「さ、はやく通らせてくれよ」
 

巨大国ミア。
何世紀も前から作られているこの国は、やはりその何世紀も前から受け継がれてきた技術を使い、
他国を圧倒するほどの力と、その巨大さを保ってきた。
その国の建物は大抵どんな物でも目立つのだが、やはり飛び切り目に付く建物といえば、王宮だろう。
まるでおとぎ話にでも出てきそうな巨大な王宮。その内部の、王室に繋がる廊下のある一角で、その声がした。
せいぜい二十歳の、しかし青年といった感じの男。金髪なのに黒いコートを羽織い、目の前にいる兵士に小さな紙を見せている。
 

「正真正銘、ここの王の手紙だろ?」
 

「た、確かに筆跡はよく王様に似ているが、だが、それだけではここを通す訳には行かない」
 

「じゃあ早く確認取ってくれよ」
 

「今王様は用があって面会することは出来ない」
 

二人が争っている内容とは、要するに金髪の青年を王室に入れるか入れないかと言う事だ。
青年は王様の手紙だと、一枚の紙を見せているが、さすがにそれだけでは兵士も下がるわけがない。
 

「おまえ目ン玉ないのか?ここ見てみろ。ほら、『シオン殿、その話詳しく聞かせていただきたい。
ぜひ1度二人で話してみたいので、今度我が王宮にいらしてください』って」
 

青年――シオンは、手紙の一文を指差しながら兵士に言う。
 

「そ、そんな物いくらでも偽造できる! だいたい、『その話』とはなんだ」
 

「ヒミツの話だから二人で話すんだよ。頭いかれてんのか」
 

兵士は、「なに!」と叫ぶが、シオンは、はぁと息を吐くと、「拉致が明かない」と1歩前へ出る。
兵士は、自分に向かって歩いてくるシオンを見るやいなや、いきなり腰に掛けてある刀に手をのばす。そこでシオンの動きが止まる。
 

「おい、なんだそりゃ」
 

シオンは兵士の刀の方へ視線を向けた。
このとき兵士がシオンの視線の違いに気付いていれば次のようなことはおきなかっただろう。
 

「これ以上しつこいようならば、こちらもそれなりの対処をとらなけれ――」
 

言いかけた刹那。その兵士の視界が一変した。
まず最初に気付いたのは、目の前に火花のようなものが飛んだ。
それと同時に、なにか首のところに鋭い痛みを感じて、それと同時に目の前のシオンの姿が消えたのが分かった。
分かった時には既に意識を手放していたが。
シオンは、兵士が死んでしまっているのを確認すると、そのまま奥の王室に向かって歩き出した。
 

「ったく、馬鹿は嫌いだ」
 

初めからこうすればよかったのではないかと少し考える。わざわざあんな一般兵士と口論をしている場合ではない。
そもそもここに来たのも――
 

「入るぞ」
 

王室に入るというのに、礼儀の欠片も見当たらない。
本人は気にしていないにしても、いきなり勢いよくドアを開け放たれ、
ズカズカと自分達に黒いコートを羽織った不気味な男が迫ってきていたら、中にいた人間はたまったものではない。
 

「な、なんだいきなり! それに今は大事な会議の――!」
 

この部屋で、いや、この国で最も地位の高い人物、この国の王は、
なにやら上流階級そうな人物ら4,5人とテーブル越しに何か話していたが、当然それは一時中断になった。
王はシオンに唾と一緒になにか言おうとしたが、そこで止まった。
 

「き、君は・・・・・・」
 

王は、納得したようにシオンを見る。
王は、その時一通の手紙のことを思い出していた。
毎日王宛に届けられる手紙は確かにある。そりゃあもう何百通も。
しかし、その中で飛び切り目立ったのが、なぜか紫色の封筒に包まれた手紙だった。
よくこんな物を通したものだ。王はそう思っただけで、なにか惹かれるようにその手紙の封を開けた。その中身は、
 

「――っ! 悪い、出てってくれ」
 

いきなり王が言った。
それは、突然現れた訪問者にではなく、これからおそらく、
何度も顔をあわせなくてはならないはずの、上流階級そうな、彼らに向けられていた。
当然彼らは、「は?」という顔をしていたが、そんなことはこの際何の関係もない。
 

「頼む! この埋め合わせは必ずする。だから今日は帰ってくれ」
 

王は、今すぐ彼らが帰らなければ自分が死んでしまうかのように頼んだ。
シオンには到底理解できないような文字がずらりと並んでいる書類のような物も、テーブルからバサッと取る。
それを彼らのうちの一人に急いで渡すと、全員の背中を押した。
彼らも、もはや何がなにやらよく分からないでいたが、とにかく帰った。王は、そのまま椅子を直し、シオンの方を向いた。
 

「いや、悪かった。すまない。さあ、掛けてくれ」
 

「いや、別に」
 

その王はシオンに椅子に座るように勧める。が、シオンの視線がまださっきの上流階級の人達が出て行った方を見ていたのに気づいた。
どうかしたかい? と聞かれ、はっと我に返ったシオンは、「いや、別に」とだけ答えると、そのまま椅子に座った。
少しの沈黙の後、王が胸ポケットから一枚の紙を出した。
紫色の封筒だった。
 

「……一応確かめておくが…」
 

「確かめる必要はないだろうな」
 

王の言葉を遮ってシオンが言う。王は、それでまたすこし表情を落とした。
 

「この手紙の内容は本当なのか?いや、『神器』のことを知っているのだから本当なのだろうが、しかし、これは……」
 

王は、紫色の封筒とシオンを何度もちらちらと見ていた。シオンは、コートのポケットに手を突っ込んでいた。
『神器』という物がある。いや、あるだけで世間一般には公開されてはいない、幻の宝。
武器としての価値はないし、世界的価値もない。誰も知らない物は、当然誰も欲しがらないからだ。
が、その価値を知っている者からすれば、まさに『神』の名にふさわしいものなのだ。
神器は、とてつもなく古い聖書などに載っている。
普通は見ることが出来ないが、この国の王になるほどのものならば見ることは造作もないことだろう。
聖書には、神が地球に落とした五つの宝、それこそが神器だと書いてある。
実際、見かけは高そうな飾り物のようだが、それは持っているだけで、まさに神のごとく人間に幸運をもたらすといわれている。
実際、この王もその神器を持ってから、かなりの幸運に導かれてきた。今この場所にいるのも神器のおかげだと言っても過言ではない。
手紙の内容は、よりによってその神器が誰かに狙われているというものだった。
当然王は最初は疑ったが、まあ疑いはすぐに晴れた。神器を知っている者はこの世でほんの一握りだ。
よって、今その手紙の差出人シオンはここにいる訳だ。
王室にいくときの服装、言っておいてよかった。
シオンはしみじみ思った。ちゃんと着ていく服装を言っておかなければ、さっき部屋から追い出されたのは自分かもしれないのだから。
 

「……一つ聞いていいかな?」
 

「なに?」
 

シオンはポケットに手を突っ込んだまま尋ねた。
 

「君はどこでこの情報を?」
 

「ああ、それか。実はそれ、俺もよく知らないんだ」
 

シオンの言葉に、王は「は?」と言った。当然だ。自分から手紙を送りつけておいて、知らないも何もないだろう。
が、そんな事は無視して、シオンは続けた。
 

「俺に、メールが来たんだ。その手紙と全く同じ」
 

シオンはポケットから携帯を取り出す。すこしボタンをいじった後に、画面を王に見せた。
王がそれを除くと、手紙と全く同じ文が書かれていた。段落まで何から何まで同じだった。
 

「……コレは誰から?」
 

「知らない。メール返信しようとしても繋がらなかったんだ」
 

シオンは、さも当然のように言う。何を疑う必要がある? と言いたげだった。
シオンは携帯をポケットに直すと、続けた。
 

「ちなみに、俺が神器のこと知ってるのは、俺んち図書館なんだけど、そこで偶然見つけたんだ」
 

メールはともかく、その話はどうかと思った。
実際この国には、かなり昔からやっている図書館があるが、そんな場所に神器の情報がある聖書をおくだろうか?
いや、しかし・・・・・・
 

「……わかった」
 

しかし、そう。どの道どうすることも出来ない。
この手紙をよこしたからにはやはり対処法のようなものがあるんだろうから、とにかく今は従うしかない。
だからこのため口も気にしていないわけで。
 

「で、その肝心の神器はどこにあるわけ?」
 

シオンは早くも本題を持ちかけた。
シオンはこの部屋のどこかに神器がおいてある場所に繋がる隠し階段でもあるものと思って、まわりをキョロキョロ見回す。
 

「………いや、君が今日来ると言う事だったから、神器は既に用意しておいた」
 

王は、胸ポケットから、一つの小さな玉を取り出した。
赤色に輝いているその玉は、いかにも神々しさをかもし出していた。それは、誰の目から見ても判断できる。
コレはただの玉ではないことが。
 

「……で、これをどうすんだ? どこか安全な場所に移すのか?」
 

「いや、結界を張る。俺こう見えて結界師なんだよ」
 

結界師というのは、その名のとおり結界を張ることが出来る人間のことである。
結界を張ること意外能がないが、そのかわり、最近多発しているモンスターの被害のおかげ(といっていいものかどうか)で、
結界師の仕事は増えてきている。
そもそも、本物の結界師が結界を張れば、かなり強力な結界が作れる。だから、古くからよく王の護衛などに雇われていたりする。
 

「この玉を護るほどの結界を、君ははれるのか?」
 

「ああ。親からの遺伝かな」
 

そういうと同時に、シオンは両手を胸の前で構え、なにか呪文のようなものを言い始める。
 

さて、ここで裏話をするならば、この王はシオンのことをあまり信用していなかった。
家が図書館とか以前に、そもそもこんな青年が神器のことを知っているというだけで、よっぽど疑わしいのだ。
この玉は確かに神器だ。が、この玉には、他国から雇われた強力な結界師の結界が張ってある。そう簡単に解けるものではない。
しかし、当然シオンはそれを知らないわけだから、コレを目の前にしてどういう行動に走るかで次の対処法も決まってくる。
事実、王の右手はポケットのなかにあるスイッチに集中していた。
このスイッチを押せば、およそ1分もしないうちに警備員が来てこの青年を取り押さえる。
もしこの話が本当で、本当に結界を張るつもりだったのなら問題ない。
結界を二重に張ることはできないから、この青年は当然困惑するが、そうしたら事情を話して、
「決壊が張ってあるから大丈夫」と言って帰ってもらえばいい。同時に今後この神器をどうするかという方向へ向けることが出来る。
さあどうでる? 王はシオンの次の行動を待った。
 

しかし、シオンが呪文のようなものを終えた瞬間だった。
王は、自分の胸の、正確には心臓の辺りが少し熱くなる感じがして、同時に、ドスッというくぐもった音を聞いた。
 

 
 
 
 
 
 

「よう、どうだった?」
 

巨大国ミアからすこしだけ離れた、ミアが全て見渡せる丘の上の森の中。
白髪に青いジーパンと何かよく分からない英語のつづりが書いてあるTシャツを着ている青年が木にもたれかかりながらそう言った。
 

「このとおりだ」
 

金髪の青年――シオンは、その青年に向けて神器を投げ渡す。白髪の青年はそれを片手で受け止め、同時に眉を寄せた。
シオンは、すこし口元を緩めた。
 

「気付いたか? セクト」
 

「いや、気付かない訳ないけど……」
 

銀髪の青年――セクトは、赤く光っている丸い玉を見ながら、苦々しげな表情を浮かべた。
 

「結界が張ってある。やっぱり疑ってやがった、あの野郎」
 

シオンは先程まで同じ部屋にいた人物の姿を思い出した。
おそらく今その人物の周りでは、『王が何者かに殺された』という情報が竜巻のように国に広まっているだろう。
まあシオンの顔が割れることはないだろう。さっき部屋にいた上流階級そうな奴らは自分達の顔を見ていない。
それはさっき出て行く彼らを見ていたから証明済みだ。
唯一気になるのが兵士だが、まあ問題はないだろう。自分が敵を殺さずに終わるなどということはまず有り得ないことだからだ。
 

「ま、なにはともあれ、『一つ目』か」
 

セクトが言う。シオンは、すこし顎に右手を当て、すこしう〜んと唸り、言った。
 

「やっぱり、こういうのは性に合わないな」
 

こういうこと、というのはさっきの神器の取り方なのだろう。
実際、相手は神器を守ってもらう立場にあるわけだから、こちらが少々矛盾したことを言ってもそうそう言い返してはこれないのだ。
だから、さっきのシオンの話は嘘を嘘で固めたようなものだったのだ。
あの携帯にはシオンの味方から送ってもらい、それをシオンが書き写しただけのものだったのだ。
ちなみにこのシナリオはシオンがここに来るまでに二分ほどで考えた作戦だ。
シオンの仲間のデータをいじくりまわっている少女はその作戦はやめた方がいいと言っていたが、問題はなかったようだ。
まあいざとなればシオンが本気を出せばいいだけのこと。そうすればこの国はとりあえず壊滅するだろう。
シオンの言葉を聞いて、はあ? とセクトが疑問系を頭のテッペンに浮かべている間に、シオンはポケットから携帯電話を取り出す。
メールをしているのか、ボタンをパチパチと押している。
 

「あいつらにか?」
 

セクトが赤く光る神器を丁寧にポケットへ突っ込むと、シオンの方へ歩いていく。
セクトが側に来ている間も、シオンはメールを打ち続けていた。
 

「ああ、あいつらに『一つ目入手成功。意外と簡単だった。次は華音に集合せよ!』って」
 

言うと同時にメールが終了したのか、携帯を閉じる。それと同時にセクトが、「華音って……」とシオンに言い寄った。
 

「どうした?」
 

シオンが、セクトの様子のおかしさに思わず問い詰めた。
華音。ギルドという、一般人から国の王まで、全ての人間が仕事を依頼する場所がある。
その中では、到底一般人では遂行できないような仕事もある。
そういう時は、一般人よりも遥かに強い力を持った『ハンター』という者たちが仕事を請け負う。
そして、そのハンター達を育てるのが通称『ガーデン』と呼ばれる施設で、華音はそのガーデンが出来た最初の国なのである。
しかし、その華音だって、自分達の障害になるような場所ではない。
 

「……これはまだ情報なんだけど、華音にアイツが来るらしいぞ」
 

シオンの動きが、一瞬ピクッと止まる。携帯を持つ手がすこしだけピクッと振るえる。
 

「……あいつ……ね」
 

シオンはその携帯をすぐに開き、またメールを始める。セクトは、頭をポリポリとかくと「なあ」とシオンに言う。
 

「別にまだ華音じゃなくてもいいんじゃ…」
 

「いや、これは逆に好都合かもしれない」
 

セクトの問い掛けも無視し、そのままメールを打ち続ける。シオンの耳に、セクトが大きく「はぁ……」とため息をつく声が聞こえた。
 

 
 

『訂正。次は絶対に簡単じゃないから、臨戦態勢万全で華音集合!』
 

 
 
 
 
 
 

後書き
 

どうもはじめまして。ハーモニカです。
よりあえずこれが私の処女作になるのですが、上手く掛けているか微妙です。
あぁ……読んでくれてる人いるのかなぁ……。
とにかく、これから頑張るのでよろしくお願いします!
 

 


作者ハーモニカさんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル掲示板に下さると嬉しいです。