吸血鬼というのは、血を吸う者のことである。
その名の通りに血を吸う鬼。それが吸血鬼。
アルクェイド・ブリュンスタッドも、その中の一人だ。
しかも、アルクェイドはその中でも上級に位置する吸血鬼で、普通のギルドの人間が戦うならば、ひとたび肉の固まりにされてしまう事だろう。
そのアルクェイドと現在互角に闘えている祐一は、やはり流石というしかないだろう。
 

 
 

「はあっ!」
 

格闘家のような威勢のいい声をだして、アルクェイドの右手が振るわれる。
祐一は剣で弾くが、アルクェイドの右腕のパワーに負け、剣は吹き飛ばされる。
 

「ちっ」
 

祐一は舌打ちを一つすると、魔法陣を書いて地面から石の剣を作り出す。
これは、アルクェイドとの戦いが始まって何回行ったかわからない行為だ。
どれだけ作っても、アルクェイドの両手の『爪』で弾かれる。
先程までは拳で相手を『叩く』という攻撃だったが、今度は『引き裂く』。石の剣には効果はないが、人間に対しては比較にもならない。
しかも、アルクェイドの瞳が金色に変色してから、アルクェイドのスピードとパワーが格段に上がった。これはようするに、祐一の実力を評価して、自分も本気を出しましたと言う事だ。
 

「何度やっても無駄よ!」
 

今度は左の爪が飛ぶ。祐一は間一髪それをかわすと、そのまま懐にもぐりこむ。
 

「ヴァーパス!」
 

秋子さんの戦いでも大活躍した祐一の下級魔法が発動する。
この距離でヴァーパスを発動して避けられる訳は無い。普通なら。しかし、アルクェイドは普通じゃなかった。
フッとアルクェイドの姿が消える。ヴァーパスが空を砕き、先程までアルクェイドがいた地面に氷の欠片が飛び散る。
 

(――右だ)
 

本能がそう言っていた。祐一の戦闘経験の豊富さが、この一撃をとめる鍵となった。
剣の背を縦にして、丁度そこに飛んできたアルクェイドの蹴りを防ぐ。
が、やはりアルクェイドの蹴りは並外れていた。祐一の体が軽く2mいっぱい上空に飛び上がり、石の剣が粉々に粉砕される。
 

「くそ、女の蹴りじゃねえよ!」
 

祐一は吹き飛ばされながら、右手に力を溜める。祐一の右手に紅い光の球が出来る。
くらえとばかりに紅い球をアルクェイドに投げつける。
 

(ファイヤーボール……炎属性でもっとも弱い魔法ね……)
 

アルクェイドは、ふぅ、とすこし肩を落とした。
アルクェイドは左手でファイヤーボールを握る。バシュゥゥと音を立ててファイヤーボールは蒸発した。
消滅したファイヤーボールの煙を見ながら、アルクェイドは首を横に振った。
 

「あなたやる気あるの? これじゃあとんだ肩すかし――」
 

煙で一瞬前が見えなかったアルクェイドの視界いっぱいに、祐一の姿が見えた。
 

「――!」
 

ガードしようとするが到底間に合わない。アルクェイドの腹にそのまま祐一の蹴りが当たる。その蹴りは上空に蹴り上げられており、アルクェイドの体も上空に浮き上がる。
 

「上空なら逃げ場は無いだろ」
 

祐一は、両手に紅い球を作り出す。その両手の球を合わせ、標準をアルクェイドに合わせる。
 

「飛べ!」
 

合わさった紅い球から、ガトリングガンのように紅いファイヤーボールが吐き出される。十や二十ではない。百発にも及ぶのではないだろうかと思うほどのファイヤーボールを、アルクェイドの体に全て叩き込んだ。
アルクェイドの体が、ボクサーのラッシュを受けたかのように震える。ファイヤーボールの煙がアルクェイドを包み、アルクェイドはそのまま地面にドサッと落ちた。
まさかこれで終わりではないだろう。吸血鬼は再生能力にも長けているという。この程度の攻撃でくたばるほどのやつなわけがない。
祐一は魔法陣を描くと地面から、今度は土の剣を作り出した。
それを構えながら、アルクェイドに向き直る。
丁度、アルクェイドがよっこいしょと腰を上げる所だった。
 

「……油断したわね……」
 

しまったしまったという風にアルクェイドは、パッパと白い服に付いた埃と砂をはらった。
こいつ、やっぱり人間じゃねえよ。
 

「でも、面白いことするじゃない。今の。てっきりファイヤーボールと思ってたけど……」
 

アルクェイドは、自分の体の煙を見ながら、どこか納得するように呟く。
 

「気付いたか?」
 

「ええ、これファイヤーボールじゃないでしょ」
 

祐一は、アルクェイドに軽く笑いを飛ばす。やはり秋子さんとは違うな。秋子さんは気づかなかったが……。
 

「ああ、これは【フリーズボール】。ただの氷属性の下級魔法だ。ただし、これは俺の特別製で、自由に色を変える事もできる。煙は蒸気だな。炎の煙じゃない。熱も感じなかっただろ?」
 

「まあね」
 

アルクェイドは、左手を振って見せた。さっき、ファイヤーボール、もといフリーズボールを消滅させた手だ。
 

「でも、色を変えただけで威力が変わってないなら意味無いんじゃないの?」
 

アルクェイドは、すこし小馬鹿にするように言った。
 

「いや、あれはただの応用さ。本当の使い道は、こっちだ」
 

祐一が言うと、祐一の周りの空気がすこし変わる。寒いと言うか、冷たいという感じが、アルクェイドの肌に当たる。
なにかがある、というのは、わかった。だが、何がくるとまでは、流石に分からなかった。
祐一の周りの空気が、祐一の前方に集まる。それはすこしずつ形を持っていき、次にアルクェイドが瞬きをする時には、祐一の横に、もう一人祐一がいた。
 

「へぇ……フリーズドール……」
 

アルクェイドは、祐一の横に立っている祐一を見て、すこし驚いたように言った。
魔法は大抵攻撃用の魔法なのだが、そのなかでも、【回復系】と【補助系】という物が存在する。
回復形とはその名の通り回復を施す魔法の事である。
そしてもう一つの補助魔法。これは術者がオリジナルで考え出す事も出来るし、そもそもほとんどジャンルに縛られたりはしない。
が、その中でも有名な魔法が、【ドール系】と呼ばれる。自分の属性で、自分の分身を作り出すという魔法である。
これは祐一と秋子さんの戦いのときにも秋子さんが使用した物である。秋子さんの属性は水属性なので、【ウォータードール】。術者がその気になれば、ウォータードールに気配などを持たせて、本体と全く変わらない状態にする事が出来る。祐一はそれにまんまと騙された訳だが。
ただ、この術の最大の欠点は、シンプルにこの魔法を使用する事が難しいと言う事である。
そもそも自分の属性で自分の分身を作り出すなど容易な事ではないし、不安定な分身では何の役にも立たない。
しかし、祐一のこのフリーズドールは、ほぼ完璧に仕上がっていた。
服も同じ服。色も同じ色。身長も大きさも気配も、全てが本体と同じだった。
たしかに、これをちょっと改造すれば、フリーズボールの色を赤色に変えて、ファイヤーボールのように見せる事もできるだろう。
 

「それで私を倒すつもり?」
 

アルクェイドは、ふふんと得意げに笑った。
 

「無理ね。分身たって、魔法も使えないしデロップなんて使えるはずもない。分身を動かすには本人が思考で指示を出さないといけないから、同時に襲われる事は無いわ」
 

やはり吸血鬼。魔法の事にも随分と詳しいようだ。
だが、そんなこと祐一も承知のうえだ。
 

「試してみるか?」
 

「やってみなさい」
 

アルクェイドは、両手の爪をすこしといだ。
ふ、と祐一の顔にすこし笑みが浮かぶ。
 

「やってやるさ!」
 

祐一は、パンッと地面に手を付いた。カッと閃光が走り、地面からアルクェイドに向けて三本の棘が生えてくる。
アルクェイドは虫でも叩き落すようにその棘を粉々に粉砕する。が、祐一のフリーズドールの姿は視界から消えていた。
 

(――後ろ)
 

す、と体を左に移した。アルクェイドの右をすでに接近していた祐一の剣が切る。
祐一はそのまま体制を建て直し、アルクェイドに剣を振る。キンッと音を立ててアルクェイドの爪と祐一の剣が交わる。
スピードで言えば祐一の方が早かったが、パワーならばアルクェイドのほうが強かった。
祐一はすこし後ろに飛ばされる。祐一は一旦距離を取って、クッと右手を握った。
 

(――また後ろから)
 

アルクェイドは、タンッと軽いステップで後ろに飛び上がる。軽く4メートル強飛び上がり、後ろから迫ってきたもう一つの祐一の上を飛び越える。
しかし、アルクェイドが地面に下りる前に、アルクェイドに飛び越えられた祐一が、魔法陣を描いた。
パンと地面に手を付くと、アルクェイドの真下の地面から、何本もの棘が生えた。そこに着地すればただではすまない。
 

(こっちが本体)
 

アルクェイドは、デロップを発動したほうの祐一を見ながら思った。分身はデロップを使う事は出来ない。ならば、今デロップを使った祐一が本体なのは道理。
アルクェイドの足が一本の棘の上に乗る。しかし、その後の進行はなかった。
アルクェイドの体は、一本の棘の上で止まっていた。本来ならば岩にも突き刺さりそうな棘の上で、アルクェイドはまるで当然のように棘の上に立っていた。
 

「よっと」
 

軽い声を出して、アルクェイドは棘の上から飛び降りた。そのまま地を蹴り、祐一の迫る。
 

「ちょっと予想外のことがあっただけで固まるなんて、マヌケね」
 

アルクェイドが右手の振るう。祐一が「あ」と声をあげる前に、アルクェイドの爪が祐一の右胸に食い込んだ。
アルクェイドの爪の威力は知っている。祐一の鉄の剣でも傷一つ付かないほどの丈夫で、一振りで人間などミンチに出来るようなその爪が、祐一の、おそらく死なないようにしてくれたのだろう、右胸に突き刺さっているのだ。
勝った。そう思うのに、なんの不信感もない。アルクェイドは、確実に、相沢祐一に勝った。
パリィィィンと音を立てて、祐一が砕けた。
祐一の体がバラバラに砕け、小さな氷の欠片が辺りに散らばる。
――まさか、フリーズドール!
アルクェイドは、目を見開く事になった。
ありえない。確かに今この祐一はデロップを使ったはずなのに!
 

「ちょっと予想外のことがあっただけで固まるなんて、マヌケだな」
 

アルクェイドの後ろから、声が聞こえた。
バッと後ろを振り返ると、祐一が両手を氷で固まらせて立っていた。
氷で固められた両手が、アルクェイドの両肩にあたる。
 

「フリーズドールの方は無害だと相手にしなかったことがお前の敗因だ、アルクェイド。相沢流、『凍結界』!」
 

祐一の両手の氷が一気に増殖し、アルクェイドの体全体を包み込んだ。次に瞬きをしたときには、アルクェイドは、首から上を除いて全て氷で固められていた。
グラッとアルクェイドの体が仰向けに倒れこみ、そのまま動かなくなった。
死ぬような攻撃では無い。ただ相手の動きを封じるだけの技だ。
体を捻ろうとしても動かない。意外と冷たさは感じない。しかし、その代わりに全く動けなくなってしまった。
 

「……う〜ん、負けちゃったわね…・・」
 

アルクェイドは、全くもって悔しくもなんともないのか、眉を八の字に曲げていた。
 

「でもわっかんないなぁ……確かに祐一がデロップ使ったんだけど……」
 

アルクェイドは、難しい数学の問題を目にしたように首を傾げていた。
 

「ああ、あれ俺がやったんだよ」
 

祐一は、当たり前だろと言う風にアルクェイドに言った。
ええ! と、アルクェイドは祐一の方を向こうとするが、動いたのは首だけだった。
 

「フリーズドールに魔法陣を描かせて地面に手をつけるポーズをとらせたんだよ。その間に俺は出来るだけ気配を消して近付いて、デロップを使ったんだよ。俺のデロップ近距離だから、遠かったら使えないだろ?だから、本当はあのフリーズドールの後ろの方にいた俺が本物で、俺がフリーズドールの後ろでデロップを使ったんだ」
 

もともとアルクェイドはフリーズドールなど眼中に入れていなかった。フリーズドールを本体と判断したのなら、本体である祐一を眼中に入れないのは、言ってみれば当然の事である。
 

「そもそも、俺のデロップは近距離型だから、棘の出来具合が不完全だった。俺がもっと近くにいたら、お前だって足首ぐらいまで針が刺さってただろうな」
 

不完全な石の針に乗る事ぐらい、祐一でも出来る。だが、刺さってもすぐに再生してしまう吸血鬼だ。そんなものは何の意味もない。
 

「……ペテン師ね」
 

「やだなぁ、戦略的な性格と言っておくれよ」
 

アルクェイドはジト目で祐一を見る。ふん、と祐一は鼻で笑うと、土で作られた剣を、ギュッと握った。
 

「ひとつ、聞かせてもらおう」
 

アルクェイドに付着した巨大な氷の上に、祐一は飛び乗る。プロレスラーのマウントポジションだ。
 

「なに?」
 

「お前は、何年生きてる?」
 

「…………なんで?」
 

アルクェイドの言い方には、『何故そんな事を聞くのか』ではなく、『なぜそのことに気付いたのか』という雰囲気が含まれていた。
 

「俺が志貴と最期に会ったのが3年前。それまでは大抵一緒にいたし、それが意外で俺が志貴に尊敬されるような事はしていない。ならそれ以降になるが、お前はどう見ても生まれて三年なんて年じゃない。もっと前からいるって事だ」
 

「……で?」
 

「わかんないかなぁ?」
 

祐一は、すこし怒気をあらわにした。
 

「お前から人間の血の気がないんだよ。まだ全然人間の血なんて吸ったことないんだろ? 志貴と出会って改善したっていう風にも考えられるけど、それ以前にお前が血を吸っていないのはおかしい。吸血衝動がまだ起こっていないからかもしれないが、それならお前が生まれてまだ10年ほどしかたっていないということだ」
 

だからこそ聞いたのだ。「お前は何年生きているか」と。
吸血鬼の中には四桁単位生きている者もいる。アルクェイドが何歳かで、この後のいろいろややこしい対処も変わってくる。
このまま逃がしてもいいし、必要ならばさっさと殺してしまわなければならない。それはまあ、さすがに嫌だが。
吸血衝動がおこった吸血鬼というのは、それほど恐ろしい存在なのだ。
 

「そうね、800年くらいかしら?」
 

「冗談はやめとけ」
 

何の疑いもなく、祐一はそう思った。800年? 800年アルクェイドは吸血衝動を抑えたというのか? そんなことは、ありえない。
 

「冗談でも嘘でもない。実際に活動しているのは3年くらいだけど、一応生きている時間は800年よ」
 

アルクェイドの言葉と瞳に、嘘は感じ取る事はできなかった。
 

「寝てた……ってことか?」
 

「そうよ。800年間寝たり起きたり」
 

祐一は、眉を寄せた。
おかしい。その話には矛盾点がある。
 

「確かに吸血鬼は眠るが、自ら起きる事はないだろ? 誰かが近くにきたとか、起こしてもらうとか、そういうことをしなきゃ吸血鬼は起きないんじゃなかったのか?」
 

確かに、そうだ。まれに自分から起きることもない事はないが、それでもその行動を800年間も続けることなど到底不可能だ。
例外として、自分がおきる時を指定する事はできるが、それは、ただの目覚ましタイマーだ。なんの目的も無しにそんなことは普通はしない。
アルクェイドが、少しだけ視線を落とす。ふぅ、と息を吐くと、口を開いた。
 

「ある使命があってね、その使命のためにずっと生き続けてきたわ」
 

「……800年間?」
 

「そうよ。なかなか達成できなくてね。でも2年前、志貴がその使命を果たしてくれて、それで永遠に眠っちゃおうかなぁって思ったんだけど、晴れて自由のみになったわけだし、志貴と一緒にいろいろやって暮らそうと思ってたの」
 

その使命が何なのかは大して興味が無い。問題はその後だ。
 

「で、晴れて自由のみになったお前が、なぜこんな事をしている? 志貴はどうした? 一緒じゃないのか? 強い奴が何故必要だ。はっきり言って、お前ほどの吸血鬼がもっと強い奴を必要とする意味が分からない」
 

確かにそうだ。今回は祐一に運があっただけ。次やったらどちらが勝つかなど分からない。それほどまでに強いアルクェイドが、さらに強いものを求める理由はなんなのか?
今の祐一には、アルクェイドの吸血衝動のことよりもそっちの方が気になった。
 

「……昔、私は一度負けたことがあった」
 

アルクェイドのこえは、先程と濃さが違っていた。なにか、過去の異物を吐き出すような、そんな感じだった。
 

「それまでは真祖の姫とか呼ばれて、ほとんど負け知らずだったんだけど、『そいつ』には、文字通り手も足も出なかった」
 

祐一は、『そいつ』という言葉に引っかかった。アルクェイドを足蹴に出来るほどの実力者。そしてアルクェイド。吸血鬼。
条件は揃っている。しかし、まさか。
 

「それだけなら、まだよかった。別に私が世界の頂点だなんていうつもりはないし、龍族なんかは吸血鬼よりもっと強いわ。でも、そいつの強さは異常だったの。手を振るだけで私は吹き飛ばされ、下級魔法でボロボロにされて、手を軽く振っただけで、私の腕は切断されたわ。本当に、この世の生物が持てる力の許容範囲を全て無視したような、そんな強さだった」
 

「…………」
 

「そいつの目的は私だった。でも、その場にいた志貴まで、そいつは襲った。志貴は、ほとんど死ぬ寸前のようなダメージだったわ。いつもの私ならそんな傷でも回復させる事が出来たかもしれないけど、あいにくその時の私はそんなことできるわけだがなかった。足も折られて歩けなかったし、腕だって一本なかったわ。結局志貴を助けたのは協会の退魔師」
 

「退魔師? 吸血鬼の天敵だろ? なんでまた」
 

おいおい、という風に祐一はアルクェイドに聞く。それは最もな疑問だ。
ギルドは仕事として魔物の退治を試みるが、それとは逆に、ただ魔物を殺すことだけに存在する組織がある。それが教会。
もっとも他の呼び名があるようで、教会は一般的な呼び方である。
とにかくその教会は曲者ぞろいで、そこに存在する人間は魔物に強い憎悪を抱く者たちで固められている。
魔物相手に情けなどかけるはずもない。倒せる相手は即倒す。命乞いもさせないほどの勢いで。
さすがに彼らも人間だ。倒せない魔物もいる(魔物は大抵倒せる。問題は魔族だ。それも上級になるときついものがある)。
しかし、狙った獲物は逃がす事は無い。数を増やすなり武器を増やすなり、とにかく問答など無意味な事である。
しかし、その教会の退魔師――一般的にエクソシストと呼ばれている彼らが(女性も入っているが)、アルクェイドなどという上級の魔族を見逃す訳は無い。それもその時のアルクェイドは重傷。倒そうと思えば一瞬で済む事だ。しかし、今こうしてアルクェイドは存在している。それは、そのエクソシストがアルクェイドを見逃したという事になる。
 

「誤解しないで。見逃しては貰ったけど、助けてはくれなかったわ。助けたのは志貴だけ。その時は満月でね。なんとか私は回復する事が出来たけど、結局私は志貴を助ける事が出来なかった……」
 

アルクェイドは、死んでしまたペットのハムスターを思い出すかのようにポツポツと言葉を吐き出す。祐一は、すこし頭をポリポリとかくと、ふぅ、と一息ついた。
 

「いや、はっきり言うとお前のお涙頂戴の話はどうでもいいんだよ、この際」
 

なんと嫌な男であろうか。アルクェイドが、本来ならば思い出したくもない過去の話を語っているというのに、言うに事欠いてこの男はその話を「お涙頂戴」と、しかも「どうでもいい」と言ってのけた。
アルクェイドはブチ殺すぞと言う風に暴れまわるが、氷の結界のせいで動く事ができなかった。もし氷の結界を解くほどの力があれば、祐一の体はバラバラに切り刻まれているに違いない。
 

「怒るな起こるな。問題はそこじゃないんだ。お前がさっきから『そいつ』って呼んでるそいつ。名前は?」
 

アルクェイドは、鼻で笑った。
 

「言ったってわかんないわよ」
 

ドスッ、とアルクェイドは自分のすぐ右横で、そういうくぐもった音を聞いた。
横目で確認する。アルクェイドの顔の右側に、祐一に作られた剣が突き刺さっていた。
 

「お前の考えなんてどうでもいいんだよ、別に」
 

感情の無い目で祐一が言う。ぞっとした。さっきまでちゃらちゃらとしていた祐一の目は、もはや人間のものでは無い。
 

「……なによ、怖い眼しちゃって」
 

自分の時だけ怒るなんて最低よ、という風にアルクェイドはプイッとそっぽを向く。どうもアルクェイドは眼つきなど気にしないらしい。
祐一は、まったく、と言う風に溜息を吐く。
祐一は剣を引き抜くと、アルクェイドの体から離れようとする。
よっこいしょと腰を上げた所で、アルクェイドが口を開いた。
 

「シオン」
 

ピタっと、祐一の体が止まった。
ゆっくりと、確かにアルクェイドに視線を移す。アルクェイドは、やっぱりかと言う風に祐一を見た。
 

「『そいつ』の名前はシオン。知ってる?」
 

祐一がシオンを知っているのは恐らくアルクェイドの中では暗黙の了解。だから、これはその確かめ。
祐一は、アルクェイドの顔を見て、すこしだけ、笑った。
 

「――知ってる」
 

アルクェイドは、視線を落とした。祐一の言葉に、なんの疑問も浮かばなかった。
 

「やっぱりね。さっきから思ってた。もしかしたらあなたならシオンと接点があるんじゃないかって。『相沢』に、それに『あなた』と言う存在」
 

「そうか、やはりお前も……」
 

「ええ、シオンに『誘われた』わ。協力しないかって。私が軽くあしらってやって、帰ろうとした時には、もう戦闘が始まっていたわ。不意打ちではあったけど、そんなことはほとんど関係なかったわ。お願い。もう一度確認させて。志貴は関係ないはずよね、その『計画』に?」
 

「ああ、志貴は違う」
 

そっか、とアルクェイドは祐一から視線を外した。歯をギリッと噛み締めて、怒りを抑えているようだった。
そう、志貴は違う。志貴には全く関係のない話のはずだ。しかし、現実として志貴は襲われたというわけか。
なんとも皮肉な話だ。
 

「お前はさっき、『さっきから思ってた』と言ったな? それは、要するに俺のことに気付いてるって事か?」
 

「ええ、そうよ」
 

祐一とアルクェイドは、ほとんど同じような顔をして、溜息を吐いた。
 

「あなた人間じゃないんでしょ?」
 

祐一はしばらく黙った後、無言で頷いた。重い口をなんとか開いて、声を出した。
 

「【ガーディアン】だ。知ってるか?」
 

先程祐一がしたように、アルクェイドもすこしだけ、笑った。
 


「――うん、知ってる」
 

 
 
 
 

後書き
 

こんばんわ! か、こんにちわ!
えっとですね。前回後書きでキリ番のことを宣伝したわけでありますけども、管理人さんに一瞬でOKを貰いました。
というわけで、第一回、キリ番決定戦を開催いたします!
イエーーーーーーーー!!
というわけで、まあ半分冗談交じりでやっていきたいと思います。
まず、ジャンルとしてはほのぼの系はやめてくださいw
私は見ての通り戦闘好きなわけで、ほのぼのだけはむりっぽいっす(笑
あと、恐らく短編連載という形になりそうです。はい。
私が今まで一度書いてみたかったssのジャンルとして、『奢り、集り系』 『逆行系』 『祐一ハーレム系』 『奇跡の代償系』などです。
もちろんそれ以外でも大丈夫です。『スポーツ系』とか、『祐一が不良系』とかでも。
ほのぼの意外でしたらw
その他の詳しい設定はキリ番NO1の読者様に決めていただくと言う形で。
完成品が気に入らないという事もあるかもしれませんが、それはまあ許してください。
では、メールお待ちしています。
 

では、これからも応援よろしくお願いします!





作者ハーモニカさんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル掲示板に下さると嬉しいです。