「……すみませんでした」
 

祐一がデロップで屋敷を修復した後祐一とものみと浜野は祐一の部屋に集った。
ものみの怪我は、ものみが呪符の結界を張っていたのでそれほど酷い怪我ではなかった。ものみも祐一に頭を上げてくださいと言うばかりで、全く気にはしていないようである。
 

「私こそすみませんでした、志貴さんとお話をするのかと思って待っていたのですが、二十分待っても出てこなかったので部屋を除いてみたら、祐一様が茫然とされていましたので、すこし驚かすぐらいのつもりでやったのですが」
 

ものみが珍しく少し暗い顔をして言う。時計を見ると、もう二時十分前まで時計は進んでいた。二十分待っていたというのも嘘ではないだろう。
だいたい、ものみでなくとも祐一があんな不意打ちに簡単に驚くような奴ではないことはすぐに分かる。しかもものみはいつも祐一を起こしに行っているのである。
祐一は朝起きた時に視界いっぱいにものみの顔があったとしても(ちなみにそのものみが明らかにキスをしようとしている顔であっても)驚かないほどの男なのだ。あれくらいで驚くとは思っていなかったのだ。
 

「まあとにかく、こういうことはこれで最後にしてください」
 

二人の間に浜野が割って入った。はい、と二人同時に頷く。
 

「それにしても浜野さん、凄いですよね。祐一様の攻撃を片手で受け止めるなんて」
 

ものみが珍しいものを見たように言う。そのことは祐一も気にはなっていた。浜野がどれほど出来るかは知らないが、祐一の攻撃を片手でラクラクと受け止めるなど、そうそうできるものではない。
 

「いえ、少し武術を嗜んでおりまして、大した事はないんですが」
 

「いえいえ、充分凄いですよぉ。ランクとかはお持ちで?」
 

「いえ、私はハンターではないので」
 

ものみと浜野が世間話をしだした。意外とものみはおばさんくさいところがあって、一度世間話を始めると誰も手が着けられなくなってしまうほどである。
この場にいてはものみに巻き込まれそうなので、失礼しますと一言言うと、祐一は部屋の外へ出る。
 

「お兄ちゃん」
 

外へ出ると同時に、すぐ右横から声を掛けられた。
自分のことを兄と呼ぶのは今現在二人しかいない。そしてこの呼び方をするのは、ただ一人だ。
 

「どうした、香奈」
 

祐一は振り返らずに香奈に言う。
まだ見てはいないが、恐らくとても心配そうな顔をしているに違いない。
 

「お兄ちゃん、大丈夫?」
 

祐一は一度小さく鼻で笑うと、香奈の方へ振り返った。
予想通り、この世の終わりが来るかもしれないとかの有名な大予言師に言われたかのような顔をしていた。
「なにがだ?」と言いながら壁にもたれかかる。壁越しに、ものみと浜野の喋り声が聞こえる。
 

「お兄ちゃん、とても辛そう。さっきまであんなに元気だったのに」
 

香奈が胸の前で両手を構える。
 

「死んだペットみたいに言わないでくれ。俺はなにも変わっちゃいない」
 

言った言葉とは裏腹に、吐き出した息はどことなく曇っていた。
ふるふると香奈の肩が震える。
 

「私、いつでもお兄ちゃんの味方だから」
 

香奈は、女子高生が一大決心の告白をするかのように言った。だが、その言葉に裏や嘘はひとつも感じられなかった。
ただ、香奈の形のいい瞳だけが、すこし潤んでいた。
 

「……」
 

そんなことを言われたって、俺にはどうしようもないだろう。そう言いそうになったが、なんとか心の中に押し留めた。
壁越しに聞こえるものみと浜野の喋り声は未だに続いていて、祐一の心の中を乱すようだった。
 

「……なあ、香奈」
 

祐一は、先程からすこしだけ疑問に思っていたことを、聞く事にした。
香奈が、ん? と祐一の方を向く。
 

「いや、別にたいした事じゃないんだが……」
 

祐一がポリポリと頭をかく。
 


「お前、ガーディアンって知ってるか?」
 


ピタ、と壁越しに聞こえていたものみと浜野の声が消えた。
 

「がーでぃあん? ううん、知らないけど。それがどうしたの?」
 

「いや、ちょっとさ。誰かが俺に、「お前はガーディアンだ」って言ったような気がして……」
 

まあ気にするな、と祐一が香奈に言う。
香奈が一度頷いたと同時に、祐一がもたれかかっていた壁のすぐ横のドアが勢いよく開けられる。
 

「祐一様!」
 

ものみが、珍しく慌てて出てくる。
 

「どうした?」
 

「あ、あの……」
 

ものみの視線が宙を泳ぐ。唇をキッと結ぶ。ものみが何かを隠しているのは明白だった。
 

「……い、いえ。何でもありません。それより、志貴さんが呼んでいたのではありませんか?」
 

「あ、そうか……」
 

そんな事はすっかり忘れていた。まあ十歳の少年が話す言葉などたかが知れてるし、別に祐一にとっては参加しなくてもいいことだ。
だが、そのものみの尋常じゃない焦りぶりから、一応「分かった」とは言っておいた。あえてものみに何を隠しているのかなどということは聞かない。言っても教えてくれはしないだろうし、無駄だと分かっていることをむざむざする必要はない。
じゃ、と一言言うと、祐一が今日始めてきたはずの屋敷をズカズカと歩いていく。その姿が見えなくなると、静寂がその場を支配した。
 

「……ものみ?」
 

香奈が、唇をキッと結び、下をうつむいたままのものみを呼ぶ。しかし返答はない。
ごく、とものみがつばを飲む音が聞こえ、ものみがいた部屋の中では、浜野が小さく笑っていた。
 

 
 
 
 
 
 

志貴と秋葉と一緒にとりあえず他愛のない話をしながら(言っては何だが、はっきり言って祐一にとってはくだらない話だった。その辺が祐一と同年齢の子供達との精神年齢の違いだろう)、遠野家一家と共に夕食を食べ、今は部屋のベッドでゴロゴロとしている訳である。現在時間は夜十時五分前。
祐一が部屋をいきなり破壊した事は遠野家の人間は誰一人として触れなかった。そこは、浜野やものみがいろいろとやってくれたのだろう。
一応完璧に修復したから誰も文句を付けることはしなかったが、それよりも祐一はあの浜野という男の事が気になって仕方が無かった。
まずは祐一のあの攻撃を片手で易々と受け止めた事。そしてもうひとつは、浜野が、部屋が壊されてから部屋にくるまでのスピードが異常に速かったこと。まるでそれを予期していたかのように素早く入ってきて攻撃を受け止めたのである。
あれは普通の人間が出来るような業ではなかったし、あの浜野という男がそれほど強いとは思えない。見かけというよりも、雰囲気がどこか違うのだ。
 

いや……というよりも、なにかこう、浜野からは普通の人間とはまた違った雰囲気がするのだ。
 

なにがどうであるとかは言えないが、なにか感じるものがあるのだ。まああんな男と何か感じあってもどうという事ではないが(もちろん女だったらいいというわけでもない)。
それは、そう、あの道路にいた少年を見たときに起こった症状をそのまま小さくしたようなものだ。むずむずと胸がざわめくが、別に気にすることの程でもないし、事実気にはしていない。
それがまた、なにか意図的に抑えられた気がしてよろしくないのだが。
まあとにかく浜野は強くて、祐一達の森の探索の時も大いに役立ってくれる事だろう。
 

それはそれでいい。別に祐一はあの浜野と長くいるつもりはないのだし、遠野家にもしばらく来ることは無いだろう。
ここにだって、仕事の依頼が無ければ来ることも無かったのだ。そうなるとあの道路の少年のことも言える。あの少年がなんであろうが、あの少年は結局この街にいるのだから、この街をすぐに出て行ってしまう俺にとっては全く関係の無いことなのだ。
そう、あの少年がなんであっても、俺には関係ない。
そう思いながら、ふと窓を見てみる。
 

「…………」
 

なにか変なものを見てしまった。
 

その少年が窓の外にへばりつきながら、笑顔でこちらに手を振っていた。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

後書き
 

どうも、最近同人でも始めようかとのたまっているハーモニカです。
 

最後わけわかんない終わり方ですね(汗
いやしかし、ようやく終わりました。戦闘がないと指が走らないですね〜。
しかも最近は勉強勉強で忙しかったので、パソコンやる暇がなかったです。
 

しかし、勉強の時代は終わりました(意味不明)! これからしばらくスクラップ書きます。
しかし最近マンガにもはまってるんですよね〜。いやぁ、どうしよう。
よし、同人書くか(←アホ)。
 

まあとにかく、これからも応援よろしくお願いします!



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