雨の音が聞こえる。雨に叩かれる葉の音が聞こえる。
風の音が聞こえる。風に吹かれる葉の音が聞こえる。
ここは、森だろうか?
私は、知らない間に森に入っていたらしい。
あれからどれくらい経っただろう。
まだ信じられない。私は自分の肩に掛かっている、水が少しだけ入ったバックを見ながらそう思った。
何故私は捨てられたのか?
 

 
 

始めのうちはとても優しかった両親。たくさんの事を教えてもらった。
色々な戦闘技術。魔法の特訓。この世界の決まりなど、様々なことを。
出来たり出来なかったり。そこそこな成績は残したが、所詮私などそこまでだった。
両親はそれでも、すこし複雑な顔をしながら笑ってくれた。
お世辞にも大きく、綺麗な家だとはいえなかったし、そんなに裕福な家庭でもなかった。
父親は、すこし人体や魔法の研究をしている程度。母親も、家で家庭の仕事をしているだけ。
そんな家に生まれて、それでも、私は幸せだった。
だけど私が失敗を繰り返していると、どんどんと両親の顔が険しくなり、教え方も荒くなっていった。
そしてある日、私が簡単な練習を失敗した時、私にはよく分からない言葉を残して、私を家の外へ放り出した。
訳が分からないまま、そのまましばらく家の前で座っていた。すこし気にはなっていた。確かに怒られたのはこれが初めてではない。
練習で失敗した時は怒られた。だが、こんなにも激しく怒られた事は無かった。
今日は機嫌が悪かったのだろう。そう自分に言い聞かせることで、なんとか自分を保っていた。
しばらくして、ドアから父親が出てきた。
やっぱり、自分を家に入れてくれるのだ。許してくれるのだ。そういう気持ちで、一杯になった。だが、現実は厳しかった。
父親は私を持ち上げると、そのまま前へ投げ飛ばした。
コンクリートの地面にそのまま倒れこみ、非常に痛かったが、そんな事はどうでも良かった。
私はすぐに父親の方を向いた。父親は物凄い形相で、私を睨みつけていた。
もう二度と顔を見せるなと大声で叫んだ後、家の中に入っていった。
それでついに、いや、ようやく自分が捨てられたのだと分かった。捨てられたと分かってからは、自分でも驚くほど、すぐに行動に移った。
泣きじゃくるわけでもなく、家のドアを叩くのでもなく、ただ、その家からはなれた。
ゴミ捨て場に落ちていた所々擦り切れたバックを拾い上げ、公園に落ちていたペットボトルを二本拾うと、
公園の水でそれを綺麗に洗い、そしてその公園の水をペットボトルに入れて、ふたをしてバックにいれる。
そこからはよく覚えていない。歩いているという感覚はあったが、それでも、何処へ歩いているのかは分からない。
しばらくそれが続いた。そして不意に、葉っぱを踏む足の感覚で、急に目が覚めたような気分になった。
見上げた。森の中だった。後ろを振り向いても出口が見当たらないことから、随分前から森に入っていたらしい。
見上げて、それで雨が降っていると言う事が分かった。
酷く大降りだなと思った。私は今、びしょ濡れになっていただろう。体だけではなく、心にも、雨が降っていた。
私は、すこし前の事を思い出していた。
一番最初の思い出はなんだろう。自分が生まれたときの事など覚えているはずもない。
が、記憶の一番最初へ辿り着いて、すこし眉を寄せた。一番最初の記憶。
6歳の頃、親に下級魔法を習得したことを伝えて、頭を撫でられたときが、一番最初だった。
いくらなんでも遅すぎはしないだろうか?
その次は、一つの技を習得したときに親に褒めてもらった時。
次は、技と魔法を組み合わせた攻撃の時。
それで、また頭に疑問が浮かぶ。浮かんで、同時に確信へ辿り着いた。
そういえば、私が親に教えてもらったのって、戦闘でのことばかりだったなぁ……。
私の親が何を望んで私を育てたのかは分からない。今となってはそれを知ることすら出来ない。
私、これからどうなるんだろう。
そういう考えが頭に浮かぶ。
いっそ死んでしまおうかと考える。雨に叩かれ、すっかり濡れきった床に腰を下ろす。
死んだらどうなるんだろうか?
捨てられた一日目でこういうのを考えるのはどうかと一瞬思ったが、しかし私にとってあの家が私の家で、あの両親が私のすべてだった。
何をすればいいのかが分からない。確かに私は両親からある程度の知識を教わった。しかしそれは所詮紙の上での知識だ。
実際にそれを出来るかどうかと聞かれたら、やはり出来たり出来なかったり。
――おい、死にたいのか? 頭の中で声がする。
 

「……うん……死んでもいいかも」
 

頭の中の声が一瞬止む。そしてすぐにまた声が響く。
――そんなに簡単に死ぬもんじゃないと思うぞ?
 

「でも……死にたい。私はもう、生きる支えが無いから……」
 

また一瞬声が止む。そして疑問と違和感が頭を過ぎる。何かがおかしい。なにかが。
そう、今自分の頭の中には、男喋りの口調で声が響いている。私は女なのに?
そして、声はよく聞くと後ろから聞こえてきている。では後頭部か? しかし後頭部から声が聞こえてくるのか?
すぐに後ろを振り向いた。相変わらず雨が降っており、森の木を風が揺らす。その時、カッと雷が鳴る。それで、周りが一瞬光を持った。
さっき見た風景と違う物があった。こちらを中腰で見下げている、一人の少年の姿だった。
 

「じゃあ、死ぬか?」
 


それが、私ことリア・ルノフォードと、相沢祐一の出会いだった。
 

 
 
 
 
 
 

「今まで何をしていたか……ですか?」
 

秋子さんの問いの答えを探す祐一。リアはその横ですこし目を細めて秋子さんを見ていた。
この水瀬秋子という人物が何を知っているのかは分からない。だから何処まで喋っていいものか分かりかねてしまう。
それに、この水瀬秋子という人物がなにを知ろうとしているのかも、はっきりとはわかっていない。
真実を、身内だからとペラペラ言いふらすほど、祐一は人を信用してはいない。
 

「ええ、私の姉さんの所を家出していると……6年ほど前から聞いていましたから」
 

秋子さんは、すこしふふ、と笑った。
 

「今でこそこうやって普通に接しているようですけど、祐一さんから手紙をもらった時は、
それこそ心臓が飛び出るんじゃないかって言うくらい驚いたんですよ?
さっき、祐一さんと初めてあったときも、ああ、やっぱり来たんだって言う風に思って、上手く話しかけられそうに無かったんです。
あ、でも別に来られたのが嫌とか、そういう意味じゃなくて。ただ……」
 

そこで秋子さんは一度、言葉を区切った。
 

「なぜ、姉さんの所には音沙汰なしで、私には何の前触れも無く手紙なんかを……?」
 

秋子さんの瞳には、疑問というよりは、不満の感情の方が多く入っていた。
なぜ姉にはなにも連絡をよこさないのかという、そう言う事だ。
 

「いえ、ここに来たのはただの仕事で。その間のホテル代とかが高くつきそうなので、それで、そういう理由です」
 

祐一は、苦笑い風に笑うと、頭をすこしかいた。まだすこし積もっていた雪が地面に落ちた。
あながち、祐一の言っている事は嘘ではない。ここに来たのは本当にホテル代を浮かすためだし、この街に来たのは仕事のためだ。
だが、それでも秋子さんには不満が残った。
 

「……で、姉さんには黙っておいて欲しい……と手紙にありましたが?」
 

「ええ、折角家出したのにばれちゃあ仕方ないですからね」
 

秋子さんはそれで、訝しげに祐一を見た。やはり分からない。この男が何を考えているのか。
 

「仕事の内容は?」
 

「いえ、これは企業秘密ですから」
 

秋子さんの質問を軽く流す祐一。秋子さんは、さらに問いかけた。
 

「仕事のランクは?」
 

そこで初めて、今まで不敵に笑って話していた祐一の表情が一瞬固まる。
それで、今までずっと無表情に祐一と秋子さんの会話を聞いていたリアに、視線を移した。一瞬目が合って、すぐに視線を逸らした。
 

「――Aの−です」
 

祐一即答した。いや、即答できた。こればっかりは冷や汗ものだった。なんたって――
 

「よく言いますね、『絶対零度』さん」
 

祐一とリアの体が、ピクッと反応した。リアと祐一が一斉に秋子さんに視線を向ける。
 

「……最近はSSランクの機密制度が変わったんでしょうかね?」
 

祐一の口調は、どこか投げやり的なものだった。内心舌打ちをしていたが。
祐一のランクは、世界で最も高いランクのSSランク。祐一は15歳でSSランクを取った。
これは異例で、祐一はその世界じゃ最も知られる人物だと言っても過言ではないだろう。
SSランクは世界で20ほどしか確認されていない。だから、SSランクのことは国家機密並みに扱われてきた。
しかし、この水瀬秋子は祐一のことを知っていた。
 

「姉さんに教えてもらいました。祐一さんは、もしかしたら知ってるかもしれませんけど、ランクが上がると家族に連絡がいくんですよ。
祐一さんはあまりランクのことは関わりませんでしたから、知っているかどうか分かりませんか」
 

「なるほど。元S+なら色々手が回るし、お姉さんからも教えてもらえるって訳ですか」
 

その後祐一は、一度大きな溜息を吐いて、それで「まあ」と続けた。
 

「Aの−って言うのは嘘で、もうすこし高いランクの仕事なんですけど、でも仕事のためにこの街にきたっていうのは嘘じゃないですよ?」
 

「それは、はい、分かってます」
 

秋子さんはうんうんと頷いた。同時に、すこし真剣な表情になる。
 

「……祐一さん。最期に一つ聞いてもいいでしょうか?」
 

それは、聞くというよりかは、むしろ確かめるといった方がいいような言い方だった。
ここでダメなんて言ったらどうなるだろうかと一瞬考えるが、そこまで馬鹿ではない。
祐一はやはり例のように「はい」と言うしかなかった。
 

「祐一さんはなぜ、家出なんか……?」
 

「…………」
 

先程までの質問は前座と考えても問題はないだろう。
今までの質問は、この質問を繰り出すための余興でしかなく、この質問こそが秋子さんが最も聞きたかったことなのかもしれない。
祐一は、すこし押し黙る。祐一がリアの方を向くと、リアと目が合ってすぐに視線を外す。さてどうしたものか。
もし言うならリアの事も言わなければならなくなりそうだ。
祐一が家出したこととリアはまったく関係が無いのだが、しかし祐一とリアには共通点があった。
それはまあ、後々分かることではあるのだけれども。
 

「……ある男が、俺にあることを言った、それだけですね」
 

ようするに、ご自分でご想像くださいということだ。嘘は言っていないが、核心には全く触れない。
秋子さんはじっと黙ったまま祐一を見つめており、その祐一は、地面を見つめていた。
そのまましばらく沈黙が続き、すこし重い空気が部屋の中へ流れる。
そんななか、秋子さんは一つ息を吐くと、祐一に言った。
 

「……言いたくないのでしたら、無理に言う必要はありません。私は一応は無関係者ですから。
ただ、姉さんたちのことを考えてくださいね」
 

秋子さんはすこし悲しそうな顔をして言った。
それがどういう風な悲しみだったのかは祐一には分からなかったが、代わりに、「ただ……」と話を続けた。
 

「その男は、必ずこの国に来ます」
 

秋子さんと、そしてリアも、その言葉に目を見開く。秋子さんよりも、リアの方が先に動いた。
 

「ちょっと! え、本当に来るの? その……」
 

リアは、一瞬秋子さんの方を見て、すぐに祐一の方を見る。祐一が軽く頷いた。言ってもいいと言う事だろう。
リアは、まだすこし口ごもっていたが、だが、そのすぐ後にはっきりと言った。
 

「……シオンが」
 

「シオン?」
 

秋子さんが眉を寄せた。
 

「その方が祐一さんになにかを言ったんですか?」
 

「ええ、まあ」
 

「……その方はいつこの国に?」
 

「さあ……明日か……10年後か……ただ、一つ言える事はあいつは間違いなくここに来るということです」
 

祐一は、ふぅと息を吐く。リアは、面食らったような表情で祐一を見ていた。
 

「……なんで言ってくれなかったのよ」
 

不満タラタラにリアが聞く。それは疑問というより怒りというほうが適切な表現だっただろう。
リアは口をキツツキのようにとんがらせていた。
 

「お前には関係ないだろ」
 

「あるわよ!」
 

「ない」
 

「ある! 私だってガーディ――」
 

そこでリアは、はっと言葉を止めた。祐一が軽くリアを睨んでいたが、問題はそこじゃない。秋子さんに聞かれるところだった。
秋子さんは、やはりなかなかどうして耳ざといようで聞き耳を立てていたが、
リアが秋子さんの方を向くと、何事もなかったように微笑んで見せた。恐るべし。
 

「……とにかく、今度からは私にちゃんと連絡入れてよね」
 

祐一は、はいはいとかるく手を振ると、秋子さんに視線を戻した。
 

「で、もう話は終わりですか? なら上に戻りますけど……」
 

「あ、いえ、まだ話があるんです。後一つ」
 

秋子さんは、後ろを向こうとしていた祐一を呼び止めた。祐一はそのせいで周れ右を二回しなければならなくなった。ようするに一回転。
 

「祐一さんは、明日からガーデンに行ってもらいます」
 

「嫌です」
 

風のように速い返事だった。リアも、何を言ってるのこのオバ……おねえさんは、という風な感じだった。
なんか寒気を感じたのですこし思考を変えたが。
ガーデンとは、生徒が通う学校のことである。
大体の街に一校あるのだが、その中でもこの国のガーデンは飛び切りでかくて優秀だという事で有名である。
当然名雪もそこに通っており、秋子さんはそのガーデンのイベント係を勤めている。
さて、当然この祐一はそんなところに通う気などさらさらない。むしろ、ゴメン、俺ちょっと貧血だからとお断りしたい所だ。
いやまあ、貧血は関係ないけれど。
 

「だめです。これはこの国の子供の義務です」
 

「俺はこの国の子供じゃないです」
 

「この国に来た子供です」
 

「国籍は違う国です」
 

「今はここです」
 

「今だけです」
 

「だから今だけガーデンに通ってもらいます」
 

「そんなついでみたいなことは嫌です」
 

「祐一さんがこの国に来たのは仕事のためでしょう? そしてこの家に来たのは言ってみればついでです」
 

「屁理屈です」
 

「理屈です」
 

「でも」
 

「邪夢」
 

「分かりました」
 

なんか最期に「です」ばかりついた戦いだったが、最期は結局秋子さんがなんか嫌な脅しで祐一を落とした。
リアは、はぁと息を吐いた。
 

「私は嫌よ」
 

「どうして?」
 

秋子さんがリアに聞く。リアは愚問ねと言う風に髪をかきあげた。
 

「私が幼稚なガキとキャアキャアできると思う?」
 

「うわ、きっしょ」
 

祐一が言うと、グワッシャァ! という、なんか凄い音が聞こえたがまあいいでしょう。
 

「残念ですが、リアさんもガーデンに行ってもらいます」
 

リアは、うそ、マジで? 信じられない。頭おかしいんじゃないの? ありえねぇ〜、ってかウゼ〜。
なんで私がこんなオバさん――よりも一つも二つもランクの高い素敵なお姉さんの言う事聞かなきゃならないのよ。という顔をしていた。
SSではお見せすることが出来ないのが非常に残念です。
まあとにかく、そういう風なことを考えてました。途中で秋子さんがなんかすごくカッコイイナイフを構えていたので思考を変えたが。
 

「それにほら、祐一さんがガーデンに行ってる間リアさん一人ですよ?」
 

「ガーデンに必要な物とかは揃ってるの?」
 

「はやっ!」
 

祐一がハリセンで突っ込みを入れる。荷物はまあ、秋子さんが用意してくれるだろう。
 

「さて、二人とも晴れてガーデンに入ることも出来ましたし、ここで一つ試験をします」
 

祐一とリアは、試験? と秋子さんの方を見た。
秋子さんは相変わらずニコニコと笑っていた。
 

「どのガーデンにも試験はあります。高校の入試問題みたいなものです」
 

「…………もし不合格なら?」
 

「え、それはまあ失格……にはならなくて、入学するかどうかを私たちが決めます」
 

「そうですかありがとうございます」
 

さて、する事は決まった。メチャメチャ弱いやつを演じる。それにより失格。それによりガーデンに通わなくていい。
それによりハッピーデイズが来る。グッジョブ!
 

「でも、二つ名持ちの人がメチャメチャ弱かったら、やっぱりご飯抜きは仕方ないですね」
 

「よしリア、気合入れていくぞ!」
 

「……はぁ……」
 

二つ名持ちとご飯抜きにどういう関係があるのか、
そして仮にも居候先の人が居候にご飯を出さないとはどう言う事なのかは祐一には分からなかったが、
ようするに全力で来いと言っているのだ、秋子さんは。ああ、気分が乗らない。もともとこんなのは俺の性に合わないんだよくそ。
心の中で祐一が愚痴っていると、秋子さんが祐一達に「ちょっと待っていてください」と一言言って、後ろを振り向いた。
何かしら準備があるのだろう。しかし、この締め切られた四角形の部屋の中、どこへ行くのか?
思っていると、秋子さんが部屋の一番奥の壁に、ポンと手を触れた。
すると、その壁がまた例の様にガラガラと姿を変え、一つの部屋のドアになった。
石で出来たそのドアは、明らかに先ほどとつくりが違う。そこまでからくりにしなくてもいいのではないだろうか?
 

「では、待っていてくださいね」
 

そういうと、秋子さんはそのドアへ入って行った。
取り残された二人は、唖然とその壁を見ていた。
 

「凄いね、秋子さん」
 

「ああ……それよりも…………いや……なんでもない」
 

祐一は、かすかに見た。秋子さんが壁に手を触れる前に、指でなにか空中に書いていたことを。そして、そのまま壁に手を触れたことを。
 

「……デロップ……?」
 

一つの仮説を立ててみた。が、すぐに消した。まあ、後々分かることだ。今はどうでもいい。所詮一人の女性。
それに相手は自分より実力がしたの母親よりも下のレベル。自分が負ける事はない。まあ、恐らくは。
 

「ねえ祐一」
 

さて、という風にリアが切り出した。先ほどまで秋子さんがいたから充分に話が出来なかったが、今はのびのびと話が出来る。
 

「シオンがいつ来るか、わからないの?」
 

「分かるよ」
 

祐一があっさりと言った。先ほどまで明日やら今年やら10年後やら色々と言っていたのに、なんだこの野郎。
リアは、やっぱりと祐一を問いただす。
 

「で、いつ来るの?」
 

「……近いうちに来るよ。一ヶ月もすれば来るんじゃないのか?」
 

「なんで分かるの?」
 

「……」
 

祐一はすこし言葉に詰まった。言うべきかどうか。だが、結局折れた。
 

「3日ぐらい前、ミアの王が殺された」
 

リアは一瞬固まった。それはそうだ。こんなニュース、普通では報道されないものだ。いやそれよりも、その内容だ。
ミアというのが、この国のすぐ近くの巨大国だということは知っているし、祐一がそれを指している事もすぐに分かった。
そして、その王が誰かに殺されたことも、何とか理解できた。しかし、ミアといえばとても大きな国だ。
そんな国の王を殺すことが出来、なおかつ理由がある者といえば、リアには一人しか浮かばなかった。
 

「それって、ようするにシオンが……」
 

「ああ、神器を狙ったんだ」
 

祐一は、小さな苦虫を噛み潰したような表情だった。
 

「ミアを落としたんだ。次はミアの近所国のここが狙われる。ここにも神器はあるからな」
 

「じゃ、じゃあなんでこんな所来たのよ。まさかあいつらを止めるわけでもないでしょ?
それとも、あいつらの『誘い』に乗るつもり?」
 

「いや、誘いには乗らない。それに、干渉するつもりもない。俺達がここに来たのは仕事のためだ。シオンなんて関係ない」
 

「で、でも……」
 

「あいつらが神器を使ってあの『計画』を進めたって、俺には関係ないだろ? もちろん、お前も。
これはどちらかといえば秋子さんとか、そういう人達の問題だ」
 

「……」
 

「俺達がどうこう出来ることじゃないし、俺だってあいつら一人一人と互角くらいなもんだ。お前じゃてんで話にならない強い連中だ。
俺じゃどうすることも出来ないだろ?」
 

祐一は、自分の子供に言い聞かせるように言う。リアも、言い聞かされた子供のように黙っていた。
祐一はそのまま地面に座り込む。はぁといきを吐くと、リアの方を見た。
 

「ちなみに、俺だってシオンに勝てるかわかんないぞ? 運がよければ勝てるくらいだ。俺とアイツは相性いいからな。
他の連中、SSランクでも、あいつは止められないだろう。俺だって、勝ってもただで済むか分からない。それでもいいのか?」
 

「それは……いや」
 

「だろ? だったら、お前は秋子さんとの戦いの事でも考えてろ。秋子さんは強いぞ」
 

祐一はチャカすように言う。チャカされているはずのリアは、全く浮かない表情だった。
リアは、秋子さんの入っているドアを見ている祐一を、しばらく見続けていた。
 

 
 
 
 

後書き
 

グッジョーーーーッブ!
という訳で、皆のアイドルハーモニカです。
……うそです。すみませんでした。
え〜、というわけでですね。次回はついに秋子さんと祐一の対決。ジャジャン。
かなりハイレベルな戦いを繰り広げたいなという、そう思っている次第です。
ただ一つ告知すると、秋子さんと祐一のデロップはかなり似てます。そして、今度の戦いは、かなり鋼の錬金術師風になります。
私的に、祐一最強主義なのですが、それじゃちょっとつまんないかなとシオンを入れてみました。
ただ、しばらくシオンの出番はないです(死)。
 

では、皆さん。これからも応援よろしくお願いします!



作者ハーモニカさんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル掲示板に下さると嬉しいです。