夜の公園。紅い血。倒れた人。血まみれの人。体中ボロボロの男。右腕がもげていて、体中から血を流す女。それを黙ってみている男。

それが、『その時』の現状である。

 

「お前らは……まあ、よくやったよ。俺も久々にすこし本気になれた」

 

男は真面目にその二人を褒めていた。しかし、その場にいる者の中で、地面に立っているのはその男だけである。

 

「志貴! 志貴!」

 

女性が、地面に倒れている男の名前を何度も呼ぶ。しかし、その男はもはや返事すら出来る状態ではなかった。

男の名前を呼んでいる女性も、右腕が吹き飛び、腹部に長細い大穴を空けられている。

 

「大丈夫、多分死んでない」

 

男はなんの問題もないだろうと言う風に女性に言う。死んでなければいいだろう。それが男の言いたい事である。

 

「あ、あんた……なんなのよ、なんなのよ、これ……」

 

「まあそう言うな。お前は死なないんだろ? ほら見ろ。今日は満月だ。月が綺麗だろ?」

 

男は夜空に浮かぶ月を眺めながら呟く。女は、くっと歯を噛み締めて、倒れている男――遠野志貴を見る。

大丈夫。私は死なない。しかし、志貴は別だ。彼は『私と違って』人間なのだ。

 

「吸血鬼の中でも飛び切り強い力を持ってるそうじゃないか、アルクェイド・ブリュンスタッド」

 

男は女性の名前を呼ぶ。女性、アルクェイドはその男に名前を呼ばれたことすらも気に障るのか、男をきつく睨みつけた。

 

「教えなさい。なんで志貴まで巻き込んだの! 志貴は関係ないでしょ!!」

 

女性が男に向かって叫ぶ。叫んですぐ、ガハッと口から血を吐き出した。

 

「なんでって……」

 

男は顎に手をあて、う〜んと唸ってみせた。

 

「ここに居たからかな?」

 

「――っ!」

 

ブワッと、周りの空気が一変する。アルクェイドの目が金色に変色し、生温い空気が辺りに吹き荒れる。

パキッと近くの地面に亀裂が走る。公園の木に止まっていた鳥達が、休むのも後にしてバサァと音を立てて一斉に飛び出す。

全ては、アルクェイドの体から溢れ出た殺気によるものだった。

 

「殺して、やる」

 

「はは、期待してるよ」

 

男は、本当に愉快そうに笑って見せた。地面に這わせたアルクェイドの左腕の指の爪が、ギギギ、とコンクリートの地面を削る。

 

「じゃあな、せいぜい志貴が生きてるうちに治療してやれよ」

 

男は踵を返して公園から出ようとする。待ちなさい! と声を荒げて叫ぶアルクェイドを無視して、ツカツカと公園の出口へ歩く。

アルクェイドは、ギリと歯が砕けるほど噛み締め、叫んだ。

 

「許、さない。殺してやる、殺してやる!」

 

男は振り返らない。しかし、アルクェイドは叫び続ける。

 

「殺してやる! 殺してやる!!」

 

狂ったように叫びながら、アルクェイドは今の現状と、自分のあまりの無力さに、涙を流していた。

 

 

 

「シオン、あんただけは絶対に殺してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……分かるんだ、私が吸血鬼だって」

 

「まあな。これでもハンターでね」

 

女性が言った事に素っ気なく返事を返す。女性は、クス、と小さく笑う。

 

「その辺のハンターに分かる訳ないわよ。こいつらだって、私が吸血鬼だってわからなかったみたいだし」

 

女性は地面に倒れている男達を顎で刺す。まあそれはそうだ。祐一でも気配を察知するのに神経をどれだけ集中させなければならなかったか。こんなド三流に分かる訳は無い。

 

「貴方ならいいかもね。私、アルクェイド・ブリュンスタッド。貴方は?」

 

「ん? ……やだ」

 

「え、なんで?」

 

アルクェイドは、なんでよ〜と唇を尖らせる。祐一は別に女性が嫌いなわけでは無い。いや、むしろ大好きだ。今までも数々の女性を見てきた。が、このアルクェイド。祐一のいい女ベスト10の連中を蹴散らすほどの美貌を持っている。

その女性が可愛らしく形のいい唇を尖らせている。ああ、なんか今日は凄くいい日です。

 

「俺とあんたは初対面だろ? 名前の交換なんてしなくていいだろ」

 

「え〜、でもでも、これからお近づきになるから名前を〜」

 

「やだね」

 

「そんなのずるいわよ。私は名前を教えたのに」

 

「知るか。あんたが勝手に言ったんだろ」

 

ね〜ね〜としつこく名前を聞いてくるアルクェイド。はっきり言ってウザイ。まあ可愛い女の子はすこしくらい大目に見ちゃいましょう。

 

「俺はなるべく自分の名前を明かさないようにしてるんだよ」

 

いや、嘘です。別にそういうわけでは無いし、祐一は自分の名前にコンプレックスを持っているとか、そういうのはもうどうでもいい事なのだ。しかし、吸血鬼といえばいわば人間の敵だ。人間の敵に(しかも祐一は一応有名人だ)名前を知られるなんて事は無いほうがいいだろう。

いや、だって、目の前の男達はそういうやり取りがあってそうなってるんだろう?

 

「じゃあ、名字だけでも!」

 

その行為に何の意味があるのかは定かではないが、アルクェイドはよっぽど祐一の名前が聞きたいらしい。祐一も普通の女性(しかもアルクェイドほどの美貌の持ち主)ならば、自分の携帯電話の番号を書いた紙付きで教えてあげるだろう。

しかし、なんかこいつは苦手だ。教えるべきか否か……。

 

「…………相沢」

 

祐一は悩んだ結果、条件どおり名字だけ明かした。しかし、それだけでアルクェイドは驚いたように口元に手を持っていった。

 

「相沢って、あの相沢!?」

 

ああ、しまった。

相沢っていったら、超有名な家じゃないか。

それも魔物達の間では。

夫婦共々SSランクのハンター。魔物の天敵とも言える存在だ。

もちろん、それは吸血鬼もだ。

そう、本来吸血鬼と人間がこういう風に親しげに話すなど、あってはならない行為だ。

チャッ、と右手に持っていた鉄の剣を構える(これは壁から【変化】させたものだ)。

アルクェイドが、む、とすこし怒ったように腰に手を当てる。

 

「やだ、そんな物騒な物持ってたの?」

 

今気付いたんかい、と石のハリセンでも作って突っ込んでやりたいが、まあそんなもんやる暇はないだろう。

 

「誤解しないで。私は別にあの相沢だからって敵視したりしないわよ」

 

あの、というのがすこし気になるが、とにかくアルクェイドは祐一とやりあうつもりは無いらしい。

祐一にとってもそれは随分助かる。なんせ秋子さんとの戦闘でかなりピンチな状態だし、そもそも普通の状態でも吸血鬼なんて相手に出来るか分からない。

 

「そうか、それはよかった」

 

祐一は魔法陣を書くと、そのまま鉄の剣に当てた。

カッと夜の道路がすこし光り、次に瞬きした時には、鉄の薔薇の花びらが出来上がっていた。

 

「じゃ、これは友好を深める意味で」

 

どうぞマドモアゼルとでもいいそうな勢いでアルクェイドに薔薇の花束を渡す。アルクェイドは、あら、とすこし照れたように、まんべんの笑顔を祐一に返した。

 

「ありがと。貴方って紳士なんだ」

 

へぇ〜と薔薇の花束を珍しそうに見つめる。それはそうだ。いくらなんでも鉄の薔薇など聞いたことは無い。もちろん見た事も。

 

「で、相沢って、あの相沢でいいのよね?」

 

「……まあ、その相沢でいいだろうな」

 

やっぱり、へぇ〜とアルクェイドは祐一を見る。

 

「相沢夫婦って感じには見えないし、あ、もしかして相沢香奈?」

 

「…………」

 

祐一の眉がピクッと反応する。右手の感触を確かめる。

……ああ、鉄の剣は今薔薇に変えたばかりだ。

 

「あ、あはは、冗談だよ。でも、あれ? でも相沢に長男っていたっけ?」

 

「いないよ」

 

祐一は、嫌悪を吐き出すように言った。

 

「じゃあ尚更へんよ。貴方相沢なんでしょ? 貴方相沢聖一?」

 

「それも……違う」

 

祐一は、聖一という名前が出たことが嫌なのか、少し嫌悪感を表して言う。

 

「祐一だ。相沢、祐一」

 

「え……祐……一?」

 

アルクェイドは、まるで幽霊でも見るような目で祐一を見る。何度も「祐一?」と呟きながら、祐一の顔をまじまじと見つめる。

次の瞬間、目を見開く。ポカンと口を開けて、「あ!」と声を上げた。

 

「ああ! ああ、ああ! 知ってる知ってる! 相沢祐一! あれでしょ!? 『絶対零度』!」

 

「そう、それ」

 

両手を強く握って、きゃあきゃあと騒ぎながら自分のことを言うアルクェイドを見ながら、祐一は深いため息をついた。

 

「じゃあじゃあ、貴方、遠野志貴って知ってる?」

 

それは質問というよりも、むしろ確認という感じだった。祐一がその遠野志貴という人物を知っているはずだという根拠があってのものだろう。

 

「……どういう答えが欲しいんだ?」

 

「『知ってる」って言って欲しい!」

 

アルクェイドは満面の笑みでそう答える。やっぱり美人には笑顔が似合うなと祐一は今ポケットにデジタルカメラが入っていない事を悔やんだ。

 

「知ってるよ。遠野の長男だろ?」

 

「そうそう、うわ〜、じゃあやっぱり貴方が志貴がいつも言ってる相沢祐一ね?」

 

「お前の中の相沢祐一がどういう人物か知らんが、まあ多分俺が相沢祐一だろうな」

 

実際祐一は自分以外に『相沢祐一』と言う名前の人物を知らない。加えて、『遠野志貴』という人物も知っている。

この大陸の北に位置するこの国、カノンには、三大富豪といわれる家がある。

一つはここからすこし離れた場所の家。もう一つはこの街の『倉田』。もう一つは、シオンに殺された。

あとは東のワンや、南のエアーなどがある。

その中でも特異能力者と呼ばれる者たちが多数住み言っている国が、西のムーンという国がある。

そのムーンの三大富豪のひとつ、それが『遠野』である。

なんたって両親がSSランク持ちなもんだから、そういう家にも何度も呼ばれたことがある。

もともと転勤が多かった家で、ムーンに1年ほど滞在した時期もあった。

遠野志貴はその家の長男で、その妹に遠野秋葉という人物がいる。

余談だが、祐一は秋葉がどうも苦手である。その代わり、その家のメイドさんである、翡翠という少女が、祐一は実に大好きである。からかうと顔を真っ赤にするあたり(それはもちろん、祐一の性格と容姿も関係しているのだろう。普通の男がやったのならばビンタの一発でも貰っておく所だ)。もう一人のメイドさんである琥珀という、翡翠の双子の少女。

この子は、あまり関わりたくない人物である。非常に苦手だ。秋葉以上に。いや、異常に。

 

「志貴がいっつも言ってる。『相沢祐一って言う奴がいるんだけど、俺こいつの事結構尊敬してんだぁ』って。よかったね」

 

本当に心から良かったと思ってるのか、アルクェイドはさっきからニコニコした顔を崩さない。祐一は、ふむ、とすこし喉を鳴らす。

 

「じゃああんたは志貴の、友人?」

 

「ううん、恋人」

 

志貴といつも会っているということなので、友人0かと思って訊いてみたら何か変な回答が帰ってきた。

 

「あ、愛人かも」

 

と、すこしも照れた感じがしないように言い放つアルクェイド。自分の言ったことに一辺の迷いも無いのか、はたまた本当にそうなのか(あの志貴が特定の彼女を持つとは思えないが)、アルクェイドはさっきと同じように笑顔だった。

 

「で、その西の三大富豪の一つである遠野の長男の恋人で、しかも吸血鬼という強い力をお持ちの貴女が、私に何か御用で? 俺としてはたまたまここに通りかかっただけだからこのまま帰ってもいいんだけど?」

 

少し冗談めかしてアルクェイドに言う。しかし、アルクェイドはむしろ楽しそうに、祐一の目をじっと見つめてきた。

 

「私ね、強い人探してるの」

 

「……で?」

 

なんか、嫌な予感がした。

 

「で、ちょっとある事しようって志貴と考えてるんだけど……」

 

その言葉で、その計画とやらに志貴が噛んできていると言う事は分かった。

 

「で! 是非貴方にその計画に参加してほしいの!」

 

「いやだ」

 

「即答!?」

 

アルクェイドは、『ビックリしました』という風に目を見開いていた。

 

「なんでよ、もうちょっと説明くらい聞いてくれてもいいじゃない!」

 

「さっき俺がなんで強い奴がいるか理由を聞いた時に『それはちょっといえないわね』とか言ってたのはだれだよ」

 

アルクェイドは、う、と言葉を詰まらせる。

 

「でも、今は教えてあげるから」

 

「教えられたら拒否権がなくなりそうで嫌だ」

 

なくなりそうではなく、恐らく高い確率で拒否権など無くなるだろう。拒否すればその時点で血を吸われそうだ。

 

「そもそもな、お前は俺の実力を知らないし、お前も俺の実力を知らない。俺は弱い奴のお守なんて事は嫌だし、お前が俺よりずっと強かったら、俺なんていらないだろ?」

 

「…………ふぅん……まあ、そうね」

 

その台詞の中には、諦めという感情よりも、むしろ『なるほど、その手があったか』という感情が含まれていただろう。

ニヤリ、とアルクェイドが笑って、ゾクリ、と祐一の背筋に寒気が走った。

ああ、今の説得は愚かだった。何が愚かだって、アルクェイドの性格をもっとよく考えて物を言うべきだった。

アルクェイドの性格ならば、

 

「じゃあ、今闘おうよ!」

 

と言い出す事は容易に想像できたはずなのに。

 

「嫌だ」

 

「拒否権無し」

 

「何故に?」

 

「愛故に」

 

祐一ははぁと肩を落とすが、アルクェイドはそこそこ楽しかったのかニコニコと笑顔が崩れない。

こいつの精神年齢は、小学生の3年生くらいか。顔は美人なんだけどな……。

 

「俺はさっき元S+と戦ってきたんだ。だからかなりきつい状態で、今日は戦えない」

 

祐一はキッパリとアルクェイドに言った。アルクェイドに言って、言った瞬間に、後悔した。

 

「え! S+!? じゃあ貴方ってそれくらい強いってこと!?」

 

うそぉ! と言う風に祐一に近付いてくるアルクェイド。そうだ。S+と戦って無事だと言う事は、S+くらい強いと言う事だ。

吸血鬼は本来SSランクでも勝てるかどうかわからないほどの魔族だ。龍族ならばSSランクを確実に殺せるほどの実力を持っている。それよりかは少し劣るが、吸血鬼もかなり強い魔族。祐一でも倒せるかどうかは分からない。

しかも今は秋子さんとの戦いで体力が衰えている。アルクェイドの実力は知らないが、今戦って無事で済むという保証は無い。

 

「それくらい強いけど、お前とは戦わない」

 

事実を否定はしないが、アルクェイドの提案は拒否した。

なんでよ〜と唇を尖らせながら祐一に問い詰めてくると思いきや、アルクェイドは両腕を得意げに組み、ふふんと鼻を鳴らした。

 

「貴方が闘おうが逃げようが、私は貴方と戦うわ。まああなたが戦わないなら貴方を「襲う」って事になるでしょうけどね」

 

アルクェイドの眼が、少しだけ変わる、先程前の幼い感じが消え、どこかやはり吸血鬼という存在を強調するかのような気配が漂う。

 

「ま、待った! なんでそうなるんだよ!」

 

「そんなの知らないわ。貴方、なにか勘違いしてるんじゃないの?」

 

アルクェイドは少し嫌悪感を現した顔で言う。

 

「私は吸血鬼よ? 本来人間の敵なの。その人間の敵が人間を襲おうがなんの問題も無いじゃない」

 

祐一はそれで、下唇をすこし噛む。そうだ。忘れていた。ちょっと(っていうかかなり)美人で、ちょっと(っていうかかなり)友好的なだけで、祐一はアルクェイドを無害と決め付けていたようだ。

 

「……違う意味でならいくらでも襲ってくれてもいいけど?」

 

半場諦めたように。祐一はすこしニヤリと笑う。アルクェイドも冗談の通じる相手だったようだ。やっと分かったのねという風に、ふふ、と小さく笑って、右手を強く握る。

 

「遠慮しておくわ!」

 

アルクェイドが消えた。

 

「――――!」

 

バシィ、と平手打ちをしたような音が響く。アルクェイドの拳は、祐一の左手によって防がれていた。

 

祐一の体が数メートル後ろへ吹き飛ばされる。ダメージはないが、しかし受け止めたというのにこの威力は異常だ。

 

「まだまだ、えい!」

 

今度はアルクェイドの左腕が飛ぶ。祐一はとっさに体を右へ移す。祐一の背後にあったコンクリートの壁にアルクェイドの左手が当たる。

ロケットランチャーでも撃ったような音が鳴って、コンクリートの壁が文字通り粉砕される。ロケットランチャーのような音ならば、その威力もロケットランチャー並だった。

なにが『えい!』だ。いくら美人で傍目はきゃしゃな体つきで、『えい!』とという可愛らしい声を発していたとしても、その威力は筋肉ムキムキの武道の達人が『どりゃあああ』とか言って成せる威力だ。

 

「くそ、本気でやる気かよ」

 

祐一は毒つきながら、地面に倒れている三人の男達に眼をやる。

何故アルクェイドが強い奴を必要としているかは分からない。それを知るために今までどれだけの男達をああいう風に地面に伏させてきたかも分からない。だが、あいつらは被害者だ。ある意味。

祐一から言わせれば随分血の気の多い奴だというところだが、今この場所で闘えばあの三人に被害が行く。

場所を変えるべきだ。しかしどこへ?

今日この街にやってきた祐一にとって、吸血鬼と戦えるほど広い場所など、分からない。

考えているうちにもアルクェイドは迫ってくる。くそ、何の為に鉄の剣を用意してきたんだ。こういう時の為のものではなかったのか! アルクェイドが無害と分かったらその鉄の剣を調子に乗って薔薇の花びらに変える? ナンセンスだ。

祐一は今日ほど自分の女癖を悔やんだ事は無かった。

アルクェイドが無害? お笑いだ。こいつは100%天然の有害生物だ!

 

「くっ!」

 

アルクェイドの右手が祐一の腹目掛けて飛んでくる。祐一はそれをガードする。ガードするのだが、反動で後ろへ吹き飛ばされる。

 

「なんつ〜威力だおい」

 

こんな物を何発も受けてたら死んでしまう。くそ、なんで1日で二回も死ぬような思いをしなければならないんだよ。

考えて、はっとなる。二回? 二回のうち一回は今の現状だと言う事は分かる。もう一度は?

秋子さん? ちがう。秋子さんはそんな「死ぬ」というほど苦戦はしなかった(ちょっときつかったけど)。

いつだっけ?

…………ああ、そうだ。祐一が初登場した時だ。

雪のベンチで2時間待たされて、リアに炎属性の魔法をかけていたり(下級までしか祐一は出来ない)。

そう、あの時は死に掛けた。そう、雪のベンチにいる時は。

雪のベンチ。そう、雪のベンチ。それがある場所は――

 

(そうだ、そこがあった!)

 

バッと祐一は飛び上がる。近くの家の屋根に飛び移り、辺りを見回す。あった。ここから結構近い場所に、駅が見える。その駅のすぐ近く。祐一と名雪が待ち合わせをした、公園があった。

屋根を蹴って、その公園へ向かって跳んでいく。アルクェイドは祐一の後を追う。

 

「逃げる気!?」

 

アルクェイドは叫びながら一瞬で祐一の後ろまで詰める。そのまま右手を突き出す。

ちっ、と祐一は舌打ちしてそれをかわす。かわしても尚、違う屋根を伝いながら公園へ向かう。

近くの屋根を剣に変えてやろうかと思ったが、それは無意味だ。木で作られた剣など、アルクェイドの拳で木っ端微塵にされるのは目に見えている。

いや、そもそもそんな隙をアルクェイドが作るわけがない。

 

「いや〜、なんかまずい展開だな……」

 

今まで女の子に追いかけられたことはあったが、こんな美人に追いかけられたことはないな(それに加えて、そんな美人に殺されそうになっているのも、初めてだ)。

祐一は苦笑いを含めて笑う。笑ってる間も拳が飛んでくるのは仕方ないだろう。

祐一は、とことん女運が無い男だったと言う事だろう。

 

この街の夜は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

後書き

 

なんでこんな展開になったんだろう……。

はじめはアルクェイドをたぶらかして祐一とアルクェイドが組むという設定だったんですが、いつの間にかアルクェイドと祐一が戦ってるし。

鉄の薔薇の花束。こんなもんいらんわ!

志貴が出てきた。まあ仕方ないでしょう。私としては月姫キャラも全て祐一スキーにしたかったのですが、そこまでしたらちょっとね。

え〜、アルクェイドの『空想具現化』はありません。あんなもん反則だから使えません。爪はあるけど。

アルクェイドの強さはどうしよう……。祐一より強いか弱いか。そのくらいの強さにしておきましょう。

私は、照れてる時の翡翠が大好きです。kanonで言うと、天野が照れてるみたいな感じで。

メイドさんという条件もいいですね。私はメイドさん大好きですし(私情)。

シエル先輩とアルクェイドのいがみ合いは必ずあります(笑)。シエル先輩も大好きです。

ようするに、私は月姫が大好きです。

 

では、これからも応援よろしくおねがいします!



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