「ちゃんと説明してよ〜」
 

水瀬家のリビングに間延びした声が響き渡る。
本人は切羽詰っているようだが、その口調にはその感情が全く表れていない。
その女性、水瀬名雪は、秋子さんを担いでいるリアに問い詰める。
 

「何度も言ってるでしょ。祐一といろいろあったのよ」
 

「いろいろってなんだよ〜」
 

「あとで秋子さんに聞きなさいよ。私ちょっと寝るから」
 

「う〜ちゃんと説明してよ〜」
 

「うっさいわね! こっちは誰かさんのせいで二時間も雪のベンチに座らされてて、しかもそのあとすぐに訓練所に連れて行かされていろいろあって、疲れてんのよ!」
 

名雪は遅刻の件を引っ張り出されて、う、と言葉に詰まるが、しかしすぐに、「でも!」と言い返した。
 

「お母さんが寝てるよ!」
 

名雪はリアが背負っている秋子さんの姿を見て言った。
 

「気絶してるだけよ」
 

「もっとだめだよ〜!」
 

そこで名雪はハッと右手を口元へ持って行く。
 

「祐一が何かしたの?」
 

「まあ何かしたって言えばしたわね」
 

何かしたと言わなくても何かした。秋子さんに下級魔法連発してぶつけたり雷で感電死させようとしたり。まあいろいろ。
 

「う〜……酷いよ祐一……」
 

「そんな事知らないわよ。もう、私寝るから、変なことしないでよ」
 

しないよ〜と名雪は拗ねながらぷいっとそっぽを向く。ふん、とリアは鼻を鳴らすと、秋子さんを肩から下ろしてまだすこし冷たい地面に置き去りにして、そのまま廊下の階段を駆け上がった。
確かにもうリアと祐一の部屋は用意されているが、しかしリアは戸惑わないのだろうか?
自分の私物がなぜか突然手紙を出して居候させてもらう事になった家に全て届いている事を。
秋子さんだから。それで暗黙の了解に出来るかどうかは分からないが、まあ今はそれでOKだろう。
 

「う〜、リアちゃん、なにもお母さんを床においてかなくても……」
 

名雪は、床に置き去りにされている母の姿を見ながらぼやいた。
せめて毛布でもと秋子さんをよいしょと担ぐ。
秋子さんの肩を担ぐ。それですこしぐらりと秋子さんの首が名雪の顔の眼前に崩れる。
 

「…………」
 

顔は特に問題は無い。所々地面にすったのか擦り傷などがあるが、これといって怪我は無い。服はかなり乱れているが、やはりこれといって外面で確認できる傷は無い。
秋子さんの実力は名雪も知っている。秋子さんは世界的に有名な人物だ。その秋子さんにここまで傷を負わせた人物は、リアの話が確かならば祐一だ。
 

「……祐一が……?」
 

そこまでの力があるのだろうか? 相沢祐一という人物に?
名雪が知る祐一とは、からかうのが大好きで、からかわれるのが大嫌いで、その時の気分で次の行動を決めて、大抵の人物に冷たく、しかし本当は優しい少年で、私がずっとその姿を見てきて……。
つまり名雪にとって祐一はそういう人物である。
 

「ま、いっか。夕飯の時聞こうっと」
 

そう、祐一とはいつでも会えるのだ。これからはずっと祐一と一つ屋根の下。私がまさに夢にまで見た理想の姿。
そう考えるとまた眠くなった。ああ、毛布出さなきゃ。毛布……
 

名雪は、秋子さんに重なるように眠りに付いた。久しぶりの、親子の就寝だった。
 

 
 
 
 

祐一が秋子さんの訓練所を全て直し終わり、ついでに休憩を終えて上へ上がってきたのは、もう夜になってからだった。
名雪と秋子さんがなにもかぶらずに床で重なるように眠っていた。どうせリアが床に置き去りにしたんだろうが、とにかくこのままではいけないので上へ上がって何か毛布でももって来ようとする。
2階へ上がると部屋が5つあった。どれかが秋子さんの部屋で、どれかが名雪の部屋で、どれかがリアの部屋で、どれかが俺の部屋で、どれかが物置。
物置はすぐに分かった。手入れが全く行き届いていないドア。一番端の部屋だった。とりあえずそこを避けて、違うドアを見る。
次に分かったのが名雪の部屋。「なゆきのへや」と可愛らしい字で書かれたプレートがぶら下げられていた。
名雪の部屋に入ろうとして、やめた。いくら毛布をとりに来るためと言っても、女子高生の部屋に無断ではいるのはあまりにもマナー違反だ。この家にいる人物でそういう事に気を遣うのは俺だけだろうが。
次に、リアの部屋もすぐに分かった。半開きになった部屋。そこからスヤスヤとした寝息が聞こえてきた。
リアの部屋にはすぐに入った。こいつに気を遣うようなことはしない。今更というのも有るし、まあ言ってみればどうでもいいし。
部屋に入ると、そこは今日荷物が届いたばかりとは思えない部屋だった。
もともと祐一とリアは仕事の度に違う街に移動し、その街でホテルを買い取り、そこに荷物を溜める。
祐一列記としたSSランクハンターだ。もちろんそういうところから仕事を請け負う。ハンターズギルドというのだが、SSランクの仕事を請け負っているのだから、ホテルの荷物を違うホテルに移動させる事ぐらい造作も無い。
今回のように一般の家に移動させる事は初めてだが、だがその辺はやはりS+ランクの秋子さんだ。ギルドの方から色々やってくれたのだろう。前住んでいたホテルの荷物がすべて届いている。
ベッドが用意され、その上でリアがすやすやと眠っている。
地面に置き去りにして何やってんの、こいつ。
祐一はとりあえずリアが寝てる事を確かめて、そのまま部屋を出た。いくらなんでもリアの毛布を貰う訳にはいかないし。
のこるは2つ。
別に外れたからってどうというは無いけど。
そう思いながらとりあえず物置とは反対に一番端の部屋を開ける。
まだ一度も使われていないベッド。一般人にはよく分からないであろう難しそうな本。まるでサラリーマンが使うようなデスク。
間違いなく、ここが俺の部屋なのだろう。
 

「よくこんなにはやくそろえられたな……」
 

相変わらずギルドの仕事の速さは一級品だ。
とりあえず俺のベッドの毛布を持って行こうとベッドに近付くが、その前にデスクに目がいった。
最期に見たときは書類やらで散乱していたはずのデスクは、新品のようにピカピカになっている。もしかしたらギルドが新しいのを買ってくれたのかも、と冗談めかしていると、デスクの上に紙が一枚置いていた。
 

「1……2……3…………10枚」
 

十枚束になって置いてあった。秋子さんが書いてるとは思えないし(そもそも秋子さんが人の部屋にズカズカと勝手に上がるなんてことをするはずが無い)、名雪がこんな事をするとは思えない。
リアは論外。消去法でギルド辺りになる。
 

「俺携帯持ってんだけど……」
 

電話を掛けなさい。あるもの使わなきゃそんでしょう、ギルドさん。
手にとってざっと目を通す。なるほど、携帯に掛けて来ないわけだ。
その紙は10枚とも同じ事が書かれていた。
第一第二第三第四第五。10枚の紙にはすべてこれだけしか書かれていなかったが、祐一にとっては充分すぎた。
祐一はとりあえずなにか書くものを探して、その紙にスラスラと文字を書き、その紙を一枚ちぎった。
 

第一 ○
 

水瀬家潜入成功。
水瀬秋子と戦闘になるが、これは本件とは関係なし。
水瀬家の人間がこちらを疑っている様子は見られない。
後々水瀬秋子に魔物の事を聞いておくが、水瀬家に来るまでに魔物の気配は感じられなかった。
今日から夜の調査を開始する。水瀬の人間に感づかれる可能性は極めて高いが、さほど問題にはならないだろう。
以上、報告終了。
以降、本件続行し、経過を定期的に報告するものとする。
 

追伸 浩平、こっちはそっちより随分寒いぞ。今度カニ送るよ。あんまり長森を困らせるなよ。以上。
 

 
 
 
 

「ちょっと冷えるな」
 

秋子さんと名雪に毛布をかけた後すぐ、祐一はコートを羽織って外に出た。
祐一が思っていたよりもずっと夜になっていたらしく、加えてこの国の夜は速い。祐一が見渡す限り、ネオンや家の光意外で、今寄るの街を照らす物は無い。よって、今祐一が歩いている道路は、あまりにも暗すぎた。
そもそも今祐一が歩いている道は確かに道路だが、この街に車などというものはない。あっても雪で走ることなど出来ないのだから、好き好んで車を使おうなどという者はいない。
現在も道路には雪がギッシリと敷き詰められているが、その雪さえも今は直視する事が出来ない。
こんな場所で魔物が本当にいるのかどうか。魔物が出なければ祐一の仕事はそもそも達成できない。
魔物一匹ぐらい祐一の相手ではないが、逆に一匹だけならば見つけるのが非常に難しい。
見つける方法は、こうやって地道に街を歩くしかないのだ。
どこを歩くかも問題だ。この街の住宅街と言う物は、所々道路があり、ところどころ家があるのでまるで迷路のように道路が入り組んでいる。
なかにはちょっとした広場のようなところもあるし、路地裏からやりようにとってはビルの屋上まで上がることが出来るような場所もある。
魔物が人目の多いところに出るとは思えない。魔物よりも何ランクも上のレベルの魔族と呼ばれる種族ならばもっと派手に動くこともできるのだろうが、魔物はそれほど強くは無い。名雪でも恐らく一匹ぐらい倒す事が出来るだろう(別に名雪の実力を知っている訳ではないが、まあ所詮そんなもんだろう)。
それからしばらく歩く。別に今日どうにかしなければいけないとかそういうわけではないが、祐一の魔物に対する敏感さならば、今日水瀬家にくる前に既に魔物の気配を察知しているはずだ。
が、そんな気配はしなかった。だというのに、今祐一はよく分からない魔物に似た気配を感じ取っている。
微力だ。本当にかすかな気配。だが、微かなほど確実というものだ。ビンビンに感じ取るような気配など、それこそ本物の雑魚か、罠だと考えるのが妥当だろう。
雑魚退治に呼ばれるほど落ちぶれちゃあいない。よって祐一は、上級な魔物が気配を消しているものだという結論をはじき出した。
しかしこれが厄介な事に移動してるのか、なかなかその場所に辿り着く事が出来ない。
 

「こりゃ魔族かもな……」
 

だとすれば厄介だ。
ランクで分けるならば、下級中級上級の魔物がいて、上級の魔物の一つ上に魔族が下級中級上級とくる。
祐一ならば中級の魔族を2匹くらい一緒に相手しても充分余裕を持って倒す事が出来るだろうが、上級となれば話は別だ。
7:3で勝つ。二匹同時でも4:6ぐらいで勝てるだろう。問題は、上級の魔族の種族だ。
大抵上級になるほどの魔族は、強力な種族で分けられる。
ドラゴンなどの最強種、龍族。強力な力は持っているがあまり人前に出てこない吸血種。
龍族と互角に渡り合えるほどの力を持つ、神族。
あとは特別な儀式などで作り出されるガーディアン。これは同種と区別される。
同種は別に魔族というわけでは無い。敵になり、仮に魔族に乗っ取られたりした場合に同種と言われるようになる。
そもそもガーディアンとは練成技術により作り出された魂のある『人形である』これを人間と呼ぶかは別にして、それを魔族と種族分けするのは、あながち間違いではないだろう。
 

「……胸くそ悪い」
 

苦虫をかみ殺したような顔で祐一が言葉を吐き出す。
はぁ、と息を吐いて、一旦足を止める。それでだろうか。先程まで聞こえてきた、祐一が足を踏みしめるザクザクと言う音や、寒さで少し上がった呼吸の音が止む。
だから、『それ』が聞こえたのだろう。
 

――……ァァ……アァァ……!
 

カッと道路の壁が光る。壁の一部が見る見る姿を変え、大振りな鉄の刀になる。祐一の『変化』の能力である。
 

「そっちか!」
 

祐一は、『それ』の聞こえた方に、勢いよく走り出した。
 

 
 
 
 

結構な勢いではしってきただろう。あっという間にその場所に辿り着いた。
地面に倒れこむ3人の男。
辺りにすこし飛び散った血。
くぐもった呻き声を上げる男達。
それらが充満している雪の積もっている道路で、彼女はいた。
肩まである金色の髪。血よりも紅い瞳。雪のように白い肌。
その拳は少し血で汚れている。地面に倒れている男達のものだろうが、男達はまだ全員生きているようだった。
その妖精のように美しい女性は、はぁ、と肩を落とした。
 

「もう、全然駄目。なにが「俺結構強いよ」よ。雑魚ばっかり」
 

心底落胆しているという表情をしているその女性と、祐一の視線が合った。
女性は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに小さく笑みを浮かべた。
 

「世界一のガーデンがあるっていうから期待してたのに、この辺の男ってすっごく弱いわよね? ね、そう思わない?」
 

「……ああ、確かにこの辺の連中はちょっと弱いな」
 

祐一も同意する。確かにこの辺の連中はすこし弱い気がする。世界一のガーデンという肩書きの学校に通っているだけで安心感があるのだろうか。どちらにしても、今リアがガーデンに入ればトップになれる。
そういう場所だ、ここは。
 

「……『それ』はあんたが?」
 

祐一は顎で地面に倒れている男達を刺す。女性は「ええ」と頷いた。
 

「ちょっと強い奴が必要になってね。何日か前から夜な夜な探してるんだけど、これが全然強いのいないのよ。困っちゃって」
 

女性は、本当に困ってますと言う風に、腰に手を当てた。
 

「…………」
 

「ん? ああ、大丈夫。ちゃんと殺してないから」
 

殺してないからえらいでしょ? という風に女性はえへへと笑った。こうして笑うとやはり美人だ。俺は美人には優しいです。
 

「なんで強い奴が必要なんだ?」
 

「それはちょっと言えないわね」
 

ごめんね〜と両手を合わせて笑う。本当にころころと表情が変わる人だと祐一は女性を見た。
 

「でさ」
 

祐一は、すこし目を細めた。
女性は「なに?」と興味心身に見を乗り出して聞いてくる。
 

「さっきからずっと気になっててさ。俺がここに来たのもそれなんだよ」
 

「うんうん、で、なに?」
 

はやくはやくと急かすように祐一に少しずつ近付く。そこには敵意も何も無い、無邪気な女性がいる。
 

「おまえさ」
 

「うんうん」
 

「人間じゃないだろ?」
 

「うんう……」
 

ピタッと、女性の足が止まる。女性の目が、すこしだけきつくなる。
 

「……へぇ……分かるんだ……」
 

嬉しそうに、女性がニヤリと笑う。紅味のある唇から除く歯が見えた。
非常に歯並びがいい。雪よりもいくらか白い美しい歯。その端のほうに、すこし尖った歯があった。
ああ……と祐一が半ば諦めたような感じですこし肩を落とす。やはりこいつがあの気配の持ち主だったか。
ここで気配がするのにそれらしき人物がいないから不審に思っていたが……。
しかし薄い気配だ。よく気付いたな俺。
 

「おまえ……」
 

「ん、なに?」
 

女性は、いまだ二ヤリと笑いながら、祐一の次の言葉を待つ。
分かった。こいつ――。
 

「吸血鬼だろ」
 

先程まであった美しい顔は無くなり(だがまあ美しいことにはかわりはないが)、そこにあるのは、人間とは異質の、魔族のものだった。
 

 
 
 
 

後書き
 

最近月姫を始めました。
最近と言っても、2週間ほど前。
ほとんど徹夜に近い状態でやり続けて、ようやくCGコンプリートしました。
いやもう、なんていうか感動です。アルクェイドが感動です。アルクェイドのトゥルーエンディング最高です。泣いちゃいました。
次はシエル先輩。萌えーーーーー!!!
こうなったら祐一×月姫のハーレムを完成させてやる!
 

…………ってリア(オリキャラ)出しちゃってるーーーーー!!!
 

_| ̄|○ どうしよ……
 

……まあ、リアはスクラップでヒロイン(予定(未定(多分)))なので、月姫はとりあえず出すけど、ヒロインはむりかなぁ……
今一番悩んで入る事は、スクラップに『遠野志貴』を出すか否か……。
祐一×月姫ハーレムならば志貴は除かなければ……。
しかし月姫終わって感動してる後に祐一と組ませるのは……。
クオォォォォォ!!!
アルクェイド萌えーーーーーー!!!(関係なし)
 

とにかく、これからも応援よろしくお願いします!




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