とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第三十話







 ――頭上より降り注ぐ稲妻。

凶悪なまでに一直線に襲い掛かる閃光を、俺は回避する。

半回転して、後方に着地。

タイミングが遅れれば危なかったが、敵の攻撃パターンは次第に見えてきた。


「――火炎に、稲妻か・・・
広範囲で逃げ難くした上に、ピンポイントで狙う。
周到な戦法を!」


 上空に舞い上がる敵。

天高く輝く星空の下で、幻想的な世界を背中に黒いマントをなびかせて浮いている。

掲げる杖は地上へ。

つまり――俺に向けて、透明な殺意を杖先より放っている。

俺は剣を上空へ向けた。

距離を取って相対する剣と杖。

共に満ちるは、濃厚なる魔力――

互いに敵を無力化せんと、鋭い視線を交えて魔力を充電する。


「おにーちゃん、大丈夫!?」

「下がってろ、なのは!」


 心配に曇るなのはを、俺は手を広げて近づけんとする。

気持ちは嬉しいが、なのはも余力はない。

敵と同種の杖を掲げて、補助・回復魔法で俺を援護し続けてくれた。

悔しいが、俺一人ではこの敵は倒せなかっただろう。

頼りになる相棒。

前衛の俺の性格を察し、サポートに徹してくれたその心意気は本当に嬉しい。

だが、俺もまたなのはの性格を知っている。

――なのはは、この敵に同情している。

敵を倒すのではなく、敵と仲良くしたいと願っている。

町を舞台に繰り広げた魔法の攻防戦。

明確に俺達を排除する意思を持っている相手を、なのはは憎みきれずにいる。

そんな気持ちを薄々気付きながら・・・俺は冷酷に言った。


「・・・次でケリをつけるぞ」


 それが何を意味しているか――気付かない、こいつではない。


「おにーちゃん・・・あの娘は」

「諦めろ」

「・・・」


 なのははぎゅっと杖を握り締め、力なく俯く。


「アイツを殺せない限り・・・戦いは終わらない」

「でも・・・でも――!」

「あいつを大事に思っているなら!」


 ――言葉を、切る。

言い様のない気持ちを胸に、俺はなのはにただ視線をぶつける。


「――俺たちで、終わらせてやらないと・・・

他の誰かにやらせる気か! 
自分さえ傷つかなかったらそれでいいのか、お前は!

お前は何の為に――魔法少女になった!」

「――っ、・・・」


 一瞬の幕間。

束の間許された時間に、俺はなのはを空いた手で抱きしめる。

なのはは俺の胸に顔を埋めたまま・・・小さく頷いた。

俺は小さな頭を撫でてやり、そっと離して剣を握る。

上空より見下ろす敵の目は冷たく。

――俺やなのはを見る瞳の色は迷いに揺れていて――

けれど、敵は目を閉じて呪文を唱える。


「ライジング――」


 敵は迷いを断った。

ならば、俺も覚悟を決めるまで。


「ヴァニシング――」


 悲しみを杖に宿し、誇りを刃に変えて。


「――インパクト!」

「セイヴァーーーーー!」


 全身全霊。

互いの究極魔法が、夜空を飲み込んで激突した。















「ぐああああああ、負けたぁぁぁぁ!?」

「うわぁーん、おにーちゃぁぁぁん!!」


 真っ黒な画面に浮かぶ、ゲームオーバーの文字。

HP・MP共に0となって死んだ我が分身を見て、俺は燃え尽きて床に転がった。

横でなのはが泣き叫んで、俺の叫びに同調してくれた。

悔しいよな、悔しいよな!

今日のなのはとは、魂から友と呼べる関係になっていた。

涙に濡れた目で傷ついた心を慰めるために、抱きしめ合う俺達。

ああ、なんて素晴らしい光景なのだろう――!


「――楽しそうやな、あんたら」


 ほっとけよ。

家事に勤しむだけのコンビニ女に、この気持ちは分かるまい。

俺はコントローラーを投げ出す。


「折角ボスまで行ったのに・・・何だ、あの強さは」

「MP600で連続魔法使いますから、今日クリアーは難しいかも」


 恋人を殺された悲劇の女の子。

この手のアクション系にありがちな敵だが、問題はその強さの設定。

二人同時プレイありなのに、何度戦っても攻略出来ない。

俺の聖騎士と、なのはの魔法少女。

二人で一時間以上連続プレイしているのだが、この敵が勝てないので先へ進めない。

コンテニュー可能だが、目が疲れてきた。


「よくもまあ、こんなゲーム見つけてきたなお前」

「あはは・・・でもでも、評判はいいんですよ」


 設定は単純明快、発売日も数年前。

古いゲームなのだが、敵の鬼レベルな強さが評判で根強い人気があるらしい。

希少価値の高いゲームでなかなか売ってないのだが、なのはが友達関連で借りてきたそうだ。

で、早速二人でやってみて――この有様である。


「自分で台詞作って叫んで、面白いんか?」

「ばか、ばか、ばーか! 
物語の主人公になりきって叫ぶのが快感なんじゃねえか、な?」

「そうだよ、レンちゃん!」

「・・・な、なのちゃんまで・・・うー、なんかウチが悪いみたいやんか」


 ぺ、ぺ、ゲーム魂を知らん女は去りやがれ。

――は!? なんかゲーム魂とか言っているぞ、俺!?

なのはと一緒に毎日遊んでいるうちに、はまってきている・・・?

――確かに面白いけど!

最近学校から帰ってきたなのはと、ずっと一緒に遊んでやってるからな・・・

嫌がらなくなってきた俺が、嫌だ。

レンは溜息を吐いて、


「・・・出発時間、三十分ないんやで? 準備は出来てるんか?」

「俺は別に平気。なのはは?」

「そろそろ、着替えてきます! あの・・・良介おにーちゃん」

「はいはい、片付けておいてやるから行って来い」

「うん、ありがとう!」


 頬を染めてにっこり笑うと、なのはは元気良く二階へ駆け出していった。

毎日元気な小娘だな、たく。

コントローラーをゲーム機から抜いて、電源を抜く。

――片付け始める俺を見つめる、小娘の視線。


「・・・何だよ、文句あるのか」

「別に。なかよーなったな、って」 


 舌打ちする。

否定したいが、今の情景を見られていては説得力0だ。


「今だけだ、今だけ。邪魔だから消えろ」

「はいはい、ウチも準備せんと」


 居間のテーブルを片付けて、レンは台所へ。

俺はゲームを片付けて、そのまま寝そべる。



――花見は、今日の夜。



学校や喫茶店から帰ってきた高町家の連中が、準備に勤しんでいる。

それほど準備が不必要ななのはと、暇を持て余した俺が遊んでいたのがさっき。

やる事も無くなって、俺は寝そべったまま・・・


・・・ポケットに手を伸ばし、摘み上げる。


青い石。

窓から差し込む夕日に反射して、眩しく輝く。

病院で拾った宝石。

落とし主のいないお宝に喜んでいたのが、つい昨日。

正確には――



"ソレを、渡してください"



――昨日の夜の、あの時まで。

俺は嘆息する。


「厄介な事になったな・・・」


 全ての常識を引っくり返した、昨晩の出会い。

この宝石は――別の意味で、貴重な価値となった。


"知らないって、言ってるだろ"


――俺と、同じ・・・



"――後悔するのは、貴方です・・・"



孤独の――匂いを感じた・・・くそ!


馬鹿馬鹿しい、誰が手放すか。

俺は出発まで強引に眠る。

合わせ鏡のように、俺と同じ目をしたあの子を忘れるために。



































































<続く>







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