しまった……寝すぎた……。
水瀬家の床で名雪と共に眠っていた水瀬秋子は、唐突に目を覚ました。
床での寝心地はあまりいいものではなかったが、祐一との戦いの疲れは、大方吹き飛んだ。
隣に寝ている名雪を起こそうとしたが、その程度では名雪が起きないのは分かっている。
無駄な事はせず、そのまま名雪を上の階まで運ぶと、名雪の部屋でそのまま名雪を寝転がす。
その時に、リアが今日からリアの部屋になるその部屋で眠っている事に気付いた。
この少女はどうやら、どこが自分の部屋かというのを全く気にせず眠る事ができ、なぜこんなにも荷物が揃っているのかなどを全く気にする事はないようだ。
祐一さんなら、きっともうすこし疑うんでしょうけど……。
考えて、ハッとする。そうだ。そもそも自分を床で眠らせる原因になったのはその相沢祐一だ。
祐一は今何をしているのか? 自分の部屋にいるのだろうか?
丁度いい。いろいろ聞きたい事はあった。どうせなら今聞いておこう。ガーデンの規則などを教えるフリをしてさりげなく聞き出せばいいだろう。そんなに簡単にいくとは思ってはいないが、まあやって見る価値があるだろう。
コンコン、とドアを叩く。返事は無い。部屋を間違えたのだろうか? いや、それはない。一つは難しい書類などが山積みにされている、どう見ても秋子さんの部屋だ。もうひとつは「名雪の部屋」とプレートが下げられている。そもそも、今秋子さんは名雪の部屋に行ったし。
リアの部屋にも、すでにリアが眠っていた。まさかリアと一緒に眠っているなんていうことはないだろうが……。
もう一度ドアを叩いて見る。返事は無い。
……まさか……?
 

「祐一さん、開けますよ?」
 

一応聞いておく。やはり返事は無い。それを確認して、ドアを遠慮がちに開ける。
今日朝確認したとおり、何も変わりのない、祐一の部屋があった。
机もある。本棚もある。クローゼットも当然ある。
しかし、祐一はいなかった。
 

「…………」
 

いや、別におかしな事では無い。夜に一人で出歩く事ぐらいあるだろう。それも祐一ほどの実力者ならばそうそう危険な事などないだろう。
そう、ただそれだけだ。しかし、なぜか不信感だけが残る。
 

「ふぅ……」
 

なんとなしに、祐一の机の椅子に座る。
一息ついて、祐一の机を見てみる。別に大した変化は無い。触って見る。材質は木。別に変なことでは無い。
しかし、そこで秋子さんはすこし疑問を抱く。
なぜこの木はすこし熱を持っているのか?
木というのは他の材質よりも熱を残すという。では、追先程までここに祐一がいたと言う事だろう。そして、机で何かをしていた。
机ですることなど、勉強の他にない。
いや、そうでもないか。
しかし、ここに越してきて一日目の祐一がすることなどあるのだろうか?
 

「……」
 

なんとなく、本当になんとなく、秋子さんは祐一の机の引き出しに手をかけた。
意外とあっさりと開いた引き出しの中には十枚の紙が入っていた。
ピンのような物でまとめられている。
それを秋子さんは取り出す。
その時、ちゃんとピンでとまっていなかったのか、パラリと一枚の紙が机の上に落ちる。
 

「あっ」
 

秋子さんは急いでその紙を拾う。『NO4』と書かれた紙は、恐らくこの紙が四枚目だという意味だろう。
秋子さんは、その紙を三枚目の次の場所に挟むと、一枚目に目を通した。
 

 
 
 
 
 
 

「なによ、さっきから逃げてばっかりじゃない! 貴方本当に「相沢」なの!?」
 

ドガァと、今度は地面に小さな穴を開けながら、アルクェイドは叫ぶ。
祐一が逃げている後にはアルクェイドが続き、その後には、アルクェイドが付けた跡がある。
さっきから祐一はアルクェイドと戦う意思を見せずに、ただひたすら逃げていた。
目的地に着くまではこんな馬鹿力と戦ってはいられない。
屋根から屋根に乗り移る。アルクェイドもそれを追って来る。そのスピード、パワー、美貌、スタイル、どれをとっても完璧だった。いや、最期の二つは関係ないが。
屋根から地面に飛び降りる。目的地はもう二つほど跳べば着くほどの距離だ。
祐一は右手で魔法陣を描く。逃げながら書くというのは初めてだが、大方上手くはいった。
パン、と地面に右手を当てる。すると秋子さんよろしく、地面から三本の石の棘がアルクェイドに向かって伸びる。
 

「ふん」
 

なめてるの? という風に、アルクェイドはその棘を平手で粉々に粉砕する。既に人間業では無い。
いや、人間じゃなかったな、そういえば。
アルクェイドが、棘を蚊を吹っ飛ばすように粉砕したときには、祐一はもう既に違う屋根に乗り移っていた。
アルクェイドもそれを追って来る。しかし、今の棘でいささか時間とタイミングがずれる。祐一はその隙を見逃す事無く、近くの瓦の屋根から5本の手裏剣を作り出す。
それをポケットに忍ばせているうちに、すでにアルクェイドは祐一の眼前まで迫っていた。
 

「はっ!」
 

威勢のいい掛け声と共に、アルクェイドの正拳突きが飛ぶ。
 

「ちっ!」
 

祐一は両手をクロスしてガードの体制に入る。ジャスト。そこにアルクェイドの拳が当たる。
 

「――!」
 

ドカッという効果音が突きそうな勢いで、祐一は後ろに吹き飛ばされる。
まるで大砲の砲弾にされたように、祐一の体は、しかし皮肉にもその目的に飛んでいく。
アルクェイドは、祐一が吹き飛ばされながら何かをポケットから取り出したのを見て、次の瞬間、祐一からアルクェイドに向かって、なにかが風を切って飛んでくるのを見た。
パシッと、そんなものはなんの障害にもならないとでもいいたげな風に、アルクェイドはその飛んできた物――手裏剣を受け止める。
 

「なに? まさかこんな物で私を倒そうなんて思ってな――」
 

アルクェイドは言いかけて、祐一がすでに地面に着地しているのを見た。
なんだ、案外効いてなかったのねと思いながら、アルクェイドはもう一つ不可思議なものを見つける。
手裏剣。その手裏剣に、糸がくくり付けられていた。
その糸の先は祐一。その祐一は、地面で、まるで綱引きでもするかのようなポーズを取った。
瞬間、アルクェイドの体が左横に引き寄せられる。
アルクェイドが「え?」と声をあげる前に、アルクェイドの体は屋根から離れ、手裏剣が横に飛ぶのにつられて、アルクェイドも横にとんだ。
 

(手裏剣、この手裏剣の糸を、祐一が操ってる)
 

アルクェイドの頭の中、下された結論は、あまりにもシンプルなものだった。
ようするに、手裏剣に糸がついていて、その糸を祐一が引けば、当然その糸がついている手裏剣も引き寄せられ、その手裏剣を握っているアルクェイドも引き寄せられるというわけだ。
手裏剣の向かう先は地面。この勢いで地面にぶつかればいくらなんでもただではすまない。
アルクェイドは左横を見る。丁度、これからぶつかろうとしている地面の直線上に、一本の大きな木があった。
あの木に当たる場所が変わったとしても、大した変化ではないだろう。木と一緒に、自分の体の骨とかもバラバラになってしまいそうだ。
しかし、ぶつかるのと着地はまた違うものだろう。
パッと手裏剣を離す。手裏剣は錘が無くなり、さらに加速を上げて、地面に突き刺さった。
アルクェイドもそのまま物凄い勢いで木に向かって飛んでいく。しかし、木にぶつかる瞬間、アルクェイドはクルリと半回転する。
ガッと勢いよく木にぶつかる。しかし、ぶつかったのはアルクェイドの足だった。
アルクェイドは、一応命綱になったその木を、そのまま反動で蹴り倒し、スタッと地面に着地する。
祐一の方を見ると、アルクェイドの拳が当たった両腕をプラプラと振っていた。
やはりガードしても、コンクリートの砕くほどのパンチをうけたのだ。それなりのダメージがあったのだろう。
と、そこでアルクェイドは、祐一がもう逃げていない事に気付く。
逃げても無駄だと判断したのか、それとも逃げる必要がなくなったのか。
アルクェイドは、辺りを見回して見る。それで、案外あっさりと答えが出た。
 

「……へぇ……」
 

アルクェイドは、すこし感心したように祐一を見る。祐一は、地面から土の剣を作っているところだった。
 

「少しは考えてたんだ、公園に移動するなんてね。そうね、あんな狭い場所じゃ戦いにくいわよね」
 

アルクェイドは、素直に祐一を褒めていた。褒められても別に嬉しくは無いのだが、この際社交辞令で「どうも」と言っておいた。
そう、祐一は別に逃げていたわけでは無いのだ。ただ単に、戦いにくい場所から、ここ、目的地である公園へ移動していただけだったのだ。
 

「じゃあ、私もちょっと本気を出してあげるわ」
 

それは恐らく、祐一の実力を評価してのことだろうが、そんなものはお断りしたい気持ちでいっぱいだった。
スッと、アルクェイドが目を閉じる。
暗闇で美女が目を閉じているという姿は非常にそそる姿があったが、今はそれどころではない。
なんたって、次に目を開けたときには、アルクェイドの眼が赤色から金色に変わっていたのだから。
 

 
 
 
 

後書き
 

どうもです。パソコンの調子が悪くて、しばらくかのんSS-Linksに行く事も出来ませんでした。
最近ようやく直って、スクラップを書き始めました。
それで、最近ご無沙汰だったかのんSS-Linksに行ってみると、なんとこのSSの探索願いが出てました。
煤i○◇○)!!
あああああ!パソコンが壊れてなかったら自分から言えたのに!
しかし、ちゃんとこのSSを教えてくださっている人がいらっしゃって、もう感動です。
しかも、その探索願いの内容が結構最近のもので、ああ、読んでくれてる人いるんだなぁと思ってしまいました。
が!私のところにメールが来てません。まだ一通も。
……………………!
ぬおおおおおお!感想ほしいんじゃーー!(壊)
という事で、なんかしたいと思います。
えっとですね、一番最初に感想を下さった方に、なんとリクエストSSを書いちゃいます!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!(無駄に「パチ」を書いてなんかすごい事のように見せている)。
……だめかこれ?
やっぱりこういうのって、管理人さん特有の物って言うか、キリ番踏んだ時とかだけのものですよね?
……………………
じゃあ、NO1がキリ番だったという事で!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
……いいのかなこれ?
……えっとじゃあ、管理人さんの許可が取れ次第、次の回で発表するという事で!
いいですか?
だめですか?
だめですね。
……えっと、まあ感想ください。はい。それが一番嬉しいです。
では、これからも応援よろしくお願いします!
 

 





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