とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百三十話
結局、少し考えさせてほしいと師匠は判断を保留した。俺は勿論首肯する。
即時即断で話が進むなんて、映画かドラマの世界でしかない。脚本がない現実では、登場人物は大いに悩んで生きている。
師匠の立場になって考えれば、むしろ高町桃子は絶対会いたくない部類の人間だろう。嫌いなのではない、ひたすら申し訳なくて合わせる顔がないのだ。
俺が住むマンションにも誘ってみたが、この点は拒否されず大いに吟味された。
「お前や護衛対象の親族が住んでいる場所か。
ティオレ御婦人と御令嬢を護衛するには申し分ないが……」
「職場と滞在先の往復しか考えていないんですね……久しぶりの日本を満喫してもバチは当たりませんよ」
「遊びに来た訳ではない。それに任務だけではなく、復讐という私情も兼ねている。
今は任務を果たし、復讐を成し遂げることが最優先であり、私自身の望みだ。全てはそれからだ」
何気なく観光へ誘ってみたが、良い返事は得られなかった。そりゃあまあ、当たり前か。
一応弁明しておくと、物見遊山で誘ったのではない。御神美沙都師匠にとって故郷かどうか分からないが、それでも海鳴は特別な街だと思っている。
優しい風景を顧みることで心境の変化、もしくは精神の安定を促すつもりだった。ただ師匠もそれを察して、断られてしまった。
復讐を前に刃を鈍らせる真似はしたくなかったのだろう。剣士としては理解できるので、俺も提案を引っ込めた。
「多分返り討ちする算段でしょうけど、チャイニーズマフィアは師匠の存在を今回の事件で認識しています。
障害を排除するべく師匠を狙う危険もありますし、だからといって身を潜めるのもあまり適切ではないでしょう。
手続きはこちらでするので、マンションに来てくださいよ」
「そうだな……目立たないホテルにするつもりだったが、その方がいいか」
「ええ、任せて下さい。師匠が側にいてくれると心強いです」
「こいつめ、言うようになったな――いや、待て。
お前の滞在先に護衛対象がいるのはともかく、高町の者が来る事もあるのではないか」
「俺や護衛対象のフィアッセも高町家を巻き込まないように配慮しています。
だからこそのマンション生活なので安心して下さい」
「分かった、すまないが世話になる」
復讐に邁進するのは仕方ないにしても、連絡が取れない状態で交戦されたりするのも心配だからな。
勿論師匠は俺に守られるようなタマではないが、それとこれとは話は別だ。
それに変に距離を取ると高町家の件も有耶無耶にする事も考えられる、その都度釘を差すべきだろう。
「しかし、高町桃子さんか……彼女には本当に申し訳ないし、美由希を育ててくれたことには心から感謝している。
彼女にとっては間違いなく美由希は我が子同然に愛してくれているのだろう。
だからこそ合わせる顔がないのだが」
「家族としての情は置いておいても、養育の手間と費用だってかかっていますしね」
「うっ、勿論金で済む話ではないが、支払う準備は勿論ある」
「そういえば師匠って不躾な話なんですけど、金とか大丈夫なんですか」
「私は復讐を目的に生きているので、散財は一切しないからな。
こういっては何だが、夜の一族との契約で多額の契約金と諸経費を支払ってもらっている。
使う先もないので貯蓄が延々とされている状態だ。その全てを支払ってもいいと思っている」
うーむ、余裕で日々の生活が想像できるな……考えてみれば同じ剣士である俺も、日頃あんまりお金は使わない。
金の管理はアリサがガッツリやっているし、基本的に俺は遊び歩いたりとかもしない。普段何かとやることが多いので、金を使って遊ぶほど暇ではない。
せいぜいうちのガキ共に何か買ってやったり、遊びに行ったりするのに使うくらいだろうか。その金もアリサが資産運用しているので、増えていく一方らしいからな。
旅していたことは金にとにかく困っていたのに、金があると使わなくなるというのは変な話だった。家族が多いので生活費はかかってるだろうけど、うちの子も働いているからな……
「結論は近いうちに出すが、お前にはすまないが仲介を頼みたい。
本当は襟を正して自分から伺うべきなのだろうが、情けないがそこまでは出来ない」
「ええ、俺から言い出した話なのでその点は任せて下さい。トラブらないようにはしますよ」
「うむ」
ということで高町家との接触は検討する事となった上で、師匠本人はマンションに滞在してくれる事になった。
マンションの手配をアリサに頼んでみたら、二つ返事で了承して早速手続きしてくれた。あのマンション、そのうち私物化でもしそうで怖いな。
チャイニーズマフィアの襲撃と、ボスを名乗る存在の登場。師匠の参戦に加えて、チャリティーコンサートの正式な開催決定。
いよいよ局面は、最終段階に入りそうだった。
<続く>
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