とらいあんぐるハート3 To a you side プロローグ





「でよ〜、メグミの奴がさ・・・」

「バーカ!そりゃあオメエがウジウジしてるからだよ。強引にいきゃあいいんだ、強引によ」


 家々が密集している住宅街にて、ポツンと設置されている一台の自動販売機。

内容量や種類からすると、どうやらここ近所でよく利用されているのだろう。

しかし昼間は近隣の住民に利用される設備も日が暮れてしまうと、寂しさすら感じられる。

現在、日付が変わったばかり――

健やかな家庭を営む住宅街では家々の灯かりも消えうせており、色濃い闇が外に広がっていた。

静寂な夜の街を徘徊する若者達にとっては、販売機の照明でさえ愛しい。

男達二名が座りこんでいるのは、そんな一画であった。

話す内容は日常の取るに足りない内容ではあるが、彼らにとっては盛り上がる話題である。

近所迷惑という点を差し引けば、何ら咎められる行動ではない。


「うっせ!女も満足にいねえくせに、説教たれてんじゃねーよ」

「んだぁ〜、テメエこそ振られてばかりじゃねーか。今回で何人目だぁ?」

「け、俺からふってやるよ。俺には他に奴隷がいるからよ」

「おーおー、キープしてやがんのか」


 両者互いに、陰湿さの混じった笑いを上げる。

自販機の僅かな光により照らされた顔はまだまだ未発達な顔つきであり、男達は十代の若者であった。

何色かも判別出来ない程の脱色した髪に、一人は耳元・一人は口元にシルバー製のピアス。

健康的な肌は面影もなく、浅黒さすら混じった色へと変貌していた。

話す内容からしても、見た目の外見からしても、男二人の現状の態度はあまり良い気分にはさせないだろう。

例え人通りの絶えてしまった深夜帯であれ、自販機を利用する者がいれば立派に邪魔であった。

だが男達はそんな事にはお構いなしに、楽しそうに声を弾ませている。

基本的に彼らの行動理念は自分中心であり、周りの声に耳を傾けようとは決してしない。

仮に大人達が注意しても、相手次第で彼らは容赦なく牙を向けるだろう。

基本的に放任な両親に育てられた男二人は、今まで自由気ままに生きてきていた。


「お下がりで良かったらやろうか? ガバガバかもしれねえがよ」

「どうせ散々調教かましたんだろうが! 悪だね〜


…ん?」


 いやらしい笑みを浮かべていた耳ピアスの男が会話を中断して、目の前の道を見やる。

友人の様子に、口ピアスの男が怪訝な顔で口を開いた。


「何見てんだよ。いい女でもいたのか?」

「いや、何かさ…変じゃね?」

「変? 俺としては今のお前の方が変だと思うけどよ」

「ざけんなっての。ん〜、気のせいかな…」


 仕切りに前方の道を気にする友人に流石に気になったのか、口ピアスの男が同じ方向へ視線を向ける。

男達が屯している自販機前の道路は基本的に一直線で、曲がり角はない。

この道路は近所の子供達の通学路として、有効的に利用されている。

しかし今時分だと、小さな街頭にのみ照らされた暗い通りは奥行きが見渡せなかった。

普段は気にならないのだが、友人の不安そうな顔を見ると気になってきたらしい。


「へ、変な事言うなよ。怪談って季節でもないぜ、今は」

「わーってるよ。でもなんかこう…」

「んだよ、煮え切らねえな! はっきりしようぜ、はっきり」


 耳ピアスの男にしても、何がここまで自分を不安にさせているか分からなかった。

敢えて理由を述べるのであれば、何となくである。

その事を目の前の友人に理解させる語学力は、生憎と耳ピアスの男には持ち合わせていなかった。


「ち、なんかやな感じだぜ。今日はもう帰ろうぜ」

「もう帰んのか? 酒が抜けてねーのによ」

「いいじゃねえか。それに夜はまださみーしよ。俺の部屋で飲みなおそうぜ」

「お、いいね。泊まりな、泊まり」


 嫌々だった友人を何とか納得させて、耳ピアスの男は立ち上がった。

酒はコンビニにでも寄って買おう。その後は俺の部屋で飲み明かして――

男は今後の予定を頭で考えつつ、今まで視線を送っていた方向とは逆に歩き始める。

否、歩き始めようとした。



が――



 闇夜に響く一対の反響音。



ヒタヒタっとどこか軽やかな足音が、住宅街の細道より聞こえてくる。

音そのものは非常に小さく、人の通常備えている感覚からすれば微弱でしかなかった。

彼らからしてみると聞こえるどころか、音への認識すらできてはいなかっただろう。

ゆえに、全てが手遅れとなった。

一陣の冷たい風が舞い、男二人を貫く。


「うわ、さみぃ!! は、早く行こうぜ!
冷えてきやがった…え、え?」



 耳ピアスの男は、にわかに信じられなかった。

目の前のあり得ない光景に――全ての思考が遮断される。

連れ。中退した高校からの友達。不良仲間。

自分の仲間が…



―――頭から血を流して倒れている。



「お、おい… ど、どうしたんだよ、なあ? …
おいってよ!!」


 先程まで仲良く話していた。

今から酒でも飲み合いながら、朝方まで楽しく過ごす筈だった。

なのに、なのに…

混乱する頭のまま倒れている友人の傍へ駆け寄り、必死で身体を揺らす。


「しっかりしろよ、おい!
なんで、なんで…ひ、ひいいっ!!!」


 自販機の光に照らされた友人を見て、耳ピアスの男は恐怖の声をあげる。

口ピアスの男は完全に頭を割られていた。

流れる血は道路を濁らせ、男の顔を血化粧で染める。

完全に恐怖で逆上し、救急車を呼ぶ等の緊急処置すら思いつかない。

友人から目を逸らして地面を這いずり回って、現場から逃げようとする。

立つ事すら混乱してままならない男であったが、道路を見て気がついた。

地面に這いつくばる自分を映し出している、街頭から舞い降りた光の影。

そんな自分の影を覆い被さるかのように、もう一つの影が男の全身を暗闇で覆っている。

男は全身を震わせ、瞬間気がついた。





自分の影の頭上より、真っ直ぐな一筋の影が振り下ろされようとしている事に――





 棒? いや、これは…!?

影の正体が何かを認識したその時、目の奥に強烈な火花が炸裂した。

音にして、優しさすら感じさせる静かな響き。

男は全ての感覚が消えうせて、急速に視界が染まり、真っ暗になっていく。

最後に脳裏に閃いたのは突然やられた理不尽さでも、恐怖でも、友人がやられた恨みでもなかった。

たった一つの単語。



…木…刀…?



 男の意識は闇と混濁した。






























 ――その町は自然に愛されていた。


山と海に囲まれた世界。
山道を下って町に辿り着いた時、既に夜を迎えていた。

一人だけの気軽な身の上。
一晩の宿を山に求めた俺はどのような気まぐれか、町の全貌を見たくなって木に登る。

木登りはガキの頃からの得意技――頂から俺は風景を楽しんでいた。

見下ろす街は絶景で、建物類から零れるネオンの光が綺麗だった。

街の向こうには海が見えており、夜の闇を濃厚に演出していた。

日本の彼方此方を気ままに旅した俺だが、これほど自然に恵まれた町は珍しい。

日中に辿り着けなかったのが、少し残念だった。

――残念に思える自分の感性に、驚きを感じる。

無味無臭な一人旅の連続に、俺は少しだけ疲れていたのか。

それともこの町の優しい空気に触れてしまったからか――

特に急ぐ旅もなければ、目的地もない。

俺は到着初日で滞在を決めてしまった。


「――此処から始めるか」


 考えると身体中に興奮が迸り、力が漲ってくる感じがした。

俺は腰元に手を伸ばし、ぶら下げていた獲物を引き抜く。


――剣、と呼ぶには貧相な武器。


 山中で拾った太い木の枝を、刀に形作った。

何の道具もなく、腕力に物を言わせて折っただけ。

俺の孤独を支えてくれる力――


――当初、日本刀の予定だった。


男女問わず、自分の中で一度は夢見る憧れの理想像――

俺が描いた自分の理想は侍だった。

アニメより時代劇、銃より刀を好きになった子供の頃。

持ち歩くだけで犯罪なのは理解しているが、ガキの憧れなんてそんなものだ。

武者修行がてらに色々な町の骨董品屋や刀剣類の店を回って見たのだが、日本刀は高い。

伝統芸術品としても一級の価値があるとかで、平気で数十万・数百万単位で売られている。

当然のごとく、その日暮しの俺に金がひねり出せる訳がなかった。

木刀を買ってもいいのだが、きちんと成型された木刀もまた値段がついている。

身寄りのない旅人が持てる刀は、山に埋もれる木切れだった。

形からという言葉もあるが、情けなさを感じるのは事実。

せめて、中身から鍛えていく事にしよう。

この手に何もないからこそ、せめて壮大に夢を描きたい。


男なら一番――侍ならば、天下人。


 俺の名前は宮本 良介。

齢十七歳にして、天下を目指す男。

始まりを今日に定めて、俺は広大な夜空を見上げた。






















<とらいあんぐるハート3×魔法少女リリカルなのは To a you side>





















<第一話 流浪の剣士へ続く>






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