あの日、俺達は出逢った。

最初はなんて不愛想な奴が来た、という風にしか感じていなかったけど……まさか、それが今じゃ親友だとはね。

運命ってものは、意外に気まぐれなんだなぁって思ったよ。

おっと、もうこんな時間か。

そろそろ行かないとアイツが怒るかな。

フフフ、アイツって怒ると耳まで真っ赤になるから面白いんだよな。

内緒だけどさ。










SuperRiricalWars

ORIGINAL GENERATIONS




「出会い。そこから始まる友情」











その日、極東基地では雨が降っていた。

梅雨でもないのに毎日降る雨は、気分を落とさせるのには充分すぎた。

それは勿論、このどこにでも居そうな青年
――シック=クローツェル――も同じことだった。

シトシトと雨が降る窓の外をただボーとしながら眺める。

此処最近はこれが日課のようなものだ。

ただ眺めて、時間が過ぎるのを待つ。

ただでさえ地味な彼が更に地味になる光景だ。

趣味はあるにはあるのだが、勤務時間に堂々とできるものではない。

だから、ただボーとしているに限る。

だが疑問もある。

誰も叱らないのだ。

なにか書類仕事をしているわけでもなければ、機体の整備をしている訳でもない。

なのに誰も彼に構おうとはしなかった。



(俺、地味だからなぁ……)



自嘲気味に笑う。

此処最近同じことばかり考えている。

そしていつも自分独りで笑っている。

暇だ。
                                 
此処
こんな時は誰かと話をして気を紛らわせたいが、生憎と仲のいい友達は極東基地には居ない。

みんな上官が怖くて仕事を真面目にやる人物ばかりだ。

つまらない。

たまには弾けてみてもいいじゃないかと思うが、そんな奴はどこにも居ない。

全く、やれやれだ。

減給が怖くてなにが男だというのだ。

男じゃなくて女だという声もあるだろうが、そんな些細なことには興味がない。



(あーあ。なにか面白いことでもないかなぁ。……まぁ、此処の連中にそれを求めるのは酷か)



今日何度目か分からないため息を吐く。

ため息で白く曇った窓ガラスに指で絵を描くが、水が滴りすぐに歪なものへと変化してしまう。

退屈だ。

退屈は神をも殺すとはよく言ったものだ、とシックはぼんやりと考える。

思考に靄が掛かったような状況。

誰も彼に目を向けるものなど居ない。

孤独とは違うが、なにか寂しさのようなものが感じられる。

此処に居るようで居ない。

居なくなると気付かれる程度の自分。

本当に、暇だ。



「ん……?」



まどろむ瞳に映ってきた、一つの異様。

頭を振り、意識を覚醒させもう一度見る。

窓の外、そこには隊舎に歩いてくる一つの影があった。

だが、明らかに異様だ。

その影は、この雨だというのに傘も差さずに此方に歩いてくる。

ずぶ濡れになった長髪がだらりと垂れ、軍服に張り付いている。

だが、その目はなんだ?

ギラギラと光り、射殺さんばかりに此方を睨んでいる。

その瞳を見てハッとした。

肩が震え、足が竦んでいる。

呼吸も荒い。

逃げなければと、頭の中の自分が叫んでいる。

それは、ある一つの感情。

恐怖。

何故かは分からない。

だが、シックは恐怖している。

あの影に。

影はシックの視線に気付いたのか此方に視線を向けてくる。

冷たい瞳。

十人中十人がそう感じる瞳。

しかし、シックにはこう感じられた。



(悲しそうな……瞳)



今にも涙を溢さんばかりの瞳。

雨の中でよく見えないが、そのように見えた。

心の片隅でこう思う。

自分と同じ瞳だと。

いつの間にか恐怖心は消え去り、興味が湧いてきた。

あの人のことを知りたい。

話をしたい。

できれば友人になって欲しい。

そう思った時には、身体が動いていた。

隊舎に常備してある傘を二本手に取り、外へと出る。

冷たい雨が降る中、傘を差しあの人の元へと駆ける。

バシャバシャと水溜りを踏み上げ、駆ける。



「濡れちゃうよ」



お決まりの台詞を言いながら傘を差し出す。

その時、哨戒用のライトが二人を照らし出す。

一瞬、眩しさに目を閉じるがすぐに開く。

影に光が当たり、その全貌が見えてくる。

白い長髪。

透けるような白い肌。

少し赤い瞳。

儚い雰囲気を纏っている華奢な体躯。

少し見惚れてしまった。

だが、襟にある階級表を見てシックは敬礼をした。

その階級は中尉。

自分よりも高い階級だ。

つまりは上官。

だが、シックには見覚えがまるでなかった。

新しくこの基地へ就任することになったのだろうか?

その辺のことは置いておき、この場所を変えよう。

このままでは風邪をひいてしまうと判断したシックは、とりあえず隊舎へと足を向けた。

中尉もそれに続く。

隊舎に中に入っても、中尉はなにも言葉を発しない。

まるで人形のようだと失礼ながら感じてしまう。

そう、人形。

よくできてはいるが、心が籠っていないただの人形。

そのように感じた。



「ん? おお、もう着いたのか」



声を掛けてきたのはカイ・キタムラ少佐。

シックが敬礼をすると、中尉も敬礼をした。



「相沢秋人中尉、ただいま到着致しました」



決められた台詞をそのまま口にする。

無機質な、心が籠っていない冷たい声。

中尉はカイと少し話すと、此方に顔を向けた。



「シック、秋人中尉をシャワー室へ案内しろ」

「はっ! では此方に」



足をシャワー室へと向け歩き出す。

しばらく歩くが、中尉はなにも言葉を発さなかった。

重たい沈黙が流れる。

どうにか打破できないかと考えるが、いい案は浮かばない。

そうこうしている間にシャワー室へと着いてしまった。



「此方がシャワー室となります」



無言でシックを眺め、シャワー室へと入って行く。

中へ入ったのを確認すると、シックは壁に寄り掛かりため息を吐く。

疲れた。

対人関係は苦手な方ではないが、こんなに付き合い辛い人とは初めてだ。

せめてなにか喋れれば楽なのだが、あの雰囲気ではなにも喋ることなどできない。

天井を眺め、呟く。



「変なのが来ちゃたなぁ……」






数分後、シャワー室から中尉が出てくる。

仄かにシャンプーのいい香りがする髪を棚引かせる。

その香りに、顔が赤くなるのを感じた。

頭を振り今浮かんだ考えを払拭すると笑顔で、



「とりあえず隊舎の中を案内しますよ」



そう言いながら秋人の前を歩く。

渋々といった感じて秋人は着いてくる。

少し歩くと自分の名前をまだ言っていないのに気付く。



「あ、俺、シックっていいます。シック=クローツェル。階級は准尉です」

「そうか……」



拒否はされていない。

そう感じたシックは続けざまに頭に浮かんだ質問をする。



「中尉は、以前どこに配属されていたんですか?」



だが、その質問に答えは返ってこない。

俯く秋人。

なにか拙いことを聞いたのだろうか?

謝ろうにも、秋人の雰囲気がそれを許してはくれない。

途方に暮れていると、そこに人影が現れた。



「あ……フェイト少尉」



フェイトはシックに一礼すると、秋人に目を向けた。

顔を見つめ、なにかを思い出そうとしている。

そして「あっ」と小さく呟いた。



「相沢秋人中尉……ですか?」

「……そうだ」



答えを聞くと、フェイトの顔が引き締まる。

少し身体が震えた気がするのは気のせいだろうか?

敬礼をし、挨拶。



「フェイト・T・ハラオウン少尉です。中尉の活躍は拝聴しております。ですが、実際に逢って驚きました。まさかこのような方だとは思いませんでしたから」



この挨拶にも、秋人は「そうか」と言うだけ。

なんて不愛想なのだろう。

それとも照れているだけなのだろうか?

……自分で考えて馬鹿らしいと思う。

そんなこと、この人に限ってある訳がない。

そう感じ、頭をポリポリと掻く。



「ところで、此処でなにをしていたんですか?」

「あ、それは俺がこの基地の案内を」

「そうなんだ。じゃあ、一杯案内してあげてね。きっと気に入る筈だから」



手を振りながらその場を離れるフェイト。

だが、途中で振り返り、



「この後、三時からブリーフィングルームで就任の挨拶を行いますから、遅れないように」



そう言い残し、去っていく。

残されたのはシックと秋人だけだ。

秋人の方を振り向き、小さな声で言う。



「えっと……案内を続けます」






「此処が食道です。ボリュームは満点なんですが、味が雑なのが難点ですね。でも、デザートは女性兵士に人気らしいですよ。俺は高いからあまり食べませんが」



次に売店へ移動する。



「此処では女性用の下着なんかも扱っていますから、安心してください。あ……でも、中尉線細いから似合うのあるかな?」

「…………」



案内を続けるうちに、段々と秋人の顔が次第にしかめっ面になって行く。

何故だ?

女性に人気の場所をセレクトした筈なのに。

女性のエスコートなどしたことがないシックにはまるで分らない。



「シック准尉」



唐突に秋人が口を開く。

秋人から声を掛けられることなど初めてなので、少し嬉しくなる自分がいた。



「なんです? 他に見たい場所とかあるんですか?」

「准尉に聞きたいことがある」

「俺が答えられることならなんでも聞いて下さい」



ドンと胸を叩くと、秋人は「そうか」と言い目を瞑った。

そして開くと、なんとも言えない威圧感が襲い掛かる。

正直に言おう。

逃げたい。



「貴官は俺のことを女と思っているのだろうが……俺は列記とした男だっ!」

「それでしたらあそこに……は? えーと……え!?」



目を白黒とさせる。

今なんと言った?

男?



(……マジ?)



「す、すみません! つい女性だと思っていました!



冷や汗を掻きながら頭を下げ謝るが、秋人はジッとシックを睨む。

(いつまで頭を下げればいいんだろう? あ、今日の夕飯なにがいいかなぁ)等と頭に浮かぶがそれは完全な現実逃避だった。

この状況は拙い。

フェイトでさえあの態度なのだ。

自分の矮小な心ではこの空気に耐えられない。

その態度を見て諦めたのか、秋人は一つため息を吐く。



「……三時だ。案内はもういい。だが最後にブリーフィングルームへ案内してくれ」

「はぁ……」



トボトボと前を歩く。

肩は項垂れ、落ち込んでいるのが目にとれる。

しばらく歩くと、ブリーフィングルームが見えてくる。

秋人が先に入り、シックはそれに続く。

開いている席に座り、ため息を吐く。

だが、そんなシックには構わずに挨拶は始まる。


                                     
ゲシュペンスト・イェーガー
「本日より当基地に配属となる相沢秋人だ。階級は中尉。性別は男。……以前は『命を無視された戦士』に所属していた。以上」



たったそれだけを簡潔に話す。
              
ゲシュペンスト・イェーガー
だが、その言葉の中にあった『命を無視された戦士』という単語にその場にいた全員がざわめく。

しかし、シックには何故みんなが騒いでいるのか理解できない。
  ゲシュペンスト・イェーガー
『命を無視された戦士』。

それにどれほどの意味があるのか。

シックには分からない……というより、興味がない。

昔なにをしていたとか、どこに居たとか、そんなものは関係がない。

話の種にはするだろうが、興味があるのは今だけだ。

今、なにをしてなにをするのか。

見たいのはそれだけ。

人は所詮、脛に傷の一つは二つは必ずあるものなのだ。

それを知っているからこそ、これからの行動に興味がある。

いつまでも引きずるのか、それとも新たな自分としてこれからの道を歩むのか。

それを見たい。



















    
此処
秋人が極東基地の所属になってから一週間が過ぎた。

だが、秋人は未だにどこの部署にも配属となっていない。

みんなはどこか余所余所しく、秋人に近づこうとはしない。

やはり、以前の所属のことがどうしても気になってしまうようだ。

しかし、そのような状況下で一人だけ秋人に近づく者が居た。

それは、このどこにでも居そうな金髪の青年。

シック=クローツェル准尉。



「秋人中尉! 昼まだですよね。一緒に喰いましょう?」



秋人の有無など聞かずに食堂へ引きずる。

食券を二枚買い、手を差し出す。

この手はなんの手なのだろうと考えている秋人にシックは当然とばかりに言う。



「この基地の伝統なんですよ。後輩には飯を奢るって」



当然それは嘘だ。

ただ単に給料が底を尽きかけているだけ。

プラモデルを大量に買ったのが拙かった。

秋人は頷き財布を取り出し、シックの手に渡す。

金を受け取ると、シックは食堂のおばちゃんに食券を渡し、食事を受け取る。

今日の昼飯はカツ丼だ。

カツ丼を両手に持ち、席へ移動する。

シックが食事を持っている為、秋人もそれに続く。

適当に開いている席を探すと、丁度二人が座れるスペースを発見し、そこへ移動する。

秋人の対面に座り、カツ丼を渡す。

秋人はカツ丼を手に持ち立ち上がり、他に開いている席がないか探すが、生憎と満員だった。

仕方なくその席に座る。



「早く食べないと冷めますよ」

「……分かっている」



割り箸を割りカツを一口。

成程、確かに味は雑なようだ。



「どうです? 口に合います?」

「悪くはない。……その箸の持ち方はなんとかならないのか?」

「え? おかしいですか?」



シックの箸の持ち方は独特だった。

上の箸を人差し指と中指、そして薬指で支え、下の箸は親指の間に挟んでいる。



「鉛筆を持つ要領では持ってみろ」

「こうですか?」

「……逆に器用だな」

「いや、そんなに褒めないでも」

「……褒めてない」



そんな会話をしながら秋人は食事が終わり、シックから離れる。

秋人を見送ると、シックは普通に箸を持ち食べだした。

先程のは秋人の注意を引く為のブラフ。

少しでも話す切欠を探す為にと考えてのことだった。



(次はどうしようかな? 機体の操縦で分からないとこがあって……いや、これは他の人に聞けとか言われそうだ)



そんなことを考えながら食事をしていた為午後のブリーフィングに遅れてしまい、カイにシコタマ怒られてしまうシックであった。




















本日の業務はこれで全て終了。

シャワーを浴びる為にシャワールームへ向かうと、シックとはち合わせてしまう。

待ってましたと言わんばかりのシック。

無視して入ろうとするが、シックはそれに続く。

服を脱いで蛇口を捻ると、熱いお湯が身体を濡らす。

シャンプーボトルを押し中身を手に取り、手で延ばしてから髪につける。

わしゃわしゃと泡立てると、長い髪が泡だらけになる。



「中尉の髪って綺麗ですよね。なにか特別な手入れとかしているんですか?」

「なにもしてはいない」

「ふーん」


シックとの会話を適当に受け流し、泡を流す。

だが、どんなに流しても流しても泡が途切れることはなかった。

不思議に思ったが、シャンプーの量が多かったのだと判断する。

しかし、何分流しても一向に泡が途切れることはない。

おかしいと思い一度シャワーから離れるが、特別おかしな所は見つからない。

首を傾げながらもう一度シャワーに当たると、額に冷たいものが流れてくる。

触れてみると、それはシャンプーのようだ。

隣を見る。

シャンプーボトルを持った手が見えた。



「……なにをしている?」

「え? なにがです?」

「その手のシャンプーボトルはなんだ?」

「ん? おわっ!? な、なんで持っているんだ? いやー、不思議なことがあるものですねぇ」



心底不思議だという顔をして首を傾げるシック。

秋人はため息を吐きながら泡を流した。

そんな秋人を見て、シックは少しほくそ笑んだ。



(五分も気づかないなんて……中尉って意外に鈍感?)



そんなことを考えながら髪を洗う。

すると、首筋に冷たいものが流れてきた。

隣を見ると、先ほどのシックと同じ体勢で秋人がシャンプーボトルを持っていた。

思わず笑ってしまう。



「な、なにを大声で笑っている?」

「アハハ……いや、別に」

「そうか。ならいい」



その後しばらく秋人に付き合い、無限泡を楽しんだ。

身体を洗い終え、二人は別れる。

自室へ戻ったシックはベッドに寝転ぶと、今日のことを振り返る。



(不愛想だけど面倒見はいい。そして意外と子供っぽいと)



思い出されるのは秋人のこと。

シャンプーのことを思い出すと笑みが蘇ってくる。

明日はどんなことを話そうかと考えながら瞼を閉じると、直ぐに睡魔が襲ってきた。

それに従い眠りへと落ちる。




















夢を見た。

それは過去の自分。

なにも持たず、なにもできなかった過去。

少年は全てを失った。

頼る家族も既に居らず、なし崩し的に軍へと入隊した。

だが、そこでもなにも得られなかった。

友と思っていた者からの裏切りに遭い、怪我を負った。

そして、なにも感じない日々が来た。

なにかを食べても味がせず、テレビのバラエティー番組を見ても少しもおかしくない。

怪我が全快してもそれらの日々は変わらず、ただ惰性的に日々を過ごす毎日。

退屈だった。

だが、そうは思ってもなにも出来ない自分が居る。

人事異動が決まり、少年は極東基地へと配属となる。

カイやその他の人間に逢い、少しは変わったと思った。

しかし、その本質は変わっていない。

ただ、毎日を適当に生きている。

周りの連中がつまらないと思うが、つまらないのは自分も同じだ。

当たり障りのないように地味に生き、地味に暮らす。

そこに一体どんな楽しみがあるというのかは、自分でも分からない。

怖かったのだ。

また、裏切られるのが。

少年が青年となると、彼が来た。

青年と同じ瞳をした男。

悲しそうなその瞳は、自分と重なる。

彼なら自分の気持ちを分かってくれるかも知らない。

彼なら友達になってくれるかもしれない。

そんなことを考えながら近づいたが、青年の心は次第に変わっていった。

自分と同じ心を持つこの男を、笑顔にしたい。

見たことはないが、きっと素敵な笑顔だと思う。

そう思うと、躍起になってる自分に気づく。

いつもの自分では考えられない行動をしたり、話をする。

おかしいとは思う。

だが、これが最善の行動と信じている。

いつか、彼の笑顔を見れることを信じて、青年は毎日を生きる。

それが生きがいのように感じながら。




















その日、極東基地は騒然としていた。

なんでも近くの街で正体不明の機体が現れたという情報が入ったからだ。

ブリーフィングルームに集結するパイロット達。

その中にはシックと秋人も居た。

秋人はシックと同じくカイの下に配属され、作戦に当たることと決まる。

自分の機体に乗り込み、ブースターを噴かせながら作戦地域へ移動。

そこは廃棄された区画であり、残された住民は見当たらない。

その場はシック達が担当し、他の機体は別の場所の散策へと向かう。



「気を付けろ。どこから撃ってくるか分からんぞ」



カイの慎重な通信。

秋人はただ無言で頷く。

シックも頷くと、秋人に通信入れた。



「俺が中尉を守りますから、安心して下さいね。もしもの時は盾になりますから」

「…………」

「聞こえてますか? おーい!」



だが、返ってくる言葉はない。

ため息を吐きながらモニターを眺めると、ビルの陰に何かが一瞬映った。

もう一度よく見るが、そこには何もない。

首を傾げると、急に銃撃音が響く。

驚き周りを見ると、秋人が撃ったということが分かった。

秋人が撃ったビルが倒壊し、そこから三機の虫のような小型機体が姿を現す。

シックは頭の中で機体データを検索するが、一度も見たことがない機体だ。

敵機は此方を一瞥すると、レーザーを斉射。

M950マシンガンで迎撃に出るが、動きが素早く掠りもしない。

カイの指示により各機散会し、各々で一機を迎撃に出る。

最初は相手の所属、機体の特徴などが分からず戸惑いを見せていた秋人とカイだが、次第に相手の動きを理解したのか的確に弾を当てるようになる。

しかし、シックは相手に翻弄され生来の動きが欠けていた。

舌打ちをし回避に専念するが、どうにも動きを読まれているらしく、逃げる先逃げる先にレーザーが飛んでくる。

更に秋人が避けたレーザーがシック機に命中してしまう。

その衝撃で機体が大きく揺れ、装甲が一部剥げる。

だが、操縦系統に問題は見受けれず、シックは構わず回避に専念した。

相手の動きをジッと見つめ、その癖などの観察する。

そこで気がついた。

あの機体の動きには癖がない。

まるで機械のように精密に動き、此方の攻撃を回避する。

撃つ時もそれは同じで、まるで人間らしさがない。

不気味だ。

だが、その一瞬がいけなかった。

シックの相手をしていた敵機は真後ろを向いている秋人機に向かい、急激に加速し突撃を開始する。

気がついた時には、手が勝手に動いていた。



「……ぐっ」



敵機の特攻をまともに受け止めたシック機が黒煙を上げる。

何か聞こえるが、頭にはノイズが走りまともに思考できない。

次第にシックの意識は遠のいていった。




















目を覚ました時には、全てが終わっていた。

敵機の残骸がその場に散らばり、他に敵影はない。

そのことに安堵すると、不意に身体中を駆ける痛みに気がつく。

額からは血が滴っているようで、目の中に入り視界が赤い。



(ああ……やっちゃったなぁ……)



その時、通信が入る。

秋人だ。

不機嫌な顔つきで此方を睨んでいる。



『何故……勝手な行動を取った』



なんとか先程の記憶を辿ると、先ほどの行動のことを言っていることに気がつく。

なんとか作った笑顔で応える。



「さっき、言っただろ? 盾になるって……」



もう敬語を使う余裕がない。

切れ切れになる意識をなんとか繋ぎ止めそう答えた。



『それでそのザマか。馬鹿だな』

「何とでも……言えよ。俺が……そうしたかっただけだから、文句言うな」

『…………』



秋人は小声で『馬鹿が』と呟くと通信を切る。

すると、その場は静寂に満たされる。



「上官に……あの言い草。減給だよなぁ……ハハ」



そう言うと、自嘲気味に笑った。

だが、後悔はしていない。

自分がやりたいように行動したのだ。

あの秋人の顔は見物だった。

シックの言葉に何も言えなくなり、馬鹿としか言えない上官。

それに、苦笑しているようにも見えた。



(ハハ……やったな、俺……)



満足そうな表情のまま、シックの意識は再び闇に落ちた。




















次に目を覚ました時には、場所が変わっていた。

どうやら医務室のようだ。

窓の外からは西日が差しこみ、部屋の中は仄赤い。



「……今、何時だ?」



時計を確認しようと顔を横に動かすと、そこには花瓶に刺さった一輪の花があった。

どこにでも在りそうなその花は、どこか自分と似ている。

だが、一体誰がこんな物を置いていったのだろう?

怪我をして直ぐに花を持ってくるような人物は思いつかない。



「意外に中尉だったりして。……んな訳ないか」



そう結論付けると、腹が減っていることに気がつく。

腹時計は正確なようだ、と苦笑する。

その時、ドアがノックされ誰かが入ってくる。

誰だと目を向けると、そこには此処に来る筈のない人物が居た。



「中尉……」



秋人は両手に購買で買っただろうおにぎりを持っていた。

それを無造作に投げて寄越す。

受け取ったのを確認すると、秋人は背中を見せた。

そのまましばらくそうしており、不意に、



「さっきは……すまなかった」



恥ずかしそうにそう言った。

その言葉に呆然としていたが、次第に笑いが込み上げてくる。



「な、何を笑っている?」

「アハハ……いやだって、似合わないからさ」

「……なんとでも言え」

「じゃあ言う。アンタ恥ずかしがり屋だろ」

「……煩い」



そう言い残すと秋人は医務室から去っていく。

ドアが閉まり一人になると、はたと気がついた。



「あ……敬語使ってない」



「ヤバい」「減給が」等と言うが、どこか嬉しそうな表情。

そんな顔をしながら秋人が買ってきてくれたおにぎりを食べる。

それは普通のおにぎりだったが、何故かとても美味しかった。




















その後身体が癒えたシックは現場に復帰。

秋人も正式にカイの元に所属となる。

どんな罰が来るのかと冷や冷やしていたが、何も音沙汰はない。

そして、また日常が始まる。

しかし、今日はどこか違う。

そんな気がする。






ブリーフィングが済みトイレに行こうと席を立つと、秋人が声を掛けてきた。

早めに切り上げて欲しいと思いながら話を聞く。



「おにぎり代寄越せ」



真顔でそう言われてしまった。

尿意はどこかへ消え去り、頭の中ははてなマークに埋め尽くされる。

そんなシックに向かい、



「後輩には飯を奢るのが伝統なんだろう? だったら奢れ。俺は此処の配属となって日が浅い。つまりはお前の後輩に当たる。さぁ、金を寄越せ」

「……ぷっ。アハハハハ!」



大声で笑う。

その場に居た他の人が何事かと視線を向けてくるが、関係ない。

これを笑わずに何で笑うというのか。



「な、何を笑っている!」

「アハハ……いやだって、アレ嘘だもん」



絶句する秋人。

その表情がまた面白くまた笑う。

ワナワナと肩が震えている。



(……あれ? ヤバい?)



逃げようかと思うが、それは遅かった。

腕を掴まれてしまい、逃げるに逃げれない。

血の気が引いて行く。

傍から見れば、顔は真っ青になっているだろう。



「上管を騙したのか?」



穏やかなその口調に恐怖を覚える。



「あ、いや……その……出来心で……」

「そうか……なら罰を与える」



目を瞑り次の言葉が来るのを構える。

どんな辛い罰がもたらされるのか、シックはそれで頭が一杯になってしまった。

だが、そんなシックに向かい秋人はフッと表情を和らげる。



「敬語はやめろ」

「はい……って、え?」

「俺に敬語は使うな。というかお前に言われると腹が立つ」



そう言うと、秋人ははにかんだ笑顔を見せた。

不器用な笑顔だが、何故か心に染み込んだ。

そして此処に誓う。

俺は、コイツの支えになると。

不器用なコイツの、懸け橋になると。

そして、友達になると
――――




















 あとがき

シックの外伝を書いてみました、どうもシエンです。

SRWシック外伝、いかがだったでしょうか?

シックと秋人の出会い、並びに二人の過去でした。

ではまた次回。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。