あの日、俺達は出逢った。

あの火の海の中で、俺に銃を突きつける鬼。

だが、俺は安心していた。

この鬼は良い鬼だと、確信できたからだ。

それが今じゃ、上官だとは……。

世の中は狭いと確信したよ、全くさ。









SuperRiricalWars

ORIGINAL GENERATIONS




「冷たい瞳。熱い心」










アレは……そう、昔のことだ。

ケイスケがまだ五歳の頃の話。

その当時は治安がまだ不安定で、到る所で日常的に事件が発生していた。

それは此処、ミッド西部も同じこと。

ある日の休日、ケイスケは幼馴染のスバルと共に森の中へ遊びに行っていた。

手を繋ぎ、森の散策。

そしてかくれんぼといった日常の風景。

こんな毎日が続いたらいいと思っていた。

だが反対に、もっと刺激的な毎日が欲しいと思ったのも事実。

それがいけなかったのか。

それは唐突にやってきた。



「いないな……どこに隠れたんだ?」



ジャンケンで鬼を決め、スバルが隠れる。

いつもは簡単に見つかるのに、今日に限ってなかなか見つからない。

これも学習したということだろうか。

スバルはいつも、ケイスケの近くに隠れていた。

どうも視界の中にケイスケが居ないと落ち着かないらしい。

だが、今日のスバルは違った。

ケイスケから離れて隠れている。

探す為に探索範囲を広げようとすると、空が光っていることに気付く。

眼を凝らしそちらを見ると、光を反射しているのは航空機のようだ。

此処ミッドではたいして珍しくないので目を逸らそうとするが、それが出来なかった。

理由は分からないが、此処から逃げなければならない気がする。



「スバル……スバル! 早く出て来い! かくれんぼは終わりだっ!」



大声でそう叫ぶが、返ってくる声もなければ姿も見えない。

舌打ちをしその場から走り出すと、背後から爆音が聞こえた。

振り返ると、そこには壊れた日常があった。

航空機から落とされた対地爆雷。

そして、降下するパーソナルトルーパー
――――量産型ゲシュペンストMK−U。

MK−Uは降下しながらM950マシンガンを斉射。

瞬く間に火の手が上がり、街は炎の海と姿を変える。

すると、ケイスケの耳に子供の悲鳴が響く。



「そこかっ!?」



声を頼りにつき進むと、地べたに座り込み、呆然と街を見つめるスバルが居た。

声を掛けるが、なにも聞こえていないのか一切反応を示さない。

ただ呆然と街を眺めている。

苛立ったケイスケはスバルの手を強引に掴み、立ち上がらせる。



「しっかりしろスバル! ……逃げるぞ」



スバルの手を引き走り出そうとするが、スバルは動かない。

なにかをブツブツと呟いているだけだ。

その言葉に耳を傾けると、



「これは嘘……嘘だよ。だって……あたしまだ寝てるんだもん……うん、そう。これは夢……悪い夢だよ」



そう言いながら肩を震わせ涙を流している。

ケイスケはもう一度スバルの手をしっかりと握りしめ、眼を見ながら言う。



「現実から逃げるな! これは本当のことなんだ……だから、生きよう!」



相変わらず不安そうな表情をしているスバルに対し、ケイスケは笑みを見せた。

勿論、自分も怖い。

だが、自分は男の子だ。

男の子は、女の子を守る為にあると母親から教わった。

此処に居る男の子は自分だけ、そして此処にいる女の子はスバル。

なら守るのは自分の役目だ。

そう決意し、スバルを引っ張り走り出す。

足が縺れそうになるスバルの手を強引に引っ張り、森を駆けるケイスケ。

木々が後ろに流れる中、目先に光が見えた。

出口だ。

それを確認するとケイスケの走る速度は上がった。



「……嘘だろ」



そこには現実が広がっていた。

黒くくすんだ身体。

焼け爛れた人。

人だった物。

そんなものが溢れている。

その光景を見て、スバルは地面に座り込んだ。

ケイスケも涙が頬を伝っている。

何故だ?

何故こんなことをする?

理不尽だ……理不尽すぎる。

こんなこと、許してはおけない。

歯を食い縛りすぎたのかケイスケの口の端からは血が滴る。



「ケイスケ、スバル!」



聞こえてきたのは、厳しくも優しい声。

スバルの母、クイント・ナカジマ。

クイントは二人の姿を見つけるや否や抱きしめる。

無事だったことに安堵し、涙まで流している。



「よかった……本当によかった……」



抱きしめる力は強まり、少し息が苦しい。

だが、ケイスケも安心していた。

大事な人が無事であり、本当に嬉しい。

しかし、不意に自分の母親のことが頭を過ぎる。



「おばさん……かあちゃんは……?」



ケイスケの言葉に、クイントは首を横に振るだけ。

目の前が暗くなり、足元がおぼつかない。

まるで空中に放り出されたような浮遊感さえ感じられる。



「でも、まだ死んだという訳じゃないわ。ただ……ミッドの中心部に用事で行っていて……」



クイントはケイスケの母親が居るであろう方角を見やる。

ケイスケも自然とそちらに目が行く。

と、



「ケイスケ!? 待ちなさい!」



クイントの手を振り解き、走り出していた。

どうして走っているのかは、簡単だ。

母親が心配なのだ。

子供一人が行った所でなにか変わる訳ではない。

だが、ジッとしてはいられない。

だから走る。

クイントはケイスケを追おうとするが、スバルが抱きついておりそれができなかった。

空を見上げ、ただ祈ることしかできない。

もしこの世に神が居るとしたら、私は精一杯祈ろう。

ケイスケの無事を。




















走る中で、人の死体を沢山見た。

だが、涙は不思議と出なかった。

それは慣れというものではない。

ただあり過ぎるから、そこに居すぎるから、実感が湧かないだけだ。

夢のようであり、肌を焼く熱は現実。

分からない。

頭の中はグチャグチャだ。

まともな思考ができない。

いや、此処にまともな思考をしている者などいない。

だって、此処は地獄なのだから。



「くそ……くそっ!」



涙を流しながら走る。

途中、潰れた家があった。

その中には、有り触れた日常が広がっていたのだろうが、今はその影さえ見えない。

胸が苦しくなり、吐き気を覚え、その場で胃の中の内容物を吐き出した。

それでも不快感は拭えない。

大声で叫べばいいのだろうか?

叫んだら、なにか変わるのだろうか?

答えは出ぬまま、ケイスケは再び走り出した。

だが、涙で前がよく見えなかったのかなにかにぶつかってしまい、転んでしまう。



「いてて……」

「……生存者か」

「え……?」



よく見えないが、声の主はケイスケよりも少し年上の少年のようだ。

助かったと思った。

子供一人では駄目だが、二人なら大丈夫だと思ったからだ。

だが、その期待は裏切られる。

少年は銃を取り出し、ケイスケに照準を合わせる。

……おかしい。

こんなのは間違っている。

なんで俺達はこんな目に遭わなければならない?

絶対に、おかしい。



「……でだよ」

「うん?」

「なんでだよ!? おかしいだろ、こんなの! 俺はただ、母ちゃんを探しているだけなのにっ!」



少年は微動だにせずに、ケイスケに言葉を返す。



「そう、おかしい。明らかに異常だ。だが、これが俺達の仕事なんでな」



仕事。

ということは、この男はこの異常事態を招いた者の仲間ということだろうか?

知らず知らずの内に、ケイスケは拳を握っていた。

この拳をどうすればいいかは分からない。

相手は銃を持ち、こちらは丸腰。

勝てる訳がない。

だが、なにかをしなければ気持ちが落ち着かない。

気がつけば、立ち上がっていた。

涙は引き、相手の姿がよく見える。

歳は上のようだが、明らかに子供だ。

そう、自分と同じ子供。

なら、勝てない訳じゃない。

意気込むケイスケだが、頬に熱い感触があることに気がついた。

ついで轟く銃声。



「動くな、とは言っていないが、動かないのがセオリーだろう?」



男の銃から硝煙が上がっている。

撃ったのはこの男。

そして撃たれたのは自分。

頬をかすめた弾丸は後ろの建物にめり込み、動きを止める。

足が竦み動けない。

先までの気概が嘘のように散り失せてしまう。

歯の根が合わず、ガチガチと耳障りな音が聞こえる。



「……ったく、小便を漏らすな。みっともない」



男の言葉で気がついた。

ビビっている。

この男に、いや、この状況に。

俺はただ、母親を探しに来ただけなのに……こんな悪魔のような男に出会うとは自分の運のなさが見て取れる。



「……かあちゃん」



口から出たのは母親を呼ぶ言葉。

殺される。

もう、あの口が悪い母親には会えない。

それがなによりも、悔しい。



「…………」



ケイスケの泣きそうな表情を見たのか、男は銃をしまった。

何故だ?

先程までは殺すと何度も言っていたのに、一体……。

男は頭を掻きながら、バツが悪そうにケイスケに聞こえるように呟いた。



「……母親の特徴を教えろ」

「……え?」



ケイスケの気の抜けた返事を聞き、男は苛立ちを覚えケイスケの襟を掴む。



「母親の特徴を教えろと言ったんだっ」



顔を赤くしながらそう言う男。

先程までの威圧感はどこへやら。

思わず、笑ってしまう。

そうすると、更に顔を赤くして吠える。

それをしばらく続け、ケイスケはやっと落ち着き言った。



「えっと、ショートカットの女」

「そんな女沢山いるぞ。どこに行くとか言っていなかったのか?」

「ああ、それなら。ミッドの中心部に行くとかなんとか」

「中心部……あそこは一番戦火が激しいな」

「……なぁ、お前らって、なにしに来たんだ? なんでこの街を襲っている?」



男はしばらく黙り込み、やがて口を開いた。



「ミッドにテロ組織が潜伏しているという情報が入った。そして、悪の芽は早めに摘み取った方がいいと判断した上層部が俺達を派遣したというところだ」

「そんな! そんなことで俺達の街を潰したのか!?」
       
ゲシュペンスト・イェーガー
「それが俺達『命を無視された戦士』だ。俺達に拒否権など与えられてはいない」



男の言葉に、ケイスケは呆れた顔で言った。



「……お前馬鹿だろ?」

「なに……?」



ため息を吐き、男の目を見つめる。

少しうろたえたように見えるが、男はすぐに元に戻る。



「やりたくないならやらなけりゃいいじゃん」



ケイスケの言葉に、男は項垂れた。

なにかを考えるように呟き、一言。



「それができれば苦労はしないさ……」



そう言うと、男はケイスケに背中を向け歩きだした。

しかし、しばらく歩くと此方を振り向き、



「なにをしている。母親を探しに行くんだろう? 来い、連れてってやる」

「いいのか……?」

「……お前が嫌ならついてこなくてもいい」

「行く!」



その答えに男は軽く笑みを浮かべた。

二人はその場から離れ、少し歩いた所に待機させてあった量産型ゲシュペンストMK−Uへと足を踏み入れる。



「全く……小便漏らしたガキを乗せることになるとは」

「う、煩いな! アンタのせいだろうが!」



そこで、ケイスケはあることに気がついた。

そう、名前。

まだ名前を聞いていなかったのだ。

だが、この男は答えてくれるだろうか?

いいや、もしもは考えないようにしよう。

男なら当たって砕けろが、母親の教えだ。

あの母の息子なら、実践あるのみ。



「なぁ、アンタ……名前は?」



男は訝しげにケイスケを睨む。

少し気押されるが、そこは引かない。



「……聞いてどうする」

「聞いてもいいだろ、それくらい?」



少し考えるような素振りを見せ、男は小さな、本当に小さな声で言った。



「……相沢秋人。好きに呼べ」

「秋ちーな。俺はケイスケ・スズキだ」

「待て! なんで秋ちーなんだ!?」



秋人は驚愕した表情をしてケイスケを見る。

ケイスケはキョトンとした表情をし、当たり前のように言う。



「だって、秋ちーって言ったじゃん」

「言っていない! 俺は秋人だ!」



手を大げさに広げて肩をすくめ、ため息を吐くケイスケ。

その態度が気に入らないのか秋人はガミガミと吠える。

しばらく吠え続け、息を肩でする秋人。

そんな秋人にケイスケは呆れたように言う。



「ほら、そんなに怒鳴るから。馬鹿じゃないの?」

「誰のせいだ、誰の!」

「秋ちー」

「黙れっ! ああ、もういい! 行くぞ!」



ため息を吐きながらメインブースターを吹かす。

それだけで機体内には負荷が掛かり、身体が押し潰されそうだ。

胃液を吐きだしそうになるが、そこは意地で我慢する。

秋人がニヤつきながら此方を見ているのがムカつくが、そこは男の子だ、プライドがある。



「もう少し加速するぞ。適当に掴まれ」

「え? うわっ!?」



気を抜いていたのがいけなかったのか、急激な加速により息ができない。

内臓が身体の外に出そうな加速の中、ケイスケは秋人の横顔を見た。

無表情ながら、なにか一抹の不安と戦っているような、そんな横顔を。

自然と秋人の軍服を掴む。



「ん? どうした」



何故掴んだのかは分からないが、そうしなければならない気がしたのだ。

ケイスケは首を横に振り、



「なにかに捕まれって言ったのは秋ちーだろ」

「……そうだったな。なら、しっかりと掴まっていろ」

「うん……」



ギュッと、握る力を強める。

掴んでいないと、秋人はどこかに行ってしまいそうだから。




















しばらく飛ぶと、やっとミッド中心部が見えてきた。

街は戦火に塗れ、色んな個所から火の粉が舞っている。

もう、いつか見たあのミッドとは大違いだった。

しばらくそうして眺めていたが、秋人はMK−Uを着地させる為の操作を開始する。

ブースターの出力が徐々に下がり、地面が近づく。

機体が激しく揺れたかと思うと、もう着地していた。

機体を膝まつかせ、機体が停止すると急いでコクピットから出るが、ケイスケの目に飛び込んできた現実は変わらない。

轟く銃声。

誰かの叫び声。

赤ん坊の泣き声。

人の焼けた臭い。

それらがごちゃまぜになり襲ってくる。



(うっ……)



恐怖で足元が震える。

と、肩に温かい感触が伝わってきた。

秋人が肩に手を置いたのだ。

すまなそうな表情をしながら此方を見つめている。



「……なんで、秋ちーがそんな顔するんだよ」

「俺がやったようなものだ……これはな」



秋人はそう言いながら地面へと降りた。

ケイスケも降りようとするが、足を滑らせて落ちてしまう。

だが、少しも痛くはない。

眼を開けると、秋人の腕の中に居る自分に気がついた。



「……ありがとう」

「いや、気にするな。もう、これ以上死体を増やしたくないだけだ」



それは嘘だ。

だって、秋人の頬が赤いのが分かりやすいほどよく分かるから。

ケイスケをその場に下ろし、秋人は銃を手に取った。

カートリッジに先程撃った分の弾を詰め、握り締める。



「行くぞ。俺から離れるな」



頷き、秋人の傍に近寄る。

服を掴んではいけないだろうが、掴みたかった。

それほど不安なのだ。

握り締めた掌に汗が滲む。

身体が熱い。

心臓が痛い。

肺は空気をもっと寄越せと急かしている。

ゴリッと、硬いなにかを踏んだ。

足元を見て、ケイスケは息を呑んだ。

女の人の死体。

ショートカットの髪型は、どこか母を連想させた。



「その女か?」



なにも言わずに首だけを横に振る。

秋人は「そうか」と呟き、歩を進める。

どこを歩いても人の死体死体死体。

気が狂いそうになるが、秋人の傍にいるだけで安心できた。

秋人なら自分を守ってくれると、確信していたからだ。

その理由は分からない。

根拠もない。

だが、そう感じたのだから仕方がない。

注意深く周りを見渡しながら歩く秋人の背中を追いかける。

しかし、秋人の足が止まる。

その顔を見ると、なにかを睨んでいるようだ。

なにを見ているのかが気になりそちらに目を向けようとすると、銃声が響いた。

耳をつんざく轟音。

ケイスケは耳に手を当て、その痛みが引くのを待った。

しかし、秋人は何事もなかったかのように歩く。



「な、なぁ。今の音って……秋ちーがやったのか?」



その質問には冷淡に「ああ」とだけ返ってくる。

ケイスケは秋人の服の裾を掴み足を止めた。

訝しげに秋人が見てくる。

なにも分かっていないような表情。

それが無性にムカついた。



「お前……なんとも思わないのか?」

「なにがだ」

「人を撃っておいて、なんとも思わないのか!?」

「撃たなければ此方が殺されていた。ただそれだけのことだ」

「だからって!」

「お前は、死ねと言われれば死ぬのか?」

――――!」

「……これは極論だが、お前が言っていることはそういうことだ。行くぞ」



そう言うと秋人はケイスケの手を振り解き歩きだす。

秋人の言葉にショックを受けたが、ケイスケもトボトボと歩きだした。

しばらく歩くと、秋人と同じ軍服を着ている集団が居た。

銃をしまい上官らしき男に敬礼をする。



「秋人、このガキはなんだ?」

「はっ。民家周辺にて保護いたしました。そこでカーター大尉に折り入ってお願いがあります。この子の母親を探す為に何名か貸して頂けませんでしょうか」



男は一言「そうか」と言うと、いきなり秋人を殴り付けた。

倒れる秋人を踏みつけ、睨みつける。



「俺達の任務はなんだ? 言ってみろ!」

「きょ、強襲と……対象の、殺害……です」

「そうだ。どこにも保護なんてものはない。なら、お前がやっていることはなんだ?」



足を捻り、グリグリと踏みつけるカーター。

呻き声をあげ、苦しそうに息をするしかない。

秋人はなにも言い返さない。

言い返しても無駄だということを知っているから。



「やめろっ!」



そんな秋人を見かねてか、ケイスケはカーターの足に掴みかかる。

だが、その足はビクともしない。

少し足を動かしただけで、ケイスケは簡単に転んでしまう。

仰向けになりながらも、カーターを憎々しげに睨む。

そんなケイスケをニヤつきながら見つめ、カーターは秋人に乗せている足を退けた、

まともに呼吸が出来るようになり、咳き込みながら空気を貪る。

そんな状態ながらも、秋人はケイスケに手を伸ばそうとしていた。

カーターはその手を踏みつけると、秋人に話しかける。



「おい、秋人。お前に任務を与える。このガキを殺せ」

「なっ!? 今、なんと……?」

「聞こえなかったのか? このガキを殺せ。コイツは俺に歯向かった。つまりはコイツもテロリストだ」

「そんな! コイツはただの子供で、民間人です! テロリストなんかじゃない!」



異論を返す秋人に向かい、カーターは下卑た笑みを浮かべる。



「ああぁ? お前はいつから上官に歯向かうようになったんだ? ああ!?」



腹に向かい、蹴りを入れられる。

蹴られた箇所に手を当て、痛みを和らげようとするが、カーターは執拗に蹴りを入れてくる。

何度も、何度も、何度も。

蹴られる度に咳き込むが、カーターは一向にやめようとしない。

歪な笑みを浮かべながら蹴りを入れ続ける。

だが、一つの音によってその攻撃はやんだ。

銃声だ。

この戦火の中で、銃声はさして珍しいものではない。

しかし、今の銃声は極めて近くから聞こえてきた。

そう、まじかで。

ケイスケの方に視線をやると、その場には居なかった。

次に視線をカーターにやると、カーターは信じられないものを見るように、背後を向いている。



「ケイスケ……」



ケイスケの手に握られているのは、カーターの銃。

その銃口からは硝煙が上がっていた。

カーターは壊れた機械のようにぎこちなく動き、ケイスケの方へと近寄る。

秋人は咄嗟に銃を取り出し、カーター目掛けて撃った。

糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちる。



「お前……なにを……」



そう呟き、カーターは沈黙した。

言うことの利かない足を奮い立たせ、秋人は立ち上がり、ケイスケに近づく。

ケイスケは銃を握り締めたまま震えていた。

その銃に手を当て、下に向ける。



「どうして……撃ったりなんかした」

「だって……だってあのままじゃ……」



殺されていた。

言葉には出なかったが、口の動きでそう言いたいことが分かった。

秋人は目を瞑り、ケイスケを抱きしめる。

感謝と謝罪を込め背中をさすり、慰める。

二人がそうしていると、傍らで見ていた男が近寄ってくる。



「全く。こんなろくでなしの男とはいえ上官を殺すなんて……あなたもなかなかやりますね、秋人」

「シリウス……」



シリウスはカーターだった物を見つめ、クツクツと笑う。



「まぁ、テロリストにでも撃たれたということにしておきましょう。そう上には報告しておきますよ」

「シリウス……お前」

「ああ、勘違いしないで下さいよ? 私もこの男は気にくわなかったので、丁度いいと判断したまでですから。
 ……さぁ、もう行ったらどうです? このままいつまでも此処に居ては、あなたは不利になりますよ」



その言葉にハッとし、ケイスケを抱えてその場から走り出した。






瓦礫の山をいくつも超えながら走り、気がついた時には足が止まっていた。

ケイスケをその場に下ろし、肩で息をする。

心配そうに見てくるケイスケに、無理矢理作った笑みを見せ安心させようとする。

だが、逆効果だったようで尚更心配そうな表情にしてしまった。



「大丈夫だから……心配するな」



そう絞り出すように言うと、ケイスケはすまなそうな表情をし謝る。



「ごめん……俺のせいで秋ちーにあんな……」

「だから、気にするな」



ケイスケの頭に手を置き、クシャクシャと撫ぜる。

不器用なその手が無性に優しく感じられ、ケイスケの心は落ち着きを感じていた。



――――



秋人は急に銃を取り出し、瓦礫の山に向かい発砲。

その方角に視線をやると、女性に向かい撃ったようだ。

その女性は、ケイスケにとってかけがいのない人物だった。



「かあちゃん!」



そう声を上げると、ケイスケは一も二もなく走り出していた。

瓦礫に足を取られ転びそうになるが、それでも遮二無二走る。

涙を浮かべ、母の元へ駆けると、



「男が泣くなっ!」



聞こえてきたのは再開を喜ぶ優しい声ではなく、子供を叱りつける厳しい声。

そして頭部には激痛。

だが、それで終わりではない。

頬にビンタ。

頭にウメボシ。

指の間に指を入れ、握らせる。

躾の範疇に収まるような暴力ではあったが、流石に止めに入る。



「その辺にしておいた方が……」



だが、止めに入った秋人にさえ鋭い眼光を向ける。



「母子の問題に他人が入るんじゃないよっ!」

「あ、いやしかし……」

「しかしも案山子もない! アンタもやられたいのかい!?」

「……遠慮する」



ジェスチャーで『すまない。俺には無理だ』と伝えると、ケイスケは泣きそうな表情で睨んできた。

しかし、此処でこんな茶番をしている暇ではないと思いだした秋人は二人に告げ、この場から離れた。

待機させてあった量産型ゲシュペンストMK−Uに二人を乗せ、発進する。



「狭い……」

「ちょっとアンタ、もう少しなんとかならないの?」

「無理を言うな……ただでさえ狭いんだ。その上二人も乗せるとなるとこれが限界だって」



ケイスケの足が顔に当たる中、秋人は機体を操縦し、ケイスケと合ったあの場所まで移動する。

機体を下ろすと、その場にはそこに住んでいた住民、逃げてきた民間人などが詰めかけた。

コクピットハッチを開き外へ出ると、飛んできたのは空き缶。

ついで罵詈雑言が飛び交う。

秋人は俯き、それを受け止める。

飛んできた物などで額から血が出るが、それを拭う気にはなれなかった。

ただ、黙ってそれを受け止めるしかない。

だが、そんな秋人の前に立つ者が居た。

ケイスケだ。

手を広げ秋人を守るように立ちはだかり、みんなに言う。



「やめろ! 秋ちーは他の奴らとは違う!」



その言葉に、住民の動きが止まる。

しかし、また大声で怒鳴られる。



「ふざけるな! そいつだって同じだ!」

「そいつのせいで、俺達の街は滅茶苦茶になったんだぞ!」

「ガキは引っ込んでろ!」



そんなことを言われるが、ケイスケは引きはしなかった。

力強い眼光を宿し、みんなを睨みつける。

その視線に威圧されたのか、住民の威勢がなくなる。

すると、ケイスケの肩に触れるものがあった。



「よく言った。それでこそ男だ」

「かあちゃん……」



親指を立てケイスケに見せ、笑顔を見せる。

そして大声でその場にいる全員に伝える。



「聞いた通りだ。この小僧はアタシらを助けてくれた。他の奴らとは違うよ。分かったら散れ!」



威勢のいいその声に気押されたのか、住民はなにも言えなくなる。

機体から降りると、スバルとギンガ、クイントとゲンヤが駆け寄ってくる。

大事な家族に再開でき、ケイスケは微笑んでいた。

そんなケイスケを横目で見てから、秋人は振り返り歩き出した。

秋人の背中を見たケイスケは小さな声で話しかける。



「戻るのか?」

「……ああ」

「あんな所に戻ってどうする気だよ! 此処に居ようよ!」

「……それが俺の仕事だ」



秋人はケイスケに振り返り敬礼をし、



「それでは、相沢秋人軍曹は任務に戻ります。任務内容は民間人の救助、及び対象の捕獲」



そう言いケイスケに向かい笑顔を見せる。

その笑顔に感化されたのかケイスケもまた、笑顔で敬礼をする。



「言うもんだね、アンタ。見なおしたよ」



そう言いながら秋人の頭に手を乗せ、クシャクシャと撫ぜる。

少し気恥ずかしいが、悪い気はしなかった。

そうして、秋人は機体に乗り込むとその場を去っていく。

ケイスケは手を振りながら思っていた。

また、逢えたらいいな、と。




















その後しばらくすると母親は死に、ケイスケは戒めも込めて名字を改名した。

そしてケイスケはスバルとギンガと一緒にやっていたバーニングPTで、軍の適性に当てはまり、軍にスカウトされることになる。

操縦の腕はスバル達より劣るが、持前の粘り強さにより極東基地への配属が決まる。

新品の軍服は少し落ち着かないが、身が引き締まる気がする。

士官に案内され、ブリーフィングルームに入り、就任の挨拶。

そして次に、配属となる部署の説明を受け、直接の上官に挨拶をする。



「ケイスケ・マツダ軍曹です。よろしくお願いします」

「ケイスケ? ああ、お前か」

「え……?」



逆光の中でよく見えず、声が少し違うが、その声には聞き覚えがあった。



「お前の上官になる相沢秋人中尉だ。俺のことは好きに呼んでいいぞ。ああ、でも秋ちーは禁止な。これ上官命令」



冗談めかしてそう言う男は、ケイスケがよく知る男。

あの日出会い、そして別れた男。



「よ、よろしくお願いします!」

「ああ。こちらこそよろしくな、ケイスケ」



俺は、この人に追いついてみせる。

共に闘う為に。

隣に居る為に。

この背中を追い続ける
――――




















 あとがき

ケイスケの外伝を書いてみました、どうもシエンです。

SRWケイスケ外伝、いかがだったでしょうか?

ケイスケと秋人の出会い、並びに秋人の過去の話でした。

ではまた次回。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。