィリスに事前に言っておいた。

そして彼女は来ている、それはいい。

問題は隣に立っている、もう一人。

火のついていない煙草を口に咥えて、気軽に手を振っている警官が大問題だった。

ノエルに近くまで止めてもらい、助手席の窓を開けて身を乗り出す。


「・・・何故、貴様が此処にいる」

「本日はお招きに預かりまして、誠に有難う御座います」

「呼んだ覚えはこれっぽっちもないわ!」


 礼儀正しい態度が心底嫌味なリスティ。

俺に怒鳴られても平然と笑っているところを見ると、丁寧な挨拶も俺をからかっているのだろう。

シカト作戦を更にシカトするとは!


「お前が誘ったのか、フィリス!」

「待ち合わせ場所を聞かれたので、此処だと――
良介さんが誘ったんじゃないんですか?
私、てっきり――」

「違う違う、照れてるだけだよ。彼は」

「何だ・・・そうだったんですか!」

「違うわ!」

「彼って悪ぶってるけど、本当はとても純情でね・・・」

「意味深な顔で、俺の性格を勝手に確立させるな!?」

「あ、ちょっと分かるかも。
良介さんって、そういうとこあるから」

「納得するな、納得するな」

「おにーちゃんは、本当は優しいんですよー」

「お前は顔を出すんじゃない!」


 得意げに窓から顔を覗かせるなのはを押し込めつつ、俺は二人を睨む。

高町家の奴ら声を出して笑ってやがる、くっそー。

俺は何とか落ち着きを取り戻して、


「・・・情報源は神咲か」

「半分正解。愛からも聞いたよ」


 しまった、槙原にも話した気がする。

見舞いに何度か行った時、世間話をする機会が幾度かあったからな・・・

世話になっているので、口止めもしなかった。

真相に頭を抱える俺。


「お前、警察の仕事はいいのか」

「予定は前もって立ててたから、平気。
仕事に励んでいるけど、ちゃんとした本業ってわけじゃないから」


 ・・・こんなのが市民の安全守ってていいのか、本当。

軽い笑みを浮かべるリスティに、あまり他人の事は言えない俺が憂う。

リスティは窓から顔を出す俺の肩に、腕を回す。


「酷いな、のけ者にするなんて。ねぇ、皆」


 ――大きく頷いて賛同する一同。

車内に俺の味方は一人もいなかった。

フィリスとノエルは中間で、ただ様子を見守るだけ。

俺は嘆息して、促した。


「・・・俺が悪かったよ。ま、どうせ何となく来るだろうとは思ってたけど」

「だろ? リョウスケの気持ちは、ボクが一番よく知ってるから」

「そうなんですか?」

「馬鹿な事言ってないで、早く乗れ」


 先が思いやられるな、これじゃ・・・

楽しいだけの宴にはならない予感に、俺は絶望の眼差しで空を仰いだ。



――?



「・・・どうかされましたか、宮本様」

「いや――出発してくれ」


 ・・・気のせい、か?


見上げた空に何か横切ったような気がするが・・・


俺は首を傾げて、助手席に座り直した。



































































<続く>







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